008 69 |
部屋に戻るとパソコンが立ち上がっていて、封筒を持った青いくまのぬいぐるみが踊っていた。 和希からのメールが届いたのだ。和希お手製のこのソフトは三種類あって、和希本人からが青のくまちゃん。和希以外の学内メールが緑のくまちゃんの弟。そして学外からのメールはピンクでくまちゃんの秘書となっていた。初めてこれを見たとき、理事長って実は暇なんじゃ? と思ったんだった。 早速メールを開封してみる。瞬間、俺は飲みかけていたジュースを吹きそうになった。 『 啓太へ。6.9. って知ってる? 』 69? 69って、もしかしてアレか? って、もしかしなくてもアレか!? 「かっ、かかかかかかかか和希っ?」 先刻、別れたばかりの和希の部屋に飛びこんだ俺は、思わず吃ってしまっていた。 「なっ、何なんだよ。あれっ!!」 「啓太?」 怪訝な顔をした和希が俺を見返していた。そんな顔するなよ。わからないのは俺の方だ。 「メッ、メールだよ、メールっ!!」 「メール? ………………ああ、あれか」 しばらく考えていた和希は、ようやく気づいたように言った。 「今頃見たのか? 今朝見てるだろうと思ってたのに」 「あんなメール、朝っぱらからなんて見たくないよっ」 「啓太……。おまえ、何言ってるんだ?」 眉をひそめながら、和希が送信済アイテムの、啓太と書いたフォルダを開いた。その中の一番上のものを表示する。あのメールが画面いっぱいに現れた。 「これだろう?」 「そっ、そうだよ。こっ、こんな……」 言いかけてやめてしまった。いかな俺でも『シックスナイン』と口にするのは憚られたのだ。しかし和希はますます首をひねっていた。 「これ、俺の誕生日だったんだけど……」 「え゛っ!?」 「なんか啓太の嫌な思い出のある日なのか? だったら悪いことしたなあ」 たんじょうび……? 誕生日……!? ディスプレイに顔を近づけてみる。たしかに6と9のうしろにピリオドがあった。顔に血が逆流してくるのがありありとわかる。一人で勝手に勘違いして、勝手に騒いでいたのだ。 でも和希だって悪い。「6月9日」とか「6/9」とか、書き方だってあるだろうに。よりによってパソコンでは見難い半角ピリオドを使うなんて。少なくとも「何の日か」くらい付け加えて欲しかった。 あ〜あ。俺は大きくため息をついた。何を言っても言い訳にしか聞こえない。だったら口にするのはやめにして、さっさと謝ってしまおう。和希だったら笑って、それでおしまいにしてくれる。 「ごめん。和希。俺ちょっと、その……、勘違いしてたみたいだ。9日はケーキ用意するよ。……ろうそくは何本か聞かないから安心して」 「そっか。勘違いか。よかった。俺の誕生日が啓太の嫌な日じゃなくて」 そう。和希はこれで笑っておしまいに……。あれ? 和希、その「にっ」と笑った顔、不気味なんだけど……。 「おい。おまえ、何と勘違いしてたんだ?」 「えっ!? そっ、そんなこと、聞くなよっ!!」 「はははーん。わかった。アレだと思ったんだろう?」 「あ、アレってなんだよ」 「アレはアレさ」 和希はふわっと俺を抱いた。顔をのぞきこまれる分、ぎゅっと抱きしめられるよりどきどきする。 「俺の誕生日。ケーキじゃなくてそれをくれよ」 「かっ、和希?」 「俺は『啓太の初めて』をもらうのが、好きなのさ」 「馬鹿……」 でもこれで和希の誕生日は一生忘れない。和希のキスを受けとめながら、俺はそんなことを考えたのだった。 |
いずみんから一言。 ヘヴンのキャラって結構あざとい(!?)誕生日が多いんですが、 その中でも和希は群を抜いているような気が(笑)。 日付を「6.9.」にしたのは和希の意図的なものでしょう。たぶん。 啓太、はめられちゃったね……。 |