「ごちそうさま」 は何の味?




啓太「皆さん、こんにちは。伊藤啓太です!」
和希「貴女の恋人、遠藤和希です」
啓太「何、それ……(汗)」
和希「何って……。リップサービス」
啓太「ふーん。俺はまた、成瀬さん入ってるのかと思った」
和希「え? ないない、ないぞっ」
啓太「ふ〜ん。アヤシイけど……まあいいや。えっと。今日は『中嶋さんを遊ぶ』っていう企画なんですけど」
和希「はいっ?」
啓太「はい?」
和希「何だよ、それ。俺はそんなこと、一っ言だって聞いてないぞっ」
啓太「言ったじゃないか。カフェのオーナーに頼まれた、って」
和希「店内の大型プロジェクタで流す楽しい映像、じゃなかったのかよ」
啓太「楽しいじゃん。中嶋さんを遊ぶ映像」
和希「……(絶句)……」
啓太「あれ? どこ行くんだ?」
和希「帰る!」
啓太「何でだよ〜。オーナーにお世話になってるのは和希も一緒だろ?」
和希「いや、俺はどっちかっていうと世話してる方……」
啓太「おこづかいピンチのときは、伝票に手書きの『ドリンク100円券』をはさんでくれてたり」
和希「100円引きじゃなくて?」
啓太「そう。コーヒーでもオーレでも100円になっちゃう券」
和希「……75パー・オフかよ……」
啓太「でもあれって『ドリンク』って書いてあるだけだから、もしかすると生のマンゴージュースとかも100円に
    なるのかな」
和希「いや、それはやめとけ……(汗)」
啓太「西園寺さんや成瀬さんを連れて行けたら、黙っててもケーキつけてくれるし」
和希「……あの人って面食いだったのか……」
啓太「ランチの付け合わせのポテトサラダは、俺だけ盛りを倍にしてくれちゃってるし」
和希「……(もはやタメイキしか出ない)……」
啓太「な? こういうときに借りを返しておかないと」
和希「それは啓太ひとりの借りだろ? 俺は別にコーヒー100円にしてもらったこともないし、ケーキやサラダ
    をサービスしてもらったこともない」
啓太「和希も大盛りがよければ頼んどこうか? ポテトサラダ」
和希「そうじゃなくて……(泣)」
啓太「(ぼそっと)和希って意外に小さいんだな」
和希「別に、普通だろ(憮然)」
啓太「そう? だけど自分が直接お世話になってなくったって、学園全体で見たらずいぶんお世話になってる
    んじゃないか? 教職員や研究所の人までお世話になってるの、目撃したことあるぞ」
和希「それは……。まあ確かに」
啓太「なのに理事長さんときたら、自分に関係なければお礼しなくていいって思ってるんだ。ふーん。そうなんだ」
和希「啓太ぁ……。論点がすりかわってるぞ? 俺が拒否してるのは『中嶋さんを遊ぶ』って企画だけだ」
啓太「そうだっけ」
和希「そうなの! そもそも今日はそれ作りに集まったわけだろ? 嫌なんだったら最初から来ないよ」
啓太「だったら早くはじめようよ。っていうか、内容も聞かずにアタマから否定するなんて、教育者としても経
    営者としてもいかがなものかと」
和希「わかったよ。じゃあ企画の中身くらいは聞いてやる」
啓太「へへへ。楽しいぞ〜」
和希「(それがアヤシイんだろうがっ!)……いいか。聞くだけだからなっ」
啓太「うんうん。えっとね、まずはカフェのメニューを食する中嶋さん之図っていうのが必要だと思うんだ」
和希「カフェの企画だしな」
啓太「そ。でも普通にコーヒーじゃつまらないから……」
和希「いや、もう言わなくていい……。っていうかそれ以上聞かせないでください……」
啓太「カフェ特製・できたて熱々どら焼きで」
和希「(やっぱり聞くんじゃなかった……(T_T)。)……いくら人気メニューだからってそんなもの、あの人は食べ
    ないだろ」
啓太「だから意外性があっていいんじゃないか。『あの中嶋さんも食べるどら焼き』って、さらに売れるぞ〜」
和希「いや……。普通に無理だろ」
啓太「つぶあんは却下されそうだけど、白あんなら大丈夫じゃない?」
和希「……そう思うならやってみろよ」
啓太「……無難にタワー・ホイップ・ウインナーコーヒーにしとく……」
和希「どこが『無難』なんだか……(タメイキ)」
啓太「次に入浴シーンなんだけど」
和希「それも無理だろ」
啓太「俺もそう思う。だからちょっとアタマを使って( ̄ー ̄)」
和希「……その顔がアヤシイ……」
啓太「プールで泳いでるところを撮らせてもらうんだ。最終的にシャワーまでついていって、海パン入らないよ
    うに注意しながら上半身だけ撮る」
和希「……姑息な手段だと思わないでもないけど、映画の撮影ってそんなもんか」
啓太「で、最後が目玉。とっておきお宝映像!」
和希「中嶋さんの寝顔とかか?」
啓太「だ・め♪ そういうのは俺だけのものなの(幸笑)」
和希「あー、はいはい。いっそ鍵かけて金庫に入れといてくれ。なんなら業者を紹介するぞ」
啓太「聞いて驚け! えーけーびー四十八を歌って踊る中嶋さんだっ!」
和希「えーけ……(絶句)」
啓太「王様や篠宮さんにも協力してもらう方がいいよな(わくわく)」
和希「……(滝汗)……」
啓太「えーけーびーならぬ『BLG69』とかってな(楽笑)。あいうぉんちゅー♪」
和希「やっぱり帰る!」
啓太「なんでだよー。こんなに楽しいのに」
和希「おまえな……。あの中嶋さんだぞ? そんなことさせたら、あとでどんな報復に出てくることか……」
啓太「考えすぎだと思うけどなあ。だって俺、今までそんな理由でお仕置きされちゃったりしたことないもん」
和希「だから、おまえにできない分、俺んとこに来るんだよっ(号泣)」
啓太「……ふーん?……」
和希「だいたい何で中嶋さんなんだよ。トノサマの日常でいいじゃないか。あれはあれで結構笑えるぞ?」
啓太「それは駄目」
和希「即答したな」
啓太「だってトノサマの映像なんか流したら王様が来なくなるだろ? 営業妨害はできないよ」
和希「……変なとこ律義なんだな」
啓太「王様って日替わりランチ食べた後でカツサンド注文したりするからさ。上得意なんだよ」
和希「なるほど。じゃあ篠宮さんの日常なんかはどうだ。弓を射たあと、諸肌脱ぎになって汗を拭う図なんて、
    絵的にもいいと思うけどな」
啓太「それも駄目」
和希「何でだよ。あの人なら訳を話せば協力してくれると思うぞ?」
啓太「でもぱんつまで変えてくれとは言えないよ」
和希「え? 何か唐突な単語が出てきた気がするぞ?」
啓太「篠宮さんってブリーフ派だろ」
和希「ああ……。そういやそうだな」
啓太「諸肌脱ぎはいいんだけどさ、その後でブリーフなんか出てくると興ざめじゃないか。下帯をきゅっと締め
    ててくれるんならオッケーだけどね」
和希「……はぁ……(タメイキ)。あの店も昼間はおばちゃんが多いからな……」
       ↑ そもそも諸肌脱ぎでぱんつなんて出てこないのに気づいてない(笑)
啓太「成瀬さんだとファンの女の子とかがたまり場にしちゃって迷惑かけるし、西園寺さんはハナから無理だ」
和希「隠し撮りすると七条さんの報復が怖いしな」
啓太「そ。岩井さんが絵を描いてるとこなんて『楽しい』映像にはならないし。俊介のチャリテクだって同じ。
    マニア相手ならいいんだけど」
和希「俊介はともかく、岩井さんはドキュメンタリーになってしまいそうだな」
啓太「N●Kにだって売れるかも」
和希「民放深夜枠とかな」
啓太「王様なら何してても映像にはなりそうだけど」
和希「カメラ取り上げて、俺たちと一緒に遊んじまうか」
啓太「そ。俺や和希や海野先生に至っては……」
和希「あはははは」
啓太「な? 『中嶋さんを遊ぶ』って、考え抜かれたいい企画だろ?」
和希「考え抜かれたはともかく、ほかに思いつかないことも確かだな」
啓太「じゃあオッケーということで」
和希「うしろで機材くらいは持つよ」
啓太「中嶋さんを遊びに、レッツ・ゴ……」
中嶋「俺が何を遊ぶって?」
和希「(うわ、出たっ)」
啓太「やだなあ。中嶋さん『が』遊ぶんじゃなくて、中嶋さん『を』遊ぶんですよ」
中嶋「ほう? 俺をオモチャにしてくれるという訳か。1億年ほど早いと思うが、せっかくだ。手並を拝見させて
    もらおうか(にやり)」
啓太「に、にやり?」
和希「今さらびびるなよ。えーけーびー歌って踊ってもらったあとはシャワーシーン撮るんだろ?」
啓太「だだだだだだけど」
和希「機材は? これでいいのか?」←ことさらのように、自分は手伝ってるだけだとアピール(笑)
啓太「中嶋さんがかっこ良すぎて……(うっとり)」
和希「もしもし? 伊藤啓太くん?」
啓太「今のにやりと笑った顔がかっこ良すぎて……。やっぱり誰にも見せたくない……!」
中嶋「ふ……。馬鹿な子だ(満足笑)」

                       ◆     □     ◆

――― 当事者1名及び乱入者による濃厚な接吻が行われておりますので、お急ぎのところ
      恐れ入りますが、終了するまで少々お待ちください ―――

                       ◆     □     ◆

中嶋「さあ。つまらんことを考えるのはよして、さっさと家に帰るぞ」
啓太「(こくこく)」
和希「あ、おい。どうするんだよ、これ」
中嶋「……遠藤」←啓太の腰を抱いたまま、ずいっと近寄る
和希「な、なんですか。いったいっ(焦)」
中嶋「俺を遊ぶというのは、こいつが考え出したようだが?」
和希「ええ、そうですよ。啓太を売るみたいで心苦しいですけどね。えーけーびーを歌って踊るのも、プールの
    フリしてシャワー・シーンを撮るのも、タワークリームのウインナーコーヒーを飲むのも、ぜーんぶ啓太が
    考えたことです」
中嶋「……(タメイキ)、いかにも容量の小さいアタマで考えたような企画だな……」
和希「まあ……、俺は聞いてただけなんですけど」←自分は無関係だと必死のアピール(笑)
中嶋「ほう? 聞いていたのか」
和希「え? ええ。あんまり楽しそうに話していたので」
中嶋「つまり、知っていたのに止めなかった、わけだな」
和希「ちっ、ちが……っ!」
中嶋「間違った道にそれかけた子弟を指導・監督するのが教育者の責務であると、俺は今の今まで認識して
    いたんだがな」
和希「もちろん止めましたよっ(焦)。けど啓太が聞く耳もってなかっただけですっ!」
中嶋「おう、驚いた。この程度のことも止められないとはな。それで役員がどれほど勤まるかは疑問だが、
    カフェで流す映像くらいは作れるだろう。ま、俺が黙ってる間に、頼まれた映像はなんとかするんだな。
    オニイチャン」
和希「くうう……っ。それのどこが『黙ってる』んだ。覚えてろよ、なかじまぁ〜っ!! …………………………
    ……………………………………………………………… あれ? スイッチが入ってる …………?」


    企画者が乱入者と去ってしまったので、今回の撮影はなくなったかに思われた。だが1か月後。


バイト「あ、啓太さん。いらっしゃいませ。和希さんも」
啓太「うん。俺、地中海風ピラフのセット。オーレで」
和希「じゃあ俺もそれにしようかな。ドリンクはオリジナル・ブレンドで」
バイト「かしこまりました。あとデザートには何をおもちしましょう?」
啓太「あれ? このセット、デザートなんかついてたっけ」
バイト「あ、いえ。ホントはついてないんですけど、オーナーからおふたりにはつけるように言われてますので」
啓太「へっ?」
和希「何それ?」
バイト「だっておふたりのおかげで平日昼間の売上げが倍に……。きゃあ! 今のはナイショですよ! 
    私が言ったとは言わないでください……!」
和希「言わないから安心して? でもそのかわりに、もうちょっと詳しく教えてくれる?」
啓太「そうそう。今日はオーナーも留守みたいだし」
バイト「え〜。でも……」
和希「じゃあ言えることだけでもいいよ」
バイト「えっと。啓太さんにお願いしていたプロジェクタの映像なんですけど」
和希「え……(汗)」
啓太「ああ……。ごめんね、ちゃんとできなくって」
バイト「いいえ! そんな全然。あれで十分です! 平日昼間の限定で流してるんですけど、おかげで売上げ
    が倍になったんです♪」
啓太「???……(何もしてないのに)……???」
和希「……(汗焦)……」
バイト「それで、オーナーからおふたりにはデザートをお付けするように、と。これから3か月。なんでもお好き
    なものをおっしゃってくださいね」
啓太「……よくわかんないけど、せっかくだからプリン・アラモードにしようかな」
バイト「はい。和希さんは?」
和希「えええええっと、俺は……。ああ、そうそう。どら焼き。どら焼きで」
啓太「でもホントにごちそうになっていいのかな……」
バイト「もちろんですともっ! 本当にごちそうさまでした。うふっ」
啓太「(バイトの後姿を見送って)……どんな映像作ったんだ?」
和希「え? いや。カメラもってたらたまたまスイッチが入っててさ。こんなのもアリかと思っだけで(汗)」
啓太「ふ〜ん。無作為っておもしろかったりするからなあ」
和希「そっ。そういうことさっ(汗)」
啓太「でもさあ、和希」
和希「はっ、はいっ?」
啓太「『 ごちそうさま 』って、なんだろう……?」






いずみんから一言。

教訓。
我を忘れるくらい怒っていても、バレたらやばいものは使わないこと。

さて。和希さんはどんな映像をプロジェクタ用に作ったんでしょう?
もとの映像からはいろいろ加工してはいるんだろうけど。


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