苦渋の選択




和希「ああ……アタマが痛い。気が重い……(タメイキ)」
成瀬「だったらやめればよかったのに(苦笑)」
和希「そんなわけにもいかないでしょう。突然やめたら、かえってめんど
    くさいことになりませんか」
成瀬「う〜ん。まあ君がそう言うんならそうなのかもしれないけど」
和希「どんなに気がすすまなくても、やっておけば数時間のがまんで
    すみますよ。……きっと」
成瀬「ホント、がまんしながら飲み会やる君ってすごいよ」
和希「俺はいいんです。あとで誰かさんが慰めてくれるから」
成瀬「……そうだね」

          ◇          ◆          ◇

丹羽「よぉ……(どよ〜ん)」
七条「……(タメイキ)……」
西園寺「……(タメイキ)……」
海野「ねーねー。新年早々、何タメイキ合戦やってるのー?」
岩井「こういうときは……たいてい啓太がらみだ……」
篠宮「またか……(タメイキ)。しかしホストに失礼だ。いいかげんその
    不景気な顔を何とかしろ」
成瀬「大丈夫ですよ篠宮さん。うちも不景気ならひけを取りませんから」
和希「はぁ……(タメイキ)……」
岩井「今年の年賀状は……いいと思ったが……」
丹羽「構図だけならな」
西園寺「ああ。アニメのキャラクターならよかった」
七条「そうですね。アニメなら微笑ましく見られたかもしれませんね」
篠宮「しかし今年の年賀状のどこが気に入らない」
海野「かわいかったよねえ。横長で右上の方にひつじの着ぐるみを
    着た伊藤くんがいて」
岩井「左側の中嶋が着たセーターの裾がほどけていっていて、その
    毛糸で伊藤が編み物をしている」
成瀬「い、岩井さんって、絵の話になるといきなりはっきり話しはじめる
    んだね(汗)」
篠宮「ふたりの間に伸びた毛糸で『A HAPPY NEW YEAR』。
    何の問題もない」
和希「だけど俺はあんな年賀状を作るのに着ぐるみを作ったんじゃな
    いし、編み棒の持ち方を教えてやったんじゃない(さめざめ)」
西園寺「……やっぱりおまえか」
丹羽「ったく。毎年毎年いらんことをしやがってよ」
七条「誰かさんがあんな着ぐるみを作らなければ、あんな年賀状もなか
    ったとは思いませんか?」
海野「でも伊藤くんによく似合って可愛かったよ?」
丹羽「だから困ってんだよ(苦笑)」
成瀬「毎度のことながら毛の質感に苦労したんだよね。本物の毛皮は
    あったんだけど、それじゃ逆にひつじに見えなくって」
和希「それで出かけるたびにそこの問屋を回ってたんです。ホント、
    いったい何軒まわったか(遠い目)」
七条「へえ? 経営者っていうのはずいぶんお暇なんですね。それで?
    どこの問屋で見つけたんですか? フランスですか? イタリア
    ですか?」
和希「……ウルグアイですよ……(憮然)」
丹羽「ウルグアイとは、そりゃまた……」
西園寺「さすがにそれは驚きだな」
和希「それに行きつくまでに時間がかかっちまったもんだから日本に
    帰るのを待つ余裕がなくて、持ち歩いてた型紙でその場で裁断ま
    でやって。ホテルに帰ってから縫えるだけ手縫いした」
丹羽「それって忙しいのか? 暇なのか?」
七条「もちろんお暇なんですよ? ねえ?」
篠宮「……そこまでして伊藤に干支の着ぐるみを作る必然性がわから
    ない……」
啓太「でもおかげでいい年賀状ができましたよ?」
成瀬「やあ啓太。今年はずいぶん早かったね(苦笑)」
中嶋「妨害が中途半端でな。エレベーターに閉じ込められたんだが、た
    またま点検日で10分もしないうちに作業員が出してくれた」
啓太「点検で止まる前に降りようとしようとしてたから、作業員さんが
    もうマンションに着くところだったんです」
和希「さすが啓太というべきなのかな」
西園寺「点検日を見落としたとは。臣に似合わない手抜かりだな」
七条「もう今年は脱力してしまって、ほとんど投げやりでしたから」
丹羽「だろうな」
啓太「ちょっとCGが難しかったんですけど、そこは中嶋さんがちゃちゃ
    っとやってくれたんです」
西園寺「しかし啓太。中嶋も忙しいだろうから、来年から全部自分で
    作ったらどうだ」
成瀬「さすがは西園寺。うまく誘導してる」
七条「そうですね。わからないところがあれば、いつでも僕がお教えしま
    すし」
和希「俺だってそれくらい教えてやれるぞ?」
啓太「う〜ん。でもふたりで出す年賀状だから、やっぱりふたりでなんと
    かするよ。気持ちだけもらっとくね(幸笑)」
成瀬「ああ……、あっという間の撃沈だったね(苦笑)」
海野「ねーねー。食べながら話したら?せっかくの料理が冷めるよ?」
和希「おっと、そうそう。ひつじ歳にちなんで、今日はマトンとラムを
    メインにしたんです。成瀬さんが香草のブレンドからこだわった
   力作ですよ」
篠宮「これはすごい」
成瀬「啓太の好きなポテトサラダもたっぷり作っておいたよ」
啓太「ホントだ! 中嶋さん、早くいただきましょう」
中嶋「ああ。そうだな」
丹羽「おっと。中嶋はちょっとこっちだ」
啓太「王様?」
西園寺「啓太。ちょっと中嶋を借りるぞ。話があるんだ」
七条「伊藤くんは海野先生とごちそうを食べていてくださいね」
啓太「? ……はぁい」
中嶋「……で? わざわざ啓太を遠ざけてまで、いったい何の話だ」
和希「話なら俺も加えてもらいますよ」
中嶋「おまえもか……(タメイキ)」
和希「俺も、ですよ。もちろん。なんですかあの年賀状は」
中嶋「何か不都合でもあったか」
七条「伊藤くんには何の不都合もありませんよ」
丹羽「実際のところ、着ぐるみもポーズも啓太にはよく似合ってたしな」
中嶋「じゃあ何が気に入らない。おまえたちは啓太だけでいいんじゃな
    いのか」
西園寺「そう、啓太だけでよかった」
和希「つまりあんたの半裸は必要ない、ってことですよ」
中嶋「……ああ、そうか!」← お手手をぽん!
丹羽「……何かその明るさが怖いな……」
西園寺「ああ、怖い」
七条「理事長が何かいらないことを言ってしまったんですよ、きっと」
和希「……何が『そうか!』なんです……?」← 恐る恐る(笑)
中嶋「つまりだ。俺がひつじの着ぐるみを着て画面の右端へ行って編
    み物をし、啓太が画面の真ん中で半裸になれば、おまえたちは
    満足ということだ」
和希「だから違うー (ToT)/~~~(-"-)」
丹羽「啓太の半裸はともかく中嶋のひつじはいらねーよ(汗)」
七条「やっぱり理事長がいらないことを言ったんですね」
西園寺「おかげで想像してしまったじゃないか。編み物してる中嶋の
    ひつじ姿を(怒)」
丹羽「どうせだったら半裸の啓太を想像できたらよかったのにな(汗)」
和希「くそー。なんて言えば伝わるんだ……!」← 髪をバリバリかきま                                わしてみる
七条「人でなしさんですから人間の言葉では伝わらないのでは?」
丹羽「ああ……。ひつじの着ぐるみ着た啓太が、年賀はがきのど真ん
    中でどで〜んと編み物してたらなあ」
和希「それですよ王様!俺が狙ったのはまさにそういう構図なんです」
西園寺「それはいいな」
中嶋「ほう? うちから送った年賀状では、構図が気に入らない、と」
七条「そのとおりです」
中嶋「なるほど。おまえたちは啓太があの容量の小さいアタマを絞って
    何日も何日も考えて、あれこれ試してようやく決めたあの構図が
    気に入らない、というんだな」
和希「う゛」
中嶋「そうか。こうやって啓太を遠ざけたのは、それが啓太の耳に入ら
    ないよう、わざわざ配慮をしてくれた、というわけだ」
丹羽「あ、いや。それは……」
中嶋「配慮には感謝するが、それでは今後のためにならない。来年も
    再来年もあることだからなあ」
七条「……来年も再来年も……(憮然)」
中嶋「だから啓太には真実を告げた方が親切だ。『おまえがあんなに
    がんばって作った年賀状だが、理事長以下丹羽・西園寺・七条の
    4人には甚く不評であった。どうやら不快感を覚えたらしい』とな」
西園寺「……そんなことは言っていないだろう(不快)」
中嶋「おかしいな。さっき俺が『うちから送った年賀状では構図が気に
    入らないのか』と聞いたら、『そのとおり』と返事が返ってきたよう
    に思ったが」
和希「そういう意味じゃないでしょうがっ」
中嶋「いやいや。構図を考えたのは啓太だ。俺じゃない。よって、お前
    たちの気に入らないのは啓太ということになる」
七条「…………」
中嶋「さて。話は終わったようだから啓太に伝えてこようか。おまえの考
    えた構図は気に入らないようだから、来年は『謹賀新年』とはがき
    の真ん中に36Pの明朝体で書くだけにしておけ、と言っておこう。
    これでいいか?」
丹羽「ちょ、ちょっと待て、ヒデ」
七条「そうですよ。何も明朝体の4文字熟語だけにしなくても」
中嶋「遠慮はするな。お前たちは気に入らない構図を見なくてすむ。
    啓太は何日も考えてせっかく作った構図を、気に入らないと言わ
    れなくてすむ。どこかの経営者は、着ぐるみを作る素材探しに
    ウルグアイまで行く必要がなくなる。……ふむ。いいことずくめじ
    ゃないか」
和希「★▼×▲▲……!」
中嶋「啓太にはちょっと泣かせてしまうかもしれないが、何、俺がちょっ
    と抱いてやれば機嫌も直るだろう。だから……」
丹羽「待て! 待て待て、待ってください……(懇願)」
七条「そうですよ。伊藤くんが作った年賀状が気に入らないなんて、そ
    んなことがあるはずありません」
西園寺「隅に小さく映っているだけでも、啓太は啓太で、可愛らしさが
    損なわれるわけでもないしな」
和希「それに着ぐるみを着た、啓太は小さくても可愛らしいことに変わり
    はない」
丹羽「っつか、こんなことで啓太の年賀状もらえなくなるのは重大な
    損失だぜ」
中嶋「そうか。じゃあこれからも啓太が年賀状を作ってもいい、そういう
    ことだな」
和希・丹羽・西園寺・七条「……結構です……」

           ◇          ◆          ◇

中嶋「ほお?ラムの香草パン粉焼きか。いつものこととはいえ、成瀬の
    料理は本格的だな」
啓太「あっ、中嶋さん♪ 早かったですね。お話は何だったんですか?」
中嶋「うん? おまえの年賀状が気に入ったから、来年からもがんばっ
    て作るように言ってくれ、とさ」
啓太「えへへ〜。そうなの? 和希」
和希「あ? ああ、そう。そうなんだ」
丹羽「『おまえが』とっても可愛かったからな」
西園寺「来年も楽しみにしているぞ。『おまえの』年賀状をな」
七条「みんな『伊藤くんの』年賀状を楽しみにしていますからね」

こうして今年の飲み会は、じつになごやか過ぎていった。らしい。

成瀬「……えーっと。そんな話だったっけ?」
和希「……(ToT)……」






いずみんから一言。

今年は中啓バージョンの馬鹿話が思いつかなくて、
すっかりパスするつもりでいたんです。
そうしたら七啓バージョンのほとんど終わりかけの
ところで突然!ぺかーっと浮かんだんですよ。
ひつじの着ぐるみを着て編み物をする中嶋氏、のお姿を(笑)。
忘れないうちにアウトラインだけ叩いておいて……って
やってるうちに、七啓まで遅くなっちゃったりしました(汗)。
でもまあ旧正月には間に合ったからセーフということで。
ぺこぺこ



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