００９　プール

「あーっ!!　もうっ。中嶋さんてばまたこんなとこに痕つけてるーっ !!」 　平和なはずの夏休み。中嶋家の朝は啓太くんの叫び声からはじまる。 「どこに。ちょっと見せてみろ」 　「ほら。ここんとこ」 　啓太の指し示す場所を中嶋がのぞきこむと、左の脇腹から背中よりの場所に、まだ鮮やかさをとどめたいくつもの花びらが散っていた。 「これでまたプールに行けなくなったじゃないですかあっ !!」 「すまん。そこはおまえのいいところだから、つい……」 「もう……。今度こそって、俺、すっごく楽しみにしてたんですよ？」 「だから謝ってるだろう」 「謝ってもらってもプールに行ける訳じゃないです……。くすん」 「行けない訳じゃない。遠慮なく行けばいいだろう。刺青お断りと書いてあるプールはあっても、キスマークお断りと書いてあるところはないぞ」 「……それ。マジじゃないですよね、中嶋さん !?」 　ぷっと頬をふくらませて上目遣いに自分を見る啓太に、中嶋の心の奥が反応したようだ。あっと思う間もなく、啓太は床の上に押し倒されていた。 「うわっ！　ちょっ……、何するんですかぁっ !!」 「どうせプールに行けないなら、行けないついでだろう」 「もう……。中嶋さんの、馬鹿……」 「どうする。ベッドに行きたいか？」 「……ううん。ここでいい……」 　思いっきり甘えた声でそう言って、啓太は中嶋の背に両腕を回した。 　こうして啓太くんは８月中、ただの一度もプールに行けなかったのです。でも新学期。ほとんど日焼けらしい日焼けをしていない啓太くんに、学内の誰もが不思議だとは思いませんでした。 　だって啓太くんは新婚さんなんですから。

いずみんから一言。 ええ、まあ新婚さんですから。許してやってください(笑)。 中嶋が連れて行くプールですから、公営みたいな芋の子を洗うようなプールじゃなく、 きっと綺麗なお姉さんたちがプールサイドでトロピカルドリンクなんぞを飲んでいるような 高級ホテルのプールなんでしょう。残念だったね、啓太くん……。