054 IN PLEASURE




 ベッドに入ってきた中嶋さんがベッドサイドの灯りを落とした。淡いフットライトひとつが残った部屋の中は、まだ眼が慣れてないこともあって、明るさよりも薄暗さの方が先にたつ。まるでたそがれの国にふたりして取り残されたような気のする瞬間だ。
 どこにいたっていいんだけどね、俺は。……中嶋さんさえ一緒にいてくれるのなら。中嶋さんの体温や息遣いが感じとれるのなら。
 ほっとした穏やかな気持に包まれながら「おやすみなさい」と言おうとした俺は、だが口を開ききる前に組み敷かれていた。
「ひで……あき、さん……?」
「……」
 いつもなら「うるさい」とか「いい子にしてろ」とか言うところなのに、中嶋さんは俺の上にのしかかったまま、ただ俺の首筋に顔をうずめている。
 首にかかるかすかな吐息。体にぐったりとかかっている体重。ほんの少しだけ力のこめられた指先。そして何よりもストレートに伝わってくる体温。
 ほとんど何もされていないようなものなのに、俺ときたらそのすべてを感じとって喜びに変えてしまう。そして精神的な喜びは圧倒的な幸福感に、いとも簡単に変換されていく。
 苦しいです。中嶋さん。ほんの少し力を緩めてください。でないと俺の中が貴方の想いでいっぱいになって。溢れても溢れてもそれでもいっぱいで。苦しくて仕方がないんです――。

 どのくらいそうしていただろう。
「悪かったな。重たかっただろう」
 そう言って体を起こしかけた中嶋さんを、俺は黙って引き留めていた。
「啓太?」
「いいんです。こうしていてください」
 だって。何かあったんでしょう? 嫌だったのか不本意だったのか俺にわかるはずもないけど。何かあったんですか? なんて聞けるはずもないけど。ましてや中嶋さんが言ってくれるはずもないんだけど。でも俺にだって分かることはある。今日、貴方は意に添わない仕事をした。自分を殺して仕事をしてきたのに違いないんだ。
 だから俺は、俺にできる精一杯のことをする。意外なくらい手触りのいい髪に指をうずめ、そっと俺の胸に抱き寄せる。癒せるなんてだいそれたことは思ってないけど、でも貴方の重みを受け止めることはできる。貴方が眠ってしまうまで、こうしていることだってできるんだ。
 もう一度かかってきたぐったりした重みは、俺に預けてくれた貴方の嫌な想いの重さだ。
 預けてもらえること。引き受けること。
 それが俺の幸せ。極上の喜び。密やかな、日々の楽しみ。





いずみんから一言。

「IN PLEASURE」
これってプレジャーボートのプレジャーやんね? そしたらこれは「楽しみの中で」くらいの意味?
そう思いながら翻訳サイトで翻訳してみました。
「喜びで」と訳がつきました。喜びと楽しみは似ているようでいて全然違います。
でも啓太くんにとっては、それは限りなくイコールに近いんだろうなあ、と(笑)。
いやもう、いろんなものを預けてもらってるからねえ、この子は。

あ。そうそう。これはたまーに闇鍋にリンクする「ライター」と表裏一体みたいなものです。
女の人に声かけてもらえなかったので、引きずって家に帰ってきちゃったんだと思います。
とりあえず、16日からの闇鍋に「ライター」をリンクしてみますので、こっちもよろしく〜♪



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