長かった梅雨も開け、夏の暑さが関西に急激にやって来ました。
 そんなある日、神戸市に隣接した某市のとあるカフェでは、今日も店主兼シェフ兼ウェイトレスの伊住真木さんが、とても忙しく働いておりました。




  Messenger--メッセンジャー--




 伊住さんのカフェ、『Izmic Cafe』は、今年の5月に一周年を迎えました。オープンする以前、某店にて修行をしていた伊住さんのお店には、独立してからも以前のお店からのお客様が、沢山来てくれました。
 そして一年目にして、ご来店してくださったお客さまの数が、何と40,000人を超え、その上開店一周年のお祝いをしてから僅か二ヵ月後に、50,000人を超えました。
 伊住さんは、いつもご贔屓にしてくれるお客様から、お祝いの言葉を貰い、嬉しくて特別メニューを出したりしました。
 ソレは勿論、何時ものお客様にも、初めてのお客様にも感謝の気持ちを込めてです。
 伊住さんの気持ちが通じたのか、今日もお客さまの入りは上々です。忙しいお昼の時間帯も過ぎ、やっと一息吐いた所に、『カラン♪』と来客を告げるベルの音が低く鳴りました。

 「いらっしゃいませぇ♪」

 ご挨拶は明るく、爽やかに、笑顔で、が接客業の基本です。伊住さんは入って来たお客さまを見るなり、ますます笑顔になりました。
 ソレもその筈です、今入って来たお客様は、伊住さんの良く知っている馴染みの方だったからです。
 ベルリバティ学園の学生会副会長、中嶋英明氏。
 この一見高校生には見えない、とても見目麗しい青年は、性格には多少(大分!)難有りですが、伊住さんがとても気に入っているお客様の一人です。
 どれ位気に入っているかと言うと、メニューのお品書きに『NAKAJIMA’s Black Coffee』と入れてしまう位気に入っています。
 そんな彼が来てくれたのですから、笑顔も全開200%になるのは当たり前でした。
 ところが、伊住さんの笑顔が少し曇りました。何だか中嶋氏の様子が何時もと違います。
 何時もの彼なら、澱みの無い真直ぐな足取りで、いつも座っている席か、ソコに先客がいればその近くの席かに向かうのに、今日の中嶋氏はゆっくりとした足取りで、店内を軽く見渡して伊住さんのほうに向かってきます。
 一周年は過ぎましたが、ギャラリーを設えたぐらいで、目立った改装はしていません。今更見回す所など無い筈です。ソレに、考えてみれば中嶋氏が一人で来店するのも、珍しいことでした。
 伊住さんが中嶋氏を見ていると、中嶋氏はソレに気付いたのか、少し歩を速めて伊住さんの正面に立ちました。
 間近で見ると、ますます良い男です。
 今日も隙の無い装いをしています。上に着ている麻のブルーグレイのジャケットは、コレ一枚で、伊住さんのお店の一番高い珈琲を100杯以上飲めるに違いありません。
 そんな事を考えていると、不意に中嶋氏が口を開きました。
 「おい。」
 「はい?」

 「お前が伊住真木か?」

 「はぁ!?」

 当たり前の事を突然聞かれて、伊住さんは思わず聞き返してしまいました。



 伊住さんは戸惑っていました。
 何故中嶋氏は自分にそんな事を聞くのでしょう。中嶋氏はこの『Izmic Cafe』がオープンする前からのお知り合いです。ソレなのに今更名前を聞かれるなんて、伊住さんは中嶋氏を見つめたまま、しばしボー然としてしまいました。
 もしかして、中嶋氏は記憶障害か、若年性の健忘症か痴呆症になってしまったのでしょうか。伊住さんがそんな事を考えていると、また中嶋氏の後ろにある店のドアが『カラン♪』と来客を告げました。
 パニックになり掛けた伊住さんでしたが、ソコはソレ、客商売です。ご挨拶は明るく、爽やかに、笑顔で、の基本通り、パッと笑顔で中嶋氏の影から少し身体をずらして、今来たお客様に声をかけました。

 「いらっしゃいま・・・・・!?」

 伊住さんの笑顔が凍り付きました。
 ソコにはなんと、ベルリバティ学園会計部補佐の七条臣さんが、大きな花束を抱えて立っていたのです。七条さんは真直ぐ伊住さんのほうへ向かってきます。伊住さんは思わず後退さりそうになりました。

 中嶋英明氏と七条臣さんは、とてもとてもとてもとぉ〜〜〜〜〜〜〜っても仲が良くありません。
 ソレは伊住さんの店ばかりではなく、他所のお店でも同じです。二人が同じ場所にいると、必ず口喧嘩が始まりました。
 本人たちは、『普通の会話』をしていると言うのですが、聞いている周りの人たちには二人の会話は罵り合いにしか聞こえませんし、それを聞いているよりも、はっきり言って掴み合いの喧嘩の方がマシなくらいです。
 ただ、伊住さんは七条さんが嫌いな訳ではありません。むしろ中嶋氏と同じ位気に入っているといった方が良いでしょう。
 ソレはメニューの中に『SHICHIJYO’s Royal Milk Tea』と入れてしまった事でも伺えました。
 笑顔がとても胡散臭くてステキな七条さんは、お父さんがフランス人だと言うことでハーフです。銀色の髪と紫色の瞳の色白で綺麗な青年です。時々黒い羽や尻尾が見えるし、性格はやはり多少(大分!)難は有りましたが、パソコンがとってもお得意で、伊住さんも時々教わったりしていました。
 中嶋氏も七条さんも、それぞれ単独ならば何も問題が無い(?!)のです。二人とも見目麗しい、伊住さん好みの青年たちなのですから。
 ですが二人一緒だと、はっきり言って絶対に同席したくはありません。ソレに、もしかすると、お店のお客さんまで減ってしまうかもしれません。
 伊住さんは、眼の前の中嶋氏と、近付いてくる七条さんを固唾を飲んで見つめながら、信じてもいない神様に、心の中で思わず十字を切りました。

 七条さんが中嶋氏の隣に立ちました。二人がチラリと目配せをします。
 ---(二人とも・・・、ココで『普通の会話』はせんといてぇ〜〜〜〜〜!!)---
 声にならない叫びを上げた伊住さんでしたが、七条さんから出た台詞に、頭の中が真っ白になってしまいました。

 「この方が伊住真木さんですか?」

 伊住さんはもう聞き返すことも出来ませんでした。



++++++++++++++++++++



 「…ココはオーナーが一人で切り盛りをしていると聞いているから、多分そうなんじゃないのか?」
 「伺っていないんですか?」
 「伺うも何も、俺も今着いたところだ。」
 「人に花束を買わせて、一人で先に行ってしまった割には、随分とごゆっくりだったんですね。」
 「お前に合わせてやったんだろう?俺の優しさが分からんのか?!」
 「貴方に優しさなんてあるとは思えませんね。」

 伊住さんの眼の前で二人の会話が始まります。しかし、何だか二人の雰囲気が違います。いつもなら、二人の話が始まった瞬間に、周りは北極圏にワープしてしまうのに、今日は違いました。クーラーが程よく効いている筈なのに、もやもやと怪しい雰囲気が漂っています。
 ソレに会話の内容はともかく、伊住さんは七条さんの最初の台詞にも焦っていました。
 中嶋氏ばかりでなく、七条さんまでおかしくなってしまったのでしょうか。
 ---(ベルリバティ学園で、海野先生がおかしなウィルスを間違ってばら撒いてしまったのでは…。)---
 伊住さんは伝染ったら如何しようと、思わず身体を少し後に反らしました。

 その伊住さんの前に、七条さんが抱えていた花束を差し出しました。

 「来客5万人突破、おめでとうございます♪」
 「ウチの『生××(ぴー♪)』からだ、受け取れ。」

 中嶋氏と七条さんの言葉に、伊住さんは驚きました。差し出された花束を受け取りながら、二人に慌てて聞き返しました。
 「あ、あの?…え〜と…?????」
 「俺たちはお前が知っている中嶋英明と七条臣では無い。」
 中嶋氏の言葉はますます伊住さんを混乱させます。七条さんが苦笑しながら説明します。
 「僕たちは、そう…言って見れば『パラレルワールド』のような所から来たんです。貴方の良く知っている、ウチの
『×ゴ×(ぴー♪)』から土下座して頼まれたので…。」
 「…自分が行くよりも、俺たちが行った方が絶対に喜ぶと言われたのでな。まぁ、あんなのが来るよりは、俺たちが来た方が確かに良い事は間違いない。」
 「下手をすると、せっかくのお店が、潰れてしまうかもしれませんからね♪」
 中嶋氏がくっと咽喉を鳴らし、七条さんはとても胡散臭い笑みを浮かべてクスクスと笑います。伊住さんは呆気に取られて二人の話を聞いていましたが、やがておずおずと尋ねました。
 「も、申し訳ありませんが…、もう一度贈り主の方のお名前を教えて下さいませんか?」

 「『××ミ(ぴー♪)』だ!」

 中嶋氏が憮然として答えます。伊住さんの顔が引き攣りそうになりました。
 「飲食店でこれ以上言うと、そのお店の品位が下がりますよ。伏字にしておいた方が無難です。」
 にっこりと(胡散臭く)笑う七条さんの言葉に、伊住さんはただ曖昧に微笑むしか出来ません。確かにカフェ内では、あまり声を大にしては言いたくない用語です。尤もソレは、この二人が勝手にそう呼んでいるだけであって、普通に呼べば伏字にする必要は無いのですが。
 ---(・・・苦労しとるんやろなぁ・・・。)---
 眼の前の二人を見て、優しい伊住さんは、思わず花束の贈り主に哀れみの情を持ちました。



 「では、確かに渡したぞ。」
 「お一人で大変でしょうが、これからも頑張って下さいね♪」
 そう言って踵を返そうとした二人を、伊住さんは我に返って慌てて止めました。
 「待って下さいっ!!もうお帰りですか?!」

 「ココは俺たちのテリトリーじゃない。あまり長居は出来ない。」
 「こちらの僕たちと鉢合わせしてしまったら、ソレこそ大変ですから。…終止がつかなくなってしまうでしょう?」
 「それに…。」
 中嶋氏が七条さんの腰に手を掛けてくいっと引き寄せます。伊住さんは思わず息を呑みました。
 「ココじゃ、こんな事は不味いだろう?」
 口の端を僅かに上げる中嶋氏から離れもせずに、七条さんは苦笑します。
 「ココだけじゃないでしょう?何処でも不味いですよ。公共の場でおいたをしてはいけません。」
 自分の腰に置かれた手を、七条さんは軽く抓りました。
 「公共の場でなければ、ナニをしても良いのか?」
 「そう言う問題ではありません!」
 口ではそう言いながらも、七条さんは怒ってはいません。それどころか七条さんは、中嶋氏の頬をいきなり『むにゅ〜♪』っと摘みました。

 ---(!!げっ!?)---

 伊住さんは心の中で叫び声を上げ、持っていた花束を危うく落としそうになってしまいました。ありえない光景に目が点になり、声も出ません。
 そんな伊住さんに気が付いたのか、中嶋氏が苦笑しながら七条さんの手を外し、外に出るよう促します。七条さんは軽く会釈をすると、中嶋氏と一緒に歩き出しました。

 ですがココで二人を帰してしまう訳にはいきません。伊住さんはまた我に返ると、花束を近くのテーブルに置き、二人の服の端を慌てて掴みました。
 「お、お願いします!せめて珈琲くらいは召し上がっていって下さいっ!!」
 せっかく来てくれたのにコレでお別れなんて、そんな勿体無い事は腐女子の名折れです。こんな仲の良い(?)新鮮な中嶋氏と七条さんなんて、これから先見られるかどうか分からないのです。

 -----『怖いもの見たさ。』-----

 伊住さんの心境はまさにソレでした。
 必死で止める伊住さんに、中嶋氏と七条さんは顔を見合わせると、歩みを止めました。
 「珈琲は種類があるのか?まさかブレンドとアメリカンだけなんて事は無いんだろうな?」
 「勿論です!ブルマン、モカ、マンデリン、コロンビア、キリマンなどなど、各種取り揃えておりますっ!!」
 「…珈琲だけですか…?」
 「紅茶もあります!ダージリン、セイロン、アッサム、オレンジペコ、スリランカ…、ソレとフレーバーティーやハーブティーもあります!ついでに言いますと、ケーキセットがオススメですっ!!」
 「ケーキは何がありますか?」
 「今日はシフォンケーキが良く出ていますが?」
 「シフォンケーキですか…、シンプルで良いですねぇ♪」
 七条さんがふっと小さな溜息をつきます。もう一押しです、伊住さんは駄目押しとばかりに、七条さんに言いました。
 「メロンのフルーツパフェなどは如何でしょうか?季節モノですっ!!」
 「メロンのフルーツパフェ…。」
 うっとりとしている七条さんを見て、中嶋氏が苦笑しました。
 「…流石にコレの嗜好を良く知っているようだな…。」
 「ええ…まぁ、ソレはソレなりに…。」
 伊住さんはとっておきの笑顔で、二人をカフェで一番場所が良い席に促しました。当然ですが喫煙席です。
 テーブルを拭き直し顔を上げると、良い男が二人伊住さんの方へ歩いてきます。

 ---(今日は最っ高にええ日や〜〜〜〜〜っ♪!!)---

 心の中でガッツポーズを取りながら、伊住さんは200%全開の笑顔で二人に椅子を引きました。



 「とりあえず、メニューを見せてもらおうか。」
 「はい、只今♪」
 花束をカウンターの裏に置き、伊住さんはおしぼりとお冷とメニューを持って、いそいそと二人の傍に寄りました。
 「シフォンケーキは、どんなものですか?」
 メニューを受け取りながら、七条さんが伊住さんに尋ねます。煙草を取り出しながら、中嶋氏は怪訝そうな顔をしました。
 「シフォンケーキはシフォンケーキだろう?」
 「いいえ、一応何種類かフレーバーがあるんです。メープルとかチョコレートとかレモンとかバニラとか…。」
 「大して変わらん!」
 「全然違います!!」
 「きょ、今日のシフォンケーキはレモンですっ!!」
 険悪な雰囲気になりそうな二人に、伊住さんが慌てて横から言いました。
 「では、濃い目のストレートティーが良いでしょうか…。何にしましょうかねぇ♪」
 七条さんの口調がコロッと変わります。見れば中嶋氏も平然としている様子で、どうやらコレは二人のコミュニケーションのようです。
 『普通の会話』しか見た事が無い伊住さんには、今一そこら辺が分かりません。
 引き止めてしまってちょっと早まったかもなどと、伊住さんが早くも後悔をし始めた時、中嶋氏がいきなり伊住さんに尋ねました。
 「おい、コレは俺がやったのか?」
 見ると中嶋氏がメニューを指差して苦笑しています。何の事か分からず、伊住さんは中嶋氏の横から彼が持っているメニューを覗き込みました。

 「げっ!!」

 伊住さんの口から声が漏れます。ソレもその筈です、中嶋氏が持っているメニューの一部(正確には『SHICHIJYO’s Royal Milk Tea』の文字)が、マジックで真っ黒に塗りつぶされていたのです。オマケにご丁寧に、その上に『犬・下僕』と大きく書き足されていました。
 伊住さんの顔から血の気が引いていきます。そして七条さんもメニューを見ながら、胡散臭い笑みを浮かべて言いました。
 「僕の方にも訂正がしてありますねぇ…。コレは僕の字のようですね♪」
 伊住さんがクスクスと笑う七条さんの後に廻ります。彼の見ているメニューは中嶋氏とは反対に『NAKAJIMA’s Black Coffee』の部分がぐしゃぐしゃに塗りつぶされ、上にはやはり『人でなし・鬼』と書かれていました。
 伊住さんはなんと言って良いのか分かりません、頭の中が真っ白になりかけてしまいました。
 すると中嶋氏が放心している伊住さんに言いました。
 「マジックはあるか?」
 ソレがどんな意味を持つか、思考が働くなってしまった伊住さんには分かりません。マジックを渡すと中嶋氏は何やらメニューに書き加え、ソレを閉じるとメニューの表紙に『中嶋英明専用』と書きました。そして中嶋氏は当然のように七条さんにマジックを差し出し、同じく七条さんは当然のようにそれを受け取ります。
 七条さんの横に廻って、ナニを書くか見ていましたが、どうやらフランス語で書いているようで、伊住さんには今一意味が分かりませんでした。
 七条さんはさらさらと単語を書くとメニューを閉じ、やはり表紙に『七条臣専用』と書きました。
 「今度俺が来たら、コレを見せろ。ソレと珈琲はマンデリンだ。」
 「僕も僕が来たら、これを渡してください。ケーキセットをお願いします。紅茶はそうですね…やはりオーソドックスにダージリンで…。あと、フルーツパフェも良いですか?」
 伊住さんは戻されたメニューを開きたくなりましたが、中嶋氏と七条さんに『見るな』と釘をさされてしまい、他のメニューとは別にして、カウンターの奥に大事にしまいました。勿論二人が帰ったらコッソリと見る心算です。
 ほくそ笑む伊住さんには、中嶋氏と七条さんが、こちらの中嶋氏と七条さんに怒っている事など、まるっきり気付きませんでした。



++++++++++++++++++++



 「今ケーキをお持ちします。」
 七条さんの前にティーポットとティーカップ、そして砂時計を置きながら伊住さんが言いました。
 するといきなり中嶋氏が口の端に意地の悪い笑みを浮かべます。
 「あぁ、そうだ、ケーキの生クリームは多めにかけやってくれ。」
 七条さんの顔に思いっきり胡散臭い笑みが浮かびます。
 「普通で結構です。」
 「遠慮するな、生クリームが好きなんだろう?」
 くっくっと咽喉を鳴らす中嶋氏に、七条さんの背中に『にょ♪』っと黒い羽根が生えました。
 「一体何時の話をしているんです?!そんな昔の話なんて、誰も知りませんよ!」
 「いや、ココの店主は知っている筈だ、何せ元ネタの提供者だ。」
 「へぇ…そうだったんですか…。」
 七条さんがチラリと伊住さんに視線を向けました。『生クリーム』の言葉に反応して、頬を少し染めていた伊住さんは、七条さんから目を反らし、『ケ、ケーキをお持ちします!』とカウンターへ走りました。

 しかし如何したものでしょう。カウンターの影の眼の前のシフォンケーキを見ながら、伊住さんは考え込んでしまいました。
 何時もならコレにゆるく溶いた生クリームをかけるのですが、中嶋氏のご要望通りたっぷりかけたら、七条さんのあの紫色の瞳で冷たく睨まれてしまうでしょう。しかし、普通にかければ、今度は中嶋氏に『お仕置き』されてしまうかもしれません。
 『お仕置き』自体には興味は津々ですが、ソレはあくまで我が身に降り掛からない場合です。自分で食らうのはゴメンです。
 悩んだ末、伊住さんはシフォンケーキと生クリームの入った器を一緒にテーブルに置きました。
 「お好きなだけ、おかけ下さい♪」
 この場合、丸投げが一番的確です。後は勝手に生クリームのかけっこをしてもらえば良いのです。我ながら良い考えだと、伊住さんはホッと胸を撫で下ろしました。



 中嶋氏に珈琲を運び、一息ついた伊住さんは改めて二人を眺めました。
 二人とも本当に良い男です。
 そして、中嶋氏と七条さんが同じテーブルに着き、和やか(?!)に話しているなんて物凄く新鮮です。滅多に見られない絶滅寸前の珍獣を見ているようです。
 ソレにそこはかとなく漂う怪しい雰囲気に、伊住さんは小さな溜息を吐きながら、二人の様子を伺っていました。

 その時『カラン♪』と来客を告げる音がしました。
 二人をずっと見ていたいのですが、自分以外に従業員はいないので、お客様が来れば応対しなくてはなりません。ソコが客商売の辛い所です。

 ---(今日はもう、店終いしよか…。)---

 そう思いながらも、伊住さんは明るく挨拶をしました。
 「いらっしゃいませぇ♪」
 伊住さんの目に、また見慣れた人物の姿が飛び込んできました。
 伊藤啓太クン。彼も伊住さんのお気に入りの一人です。
 元気印一杯の啓太クンは、(誰かさんたちとは違って)性格の良いとても素直な良い子です。伊住さんは笑顔で啓太クンを迎えようとして、はたと気が付きました。
 今、伊住さんの背後には、啓太クンには信じられないような光景(ただ、仲良くお茶しているだけ)が繰り広げられています。コレはちょっと不味いです。説明しても、啓太クンに理解してもらえるかどうか分かりませんし、ショックを受けることは確実です。
 伊住さんは後ろを気にしながら、啓太クンの傍に寄りました。
 「け、啓太クンいらっしゃい…。」
 背後の二人を自分の身体で遮りながら、伊住さんが曖昧に笑うと、啓太クンは照れた様に言いました。

 「え〜と、初めまして、伊藤啓太です。伊住真木さんですよね?『管理人』さんがいつもお世話になっています。」

 ぺこりと礼儀正しく頭を下げる啓太クンに、伊住さんは一瞬呆けてしまいましたが、次の瞬間には全てを理解しました。そうです、今目の前にいる啓太クンも、後ろにいる中嶋氏と七条さんのいる所から来た『伊藤啓太』クンだったのです。
 伊住さんはホッとしました。これならば別に、後を気にする必要はありません。その上、可愛い啓太クンまで来てくれて、伊住さんはご満悦です。
 「あの、中嶋さんと七条さんが来ている筈なんですが…。」
 「えぇ、お見えになってますよ〜♪啓太クンまで来てくれて凄く嬉しいです。どうもありがとう♪」
 きょろきょろと店の中を見渡す啓太クンに、伊住さんは身体を横に移動し二人が座っている場所へ、啓太クンを案内しようとしました。
 すると啓太クンが、伊住さんを引き止めます。
 怪訝そうな顔をする伊住さんに、啓太クンがこそっと尋ねました。
 「あの〜、中嶋さんと七条さん、…ご迷惑を掛けていませんか…?」

 『管理人さんが心配しちゃってて…。』と言う啓太クンに、
 ---(アンタ『お仕置き』されたいんか!?)---
と思いながらも優しい伊住さんはにっこりと笑って『いいえ〜、そんな事ありませんよ♪』と答えます。
 しかしその笑みは、数歩目には凍り付いてしまいました。

 ピークを過ぎたとは言え、繁盛している伊住さんのカフェには、常時数名のお客様がいます。そのお客さまの視線が、全てある1点に集中していました。
 ある1点とは勿論中嶋氏と七条さんのテーブルです。
 いつの間にやら密接して座っていた中嶋氏と七条さん。一体ナニをしているのかと見れば、何と七条さんが中嶋氏の人差し指を咥えてむにゅむにゅ舐めているでは在りませんか。
 周りにいるお客様の中には、堅気の人もいるというのに、もやもやとした妖し気な雰囲気を振り撒きながらのいきなりの羞恥プレイに、伊住さんは言葉を失ってしまいました。
 自分だけなら問題は在りません。しかしココは街中のカフェですし、しかも真昼間です。こんな美味しい…あ、いや怪しい光景は、見たい事は見たいのですが刺激が強すぎます。
 しかし、せっかく来てくれた中嶋氏と七条さんに、何と言って止めさせたら良いのか、伊住さんは困ってしまいました。
 すると、伊住さんの隣にいた啓太クンが、スッと中嶋氏と七条さんに近付きました。

 「中嶋さん、七条さん!何ですか?!帰りが遅いと思ったら、二人でお茶なんかして〜!しかもケーキまで食べてるなんて…ずるいですぅ〜〜〜〜!!!」

 止めてくれるのか、と思っていた伊住さんは、啓太クンの言葉を聞いて目眩がしそうになりました。
 ---(突っ込むべきトコは、ソコやないやろ〜〜〜〜〜っ!?)---
 心の中でそう叫んだ伊住さんの思いは、能天気な啓太クンには全然届いてはいないようです。

 「何だ啓太?お前まで来たのか。」
 中嶋氏と七条さんが、見詰め合っていた視線を外し、七条さんは中嶋氏の指を口から離しました。
 「如何したんです?何か急用ですか?」
 「いえ、急用では無いんですけど…あまり長居をすると伊住さんにご迷惑だから、早めに帰って来てくださいって、伝言です。」
 「迷惑だと!?」
 中嶋氏が眼鏡の縁をクイッと指で押し上げ、鼻で笑いながら言いました。
 「どの面を下げて言っているんだ?あの馬鹿は!?」
 「あの人は存在自体が世の中に迷惑をかけていることに、全然気付いていませんね。」
 七条さんも思いっきり胡散臭い笑みを浮かべて言い放ちます。その台詞を聞きながら、伊住さんは花束の贈り主に同情しました。
 「でも、二人とも思いっ切り寛いでませんか?お茶なんかしてるし〜…。」
 啓太クンがしゃがみ込んで、テーブルの端を掴んで顔だけ上に出しました。まるで見捨てられた子犬のようです。
 「コレは店主の好意だ。」
 中嶋氏がクイッと顎で伊住さんを指します。
 「せっかくのご好意を無碍にすることは出来ませんので、こうしてご馳走になっているんです。」
 七条さんがシフォンケーキを口に運びます。お預けをくらった子犬、じゃ無くて啓太クンは七条さんの食べてる姿をじっと見つめました。
 可愛い啓太クンのいじましい(意地汚い)姿に、伊住さんは溜らず声を掛けました。
 「あの〜、宜しければ、啓太クンも如何ですか?」

 「えっ♪!?良いんですか♪?!」

 振り返った啓太クンの全開200%の眩しい笑顔に、伊住さんは目を覆ってしまいました。



 「そう言えば、中嶋さんと七条さんは、さっきナニをしてたんですか?」
 伊住さんが運んできてくれたケーキをはむはむと食べながら、啓太クンが中嶋氏と七条さんに尋ねます。ナニを今更と言った感じです。
 中嶋氏と七条さんは、一瞬怪訝そうな顔をしましたが、直ぐに苦笑しながら言いました。
 「コレですよ。」
 七条さんが生クリームを指差しました。今度は啓太クンが怪訝そうな顔をします。すると中嶋氏が、生クリームを人差し指で一掬いし、ソレを七条さんの口の近くまで寄せます。七条さんがクスリと笑って、その指をぱくりと咥えました。
 一瞬その場に居合わせた半数以上が、ゴクリと生唾を飲みました。中には顔を赤くしている人もいます。しかし、当事者たちは飄々としたものです。
 「な〜んだ、生クリームですか?」
 啓太クンの頭にくるほど思いっきり明るい声に、伊住さんはもう疲れてきました。

 「啓太も生クリームが好きか?」
 「はい♪大好きです♪」
 「啓太クン、たくさんかけて良いですよ。」
 「俺がかけてやろうか?」
 「え〜、中嶋さんがですか?良いんですか?すいません。あ、もっと一杯かけてください。」
 「啓太クン、美味しいですか?」
 「はい♪生クリームが一杯かかっていて凄く美味しいです♪」
 「僕も啓太クンにかけてあげましょう。」
 「ええっ?な、何だか今日はお二人とも凄く優しいです…。俺、感激しちゃいます♪」
 「臣、構わんから残さず全部ぶちまけてやれ。」
 「そうですね。良いですか啓太クン、全部かけちゃいますよ。」
 「あ〜、そんなに一度にダメです、溢れちゃいますぅ〜〜〜〜。」

 コレを羞恥プレイと言わずして、何と言うのでしょう。しかも、当の本人たちは平然としているのに、周りが恥しくなる羞恥プレイをする所は、流石は恥知らずの鬼畜と悪魔のバカップルです。伊住さんは中嶋氏と七条さんを引き止めた事を、完全に後悔していました。



 周囲を巻き込んだ羞恥プレイはやっと終わったようで、啓太クンがアイスティーを飲み干し満足気な顔で立ち上がりました。
 「スイマセンが、俺、まだ夏休みの課題もあるし、先に帰ります。」
 「何だ?まだ終わっていないのか?あんなモノは夏休みに入る前に終わらせるものだ。」
 中嶋氏が無茶苦茶な事を言うと、七条さんがクスクスと笑いながら言います。
 「英明さん、夏休みに入る前に終わらせるのは、夏休みの課題とは言えないんじゃありませんか?あ、でも僕は三日で終わりましたが。」
 啓太クンは引き攣ったように笑っていましたが、やがてほっと息をつきます。
 「じゃあ俺帰りますね。『管理人』さんには中嶋さんも七条さんも、とても礼儀正しくしていましたと報告しておきます。」
 「ふん、当たり前だ!」
 「僕達は何時も何処でも、場所柄を弁えて行動してますから。」
 「余計な心配はするなと言っておけ!」
 中嶋氏と七条さんの台詞に、一瞬明後日の方を向いた啓太クンでしたが、二人に軽く会釈をすると、伊住さんに向かいました。
 「伊住さん、どうもご馳走様でした。あの…、これからも頑張って下さい♪」
 ぺこりと頭を下げる啓太クンを見ながら、伊住さんは心の隅で『出来ればあの二人も連れて帰ってくれっ!!』と思いながらも、丁寧にお礼を言いました。
 そして、元気印の啓太クンは、来た時と同じように元気一杯に帰っていきました。

 啓太クンを見送った伊住さんに、オーダーが入ります。中嶋氏です。
 「珈琲のおかわりだ。同じもので良い。」
 「それと、フルーツパフェはまだですか?」
 七条さんがにっこりと笑います。
 場所柄を弁えた、礼儀正しい二人に、伊住さんはもうにっこりと笑い返すしか出来ませんでした。



++++++++++++++++++++



 フルーツパフェを前にして、七条さんはとてもご満悦です。流石に好物を食べている時は、おかしな言動は無いようです。伊住さんはホッと胸を撫で下ろしました。
 カウンター越しに遠巻きに二人の様子を眺めます。こうして見ているだけなら完璧な二人です。ソレなのに、何ゆえあんなに恥しい事になってしまうのか、伊住さんは不思議で堪りません。
 半分以上食べ終わったフルーツパフェを見つめながら、伊住さんは
 ---(やっぱ、性格が悪いからやろなぁ…。)---
と、改めて納得してしまいました。

 その時、また『カラン♪』と来客を告げる音がします。今日は千客万来です。
 伊住さんが物憂げに顔を上げると、ソコにはまた啓太クンが立っていました。
 忘れ物でもしたのでしょうか、それともまた何かあったのでしょうか。伊住さんはカウンターから出て、啓太クンが近付いてくるのを待ちました。
 「啓太クン、忘れ物ですか?」
 伊住さんが啓太クンに尋ねると、啓太クンは不思議そうな顔で答えました。
 「?忘れ物って?別に何も忘れてないですよ?俺、夏休みの課題が終わんなくて煮詰まっちゃって、ちょっと気分転換に来たんです。」
 その言葉を聞いて伊住さんはハッとしました。そうです、ココにいるのはこちらの啓太クンです。つまりは、今後ろにいる『あの方』の恋人の啓太クンなのです。
 伊住さんは咄嗟の事に、如何したらよいのか焦ってしまいました。
 そしてそんな伊住さんの気持ちも知らず、啓太クンはますます不思議そうな顔で伊住さんを見ながら、奥の方へ歩いていきます。パニックに陥っていたため、伊住さんの対応が少し遅れました。
 啓太クンを引き止めようとした伊住さんが、その腕を掴んだ時には、もう啓太クンは眼の前の光景に固まっていました。いえ、啓太クンだけではありません、伊住さんも完全に思考が停止していました。
 二人の眼の前では、またもやこちらでは信じられない光景が繰り広げられていたからです。

 フルーツパフェを食べていた七条さんですが、もう残り少ないのか、グラスの底を柄の長いスプーンで掬い上げるように取り出しています。
 しかし、せっかく取り出したパフェを自分では食べずに、七条さんは中嶋氏に差し出します。しかも、胡散臭い微笑みつきでです。
 甘いものが嫌いな中嶋氏が、口を開く筈はありません。コレは何処の世界でも同じことでしょう。問題はソコでは無いのですから。
 事情を知っている伊住さんはともかく、啓太クンには、先ず中嶋氏と七条さんが同じテーブルに着いている、と言う事が大問題です。そして二人が、周囲を北極圏にしていないと言う事も、世界の七不思議です。
 ですが、何よりも、普段『学園始まって以来の最大の犬猿の仲』、と呼ばれている中嶋氏と七条さんの周囲を取り囲んでいる、禍々しいと言うか毒々しいと言うかおぞましいと言うか、この何とも形容のし難い異様な雰囲気はまるで貴方の知らない世界です。
 固まった伊住さんと啓太クン(ついでに周りにいるお客様)にはまるで眼もくれず、中嶋氏と七条さんは二人だけの世界を形成していました。

 七条さんがスッとスプーンを中嶋氏に近付けます。

 ---((食うのか!?))---

 伊住さんと啓太クンが、同時に心の中で叫びます。中嶋氏がむすっとした顔で言いました。
 「何度言ったら分かるんだ!?俺は甘いものは食わん!」
 「コレはナタデ・ココです。甘くありません。」
 伊住さんはハッとしました。融けかかったアイスクリームの中に、四角い物体が見て取れます。ソレは確かに、パフェの中に入っているナタデ・ココのようです。
 「ちょっと歯ごたえがあって、面白い食感なんですよ♪」
 またもや七条さんはスプーンを近付けました。
 「周りにアイスが付いている!!」
 パフェの中に入っていたのですから、ソレは当たり前の事でした。すると七条さんはにっこりと(とても胡散臭く)笑って『では、コレなら如何ですか?』と言いながら、いきなりナタデ・ココを自分で食べました。
 いえ、正確には食べたのではありません、口に含んだのです。
 七条さんは微かに口を動かすと、やがてその唇に、アイスクリームを綺麗に舐め取ったナタデ・ココを、口腔から戻しました。
 中嶋氏の口の端が僅かに上がります。長い綺麗な指が、七条さんの顎を捉えました。
 全員が固唾を呑みます。
 二人の唇が急接近したその瞬間、悲鳴のような声が上がりました。

 「や、や、や・・・止めて下さいぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

 ソレは伊住さんの隣で固まっていた、啓太クンの声でした。



 いきなりの声に中嶋氏と七条さんは、羞恥プレイを中断して声のした方を振り向きました。ソコには、大きな瞳に涙を溜めた啓太クンが、顔面蒼白で突っ立っていました。
 良い所(?!)で邪魔をされた中嶋氏と七条さんは、内心かなりご立腹でしたが、直ぐにその啓太クンがこちらの啓太クンだと気が付きました。鬼畜と悪魔の顔に、共犯者の笑みが浮かびます。
 荒い息をして言葉が上手く出てこない啓太クンに、中嶋氏が尋ねます。
 「何だ啓太、何か用か?」
 それでも啓太クンは上手く喋れません。伊住さんが慌てて説明しようとしましたが、啓太クンはそんな伊住さんを振り切るように、声を絞り出します。

 「・・・ふ・二人・・とも・・・何時・・・・から・・・・・?!」

 その言葉が終わるか終わらないかの内に、七条さんがスッと立ち上がって、いきなり中嶋氏の膝の上に座ります。啓太クンはまたもや言葉を失ってしまいました。

 「啓太クンすいません。僕達は貴方が転校して来る前から、こんな仲なんですよ♪」
 中嶋氏の膝の上に、お姫様抱っこのように横向きに座った七条さんが、中嶋氏の首に腕を回しながら、すまなそうに啓太クンに告げます。そしてその七条さんの腰を、中嶋氏が抱き寄せます。
 「そう言う訳だ、悪かったな啓太。」
 全然悪びれもせず、中嶋氏が言いました。
 そして、啓太クンの眼の前で、二人はいきなり唇を合わせました。

 漸く唇が離れると、中嶋氏が微かに口を動かします。
 「何だコレは?」
 「ですから、ナタデ・ココです♪甘くないでしょう?」
 「いや、甘いな。お前の唇が甘い。」
 中嶋氏がくっと咽喉を鳴らすと、七条さんがクスリと笑います。
 「甘いキスは嫌いですか?」
 「相手にもよるな。」
 「憎たらしい人ですねぇ♪」

 またもや羞恥プレイを突っ走る二人に、もはや誰も何も言いません。そしてそれを目の当たりにした啓太クンは、ふらふらと二人に背を向けました。
 羞恥プレイに思わず見入ってしまった伊住さんは、啓太クンの様子に気付き、今説明しなければ終止が付かなくなると、後を追いましたが、啓太クンは、

 「お、俺、…やっぱり弄ばれてたんだ〜〜〜〜〜〜っ!!!」

と、泣き喚きながら走り去ってしまいました。
 呆然とする伊住さんの背中に、中嶋氏と七条さんの声が聞こえてきます。
 「何処でも啓太は啓太だな。あの思い込みが激しい所と、早とちりは問題だ。」
 「そうですね、でも、ソコが啓太クンの短所でもあり長所でもありますから。」
 「まぁ、揶揄いがいがあって、退屈はしないがな。」
 「後輩を苛めて、酷い人ですねぇ。」
 「ふん、お前に言われたくは無いぞ。」
 「僕は苛めてなんかいませんよ♪ちゃんと可愛がっています♪」
 「『餌付け』でか?」
 「人聞きの悪い事を言わないで下さい♪」

 中嶋氏の膝の上に座ったまま、『お仕置き』とばかりに七条さんが中嶋氏の頬を『むにゅ〜♪』っと摘みました。
 普通ならコレだけでも驚く所ですが、もはや伊住さんにはそんな気力は残っていませんでした。
 呆けたように伊住さんが二人を見ていると、やっと七条さんが中嶋氏の膝の上から降り、中嶋氏もそのまま立ち上がります。二人はそのまま伊住さんの前に立ちました。中嶋氏が内ポケットを探ります。
 「いくらだ?」

 「…はぁ…?」

 思考が全然働かない伊住さんは、気の抜けた返事をします。七条さんがクスクスと笑いながら言いました。
 「会計ですよ、僕たちが飲食した代金はおいくらですか?」
 伊住さんが慌てて首を振ります。
 「いえ、そんな…。お金は頂けません!」
 その言葉に中嶋氏と七条さんはちらりと目配せをすると、伊住さんの前に進み出ました。

 「では、コレは俺たちからのサービスだ。」
 「これからも頑張って下さいね♪」

 言うが早いか、中嶋氏と七条さんは、それぞれ伊住さんの片方の頬に軽くキスをして、瞬時にまた固まってしまった伊住さんを残してカフェを後にしました。

 まさにあっという間の出来事でした。
 お騒がせなメッセンジャーたちは、嵐のようにカフェに波紋と余波を残して過ぎ去っていきました。
 そして伊住さんはこれから来るであろう嵐の第二弾、そう、こちらの中嶋氏と七条さんの事を頭に思い浮かべ、一人底知れぬ恐怖に気が遠くなっていくのを感じていました。


    *****Congratulations on a 50,000 HIT breakthrough.*****


                                     〜 BRONTES アイミ さま 〜



いずみんから一言。

アイミさま 感謝です!!
いつもいつももらうばっかりで、気がついたらどんどんツケが増えていってますね……(滝汗)。
そっ、それはそのうち必ずっっ!!

ところで過去の元ネタですね。
七条クンが生クリームののっていないパフェを凝視しながら、
「英明さん、ウインナー・コーヒーを注文して下さい!」
って言うんでしたっけね。
うーん。しかしあれはもう2年も前? ← 遠い目(笑)

あのお店は先週の金曜に行ってきました。
そもそもの発端となったパフェの写真を友人が撮ったので、
送ってもらいました。(場所はハンズ前のフーケです)
ピントが少し甘いんですけど、感じはわかります?
右がクープ抹茶で左が伊住のお気に入りのクープ・キャラメル。
中はプリンとコーヒーゼリー。飾りはクッキー2枚。キャラメルの
ソースがかかった以外はぜーんぶソフトクリームなんです。
神戸にお越しの節には是非ともご賞味くださいませ♪
どうも有難うございました♪

補足 2006年末。このお店は全面改装してこのパフェは無くなりました。



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