やがて1つに溶け合って





「だから、違うって!!」

「じゃあ何でだよ!!クリスマス2人で過ごそうって啓太も約束したじゃないか!!」

クリスマス前日、学内でもバカップルと評判の和希と啓太なのだが、この日は珍しく喧嘩をしていた

年中イチャイチャしている2人は勿論クリスマスもいっしょに過ごそうと早くからアレやコレやと
計画を立てていたのだが、案の定クリスマスに和希の仕事が入ってしまったのだ

仕事・・・といってもクリスマスに託けた幾つかのパーティー巡りなので和希としては
そんなものよりも啓太とイチャイチャする事を選んだのだが、和希の立場を理解している啓太は
いい顔をしなかった
普段から全てにおいて啓太を優先している和希は、別に自分が行かなくても何とかなるような
パーティーは全て石塚や岡田を代理として出席させていたのだが、今回ばかりは規模が規模のため、
代理出席というワケには行かず、和希が出席する事になってしまった
しかも会場が都内ならともかく、ニューヨークときてしまっては、どんなに急いで会場を抜け出しても
その日のうちに日本に帰るのは不可能だ
クリスマスは恋人と甘い夜を過ごしたいと願うのは勿論和希も例外ではなく、啓太をニューヨークまで
連れて行こうとしたのだが、啓太がそれを渋った

「だって、和希が帰って来るまでホテルで一人ぼっちなんて嫌だよ!!」

英語が堪能な和希と違い、幾らBL学園の授業を受けていたって啓太には会話なんて簡単な挨拶ぐらいしかできない
暇つぶしにテレビを見ても全部英語
買い物も観光も一人ではできない

そんな見知らぬ土地にポツンと一人取り残されるのは真っ平ごめんだ

啓太とて和希と離れるのは寂しいのだ
広いホテルで和希の帰りを一人待つよりも、例え会えない時間が長くなろうと、住み慣れた日本で、気の合う仲間と騒いでいた方がずっと気が紛れる
だから啓太は学園に残って王様主催のパーティーに出席すると言うのだが、和希はそれを許さない

啓太は未だに自覚がないが、クリスマスに・・・しかも和希がいないとなれば普段から啓太を狙ってる狼たちが何をしでかすか判らない
和希がベッタリとくっついていても、構わずちょっかいを掛けてくるような連中だ
これ幸いとばかりに啓太があんな事やこんな事をされるかもしれないと考えただけで和希は気が狂いそうだ
しかも始末の悪い事に何度説明しても啓太は彼らの事を良い先輩としか認識しなく、自分がいかに美味しい餌か自覚しない

だから和希は啓太を連れて行きたがるし、啓太は日本に残りたがる
まさに平行線



「啓太は俺とクリスマスを過ごしたくないの?」

確かに狼の巣窟に啓太を残しておきたくないのも本音だが、何よりクリスマスという日を和希は啓太とどうしても過ごしたい
日本中の恋人たちがイチャイチャと甘い夜を過ごしているのに、どうして自分達だけダメなのだろう

「そうじゃないよ・・・そうじゃないけど・・・」

困った啓太は可愛らしい眉を八の字に下げた
理事長モードの和希はいつでも自信たっぷりでかっこいいのに、遠藤モードの和希は些か子供っぽくすぐ拗ねたり剥れたりする
どちらかというと、こちらの方が親近感が沸くし、緊張しないですむのだが、大人げない大人に少しばかり困ってしまう

「あのさ、俺は和希の事が本当に好きだから和希とクリスマスを過ごせれば勿論嬉しいよ?でもさ、仕事だから仕方ないじゃん。
仕事はその日しかダメだけど、俺達はお互いの都合のいい日にいっしょにまた過ごそう?ね?
俺はクリスマスを祝う事じゃなくて、和希といっしょに過ごせる事のが大事だから、クリマスマスじゃなくても和希といっしょにケーキを食べたり、ツリーを飾れれば充分幸せだよ?」

「うっ・・・・」

キラキラと澄んだ大きな瞳でお願い判って・・・っと啓太が訴えれば・・・元々啓太に甘すぎる程甘い和希が勝てるワケもなく・・・

「うぅ・・・」

ガックリと頭を垂れる和希にホっと啓太は胸を撫で下ろした

それはクリスマス前日の朝の事だった















「ん・・・・あれ?」

何だかいつもと違う寝心地に啓太はぼんやりと瞼を開ける

「啓太おはよう。よく眠ってたなぁ。もうすぐ着いちゃうぞ」

「おはよう・・・ん?着く?」

ガバっと起き上がった啓太は辺りを見回した

「ここ・・・・どこ?」

「飛行機の中vv」

「はああああああ!?」

いつの間にかパジャマで寝ていたハズの服は着替えさせられ、辺りは一見寝室のように見えるが、
確か夏休みに勝手にカナダへ連れていかれた時に乗ったプライベートジェットの中だと即座に啓太は認識した

「ちょっ和希!!昨日俺はニューヨーク行かないって言ったじゃないか!!!」

啓太は和希の胸ぐらを掴むと大声で喚いた

「大丈夫だって、ニューヨークじゃないから♪」

そのままギュっと啓太を抱きしめると和希は「ん〜啓太いい匂い」なんて呑気に言いながらすりすりと頬ずりしてくる

「じゃあドコ向かってるんだよ!?」

ググっと和希の顔を無理矢理押しのけて啓太は精一杯怖い顔しながら睨み付けた

怒った顔も可愛いなぁとデレデレとしながら和希はしれっと目的地を告げた

「どこってオーストラリア♪」

くらくらとする米神を押さえながら啓太はなおも問いかける

「何で?仕事は?」

「糞親父に押し付けた!!俺は有休で啓太とクリスマスデートvv」

あの後渋々和希はパーティーに行く事を了承したのだが、そもそもなんで俺が行かなくてはいけないのだと思いなおし、
鈴菱の顔として出向くのなら息子の和希よりもむしろ現社長である父親ではないかと父のスケジュールを調べたところ、
自分は呑気に母とパリへプライベートで遊びにいく予定となっていたのだ
ブチ切れた和希は今まで全然使わなかった有休をゴリ押ししてさっさと日本を出てきたのだ
和希の立場となれば有休など無いようなものなのだが、和希でなければいけない仕事は啓太とクリスマスを過ごすためだけに
血の滲むような努力でとうに片付けていたし、当然和希が海外に亡命したとなれば簡単に捕まるワケはなく、
父が嫌でも出席しなければならなくなるという寸法だ
もちろん混乱を最低限に抑えるため、諸々の手配や父への連絡、その他面倒な事は優秀な秘書に押し付けてきてあるし、
プライベートジェットならだいぶ早く目的地に着く事が可能だ

鈴菱和希2X歳にして生まれて初めての反抗期であった


「かっ和希!!そんな事して大丈夫なの!?」

事の大きさに啓太は真っ青になってあわあわとしていたが、和希は切なそうな顔をすると啓太にそっと囁いた

「俺さ・・・誰かとクリスマスを過ごしたくてこんなにも楽しみにしてた事なんて初めてなんだ。
今までずっと詰まらないパーティーや仕事で過ぎてきたけど、啓太はこんな俺の我侭に付き合いきれない?」

どうも言いくるめられた感は否めないが、和希の悲しそうな顔や寂しそうな声には滅法弱い
勿論全ては演技なのだけど、純粋な子羊はまんまと騙されてしまった

「わかったよ・・・だからそんな悲しい顔しないで、和希」


啓太はちゅっと和希に軽く口付けるとギュっと和希を抱きしめた
全ては演技
その腕の中で和希がニヤリとほくそ笑んだのも知らずに・・・







「うわぁ・・・」

啓太は目の前に広がる光景に感嘆の溜息を零す
ケアンズの空港に到着した二人はそのままクルーザーに乗り込むと、グレートバリアリーフを目指した
辺りは一面のエメラルドグリーンの海が広がり、遠くではイルカが跳ねているのが見える

日本と違い暑い季節のオーストラリアでは太陽が爽やかに降り注ぎ、水平線にどこまでも青空が広がっている

「ねえねえ、和希。オーストラリアはサンタがトナカイじゃなくてサーフィンで来るって本当??」

「そういうイベントをしている海岸もあるよ。俺たちはプライベートビーチだから手配してないけど、啓太も見たかった??」

何なら今からでもと手配しようと動き出す和希に啓太は慌てて首を振る

「違う違う!!ただ聞いただけだって!!」

危ない・・・
この男は財力が底なしなのをいい事に、啓太が呟いた些細な事さえ本気に取って何をしでかすか判らない
啓太は今後の言動に注意しようと堅く誓った




港から40分ほど走らせたところで、漸くビーチに辿り着いた
サラサラの砂で敷き詰められた砂浜に穏やかな波が打ち寄せる

荷物をスタッフに預けると和希は啓太の手を取って海岸を歩き出す

「ね、和希。早く泳ごうよ」

海といえば海水浴!!
と思ってる啓太は和希を早く早くとせっつく

「ちゃんと泳げるからもう少し待って」

和希は笑いながら小型の船に近づくと啓太に乗るように促す

「えっまた船に乗るの?」

啓太はキョロキョロと見渡しながら、早く泳ぎたかったと残念そうに呟く

「啓太はダイビングってした事ある?」

「えっ無いけど・・・・まさか泳ぐってダイビング!?」

「そう。この辺りは珊瑚とか熱帯魚が本当に綺麗なんだよ」


和希がわざわざオーストラリアを選んだのは、日本にいてはすぐに連れ戻されるという理由も勿論あるが、
どうしてもここの綺麗な海を啓太に見せたかった

適度なポイントに着くと船は泊まり、和希に教え込まれながら啓太も何とか着替えた
スーツがピッチリと体にくっついて気持ち悪い

「ねえ、本当はこういうのってインストラクターに教えてもらいながらやらないと危ないんじゃないの?」

啓太が問いかけると、和希は財布から得意げに一枚のカードを取り出した

「俺だってちゃんとダイビングのライセンスを取ってるよ」

和希の話によると海外の大学へ留学していた時に取得したものらしいが、今の和希とちっとも変わらない顔写真と
何やら英語でプロフィールやらが書かれていた

「はいおしまい」

「あーっ」

(もう少しで歳がわかるところだったのに・・・)

生年月日を見ようと思ったのだが、さっさと和希に取り上げられてしまった

「でもさ、和希はCカード持ってるけど、俺持ってないよ?いいの?」

「俺が付いてるから大丈夫♪」

本当は法的にはCカード未所持の者がダイビングをするのはオーストラリアでは禁止されているのだが、そこは世界の鈴菱
和希がやりたい事に異を唱えられるものはいなかった

勿論今回は初心者の啓太でも安全に潜れるくらいの浅瀬だし、潮の流れも穏やかなポイントだ
万一に備えて船には救急救命士などのスタッフも乗船している

(恋人同士で海っていったら定番の遭難ネタとか色々あるよなぁ・・♪)

啓太に危険な事が起こってはならないのは当たり前なのだが、誰にも邪魔されず啓太と2人でクリスマスを過ごせる和希の脳内はかなり壊れ気味である

その脳内はといえば・・・

(恋人同士で海に来たらヒロインが(勿論啓太)足を吊ったりして溺れるんだよな。
そして主人公がかっこよく助けて人口呼吸♪♪惚れ直す啓太!!く〜美味しすぎる!!)

(いやいや、実はあまりに遠くまで泳いでしまった2人は日が落ちて来た事からこれ以上は危険と判断して、
近くの島の洞窟とか小屋に避難するんだよな。夜と共に冷える体を素肌で温めあう2人♪♪く〜こっちも捨てがたい!!)

「・・・き!!和希ってば!!」

「ああ、ごめんごめん」

やっと現実に戻ってきたようである

一通りタンクやBC、計器類の説明をすると実際に装着にとりかかる
ハーネスの部分がゴチャゴチャとややこしく、不器用な啓太は戸惑っていたがあっという間に自分の準備が終わった和希が手伝ってくれた
最後にフットポケットに足を突っ込み、フィンを装着し、グローブをはめると準備は完了

「先に俺が下りるから、啓太もマネして飛び込んでみて」

縁(へり)に座り、背中から綺麗に海面に着水した和希に習って啓太も見よう見真似で飛び込む

「上手いじゃないか」

「へへっ」

レギュレータを口に含み、和希に続いて啓太も潜水する









そこは息を飲む程の絶景だった




どこまでも続くコバルトブルーは水面からの光を受けて段々とエメラルドに変わり、幾筋もの光のシャワーが降り注いでいる
大きな珊瑚の間を色鮮やかな魚たちが悠々と泳ぎ、まるで夢のような世界だった
小さい頃、水族館でガラス越しに見た景色とは比べものにならないほどの光景に啓太の胸が熱くなる


ふと隣を見ると和希がそっと手を握って微笑んでいた
2人は互いに泳ぎだす

和希が指を指した方へ泳いだり、逃げた啓太を和希が捕まえたり・・・


美しい景色に囲まれ、隣には愛する人
なんて幸せなのだろう
もしも楽園というものがあればこんな世界の事を言うのかもしれない
ちっともクリスマスらしくないクリスマスだけれど、最高のクリスマスプレゼントだ

啓太は仰向けに体を広げるとゆっくりと水面を仰ぐ
キラキラと揺らめく海面の下を美しい魚たちが通り過ぎる
胸がいっぱいで想いが溢れそうだ

和希はそんな啓太をそっと抱きしめる
啓太もゆっくりと腕を回す






“ありがとう”

声は伝わらないけれど、啓太は優しく微笑んだ
和希も甘く微笑むとそっと啓太の頬に手を添える

見つめたった2人のどちらからともなく顔が近づく




『愛してる』




カツンと音を立てて2人の唇は重なる前にレギュレータがぶつかる


顔を見合わせて笑った2人のエアは絡み合って昇っていった




まるで1つに溶け合うかのように




                             〜 HIGH SCORE  夢野いちご さま 〜



いずみんから一言。

HIGH SCOREさまのカウンタを2323(踏み踏み)したのです。
ということで、ゴーインにリク受けてもらっちゃいました。
だって和啓・ダイビングネタ読みたかったんだもん(笑)。
ダイビング経験がない(ひえ〜〃)いちごさまは、わざわざ
資料を調べて書いて下さいました。
どうも有難うございました♪


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