046 逢いたい




「悪いが今日は行ってやれそうにない」
 そんな電話が入ってきたのは、今日、土曜日の一時間目が終わったとき。レポートが重なってと言う中嶋さんの説明に、俺はわざと明るく答えた。
「大丈夫です。先週も来てもらったし。俺のことなら気にしないで下さい」
 ホントはすっごくがっかりしてたんだけど、中嶋さんにだって都合はあるわけだし。そう毎週毎週来てもらうわけにはいかない。それに疲れたみたいな声してるから、俺に構ってるよりゆっくり休んでもらった方がいい。……なんて殊勝なことを思ってたのは電話を切るまで。二時間目が始まった頃には中嶋さんのことしか考えられなくなっていた。
 逢いたいよ。中嶋さん。一週間も顔を見てないんだ。抱いてくれなくてもいいから、逢うだけでも逢いたかった。今日も来てくれるって言ってたから、月曜からずっとカウントダウンしてたんだよ、俺。
 ああ駄目だ、駄目だ。こんなことしてたら授業に身が入らない。そして三時間目の半ばには俺から出かけて行くことを決め、四時間目が終わったとたん、学園から飛び出していた。
 ところが中嶋さんのマンションに着いてしまってから、ものすごい不安にかられてしまったのだ。何も言わずに来てしまったけど、もし迷惑だったらどうしよう。レポートって言うのは口実で、実は女の人が来てたりとか……。それでなくても本当に忙しいんだったら、俺みたいのがうろうろするだけでも迷惑かもしれない。
 でもせっかく来ちゃったんだし。インターフォンで都合を聞くくらいならいいよな。そして俺は勇気を振り絞ってインターフォンのボタンを押した。心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキした。
「はい?」
「あの……、俺です。啓太です」
「啓太? そんなところで何をしている」
 中嶋さんの冷たい声が俺の胸を突き刺した。やっぱり迷惑だったんだ。ちゃんと電話で連絡して、それから来ればよかったのに。俺ときたら馬鹿みたいに、何も考えずに飛び出してきてしまった。
 このまま帰ろう。これ以上中嶋さんを怒らせるよりその方がずっといい。そう思ってボタンから手を離しかけたとき、中嶋さんの声が聞こえてきた。
「どうした。鍵を無くしたのか」
「いえ。鍵ならちゃんと持ってます」
 慌てていう俺に中嶋さんは、ちょっと苛ついたみたいだった。
「じゃあ何故さっさと上がってこない。忙しいと言ったろう。こんなつまらんことで時間をとらすな」
「……はいっ」
「家に帰ってくるのにいちいちインターフォンなんか押すな。馬鹿か、おまえは」
 突然切れてしまったインターフォンをしばらく眺めていた俺は、えへっと気色悪く笑うと、ポケットの中で大事に握り締めていた鍵を取り出した。晩ごはん、何を作ろうかな ――





いずみんから一言。

あはは。こいつら何とかしてくれ〜ってくらい、ラブラブしてますね〃
この場合「逢いたい」じゃなく「会いたい」が正解かと思うんですが、
お題が「逢いたい」だったのでこっちを使いました。
だから変なツッコミはナシということで。よろしく(汗)。




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