◆◇◆ 幻の夜 ◆◇◆


                    

王様の趣味で始めたお祭り騒ぎは、今年で3年目を迎える。
別に、嫌いという訳ではないのだけれど・・・
あえて、遊ぶというような歳でもないしなあと、俺は今日も理事長室で、いつもの職務をまっとう
していた。

啓太が七条君と付き合うようになって早数ヶ月。
寂しさは募るものの、我侭な子供じゃないしな・・・と、早々に啓太への想いは決着をつけた・・・と
思っていた。 


そろそろ夜半すぎるかなという時に、ようやく今日の職務を終えた俺は、寮へと向かっていく。
さすがに今日は、学園の皆がわらわらと行ったり来たりしているから、篠宮さんも、この時ばかりは
点呼も無理だろう・・・と、諦めているらしいから、ちょっとだけ安心して時間に縛られることもなく
のんびりと、歩いていけるのがなんとなく、嬉しい。

寮内へ入って部屋へ戻ろうとすると、成瀬さんがなにやら呆けていた。
いったい彼に何が・・・??

「成瀬さん?いったい、どうしたんですかー??」

「・・・・え、遠藤…?」

「ってうわ!なに鼻血出してるんですか!怖いですよそれ!」

「そんなに怖い〜〜??・・・うう、ハニーに嫌われちゃったみたいだし、そのうえ遠藤までその
仕打ち・・・」

どうやら彼は、何らかの形で啓太を傷つけたのだろう。
そればかりは俺も、啓太を傷つけるやつには報復・・・するしかないから、

「しょうがないでしょう?俺は、啓太の味方ですから」

と言って、彼を放っておいた。





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このまま、部屋に戻ってもいいのだけれど なんとなく・・・すぐに寝る気分にもなれず
寮の屋上へと向かい、空気を吸うかと思い立っていた。

扉を開けて、外を見やると、どうだろう。
啓太と七条君が・・・目の前で、抱きしめあって、キスをしていた。


「・・・んん・・・ふぁ・・・」


がんがんする。
もう、諦めていたと思っていたはずなのに、この始末だ。
啓太は、七条君とキスをしながら、うっとりとしているし・・・

これでは、この屋上も彼らに所有権もあるし、見ていられない。
早々に寝るしかないだろう・・・


逃げる・・・なんて、俺らしくないけれど。
彼らを、非難だってしたくないのだ。
そうやって、投げやりになりかけながら屋上から、2階の自分の部屋へと戻ることにした。




重くなっていく体を、ひきずるように、階段を下っていく。
室内なのに、俺は雨にでも打たれたかのように 体を自由に動かすことができない。
どうやらぼうっとしていたのか、突然、頭からバラバラとなにから小さなものが落ちてきた。

「・・・飴玉・・・?それに、ガム・・・」

「お前、なんて顔してるんだ?らしくないぞ。」

「・・・なか、じま・・・さん・・・?」



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珍しいな・・・中嶋君が、こんな甘ったるいものを持っているなんて思わなかった。
意外な顔をかなり大げさにしていたのか、彼は、複雑そうな顔をしながら、口をひらく。

「まさか、俺がもともと持っていた・・・なんて、思うなよ?丹羽のやつが、
今日になって押し付けてきたんだからな・・・」
 
ああなるほど・・・
確かに、それなら納得だ。

王様が、自分からひらいたお祭り騒ぎともなると、中嶋君にも手伝わせるか
もしくは、無理やりにでも お菓子を渡させるという作戦でいるのだろう。
だからこそ、彼には似つかわしくないこの、駄菓子たち。

「それにしても・・・本当にひどい顔をしているな。
俺も、さすがにもう退散するところだったんだが・・・どうだ?
俺の部屋に来るか?」

「中嶋さんの部屋に?」

「・・・美味い珈琲を淹れてやるよ」

彼ならではの優しさなのだろう・・・俺は、彼のその言葉に甘えることにした。

「ありがとうございます」



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啓太に聞いたことのある、中嶋君の部屋は、想像していたとおりシンプルなもので
あえて、部屋の中で主張しているものがあるとするならば、本格的なオーディオの機器なのだろう。

「その辺に座って待ってろ」

「あ・・・はい」

中嶋君が珈琲を淹れてくれている間に、俺は彼の部屋の鑑賞とばかりに
いろいろ見てまわっている。

あ・・・意外だ。
彼は本来、日本人のピアニストのものは聞かないものだとばかり踏んでいたのだけれど、
俺でもよく知っている、有名人のCDを何枚か置いてあった。

「できたぞ・・・」

「え・・・あ、ありがとうございますっ」

そう言って、珈琲を手に取る。・・・本当にいい香りだ。
きっと、彼のこだわりの豆でもあるのだろう。さっきまでの暗い気分も、消えてくれそうだ。

「・・・ふん。そんなに、そのCDが珍しいか・・・??まあ、確かに俺は基本的に
海外のものしか聞かないんだが・・・そいつの弾く曲は、特別でな。
・・・昔からよく聞いているんだ。母親が・・・好きで小さなころから耳にしていたからな。」

びっくりした。
彼が・・・俺に、身の上話を交えて話してくるなんて。

「?どうした?・・・不味かったか?」

「あ、いえ・・・おいしいです。
そうじゃなくて、まさか中嶋さんの、身の回りの話を聞くことになるなんて思わなかったから」

思わず、素直に話していた。
本当に・・・なんでだろうな。
幻のような一夜としてでもいいから・・・ちょっとだけ。
この日だけでもいいから、素直になってみよう・・・と、思えてきた。



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「お前は知っているか知らんが・・・俺の母親は、エステ営業をしていてな。
ほら、知ってるだろ?そういう店では、ヒーリング効果っていう奴で 気分を高める
曲をBGMとして室内で流している。」

「ああ・・・そういえば、聞いたことがあります」
 
「だから・・・実家も、かなりクラシックからジャズまでレコードやらCDやらで
いっぱいだ。」

彼は続けて言ってくれる。
彼の好きな、ジャズに、クラシック。
そして・・・好きなもの。

「・・・ねえ。中嶋さん? どうして、俺にそんなにたくさん、中嶋さんの事を教えてくれるんです
か・・・?」

「なぜ・・・?」

「だって・・・そこまで饒舌な中嶋さんって今まで見たことないですよ・・・。」

優しいトーンで話しかけてくれる彼に・・・俺は、ちょっと睡眠効果を齎されてしまったのか
軽く、あくびをしつつ・・・語りかけてみる。

「そう・・・だな。
いつもだったら話さないんだが・・・
きっと・・・遠藤が・・・消えそうで、怖かったのかもしれない。」

なんだか、彼らしくもない答え・・・に聞こえた。

「俺が、消える?」

「ああ・・・さっき、階段のところで見たとき。
一瞬だが・・・お化けかとも思ったよ」

フッと、いたずらな顔をしながら言うのは・・・ハロウィンだからだろうか。

「それって・・・西洋の、お盆だから・・・ですか?」

「そうとも言う」


別に、俺がここからいなくなる・・・なんてことはないけれど。
(まだ、啓太の情報露呈問題も完全解決している訳ではないから)

「もし・・・俺が、消えたら。
中嶋さんは・・・寂しいって思ってくれますか?」

なんとなく・・・聞いてみた。




「遠藤が消えたら・・・?」

あれ?なんだか、変なことを聞いたかな?
また、中嶋さんは眉間のしわをよらせ、変な顔をしている。

「そうだな・・・もしかしたら、泣く・・・かもしれない」

「ええっ?!泣くんですか・・・?・・・想像、できません・・・・」

本当に。まったく、想像がつかないな。
じっと、彼を見つめながら・・・そうなったときの事を考えてみているけれど。

「・・・・お前、俺にここまで言わせておいて・・・まだ、解からないのか?」

「・・・え・・・?何を、ですか・・・??」


ふっと、彼の存在が近づいてきた。
いつの間にか、彼の重みさえ、感じ取って・・・顔が近づいてきた。

「俺がお前を・・・好きだってことが、だよ」

そして、彼は・・・俺の唇に、想いを重ねてきた。



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まぶしい日差しに気づき、目を覚ますと、中嶋君はいなかった。

あれ・・・そういえば、昨夜は俺は・・・どうしたんだっけ。

そうだ・・・彼が・・・俺に、告白をしてきて。そのまま雪崩れ込むように
キスをしかけてきたんだったっけ? 

そして、俺も意外にそれが嫌じゃなくて・・・彼の、キスに答えていった。
舌を複雑に絡ませて俺を翻弄していくかと思われたが、
俺が・・・そのまま応えていったのに驚いていたのか、途中で体を離して。
・・・うん。ちょっと意外。
紳士っていうのかな?・・・年下にそれを言ってもしょうがないけれど・・・
本当に、彼は優しかったから。

そういえば、中嶋君はどうしたのかなと 周りの様子を伺うと、シャワーの音が聞こえてきた。
ああ・・・汗を落としているのか。
そう判断した俺は、いい加減、自分の部屋にいったん戻るべきだろうと、
彼に部屋に戻る事を伝えようと、ベッドから体を離していった。

「中嶋さんーーっ??俺、部屋に戻りますねっ」

『遠藤、目が覚めたのか?・・・制服なら、持ってきているぞ』

「え?!」

キュッと、コックをひねった音がしたと共に、彼はユニットバスから出てきた。

「ほら。」

・・・本当に、俺の制服と、下着が用意されている。
でも・・・ちょっと・・・中嶋君に・・・違和感が・・・

「・・・どうも。」

そう言いながら、服をうけとると、彼は傍に置いていたミネラルウォーターを手にとって
俺をじっと見つめていた。
なんだろう・・・?
本当に、気になる。

「・・・着替えないのか?」

「は?・・・ああ!着替えますよ。
ついでだから、シャワーも貸して下さい。汗も流したいので・・・」

「ああ・・・」

そのやりとりの後、俺はシャワーを借りて、一汗流して・・・身支度を整えていった。



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中嶋君に対する違和感は、さらに増していった。
それというものの、休み時間ごとに彼が・・・やってくるのだ。

さすがに、昼食の時間帯にまで来てこられるのも 啓太に、不信がられそうで嫌だったから
4時間目が終了すると共に、俺は・・・脱兎のごとく、学生会室へと駆け込んでいった。

「中嶋さんっっ!!」

「・・・遠藤か。」

「遠藤か、じゃないでしょう!今日はいったい何なんですか・・・っっ」

「・・・ヒデ?一体、こいつに何をやらかしたんだ・・・??」

・・・あ。珍しい。今日は、王様もいるのか。

「あ・・・えーと、すいません。お騒がせしてしまって・・・
ちょっと、中嶋さんお借りしますねっっ」

ついでに、目に移った猫デザインのドアノブカバーを学生会室につけて、
中嶋さんの腕をひっぱりながら、中庭へと移っていった。



「・・・中嶋さん。今日のあなたは、あなたらしくないですよ・・・
いったい、どうしたんですか?」

「ああ・・・あれか・・・」

妙に納得したような声で言う彼は、続けて言った。

「昨夜、お前は俺がしかけたキスに、応えていった。
あれが、どういうつもりだったのかと判断するために一緒にいてみたんだが・・・」

「!!!!わーーーっっ!!////そういうことを、こういうところで言わないでくださいっっ」

まったく・・・理由も理由だけど、さらりと言う彼の台詞には、いつも驚かされる。



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さすがに、公の場でのやりとりではないと判断した俺は、さらに場所を変えるために
校舎の屋上へと移動していた。


「そういえば・・・昨日の夜にひどい顔をしていたのは、一体なんだったんだ?」
 
向かっている途中に、彼はそんな事を言う。

「あれですか・・・?あれはなんていうか・・・」

啓太と、七条君のラブシーンを遭遇して・・・それで、辛かったはずなんだけど。
なんでだろう。思い出してみても、昨日よりも、辛さを感じない。
それどころか、ただ・・・鋳たたまれなかっただけで。

「・・・もう、いいんです。忘れてください・・・」

そう言うしかなかった。


「お前は・・・それで、いいのか・・・?」

「え?」

屋上に着くと、意外に風が強くて、彼の声が届きにくい。
頭を冷やすのにはもってこいだが、話し合うには少し・・・場が悪かったかもしれない。

「なんでもない」

「・・・そういえば中嶋さん?
さっきのキスがどうこうっていうあれ・・・返事、しなくちゃ・・・だめですか?」

「・・・してくれるのなら、な。」

なんて意味深に語るのだろう。
だけど俺だって、すぐに・・・彼の気持ちに応えられるという訳でもないし。

でも、昨日のあのキスは気持ちよかった。
俺の、今までの啓太への気持ちも・・・洗い流してくれたように。
だから・・・幻として記憶が消える前に、きっと、彼の元に
吉報を、届けられるだろう。




ハロウィンSS七啓を本編としたら、こちらは中和サイド・・・として作ってみましたw
恋が成就する前・・・になるのかな?ちょっとしっとりめに。    
こちらも、1週間のフリーとさせていただきます。どうぞ、ご自由にお持ち帰りください♪
持ち帰り期間 : 11,01〜11,07     






                                       〜 //Slash 阿佐海 悠 さま 〜



いずみんから一言。

中嶋氏ってのは優しいんだよ。うんうん。
と、読ませて頂きながらモニタの前で頷いていた伊住(笑)。
まあそんな当たり前のことはさておき。

   猫デザインのドアノブカバー !

……すみません。伊住はこれに萌えました(笑)。
うちの学生会室にも欲しいと思いました! もう遅いけどさ。くそぅ。
誰が見つけて買ってきたのか、非常に気になるところです(爆)。


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