ある朝のモノローグ |
目が覚めたら時計が鳴っていた。 っていうことは時計が鳴ったから眼が覚めたんだろうけど。ぜんぜんそんな感じがしない。なんだかものすごくたっぷり寝た気がする。 手をのばして、とにかくその耳障りな音源をとめようとする。とたんに身体の中心を痛みが走り、ばったりとその手を落としてしまった。そうだ。自分の部屋だからつい忘れてしまってたけど、昨夜やっちゃったんだよな。また、中嶋さんと。 中嶋さんは外だろうが学生会室だろうがおかまいなしの人だけど、不思議と部屋でするときだけは、絶対に俺の部屋にはこない。たしかにこんな狭っ苦しい寮備え付けのベッドより、中嶋さんの部屋の大きなベッドのほうが広くていいには決まってるんだけど。 でも誰もこないっていう安心感からか、部屋での中嶋さんはすごく……うーん、なんていったらいいのかな。悪くいえば執拗、よくいえば情熱的で、ホントに何時間でも俺を離そうとはしてくれない。そこまでしてくれる中嶋さんがうれしくて、俺もついそれに応えようとしてしまうものだから、終わった後、泥のように眠りこんでしまうのだった。といっても、昨夜のすごさは半端じゃなかったけど。 痛みがちょっとひいたので、今度はそうっと手をのばした。思ったとおり、時計の針は6時45分を指していた。 中嶋さんの行為は激しくて、終わる頃にはいつも意識を飛ばしてしまうから、俺は自分で部屋に戻ったことがない。そして俺を部屋まで運んできてくれたとき、中嶋さんはいつも目覚ましを15分早めてセットしていくのだった。 「どうして15分早くしてくんですか」 「シャワーを浴びたり、あちこち点検(!!)したり、することはいくらでもあるだろう。 それでなくても筋肉痛で、デッドスローでしか動けないんじゃないのか」 …… つまり、中嶋さんは中嶋さんなりに、気を遣ってくれている、ってことらしい。ああホントに見透かされてるよ。だって俺さっきから、あちこち見回して、どこにキスマークが残ってるかとか、俺が自分で解き放ったものがついていないかとか、結構真剣にチェックしてるもの。といっても朝、自分の残りを見つけて赤面する、って事態になったことはないのだけど。でもそれって、ちゃんとつけてる中嶋さんはともかく、俺は好きなだけ出しちゃってるわけだから、たぶん中嶋さんが後始末をしてくれているってことなんだろうと思う。いくら意識をなくしてるとはいえ、中嶋さんに身体を拭かれている自分を想像すると、赤面くらいではすまないくらい恥ずかしくなってきてしまう。ああ、自己嫌悪。 こんなことをするたびに、せめて自分の足で歩いて部屋に戻りたい、って思う。 そうすれば寝る前にきちんとシャワーを浴びて、起きたら後は顔を洗って制服を着ればいいだけ。何事もなかったかのような顔で教室にいって、和希におはようって声をかけて……。 それなのに現実の俺ときたら、いつもいつも後始末のすんだ身体を抱き上げられて部屋に運ばれてベッドに寝かされて。おまけに目覚ましまでセットしてもらうなんて。これってまるで女の子みたいじゃないか。 だから昨夜こそは、って思ってた。こんなに回を重ねると、さすがの俺だって要領も少しはわかってくるし、中嶋さんの癖みたいなものだってわかってくる。うまく中嶋さんの体重を逃がしたつもりだったし、中嶋さんの要求に応えつつも筋肉に負担を残さないような姿勢をとったつもりだった。 それでもやっぱり、中嶋さんにひときわ深く突き上げられたあとの記憶がない。 それはつまり、小手先の工夫でどうこうできるモノじゃない、ってことで……。 ああ。俺って修行が足りない。 足から先に床に降ろして、ゆっくりと立ち上がる。いつもよりうんと楽だったので、昨夜の俺の努力(!?)も、あながち無駄ではなかったんだ、と、自分で自分を慰めてみたりする。そのままシャワーに向かいかけて、ひとつ大きなくしゃみをしてしまった。いくら暖房が入ってるからって、素っ裸でいる時季じゃない、ってことだ。 中嶋さんは俺を部屋まで連れて帰ってはくれるけど、服はそのままほったらかしてある。無頓着なのかわざとなのかは知らない。でもいつも俺が引取りにいくまで、脱がされたときのままの形で残っているのだ。王様でも入ってきたら、なんていうつもりなんだろう。 「脱がすのは好きだが、着せるのは面倒だ」 はいはい。そうでしょうとも。貴方ってばそういう人ですよ。よーくわかってます。そんな貴方を好きになっちまった俺が馬鹿なんですよー、だ。…ちぇっ。 熱めのシャワーを浴びると、一気に身体が覚醒していくのがわかる。昨夜の余韻が熱いお湯と一緒に流れていくみたいだ。超小さいとはいうものの、各部屋にトイレとシャワーをつけてくれた和希のおじいさん。どうも有難う。これがなかったら、俺は何日も風呂に入れなくなるところでした。服の上からではわからない場所でも、風呂に入ればキスマークがあるってことはバレバレだから。 俺、中嶋さんとこんなことになるまで、キスマークってもっとロマンチックなものかと思ってた。初めて自分につけられたとき、結構無邪気に喜んで、中嶋さんから思いっきり馬鹿にしたような眼で見られたんだった。鮮やかだったはずのそれはあっという間に色を変えて、翌日にはその意味が嫌ってくらいよくわかったけど。 女の子とエッチするときには、こういうところ、よーく気をつかってあげることにしよう。いつのことかはわからないけど、それまでちゃんと覚えておこう。まさか一生、女の子としないまま、なんてこともないだろうから。ないよな? きっと。 って。ああ。これもちょっと情けない……。 服を着てから、かばんに今日の教科書を詰める。宿題を先にやっておいてよかった。中嶋さんは時と場所を選ばない人だから、いつ何があるかわからない。だから最低限宿題だけは、放課後まず図書館にいき、かたづけておくことにしている。王様からは、最近くるのが遅くなった、っていわれてるけどしかたがない。中嶋さんとつきあってると、「夕食後の予定」ってまるで意味のない言葉なんだもの。 あ、そうだ。昨日のドラマ、見たかったんだよ。すっかり忘れてた。誰かビデオに撮ってないか聞かなくちゃ。 だけど怪我の功名……っていうのかな。最近、短い時間でもものすごく集中できるようになった。この間あった化学の小テストなんて、抜き打ちだったのにクラスでなんと6番だった。先生も驚いてたけど、一番驚いたのは自分だ。たいして勉強したつもりもなかったし、得意科目というわけでもないのに。いつも学生会室で、集中的に書類をこなしている中嶋さんを見ているから、知らないうちにやり方が身についたのかもしれない。 書類を作成している中嶋さんの横顔って、とてもかっこいいと思う。こういっちゃなんだけど、俺としている中嶋さんより、仕事をしている中嶋さんの方がかっこよくて好きだ。つい見惚れてしまって、いつも王様にからかわれてしまうくらいに。 でも集中している中嶋さんは、そんなことばなんてまるで耳に入っていない。そこがまた かっこいいんだよな。 中嶋さんは書類を手にすると、真剣な顔っていうより、まるでにらみつけるみたいにして考え、それから一気に書きあげる。どんなに長いものでも、終わるまで絶対に手を止めたりしない。それでそのあとチェックして、たまにはちょっと訂正したりするけど、たいていはそのままでおしまい。それできちんとした書類になってるんだから、ホントにすごい。俺が久我沼に退学勧告をされたとき、王様が理事会あてに出してくれた提訴の書類も、きっとあんなふうに書いてくれたんだろうな。 あのときのことを思うと、どんなに感謝してもしきれない。和希からの依頼で、ずっと俺を見守っていてくれた中嶋さん。何か俺にできることがあればいいのにな。 あったとしても、絶対にいったりするような人じゃないけど。 だからせめて中島さんとしたあとは、ちゃんと起きていて、自分の後始末くらい自分でできるようになりたい。そしてひとりで部屋に帰るようにしよう。それから中嶋さんに悦んでもらえるように、ちょっとはテクニックらしいものでも身につけたいな。どうすればいいのかすぐには思いつかないけど、わからなかったらストレートに「教えてください」っていってみればいい。中嶋さんはきっと鼻で笑うだろうけど、それでもああしろとかこうしてみろとか、いってくれるに違いない。そうしたらいわれた通りにしてみよう。それがどんなに恥ずかしいことでも。だっていつもいつも、中嶋さんにはホントにいっぱいしてもらってばかりだから。何よりも中嶋さんに飽きられたくないから。俺としてよかった、って思ってもらいたいから。 さてと。そろそろ学校に行かなくちゃ。ああまた、朝食が食べられなかったよ。 俺が食堂に行かなかったのに気づいたら、和希がサンドイッチ作って持ってきてくれてるだろうけど。でもどうしてしたあとは何も食べられないんだろう。俺って確かに図太くはないけど、だからといってそんなに繊細ってわけでもないのに。これもやっぱり修行が足りないからなんだろうか。 いつか俺がもうちょっと大人になったら。飲んでみたいな、中嶋さんとふたりで。 夜が明けていくのを見ながら、熱くて香りの高いコーヒーを。そして曙光がさしこんでくる中、カップを持ったまま、どちらからともなくキスをするんだ。 それはきっと、コーヒーに負けないくらい熱いキスに違いない。 |
いずみんから一言。 さて。啓太はヒデに抱いて部屋までつれて帰ってもらっている、と信じてますが。 担ぎ上げられてるとか、引きずられてるとかは考えないんでしょうかねぇ(笑)。 機会があったら、七条クンバージョンも考えてみようかな……。 |
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