恐怖の夜




「10月31日・・・とうとうこの日が来てしまった・・・・」
壁に手を付きカレンダーを睨み中嶋は言った。
その足元では小さな啓太が不安そうにズボンを握り締め見上げている。
「ヒデ君・・・・」
今朝・・・いや昨夜から啓太は中嶋から離れようとしない。
去年の恐怖を覚えていて一人になるのが怖いのだろう。
「啓太・・・・大丈夫だ」
啓太に視線を合わせ、安心させるように抱き寄せた中嶋はそのまま
抱き上げ寝室へと連れて行く。



10月31日。
その日は啓太が中嶋と暮らすようになって2度目のハロウィン。



「ヒデ君これなぁに?」
寝室に備え付けられているクローゼットの奥から中嶋が取り出した
やや大きめの箱。
特にブランドのロゴも入っていない箱の中から取り出したモノを啓太に渡す。
「これがやつの弱点だ。いいか啓太、お前がこれでヤツを倒すんだ」
「啓太が一人でするの・・・?」
不安と恐怖に大きな瞳には今にも溢れそうなほど涙が溜まっている。
その様子に心の痛みを感じながらも中嶋は淡々とした声で告げる。
「そうだ、これは啓太じゃなければ出来ないことなんだ。男だろう、勇気を出せ」
そっと癖のある柔らかい髪を撫でる。
「大丈夫だ、俺が傍にいる。いいか、今から呪文を教えるから
ヤツが来たら言うんだぞ」
「う、うん。がんばる」
去年はやつに負けて一杯泣いてしまった、でも今年は負けない!
決死の思いで頷く啓太の耳に中嶋は呪文を囁く。



数時間後・・・・・

コツコツコツ・・・
静かなマンションの廊下に響く足音。
「来た」
鋭くドアを見る中嶋の言葉に啓太は素早く所定の位置に付く。
「ヒデ君・・・」
必死に恐怖と戦う啓太の頭をひと撫でして中嶋はドアフォンの傍に立つ。

ピンポーン

運命のチャイムが鳴らされ、中嶋がドアフォンを取る
「・・・・はい」
「ヒデ?俺だ、丹羽。いい酒が手に入ったんだ飲もうぜ」
間違いない、ヤツだ。
哲君の振りしてきたんだね。
思いを込めて、視線を交わす二人。
「啓太がそっちに行った。開けさせるから待ってろ」
そっけなく言ってドアフォンを切る。
「いいか、啓太。開けたら呪文を唱えてヤツにしがみ付け」
「うん、わかった」
「行くぞ、3、2、1・・・・行け!」

ガチャッ!

ドアを開けた先には大きなかぼちゃのお化け。
恐怖に竦みそうになる足を奮い立たせ、ギュッと目を閉じた啓太は
お化けの足にしがみ付き呪文を唱える。

「にゃあ!」

「・・・っ!うわああぁ!」

「にゃあ、にゃあ・・・・・」
「や、やめろ・・・離せ!」
「にゃあ、にゃあ、にゃあ」
慌てて振りほどこうとするかぼちゃのお化けに必死にしがみ付き、
茶色い三毛猫の着ぐるみを着た啓太は呪文を唱え続ける。

「あっ!」

しかし幼い啓太の力でいつまでもお化けにしがみ付くのは無理で、
とうとう振りほどかれてしまう。
コロンと転がった啓太が見たものは大慌てで逃げていくかぼちゃのお化け。
エレベーターを使わずに階段を転げ落ちるように逃げていったお化けを見た啓太は
嬉しそうに中嶋を振り返ります。
「よくやったな、啓太。お前の勝ちだ」
「ヒデ君!」
駆け寄る啓太を抱きしめ二人はいつまでも勝利に酔いしれていた。




そして次の日
「・・・・・と、言うようなことがあって昨夜の疲れか啓太はまだ寝ている」
啓太用のお菓子を持って遊びに来た丹羽に昨夜の出来事を語って聞かせた中嶋は
ニヤニヤとひとの悪い笑みを浮かべながら、来てから一度も視線を合わせない丹羽に
コーヒーを出しながら言った。
「どうしたんだ哲っちゃん、痣だらけじゃないか。
まるで大慌てで階段を降りたみたいだぞ?」
「どってことねーよ!」


ヒーローは今だ夢の中。




2006年10月31日
結構楽しい日常を送ってる
二人が書きたかったんですが…
ちなみに着ぐるみは和希作。
もし宜しければお持ち帰りください。



                       〜 あなたのななめ45° ブー子さま 〜



いずみんから一言。

頂いてきて、ちびの可愛らしさにくらくらしつつ、ソッコーUPしたつもりが。
作業を中断したまま、すっかり忘れておりました。
そういえばかぼちゃの絵柄が決まらずにぐずぐずしていたんだった。
ひでくんにお仕置きされてしまいそうです(滝汗)。


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