〜ヘヴンな童話・外伝〜

          『織女と牽牛』(七夕伝説)






 昔々のお話です。
 大空の上のそのまた上には、天界と言う場所がありました。天界では天上人と呼ばれる神様たちが、一番偉い和希天帝さまのもとで、毎日お仕事をして暮らしていました。
 和希天帝さまには、ご自慢の息子が二人いました。
 一人はとても美しく、運動神経はまるでありませんが、その分とても聡明な『郁の宮』。そして天の川の星の光を集めたような銀色の髪の、パソコンがとてもお上手な『臣の宮』です。
 二人はお父上の和希天帝さまに良く仕えて、情報を集めたりそれを編集しデータ化したりと、毎日仕事に励んでいました。
 しかし、手元において外に出さなかった所為か、二人はとても真面目ですが頭でっかちの世間知らずになってしまっていました。
 郁の宮は、和希天帝さまが少しでも何かを間違えると、

 「こんな事も分からんのか!?この馬鹿者!!」

と、実の父に向かって罵ります。
 臣の宮は、退屈しのぎに、父上の組んだセキュリティプログラムを、ことごとく破壊して遊んでいます。

 「こんな甘っちょろいプロテクトでは、セキュリティになんかなりませんね♪」

 筋肉のみで作った笑顔を張り付かせ、クスクスと笑いながらパソコンを操る臣の宮の前では、郁の宮が和希天帝さまのお仕事をチェックして、赤ペン先生宜しく、書類が真っ赤になるほど、訂正箇所に印をつけていました。

 和希天帝さまは溜息を吐きました。
 真面目で仕事熱心なのは、とても良い事なのですが、二人はあまりにも世間知らずです。このキツイ性格では、いくら天帝の息子だとしても、このままではお嫁の貰い手(?)がありません。
 それに、二人はとても潔癖主義で、和希天帝さまが新しい側室を迎えようかなどと、一言でも口に出したら直ぐに反論されてしまいます。

 「その年で、まだ側室を迎えようと言うのか!?全くこの色ボケがっ!!」
 「郁の言うとおりです、本当に厭らしいです、不潔ですねっ!!」

 長年想いを寄せていた、『啓太の君』を側室に迎えようと画策していた矢先、二人にあっけなくバレてしまって散々にコケ下ろされます。
 これには天帝さまも頭を抱えてしまいました。
 真面目で仕事熱心なご自慢の息子たちなのですが、コレでは自分の気が休まりません。
 如何すれば良いかと悩んでいると、右大臣の『紘司の大臣(おとど)』が提案しました。

 「宮さま方を、他の部署に配属しては如何ですか?」
 「他の部署?しかし、あの二人がソレを承知するのか?」

 郁の宮も臣の宮も、そう言った事にはとても勘が鋭いので、下手をするとますます機嫌を損ねてしまうかもしれません。
 「ソコはソレ、宮さま方にはちゃんとした理由を言えば、とても聡明な方々の事、絶対に文句は言いませんでしょう。」
 「ちゃんとした理由…。」
 和希天帝さまは苦笑しました。側室を迎えたいから、お前達は邪魔だ、とは確かに言えません。しかしそんな理由などあるのでしょうか。
 「紘司の大臣、君には何かちゃんとした理由と言うのに、心当たりがあるのかい?」
 天帝さまの問い掛けに、紘司の大臣は頷きました。
 「実はこの度、『哲也の大将』と『英明の大将』の勤める部署に欠員が出来まして…。」
 初めて聞いた事実に、和希天帝さまはたいそう驚かれました。
 「えっ!?『学生会』に?!そんな、あの部署に欠員が出て、運営が滞ってしまったら、天上界全体に影響が出るじゃないか!早く欠員を埋めなくちゃ…。」
 「その欠員を、宮さま方で埋めるのは如何でしょう?」
 和希天帝さまはハッとしました。
 「宮さま方は、とてもお仕事が出来る方々ですし、能力では申し分はありません。ソレに天帝さまの側を離れて仕事をする、良い機会になるでしょう。哲也の大将も英明の大将も、天帝さまのお子さまだからと言って、特別扱いをするような人物ではありませんし、ソレに何と言っても・・・独身です。」
 天帝さまのお顔がパッと明るくなりました。確かにとても良い理由です。特に最後の台詞は、堅物な紘司の大臣にしては花丸の上出来です。
 実は紘司の大臣は、以前天帝さまに、郁の宮と臣の宮に縁談をと言われていたので、ずっと似合う相手を探していたのです。
 哲也の大将と英明の大将は、若手ナンバーワンの逸材です。これからますます出世街道を驀進するであろう、迷わず『買いっ!』の急上昇株です。天帝さまもこの二人の能力は、非常に高く買っていました。
 そんな二人なら、大事な息子二人を預けても安心です。
 ソレに天上界で一番偉い天帝さまともあろう者が、何時までも息子の顔色を伺って、ビクビクしているのも情けない話です。
 「よし、それでは早速、二人を学生会へ配属しよう。」
 そしてあわよくば、二人を結婚させて自分は啓太の君を側室に迎えよう、と、そんな邪まな想いを胸に抱きながら、天帝さまは紘司の大臣に、郁の宮と臣の宮を連れて来る様言いました。
 
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 和希天帝さまは頭を悩ませていました。
 郁の宮と臣の宮を学生会へ配属し、始めはとても上手くいっている様に見えました。
 ところが、何時しか学生会では、英明の大将と臣の宮の、壮絶な『普通の会話』が勃発してしまったのです。

 「何だコレは?!世間知らずもココまで来ると感心するな。こんな紙面上だけでしか成り立たない理論など、何の役にも立たん。やり直せっ!!」
 「その言い方は何ですかっ!!郁の事を馬鹿にしているんですかっ!?コレは確かに紙面上の事ですが、少なくとも、貴方の考えた非人道的な考えよりはずっとマシです!!」
 「だからお前らは世間知らずだと言うんだ!!世の中はな、切り捨てなければいけないものが、そこら中に溢れている!そんな物、一々気にしていられるかっ!!」
 「貴方みたいな人が、如何してこんな地位にいられるか、僕には不思議でなりません!一体どんな賄賂を使ったんです?それとも、お得意の色仕掛けで、上司を誑しこんだんじゃありませんかっ?!」
 「ふんっ!貴様じゃあるまいし、俺は実力でこの地位を得たんだっ!親の七光りなんか、当てにせずになっ!!」
 「僕が何時親の七光りなんか当てにしましたっ!?無礼なことを言うと許しませんよっ!!」
 「ナニが無礼だっ!ソレが目上の者に対する言い方かっ?!礼儀作法を知らないようだなっ!!」
 「礼儀作法を知らないのは貴方ですっ!その横柄な態度を見て分かります!そんな態度だから、他の人が付いてこられないんです!!」
 「役立たずの者など要らんっ!邪魔なだけだっ!!貴様だってそうだ、宮だか何だか知らないが、ココではそんなモノは何の足しにもならんぞっ!!」

 「僕が役立たずだと言うんですかっ!?」

 「文句ばかり言って、突っかかってくる奴の、何処が役に立つと言うんだっ!?」

 毎日がこんな調子です。コレには哲也の大将も郁の宮もげんなりです。
 「ヒデ、いい加減にしろっ、相手は宮さまだぞっ…。」
 「宮だからと言って、特別扱いはするなと、天帝にも大臣にも言われている。ソレに俺は、極普通に話しているっ!!」
 「そうです、僕達は普通に会話をしているんです!哲也の大将は邪魔をしないで下さいっ!」
 「臣!ソレの何処が普通だっ?!少し頭を冷やせっ!!」
 聞いているだけで頭が痛くなってくる会話が連日続き、いくら止めても『普通の会話』を繰り返す二人に哲也の大将も郁の宮も、精神的に疲れ果ててしまいました。勿論仕事も滞っていきます。
 こんな筈ではなかったのにと、和希天帝さまも紘司の大臣も、自分の浅はかな考えに深く後悔をしました。紘司の大臣などは、『天帝さまにも宮さまにも会わせる顔がない…。』と、隠居する覚悟まで決めてしまった程です。流石にコレは、天帝さまの格別の執り成しで踏みとどまりました。

 しかし、このままでは天上界の行政も滞ったままです。天帝さまは紘司の大臣をはじめ、他の重臣たちと相談をして、郁の宮と臣の宮を学生会から離すことにしました。
 天の川を挟んで『会計部』と言う部署をつくり、学生会からの仕事を廻す事にしたのです。
 コレならば、少なくとも英明の大将と臣の宮が、何時も顔をつき合わせている時間はなくなります。ソレは直ぐに実行され、天の川のあちら側、鷲座地区に学生会が、そしてこちら側の琴座地区に会計部が置かれる事になったのです。

 「ふん、コレで貴様の顔を見ないで済むかと思うと、清々するっ!今夜はぐっすり眠れそうだ!!」
 「その言葉はそっくりお返しします!僕なんか嬉しくて眠れないかもしれませんっ!!」

 最後まで『普通の会話』をしながら、ブラックホールを発生している二人に、もう周囲は何も言いませんでした。
 
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 二人を離して暫くは、静かで落ち着いた日々が過ぎていきました。仕事も滞りなく処理されています。天帝さまも紘司の大臣も、ホッと胸を撫で下ろしました。
 そしていよいよ天帝さまが、新しい側室を迎えようかと考えていたある日、紘司の大臣が血相を変えて、天帝さまの元へやってきました。

 「て、天帝さま大変です!学生会と会計部が仕事をしなくなってしまいました!!」
 「えっ!?い、一体何が起こったんだっ!?」

 天帝さまと紘司の大臣は、慌てて学生会と会計部へそれぞれ駆けつけました。

 紘司の大臣は、学生会へ入るなりギョッとしました。そこら中の机の上や、果ては床の上にまで、未処理の書類が山となっていたからです。そしてその書類の影になって、哲也の大将と英明の大将がぼんやりと椅子に座っていました。
 「…お前たち!コレは一体何と言う有様だっ!?」
 紘司の大臣が呻くように言うと、哲也の大将がゆっくりと立ち上がりました。
 「…それがよ、…ヒデの奴が呆けちまって…。」
 「何だと!?英明がっ!?」
 紘司の大臣は絶句してしまいました。
 ソレもその筈です、デスクワークが大嫌いな哲也の大将と違って、英明の大将は、その最悪な性格はともかく、仕事には手を抜いた事が無い男です。ソレが如何してしまったと言うのでしょう。
 成る程、英明の大将が仕事をしなくなったのなら、この未処理の書類の山も頷けますが、そんな事で納得している場合ではありません。
 このままでは、天上界の行政が、にっちもさっちも行かなくなってしまいます。学生会と言う機構は、それほど天上界にとって重要な部署なのです。

 「英明、一体如何した!?身体の具合でも悪いのかっ!?」

 紘司の大臣は慌てふためいて、英明の大将に尋ねましたが、英明の大将は椅子に腰掛けたまま、机に頬杖を突いて、ぼんやりと自分のノートパソコンのディスプレイを眺めているだけです。しかもその画面は、スクリーンセイバーさえも消えて、真っ暗です。
 「英明っ!!」
 紘司の大臣の再度の呼びかけに、英明の大将はやっと気付いたように、その顔を大臣に向けました。その秀麗な顔には翳りが見え、紘司の大臣は、今まで一度も見た事のない、英明の大将の表情に声も出ません。
 そして深い溜息をつくと、英明の大将はまた前を向きました。

 「…仕事をする気が起きない…。」

 溜息混じりにぼそりと呟くように話す声には、覇気が全く感じられません。紘司の大臣は埒が開かないと、英明の大将をそのまま放っておいて、哲也の大将に聞きました。
 「何時からこんな状態なんだ?」
 「う〜ん…それがよ、宮さんたちが行っちまった後、暫くは普通に仕事をしていたんだが、何かだんだんペースが落ちてきちまって…。この所はず〜〜〜〜っとあんな調子だ。俺も一人じゃこの量は無理だしな〜。ヒデがいたから何とかなってたんだがよ、肝心のヒデがアレじゃあ、いくら処理しても追っつかねぇ。」
 両手を挙げてお手上げポーズをとる哲也の大将に、紘司の大臣はがっくりと肩を落としました。その上、哲也の大将は、気落ちしている紘司の大臣を尻目に、いそいそと帰り仕度を始めたのです。
 「哲也、何をしている…。」
 「あ、俺今から有給を取るから、後宜しくな。」
 「何だと!?如何言う心算だっ!?」
 「だってよ、この所有給とっていなかったし、ヒデがあの様じゃ、どっちみち仕事になんねぇだろ?郁ちゃん、ちっとでも遅れると怒るしよ〜…、ま、怒った顔も可愛いんだけどな〜。」
 「…郁ちゃん…?」
 「へへ〜、今から郁ちゃんの買い物に付き合う約束をしてるんだ♪んじゃ、そう言う事でっ!!」

 「ま、待てっ、貴様はいつの間にっ・・・・・!?」

 紘司の大臣の問い掛けは、逃げ足なら天上界一の哲也の大将には届かず、空しく中を彷徨いました。


 「臣、一体如何したんだ?父に訳を話してごらん?」

 机に突っ伏したまま顔を伏せ、蹲る息子に、和希天帝さまは優しく声をかけました。
 会計部の仕事の遅れは、学生会から仕事が来なくなっただけではありませんでした。何と、臣の宮が、まるで役立たずになってしまっていたのです。
 郁の宮の話では、最初、会計部に移って来た時は、別に何事も在りませんでしたが、だんだんと臣の宮から、あの胡散臭い笑みが無くなり、それと共に、仕事にミスが目立つようになって来ました。パソコンを打つ手も遅くなり、やがて一行も打ち込まなくなってしまったと言うのです。
 そしてとうとう、この数日間は、パソコンを開きもせず、事あるごとに溜息をつき、挙げ句の果てには泣いていると言うのです。
 臣の宮が泣くなんて、和希天帝さまは狐に化かされたような気がしましたが、事実眼の前ですすり泣いている臣の宮を見て、慌ててしまいました。
 今、会計部には、和希天帝さまと臣の宮以外は、他には誰もいません。郁の宮は、天帝さまに臣の宮のこの所の様子を話すと、自分は用事があると言って、出て行ってしまったのです。
 コレには和希天帝さまも驚きました。
 何時も一緒にいた臣の宮を、郁の宮が置いていくなど今までありえなかったことです。
 聡明な郁の宮の事です、臣の宮のこの徒ならぬ様子の、裏に隠された真実を、薄々気がついている筈です。それなのに、郁の宮は、
 「そんな馬鹿馬鹿しい事、一々説明など出来るかっ!!」
と、吐き捨てる様に捨て台詞を残しただけで、『私は家来(哲也の大将)と買い物に行くっ!!』、と行ってしまわれたのでした。

 「臣、さ、一体何があったんだ?」
 優しく問い質す天帝さまの声に、臣の宮はゆっくりと顔を上げました。紫色の瞳が涙で潤んで、愁いを帯びた横顔は、息子とは言えゾクリとするほど色気があります。
 天帝さまは、『自分には啓太の君がいる!!』、と、心の中で必死に理性を保ちながら、邪まな考えを打ち消しました。
 ところが、そんな父親の気も知らず、臣の宮はいきなり和希天帝さまを突き飛ばしたのです。
 「臣!?」

 「父上が悪いんですっ!!」

 涙に濡れた紫色の瞳は、怒りで怪しく揺らめいています。ソレがまた、えもいわれぬ色っぽさを醸し出し、和希天帝さまは、床に尻餅をついたまま、言葉も忘れて見入ってしまいました。

 「…僕がこんな思いをするのも…みんな父上の所為ですっ!父上が悪いんですっ!!」

 そう言うと、臣の宮は、訳が分からず言葉に詰まった和希天帝さまをその場に残し、会計部を出て行ってしまいました。
 
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 会計部を出た臣の宮が当てもなく歩いていると、辺りはもう夜の闇に包まれていました。そして気がつくと、いつの間にか学生会のある、鷲座地区に来ていました。
 もうこの時間には、学生会には誰もいないでしょう。でも臣の宮の脚は、学生会の方へ進んでいきました。
 学生会の前まで来ると、案の定建物には明りは灯っていませんでした。臣の宮は溜息を吐くと、帰ろうと学生会に背を向けました。

 「臣?!」

 背中に掛けられた声に、臣の宮はビクッと身を震わせました。忘れもしません、何時も学生会で『普通の会話』をしていた、英明の大将の声です。
 「こんな時間に、こんな所で何をしているっ!?」
 英明の大将は怒ったように言いました。
 いえ、英明の大将は、実際に怒っていました。
 明るいうちならいざ知らず、暗くなればこの辺りは人通りは殆どありません。臣の宮は身分の高い、本来なら外など気軽に歩くことなど出来ない箱入り息子です。ソレがおつきも付けずに、一人でこんな所に来るなど、まるで『襲ってください♪』とでも言っているのと同じです。

 ---(そんな奴がいたら、産まれて来た事を地獄で後悔させてやるっ!!)---

 英明の大将はらしくない事を心の中で呟きながら、自分がそんな事を考えたことに、愕然としてしまいました。別に臣の宮がどうなろうが、自分には関係が無い筈です。そうです、憎ったらしい臣の宮など、襲いたい奴は襲えば良いのです。先ほどまでは、そう思っていた筈です。
 しかし、そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、英明の大将はむかついてきました。
 そんな苛立ちを振り払うように、英明の大将は臣の宮に言いました。
 「道に迷うようなガキでもあるまいし、さっさと帰れっ!」
 臣の宮と一緒にいると、おかしな気分になってきます。英明の大将は横を向くと、一人で自宅へ帰ろうとしました。
 ですが、臣の宮はソコから動きません。このままでは本当に襲われかねません。英明の大将は足を止めると踵を返して臣の宮の腕を掴みました。
 「何をやっているんだっ!?」
 苛付いた口調で、腕を引いて臣の宮を歩かせようとした、英明の大将の眼に飛び込んできたのは、臣の宮の泣き顔でした。
 コレには英明の大将も、動きが止まってしまいました。
 ソレこそ今まで星の数ほど、男も女も鳴かせて来ましたが、実は英明の大将は泣かれるのは大嫌いです。ソレも訳が分からないことで泣かれるのは一番嫌いです。
 そんな英明の大将の腕を振り切り、臣の宮はまたぽろぽろと涙を零しました。

 「…責任を取って下さい…。」

 いきなり物凄いことを言われて、英明の大将は返す言葉が見つかりません。臣の宮は尚も言葉を続けました。
 「僕はこの所毎晩眠れません…。ソレに毎日がつまらなくて…仕事も手につかないし…パソコンをする気も起きないんです…。全部貴方の所為です…。責任を取って下さい…!!」
 英明の大将は、臣の宮が言っている事がやっと理解できました。そしてソレが、自分と全く同じ症状だと言うことに大変驚きましたが、そんな事は表には出さずに平静を装いました。
 「お前が勝手にそう思っているだけだろう、何処が俺の所為だっ!?」
 英明の大将の言葉に、臣の宮はもう我慢が出来なくなってしまいました。涙が溢れてきて止まりません。臣の宮はこれ以上泣き顔を見られまいと、顔を袖で覆うとその場を立ち去ろうとしました。
 しかし、いきなり英明の大将の腕で抱きしめられ、ソレは叶いません。オマケに覆っていた袖を解かれ、泣き顔を英明の大将に曝すことになってしまいました。
 こんなに近くで、英明の大将の顔を見るのは初めてです。見惚れるほど秀麗な顔は、何だか緊張しているようにも見え、その蒼黒の瞳の奥は怪しげな輝きが見え隠れしていました。
 そして英明の大将も、こんな間近で臣の宮を見るのは初めてでした。その上臣の宮は泣いている所為か、白い肌はやや紅潮し紫色の瞳は涙で潤み、英明の大将にキツイ台詞を言われたためか、顔には愁いを帯びた翳りがありました。ソレがまた、齧り付きたくなるほど色気があります。
 英明の大将がじっと見つめていると、臣の宮の紫色の瞳に溜った涙が、眼の下の泣きぼくろを伝わって落ちました。
 臣の宮と会わなくなってから、何故か他の男も女もつまらなく思え、暫く禁欲生活を送っていた英明の大将は、ソレを見た瞬間もう理性がプッツンしてしまい、臣の宮の唇を強引に奪いました。
 まさか英明の大将が、そんな事をするなんて思っても見なかった臣の宮はとても驚いたのですが、抗うこともせず、自分の腕を英明の大将の背に回しました。
 漸く唇が離れると、荒い息を整える間もなく、英明の大将は臣の宮を抱かかえて、そのまま回れ右をして、先ほど出てきたばかりの学生会の建物の中へ入っていきました。
 そしてそのまま二人は一晩中、学生会で過したのでした。


 和希天帝さまの御所では、行方不明になった臣の宮の安否を心配して、和希天帝さまが眠れぬ一夜を過しました。
 朝になって臣の宮を探しに行く、捜索隊が組織されている中、ぐったりと疲れ果てている臣の宮が、英明の大将に抱かかえられ帰ってきました。

 「…何の騒ぎですか…?」
 「冥界と戦でも始まるのか?」

 この騒ぎが臣の宮を探しに行くためなどとは、露ほども考えない自己中な二人は、呆れたようにその光景を見ていました。ソコへ和希天帝さまと、紘司の大臣が駆けつけます。
 「臣!今まで何処に行っていたんだっ!?」
 「英明さんと一緒でした♪」
 和希天帝さまがやつれた顔で尋ねると、臣の宮はしれっと答えました。紘司の大臣が英明の大将を問い詰めます。
 「英明!臣の宮がご無事だと、如何して報告しなかった!?」
 「報告しろと命を受けていなかった。」
 ふんっ、と鼻で笑うような口調に、紘司の大臣は絶句してしまいました。和希天帝さまの頭に、嫌な予感が過ぎります。
 「…お前たち…昨夜は一体……。」
 天帝さまが皆まで言わぬうちに、臣の宮はポッと頬を染めて、英明の大将の身体に身を摺り寄せました。英明の大将の薄い唇の端が嘲るように、微かに上がります。
 「…如何しても聞きたいと言うのなら、聞かせてやるが…?」
 「…英明さんっ!止めて下さい…恥しいじゃありませんか…。」
 そう言う割には、臣の宮は嬉しそうです。和希天帝さまが呆気に取られていると、臣の宮は父に向かって言いました。
 「あ、父上、僕は英明さんと結婚することにしましたので、僕のパソコンや服は、今日中に英明さんの家に運んでください。ソレを言いに来たんです。」
 「と、言うことだ、ソレと俺は今日から溜りに溜った有給を取る、一ヶ月は休むので、哲也に言っておいてくれ。」
 言葉も無い和希天帝さまと紘司の大臣に、好き勝手な事を言うと二人はそのまま帰ろうとしました。ところが、後ろからいきなり大きな声がしました。

 「何言ってやがる!俺も休むぞっ!お前ぇらばかり良い想いさせて堪るかっ!!」

 声のした方を振り向くと、哲也の大将と郁の宮がこちらに歩いてくるのが見えました。郁の宮は英明の大将と臣の宮の側によると、苦笑しながら言いました。
 「先を越されたな…。」
 「郁?」
 怪訝そうに呟く臣の宮に、郁の宮がチラリと隣の哲也の大将を見て、それから呆けている和希天帝さまに向かいました。

 「私もコイツ(哲也の大将)と結婚することにした。私の家具や本や服なども、今日中にコイツの家に運んでくれ。」

 「郁!?」
 「何だ哲也?いつの間にそんな事になっていたんだ?!」
 「お前ぇは、自分の事で頭一杯で、気がつかなかったろう?その間俺は、もう必死で郁ちゃんにアタックしてたんだぜ〜♪」
 「…調子に乗るなよ、私を大切に扱わないと、何時でも別れてやるからなっ!」
 「かおるちゃ〜ん、もう一生大切にするって…何百編言ったら信じてくれるんだ〜?!」
 「その言葉を信じて欲しければ、言葉だけではなく態度でも示せっ!分かったなっ!!」
 完全に尻に敷かれている哲也の大将を、憐みの篭った目で見つめながら、英明の大将は『まぁ、哲也が良ければそれでも良いか。』と、一人で納得しました。

 そして二組のらぶらぶで幸せなカップルは、突然の出来事に付いて行けず、精神がぶっ飛んでしまったままの者たちを残し、それぞれの新しい生活を始める為に帰って行きました。
 
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 結婚した二組のカップルは、また学生会で仕事をすることになりましたが、今まで仕事が溜りに溜っていたので、有給休暇が取れません。
 しかし、ソコは新婚のカップルの事、学生会の中で所構わずいちゃつきまわります。当然仕事は進みません。
 コレには流石に和希天帝さまも怒って、『やはり仕事をする場所は、別々にした方が良い!』、と、郁の宮と臣の宮を、会計部へ引き戻しました。その上天の川の橋を、ご自分がパソコンで操作しなければ降りない、コンピューター制御の跳ね橋にしてしまったのです。
 コレではおいそれと、橋を渡って会いに行けなくなってしまいました。
 当然この四人が怒らない筈はありません。何せ新婚旅行へ行く心算だった、有給休暇は却下され、その上可愛い妻や、優しい(?!)夫と引き離されてしまったのです。片時も離れたくない甘い蜜月を台無しにされたのです、いくら天帝さまと言えど、許せません。
 英明の大将と臣の宮は、天帝さまのサーバーに侵入し、怒りに任せて、ウィルスやトラップを仕掛けまくりました。
 郁の宮も、その情報収集の能力を生かし、天帝さまの弱点を探り出します。
 そして哲也の大将は、下克上まで計画する騒ぎです。
 コレには天帝さまもお手上げです。学生会と会計部は天の川の両端に位置したままですが、橋は常時架けられたままになりました。
 四人の怒りも何とか治まったようで、サーバーへの侵入や、不穏な動きもなくなり、やっと和希天帝さまはホッとしました。

 ところが、それから間もなく、和希天帝さまの身に、大変な事が起こりました。
 今まで立ち消えになっていた、和希天帝さまの思い人啓太の君が、由紀彦の中将と電撃結婚してしまったのです。
 聞けば、哲也の大将の下克上騒ぎの時、大将の講演会場で由紀彦の中将に見初められ、そして意気投合してしまったとの事でした。
 自分で蒔いた種とは言え、こんな結果なんてあんまりです。

 由紀彦の中将と啓太の君の結婚式の7月7日、天の川は和希天帝さまの流す涙で溢れんばかりに水かさが増したと言う事です。
 しかし、結婚したカップルたちは、毎日とてもラブラブで、何時までも幸せに暮らしました。


                              〜おしまい〜




     うう〜〜〜〜つ、突っ込みたかった!突っ込みどころ満載です
     しかし一応フリーですので、管理人の一人突っ込みは省きました
     何か機会があれば、突っ込み入りで載せたいです。
     その時はもう少し内容を面白くしたいです



                                          〜 BRONTES アイミ さま 〜



いずみんから一言。

万事ぐーたらな伊住はもらってきて自分が楽しんだら、つい作業を後回しにしてしまう。
おかげでこれが何でフリーだったのか忘れてしまっちゃってたりする。
それでなくてもアイミさまの方に足を向けて寝られないっていうのに……(滝汗)。
それはそうと「BRONTES」さまには他にも「ヘヴンな童話」があります。
「アイコン絵本」のシリーズも楽しいですよ♪


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