◆◇◆ 幸せな悪戯 ◆◇◆ |
俺が注意力散漫なのは時々だけど・・・自覚する事がある。 たとえば、今日。 「・・・た、啓太!」 「え・・・?あ!」 ・・・もう少しで、壁と激突するところだった。 これと言うものの、なんとなくハロウィンのシーズンだという事は解っていたのだけれど まさか、学園内でハロウィンのお祭りをするとは思っていなかったから。 七条さんのことだから、間違いなく俺の前に「Trick or treat!」なんて言いながら現れるに 違いないだろう。 だから、七条さんが好きそうなお菓子を用意しておこうと思っていたのだけれど 意外に、自分の部屋にお菓子を置いていなかった事に、当日になって気づいてしまって。 ・・・落ち込むなって言うほうが、無理な話だろう? だから、どうしようかなぁ・・・と思っていたのだけれど 救いの神よろしく・・・和希が、海外出張の土産とかっておもしろそうなお菓子を たくさん持ってきてくれたんだ。 そのせいで、さらに落ち着かなくなっちゃって、早く七条さんの元へと行くべく 小走りになっていたら、目の前に注意がいかなかったのか さっきの・・・ぶつかったり、ぶつかる寸前だったりしていたという訳で。 「・・・うう、ごめーん、和希。」 「ほら、もう・・・あせりすぎだって、啓太。」 ため息をつきながら言う和希は、苦虫をかみしめてるかのように 変な顔をしているけれど、そんなに俺、あせりすぎてたのかな?? ともあれ、早くに会おうと 七条さんがいるはずの会計室へと向かって行った。 ........................................................................................................................................................................................ コンコンコン、と叩きながら「伊藤です」とあいさつをしながら 扉をひらいていくと、そこには、うっとおしそうな顔をしていた西園寺さんが、 俺を見るなり、にこやかになって 「啓太、来たか」 と、歓迎してくれた。 「・・・西園寺さん?どうか、したんですか・・・??」 西園寺さんがあんな顔をする理由なんてきっと、ひとつしかないのかもしれないけれど 違うかもしれないから・・・と、念のため聞いてみる。 「ああ・・・臣の奴に当てられていただけだから、気にするな。」 「へ?」 あてられたって何のことだろう? 理由は解らないけれど、でもやっぱり七条さんに原因があるのは正解だったようだった。 「ひどいですね・・・郁。 だって、郁が最初に『今日もまた、啓太を待ってるのか?』って言ってきたんじゃないですか」 七條さんのそんな声を聞きながら、彼の声のある方向へ視線をやると。 彼は、仮面を手にとりながら、マントを羽織っていた姿でいた。 ・・・たぶん、オペラ座の怪人を模したものなんだと思うけれど・・・ なんだか妙にはまっていて、逆に怖いような。 「ああ・・・それは確かに失言だったな。 ただ、お前の惚気を聞くだけだった。」 あまりにもボーっとしながら聞いていた俺だけど、七条さんに対する西園寺さんのその答えに ひるんでしまい、思わず、頭の中で復唱してみる。 惚気・・・??惚気って・・・まさか?! 「あ、あのう・・・それって・・・」 「ああ・・・ 『今日はハロウィンですからね。学園内で出来る限りの事を伊藤君と一緒に楽しむ予定なん ですよ』 などと言ってきた。 ・・・デートなのかどうかは知らないが・・・結局は惚気だろう?」 どうだ、と言わんばかりに西園寺さんは軽く憤慨しつつ、呆れ顔で俺に言ってきた。 うう・・・なんか照れます、西園寺さんっっ//// 「郁?もう、そのへんでいいでしょう? どうせ郁のことですから、この後は部屋に戻るんですよね? なら、この後は・・・この部屋もお借りしますね♪」 「ああ・・・どうせ、今日は甘い香りも充満するだろうからな。 早々に退散する。後は、まかせたぞ。 啓太とは、やりすぎないようにな?」 「言われなくても。 では・・・ゆっくり休んでくださいね」 こんなやり取りは、別の某イベントでもあったような気がするのだけれど 気のせいかな・・・ 顔を紅くしていたらしい俺は、 「西園寺さん・・・すいません」 と言いながら、彼の背中を後にしていった。 ......................................................................................................................................................................................... 西園寺さんがいなくなったと思ったら 2人きりになったはずの会計室で、七條さんが俺に、いきなり聞いてきた。 「さて・・・今宵はハロウィンですが。 伊藤君は、何を着るかもう決まっているのですか?」 「へ?」 なんのことだろう?と思っていると、七条さんはああやっぱり・・・といったような表情で、 口をひらいていった。 「ハロウィンといったら、仮装パーティーでもあるでしょう? ほら、映画とかでもよくあるじゃないですか。お化けとか、狼男とか、ヴァンパイアとか、魔女 とかに 仮装して、楽しむんですよ♪」 「ああ! でも・・・俺、今までそういうのやってなかったから、すっかり頭になかったです。」 本当に、この学園で覚える事はおどろく事ばかりだ。 ハロウィンパーティーってことになるのかな? でも、仮装のことなんてすっかり頭になかった俺は、衣装がない。 ・・・どうしよう、と思っていたら 「こんなこともあろうかと思いまして。 ・・・君に似合う衣装をいくつかセレクトしてみたのですけれど・・・ いかがでしょう?」 「へ?! わ、悪いですっ!!それにサイズ・・・」 うん・・・サイズ・・・ちゃんと合うのか解らないし。 それに、こんな事を言うのもなんなんだけれど、七条さんが選んだ衣装って 恋人とはいえ、なんだか不安を覚える。 「だめですよ?着ない、なんてのは不可ですからね。 この中から・・・選んで、着て下さいね♪」 「うう・・・・・はい・・・。。」 ・・・いろんな意味で、覚悟をするしかなかったようだ。 ......................................................................................................................................................................................... 七条さんが用意してくれた衣装は、どこかマニアック・・・なような 魔女の衣装、悪魔の衣装・・・これは、少年風のかなあ・・・ショートパンツで作られているものだし あとにあるものも、どこかしら少年少女を思わす衣装ばかりで、どれも躊躇を産む。 「七条さん〜〜〜(涙)このなかから絶対着なきゃいけないんですか〜〜〜??」 本気で、俺は泣きそうになっていた。 「・・・そんなに、嫌、ですか・・・?伊藤君を困らせるつもりはなかったのですが・・・」 そんなふうに困ったような顔をされても俺が困りますっ!! だけど・・・あんな顔をさせたい訳でもなくて。 「う・・・ごめんなさい・・・だって・・・絶対似合わないし・・・恥ずかしい・・・」 思わず俺は、言っていた。 「そんなことないですよ? 伊藤君は、どれも似合って可愛いです。 そうですね・・・女の子っぽいのが嫌っていうことでしたら・・・これなんて、どうでしょう?」 七条さんが、指し示した衣装は、悪魔のもので。 どこで用意したのか、なんとなくピッタリタイプと感じるそれは 最近、よく言われる「小悪魔モード」とか、そんな感じにさえ見え隠れする。 「それ・・・ですか・・・??ちょっとそれも・・・」 「なら、これなんてどうでしょう?」 次に、見せてくれたのは、やはり少年風の、魔法使いの衣装。 これもまた、ショートパンツタイプなのだけど・・・ さっきのよりは、まだ露出も低めだし・・・いい、かな? 「それなら・・・いいです。」 「よかった。」 七条さんの、その笑顔で、俺は、魔法使いになることで決定されていった。 ...................................................................................................................................................................................... 『さあ!これから恒例のハロウィンパーティーを開催する! 皆!おもいっきり楽しんでこいや! さあ・・・『Trick or treat!』』 王様の、開催の合図とともに、寮内はいっせいににぎわい始めた。 やっぱり、日本にいるのと違う感じがするのは、校風ならではなのかな? 理事長も以前はアメリカにいたらしいし、ちょっと海外かぶれのところが、なんだかおもしろい。 「七条さんっ俺っなんだか・・・楽しくなってきましたっ♪」 「それはよかったです。 さあそれでは・・・部屋に廻って、お菓子をもらってきちゃいましょうか♪ 30分後ぐらいたったら、会長からの終了合図もありますから、そのあと・・・2人で楽しみましょうね」 にこやかに言う、七条さんのそのセリフもそうだけど、 2人きりになった時のことを考えると・・・ドキリとしていった。 だって、2人きりになるっていうことは・・・あの、エッチなこともあるだろうから・・・////。。 「Trick or treat!」 そう言いながら、俺は、藤田や、和希など、親しいメンバーからお菓子を貰っていっていた。 「ハニー!」 ・・・あ。別の意味で甘いものをもらいそうな人もでてきた。 「成瀬さん」 っていうかあれ?成瀬さんは、パーティー不参加者なのかな? 衣装を着ていないから、びっくりしてしまった。 「あれ?成瀬さんは、仮装しないんですか?」 「うん・・・本当はしたいんだけどね。 それをやっていると、僕のお菓子をもらいたい奴が、もらえないから〜って・・・ 俊介に止められたんだ。」 「それって・・・俊介が、成瀬さんのお菓子を食べたいだけじゃ・・・」 うん。すっごくありえそう。 そう思いながら、彼を様子見ると、 「そう、思うだろう? だけど、意外にね・・・どこから情報を仕入れてきたんだか、 結構来るんだよね・・・。昨年、たまたまお菓子をあげたからだと思うんだけど、飢えた ハイエナみたいに わらわらと来るんだよ。」 あははは・・・妙に納得。 「そうなんですか・・・じゃあ、成瀬さんにも、『Trick or treat!』ですね!」 そんな事を、満面の笑みで答えてみたら、成瀬さんてば硬直したのか。 ・・・・・??しばらく、放心していた。 ポタッ ん?なにかが、垂れ落ちたような音がした。 成瀬さんの・・・鼻の下を・・・赤い、それが滴る。 「って、鼻血ーーーーーっっ!!??」 「・・・あれ・・・?? っは!!ご、ごめんっ///啓太になら、いたずらされてもいいかなあ・・・って思ってたら いつの間にか・・・」 「うえ?!な、なんですかそれはっっ!!」 「うーん・・・だってねえ・・・その、衣装なんかもかなりソソるし・・・」 「!」 ・・・なんか、聞いちゃいけない人から、赤面の告白を聞いてしまった気がして。 俺は、思わず、 「な、成瀬さんの、バカー!!!!」 などと、捨て台詞をはきながら、脱兎の如く、逃げていっていたようだった。 ......................................................................................................................................................................................... あの、鮮赤の出来事から数十分、どうやらいつの間にかお菓子のゲームは終了していたらしく、 通常の飲食パーティーに切り替わっていた。 さすがにあの後は、お菓子をもらう気分にもなれず、屋上でボーっとしていた。 どのみち、七条さんとは屋上で待ち合わせをしていたからいいのだけれど ・・・なんだか、ハロウィンモードを殺がれた気分でいた。 男の・・・俺に、鼻血を出されてもね・・・ さすがに、凹むし。 星を眺めながら、ボーっとしすぎていたのか 背後からふわっと温かい布に包まれるまで俺は、彼の気配に気づくことができなかったらしい。 ・・・コート? 「伊藤君?そんなに、星空ばかりを見ていないで、こちらを向いてくれませんか?」 「・・・七条、さん・・・」 ・・・なんだか、泣きそうになった。 今まで、嫌な気分にもなっていたのに、彼の配慮と、温かな心で癒される。 やっぱり、七条さんが好きなんだなあ・・・って、思えるから不思議だ。 「・・・?伊藤、君・・・??どうか・・・されましたか・・・?」 「・・・・・いいえ・・・いいえ・・・っっ!!」 思わず、彼をぎゅっと、抱きしめながら。 「ただ・・・そう・・・七条、さんが・・・いなくて、寂しかったんです」 言い訳をする訳でもないのだけど・・・ そう。 本当に好きな人からの告白しか受け止められない事を自覚しながら 寂しさを覚えていたのも確かにあったのだと。 こっそり、思っていた。 ......................................................................................................................................................................................... このままでは、冷え切ってしまいますから、部屋に戻りましょう?という 七条さんの発案で、俺と七条さんは、七条さんの部屋へと入っていった。 「そういえば伊藤君の、お菓子のかごは・・・そんなに入っていませんけれど あんまり楽しめませんでしたか?」 どきりとする事を、さらりと言う七条さんに、俺はなんと言えばいいのか 解らなくなっていた。 「う・・・そんなことは、ない・・・です・・・」 「ねえ?なら、こうしましょうか。 2人で、『Trick or treat!』と言い合って、お菓子を渡しあいましょう♪」 俺の様子が変だったのを、察知してくれたのか彼は、また嬉しい事を言ってくれる。 「・・・はいっ!!」 そして、2人だけのハロウィンがスタートした。 「じゃあ、僕から、いきますよ?『Trick or treat♪』」 「はい、どうぞ・・・七条さん♪」 和希が最初にくれていた、お菓子を渡しながら。 おまけに・・・ちゅっ と、彼の頬に、口づけた。 「!」 あれ・・・?俺、なにか、変なことをした、かな・・・? ちょっと、硬直してるっぽいんだけど・・・ 「君は・・・いつも、おどろかさせてくれます、ね」 「そ、そうですか?」 「そうですよ」 どうやら、かなり驚いた・・・らしいけど。 「君からならば、いたずらつきの、お菓子なんて、とても魅力的で・・・たまらない。」 ちょっと、ぎゅっと体を強張らせているようだけど・・・どうしたんだろう?? 「では・・・君の、番、ですね♪」 「はいっ」 ほかの人になら・・・そんなにドキドキしなかったのだけど、 七条さんを目の前にして、ドキリとしながら 「七条さん・・・Trick or treat!」 声を、強張らせながら、言っていった。 七条さんからは、どんな反応が・・・くるのかな? あれ? お菓子を・・・くれる、気配が・・・ない。 「伊藤君・・・実は、僕は・・・君にあげられるお菓子は、ないんですよ」 にこりと笑いながら、彼は・・・言ってきた。 「だから・・・ね?いたずら、して・・・ください、魔法使い、君?」 ふわりと、俺の体を近づけていって。 俺にいたずらをされるはずの・・・七条さん・・・いや、怪人に。 いたずらをされるために、体をさらに密着させながら 「・・・おみ、さん・・・だいすき・・・いたずら、されてください・・・」 彼のぬくもりに、うっとりとしながら 答えていった。 これだってたぶん・・・きっと。いたずら、だよね? ......................................................................................................................................................................................... 腰のだるさを覚えながら、いつものように校内を歩いていると、 ちらほらと・・・成瀬さんの状態を耳にはいってきた。 「いやっあれは・・・とうとう、本格的に断れたんだろ〜??」 「そうかなあ・・・それよりも、単に、怒られたって気もするんだけど。」 ・・・そういえば、成瀬さんに、酷いことだけを言って、それっきり、誤りもしていなかったんだっけ。 そして、その時の出来事はどうやら・・・七条さんも知っていたのか、 「君が、誤る必要はありませんからね」 などと言って、俺を離そうとしない。 いや・・・嬉しいんだけど、でも・・・やっぱり気になりますっっ!! 「啓太?・・・臣を捨てるなら、今のうちだぞ?」 「西園寺さんてば・・・」 今、いるのは いつもの会計室。 成瀬さん含め、昨日のパーティーでできなかった続きをしようという輩がいるから・・・ などと言い含められて、当分は、この部屋から外出禁止!とも言われそうなほどの勢いだ。 ・・・結局は、七条さんに、いちばん、遊ばれたのかもしれない・・・などと、 思ってしまうのは気のせい、かな・・・??? でも。 これだって、幸せの、ひとつ、なんだけどねっっ♪ かなり慌てて作った、臣啓のハロウィンSSをお届けです(^^ゞ 各所各所が、く、くるしい・・・っっ(汗 UPがずれてしまったので、フリーとしてのお持ち帰り期間は、今週いっぱいで どうぞ♪ 〜 //Slash 阿佐海 悠 さま 〜 |
いずみんから一言。 可愛いなあ。と、阿佐海さまの啓太くんを読ませて頂くたびにそう思う。 『各所各所が、く、くるしい・・・っっ(汗』 なんて書いておられるけれど そう? どこが? と思ってしまったよ(笑)。 この啓太くんの可愛らしさの前では、そんなこと、気にもなりませんって♪ |
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