003 誕生日





 誕生日の翌日。

 中嶋さんは車の免許を取りにいった。あの人のことだから試験に失敗するなんてことは考えられないんだけど。やっぱり気になって授業が手につかなくって、終わったとたんに学生会室に走っていった。ドアを開けると誰もいない。中嶋さんがいつも使ってる机の上に、リボンのかかった小さな箱が置いてあるだけだ。王様が用意したっていう免許証入れなんだろう。中嶋さんがいないのを幸い、これを置いてとっとと逃げていった王様の姿が目に浮かぶようだった。
 しかたがないので、すぐにコーヒーが淹れられるよう準備していたら中嶋さんは帰ってきた。
……疲れきったような顔をして。
「お帰りなさい。……なんか疲れきってますね」
「あれだけ待たされりゃ、誰だって疲れるさ」
 どさっと椅子に座り込んだまま動かない中嶋さんに、出来上がったばかりのコーヒーを持っていって、俺はちょっとおねだりしてみた。
「中嶋さん、免許みせてください」
「免許?」
「もらってきたんでしょう? ねえ。みせてください、ってば」
「わかった、わかった」
 腕を掴んでだだこねてみせたら、中嶋さんは胸ポケットから免許を取り出してくれた。
「ついでだからその包み開けて、中に入れといてくれ」
「はいっ」
 免許証の中の中嶋さんは不機嫌そうな顔でこっちを睨みつけていた。免許証の写真は手配写真みたいだってよくいわれるけど、中嶋さんもその例から洩れなかったみたいだ。
 机の上に置いた免許証を眺めながら、プレゼントの包みを開けた。深い紺色のバーバリーは、中嶋さんのキィケースと同じものだった。王様の好みというより、中嶋さんが「これ」って言ったんだろうな。やっぱり。
 中に免許証を入れようとして、生年月日に目が止まった。
 昭和**年11月17日。
 え? 昭和? 中嶋さんって昭和生まれだったの―― !?
「うん? なんだ?」
 思わず免許証と中嶋さんの顔とを見比べていたら、さっそく見咎められてしまった。
 そりゃわかるよな。こんなまじまじ見てたらさ。だけど……。
「ぷぷっ」
「何が可笑しい」
「だって。だって……。中嶋さんって、昭和生まれなんだもん」
「はあっ?」
「あははっ。ごめんなさい……。でも俺、ぷぷっ、昭和って歴史上の年号みたいな気がしてたから……」
「……そうか。おまえは平成生まれだったんだな」
「そうですよ。昭和生まれだなんて、あはっ、なんかオヤジみたい……」
 もう止められなくなってあはあは笑ってる俺を、中嶋さんが憮然とした顔で見ていた。
 これってやっぱりお仕置き、かなあ。





いずみんから一言。

啓太はぎりぎりで昭和生まれかなあとも思ったんですが。まあこういうのもアリということで。
バーバリーの免許証入れは伊住がもらったものです。とっても綺麗な色で気に入ってます♪
それをくれた友人A子は、私からのメールの着ボイスに森川氏を設定しているそうです(笑)


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