番外編・漢詩で読む学園ヘヴン |
『 漢皇重色思傾国 』 BL学園学生会副会長の中嶋英明君は、一見したところ真面目な堅物人間に見えるのですが、実は大変な色好み(笑)。夜の帝王の異名を欲しいままにしておりました。 『 御宇多年求不得 』 しかしそこはさすがに帝王さま。どんな美男美女とつきあってみても、けっして満足などなさいません。どこかにきっと自分にふさわしい子がいるに違いない。そう思って今日まで、数知れないくらいの男女を食い散らかしては、抱き捨てにして参りました。 『 楊家有女初長成 』 その頃。とある地方都市の片隅にある伊藤家では、息子の啓太くんが高校一年生になり、地元の高校に通っていました。 『 養在深閨人未識 』 でもちょっとばかり人より運がいいだけで、スポーツも勉強もそこそこという、ごくごくフツーの少年にすぎない啓太くんのことなど、誰も気にする人はいませんでした。そう、ただ一人を除いては……。 『 天生麗質難自棄 』 本人も、そして周りの人間もまったく気づいていないのですが、啓太くんは実は大変なオトコ殺し(笑)。しかも無意識のうちにエリートの人間だけをターゲットに絞り、雑魚には眼もくれないという徹底ぶりです。それはもはや芸術といっても過言ではないでしょう。なにしろ鈴菱の次期後継者を篭絡したのが、わずか五歳の時だったというのですから、いやはや大したものではありませんか。その持って生まれた資質は、高校生になった今もちっとも変わっていません。いえ。むしろグレードアップしているかもしれないのです。 それがそのまま世に知られずに終わるはずがありませんでした。 『 一朝選在君王側 』 ある日。彼を五歳のときからこっそり見守ってきた理事長に選ばれて、啓太くんはBL学園へ転校してきました。学生会室に呼び出された啓太くんは、さすがというかやっぱりというか、転校初日にして早くも夜の帝王さまのお眼に留まりました。この子が自分が捜し求めていた子かもしれない。そうお思いになった帝王さまは、学生会室や体育倉庫などで啓太くんを試してみました。そして啓太くんのしぐさや表情からご自分の眼に狂いはなかったことがわかったので、とうとう月夜の校舎裏でお手をつけてしまいました。帝王さまのお手がついてしまった以上、もはや誰にもどうすることもできません。だって啓太くんはもう帝王さまのテクニックに夢中になってしまったのですから。こうして啓太くんは彼を呼び寄せた理事長ではなく、夜の帝王さまのお側に仕えることになったのです。 理事長は大変嘆き悲しみました。でも啓太くんは幸せすぎて理事長の悲しみには気づきもしないし、帝王さまは帝王さまで、たとえお気づきになってもお気になさる方ではありません。かくしてふたりは甘い蜜月にどっぷりつかっていったのでした。 『 回眸一笑百媚生 』 エリート予備軍の集団であるBL学園には、夜の帝王さまだけではなく、王様や女王様。それに魔王(?)や寮長をはじめとした素敵な方々がたくさんいらっしゃいました。どなたも年上の方ばかりでしたが、人懐っこい啓太くんは、そんな方々にも気後れすることなく笑いかけます。すると皆様、あっという間に啓太くんに魅せられてしまいました。 啓太くんが瞳をめぐらせて笑いかける。たったそれだけのことが心をわしづかみにし、並み居る素敵な方々がバッタバッタと落ちていってしまうのです。恐るべしエリート専門オトコ殺し……!! 『 六宮粉黛無顔色 』 啓太くんが転校してくるまで、王様や女王様といった高望みはしないまでも、せめてテニス部部長や弓道部部長のご寵愛を得ようとして、必死になってカワイコぶっていた一年生たちも、これでは勝てるはずがありませんね。 『 春寒賜浴華清池 』 暦の上では春。でもまだまだ寒い日がつづきます。そんなとき啓太くんは、夜の帝王さまといっしょにお風呂に入ったりします。啓太くんはとっても恥ずかしいのですが、帝王さまはそんな啓太くんの顔を見るのが大好きなのですからしかたありません。いうとおりにしないと「おしおき」が待っているのです。でもなにより啓太くんは帝王さまが悦んで下さるのがうれしいのですから……、ああもう勝手にしろ、って感じですよね!? 『 温泉水滑洗凝脂 』 気持ちのいいお湯につかった夜の帝王さまは、もったいなくもご自分の手で啓太くんを洗ってあげました。 『 侍児扶起嬌無力 』 たっぷり泡立てた石鹸を大きな手ですくい取り、身体のすみずみまでぬりつけるようにして洗ってもらうと、もうしわけなさと恥ずかしさと、そしてそれらをはるかに凌ぐ気持ちのよさとで、啓太くんは立てなくなってしまいました。帝王さまが手を貸しても、ただもうぐったりと帝王さまの胸にもたれかかってしまうだけなのでした。 『 始是新承恩沢時 』 でもまあこんなのは、帝王さまに愛されはじめた頃のオハナシで、まだまだ可愛らしいものです。最近では啓太くんが慣れてきたこともあって、リミッターをはずしてしまった帝王さまは、まさにエンジン全開状態。下々では考えつかないくらい、とってもすごいことになっているようです(笑)。 『 雲鬢花顔金歩揺 』 期待に顔を上気させた啓太くんは、今日もピンピンにはねた髪を揺らしながら、夜の帝王さまのもとへと急ぐのでした。 『 芙蓉帳暖度春宵 』 ついに本格的な春が来ました。春なんていう季節だとヘブンとの内容が合わなくなってしまいますが、そんなことを気にしていちゃあ古典は読めません。だからどんどん先に進みましょう(おいおいっ〃) 暖かいそよ風が夜の帝王さまのお部屋のカーテンを揺らしています。ここはふたりだけの空間。誰も邪魔をする者などおりません。啓太くんがどんなに泣いても、どんなに恥ずかしいことをされても、盗み見する者などいないのです。だから啓太くんは、いつも安心して帝王さまに身を任せることができます。啓太くんのあんな表情もこんな姿もそんな声も、すべては帝王さまの独り占めです。 啓太くんが夜の帝王さまと春の夜を過ごすのは、そんなお部屋なのでした。 『 春宵苦短日高起 』 ふたりにとって、一緒に過ごす夜はあまりに短いものでした。啓太くんが何度いかされようと、帝王さまが満足なさるのは、いつもいつも夜明け近くになってからです。それからようやく眠りにつくので、啓太くんも夜の帝王さまも、起きるのはいつもお日さまが高く上ってから、ということになってしまいました。 『 従是君王不早朝 』 そうしてこれから先、夜の帝王さまは朝早く起きるのをやめてしまいました。いつも遅刻。下手をすればおサボりを決めこむようになってしまったのです。もともと成績がよく優等生だった帝王さまには、別にたいしたことではありません。でもフツーの啓太くんは……。 もしかしたら帝王さまは、ご自分が卒業なさったあと、理事長やらテニス部部長のいる環境に啓太くんを置いておきたくなくて、わざと退学させられるようにしむけているのかもしれません。そんなことを考えて、ちょっぴり不安になってしまう、今日この頃の啓太くんなのでした。 |
いずみんから一言。 白居易さま。アホなことをしてしまいました。ごめんなさい……。 でも「湯煙の向こう側」と同じものがベースになってるのに。なんでこんなに違うんだろう。 それにしてもストーリィがあまりにぴったりだったので、思いついたときは笑っちゃいました。 って、仕事中だったんだけど。無編集でこれだけ書けるとは。 ちなみに「夜の帝王」は某社元専務の異名です(笑)。 ふたりでお風呂に入るところはとっても気に入ったので、いずれあらためて書きたいです。 |
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