think of you night and day |
「ね、ハニー。知ってる?この学園のサーバー塔の裏手にくまちゃんの銅像があって 満月の夜に誰にも見つからずにそこで愛の告白をするとかならず両思いになれるって 伝説があるんだよ?」 ある朝、寮の食堂で朝食を食べていた俺にBL学園の自称愛の伝道師、テニス界のプリンス 成瀬さんが嬉しそうに目を輝かせながら教えてくれた。 折りしも明日から夏休み。校内に人はいても通常の半分以下。 俺の心に小さな決意が生まれた。 《I think of you night and day》 −数日後− 運が良いのがとりえの俺特製の照る照る坊主が効いたのか、茹だる様な暑さながらも快晴に 恵まれた本日。寮の自室の洗面台の前で身支度を整えながら、鏡に映る自分の顔に向かい 気合を入れていた。 「しっかりしろ、俺!くまちゃんの銅像の場所も調べたし、今日が満月なのも調べた! 学生会の仕事を手伝って欲しいって中嶋さんに言われたんだから中嶋さんが帰省してないのも わかってる!上手くいってもいかなくてもこのまま何も言わないで卒業されちゃうのは絶対嫌だ」 緊張に強張った頬を両手で軽く叩き颯爽と部屋を後にする。 親友の和希にも言ったことはないけど、俺の好きな人は中嶋英明さん。 学生会の副会長をしていて、いろいろあったけどMVP戦で俺を勝利に導いてくれた人なんだ。 後輩として可愛がられてるだけじゃ物足りないと感じ始めたのはMVP戦が終わって暫くしてから。 冷たい人だけど時折見せる笑顔をもっと見たいとか、あの綺麗な手で触れて欲しいとか・・・ いつもいつもそんなことを考えてる自分に気づいた時はこの世の終わりのような気がしてたけど、 中嶋さんが男とも付き合ったことがあるって知ってからちょっと希望の光が見えたような見えないような・・・ とりあえず三年生の中嶋さんは来年には卒業してしまうので気持ちだけでも伝えるかそれとも 後輩のまま可愛がってもらうか、俺としてはすっごく悩んでいたところに成瀬さんから伝説を聞き 当たって砕ける決意が出来た・・・ほんとは砕けたくないけどさ・・・頼むよ、くまちゃん! そんなことをつらつらと考えつつたどり着いた学生会室の前。耳を澄ますと中からタイピングの音。 あ、中嶋さんがもう来てるんだ・・・うわぁどうしよう、心臓バクバク言ってきた・・・顔も赤くなってそう とりあえず落ち着くため深呼吸。 「ファイト、お〜!」 小さな声で気合を入れなおすとノックをし了解を得てからドアを開ける。 「中嶋さん、おはようございます!遅くなってすみません」 熱いビートを刻む心音が聞かれやしないかと、やや引きつった笑顔を中に向けながら声をかける。 「おはよう啓太、朝から元気だな。こちらこそせっかくの休みに手伝いを頼んですまない。 だが、今日は丹羽を捕まえることが出来たのでかなり仕事を進ませることが出来そうだ」 入力する手を止めて中嶋さんが俺に顔を向ける。小さく口元に笑みを刻みながら告げられた言葉に 思わず俺は声をあげてしまう。 「え?!・・・・あ、ほんとだ!どうしたんですか王様?具合でも悪いんですか?」 中嶋さんの向かいの席には腰を椅子に縛り付けられた王様がふて腐れたように座っていた。 「よう、啓太ぁやっと気づいてくれて嬉しいぜ!ったくどうしたもこうしたもねぇぜ、ヒデのやつ 寝てるところをたたき起こしやがって!しかもドアの前で張ってんだぜ?」 じろりと中嶋さんを恨めしげに睨む。 「仕方ないだろう、こうでもしないと俺が帰省できない」 しれっとした顔で王様を見た後俺に書類を渡すと入力の続きの戻っていった。 どうしよう、どうしよう、どうしよう〜 王様がいるなんて思ってなかった俺はどうやって中嶋さんだけをくまちゃんの銅像まで誘おうか、 考えつつ仕事をしていたから気がつかなかった。 王様の悔しそうな顔と、中嶋さんの勝ち誇った笑みに・・・ 焦りつつ仕事をしていると時間というものはあっと言う間に過ぎ去ってしまい。 辺りが夕闇に染まりだす頃やっと仕事の目途がつき今日はこれで終わろうと中嶋さんが 俺と王様に声をかける。 「だあぁ!やっとかよ、っ疲れたぁ〜」 へろへろになって机に懐く王様に南極さえも暖かく感じる中嶋さんの冷たく鋭い視線が向けられる。 「哲ちゃんが日頃からやってれば俺も啓太ももっと夏休みを楽しめてると思わないか?」 「・・・・・わかったよ、すまん。俺が悪ぅございました!」 「明日以降にその言葉が反映されてれば良いけどな」 中嶋さんの言葉に逆切れした王様は片付けもそこそこに立ち上がり、おろおろと見ているだけだった 俺の頭をくシャリと撫でニヤリと珍しく悪代官のような笑顔を浮かべ 「じゃあな、啓太。俺は先帰るから、頑張れよ!」 止める間もなく帰っていった。 「・・・・・頑張れ?・・・・」 王様に言われた言葉を首を傾げつつ反芻する。 (まさか今日の俺の決意がばれてる・・・・?ってそんなはずないよな・・・ だって誰にも言ってないし・・・・) ドキドキしながら顔を戻すとこちらを見ていた中嶋さんと思いっきり目が合う。 「早く片付けろ、置いて帰るぞ?」 いつになく優しい目をした中嶋さんに見とれていたらどうやら片付ける手が止まっていたらしい。 王様が乱した髪を整えるように髪を弄られパニックになった俺は中嶋さんの腕を掴み 「ちょっと来て下さい!!」 「え?おい、啓太・・・・」 返事も聞かずに連れ出していた。 「それで?こんな辺鄙なところに俺を連れてきてどうしようって言うんだ?」 サーバー塔の裏手にあるくまちゃんの銅像まで来ると唐突に理性が戻ってしまった俺は 恥かしさのあまり中嶋さんの顔を見れずしょんぼりと俯いて足先ばかり見ていた。 「啓太、怒らないから言って見ろ。言いたいことがあるんだろう?」 促すように俺の唇にそっと触れる夏だというのにひんやりした体温の綺麗な指先。 導かれるままに顔を上げた俺の視界に飛び込んだのは愛しむような中嶋さんの瞳と 後ろで輝く満月。 ぼんやりと見とれている俺に苦笑した中嶋さんが一歩近づく。 「啓太?言わないなら帰るぞ?」 耳に飛び込んできた言葉にハッとなり、慌てて俺に触れている中嶋さんの手を握り 「お、俺・・・・中嶋さんが好きです!」 「そうか・・・・奇遇だな、俺もだ・・・・」 ・・・え?い、今のって・・・・ 以外とあっさり返された返事に思わず聞き返す 苦笑した中嶋さんは「鈍い奴め」と言いながらめがねを外すとぼんやり見上げている俺の唇に そっとキスをくれた。 重なる二つの影を月だけが見ていた・・・・訳もなく。 幸せに浸る啓太の死角。サーバー塔の影に3人の人影。 帰ったはずの王様こと学生会長丹羽哲也と自称愛の伝道師成瀬由紀彦、自称啓太の親友兼 BL学園の理事長遠藤和希。 悔しそうな丹羽に成瀬が言った 「まあまあ会長。いいじゃないですか、可愛い啓太の幸せのためです。祝福してあげましょうよ」 「確かに中嶋は顔も良いし頭もいい。でも補って余りあるほど性格に難有りじゃねえか、 ぜってぇ啓太の奴泣かされっぞ?だったら俺のがよっぽど・・・・」 「みっともないですよ王様。それは確かに思いますけど、啓太があの人が良いって言うんです。しょうがないでしょう・・・啓太を幸せにするためならくまちゃんの銅像ぐらいいくらでも作りますけどね、 中嶋さんを幸せにするのかと思うと複雑です・・・」 言葉どうり複雑な表情でため息をつく遠藤の肩をそっと抱き寄せとろけそうな笑顔で成瀬は言う 「遠藤には僕がいるじゃないか」 「何言ってるんですか・・・ちょっと成瀬さんこんなところでキスしないでください!」 「やってらんねぇ・・・・」 丹羽の呟きだけが寂しく響く 2005年8月16日 遅くなりましたがサンクス2000ヒット 記念SSです。 〜 あなたのななめ45° ブー子 さま 〜 |
いずみんから一言 啓太のためにくまちゃんの銅像をわざわざ作るなんて? と思っていたら、和希は しっかり成瀬さんと……だったんですねえ(笑)。このさりげなさがナイスです♪ にしても、王様って何故か不憫さがよく似合う(爆)。 |
ウインドウを閉じてお戻り下さい。 |