約束〜もう一度あの場所で〜(61) 「きさま、何が言いたい。」 俊介を睨み付けながら、中嶋は一歩踏み出した。 殺気。 一瞬にして変わる中嶋の気配に俊介は、ゴクリと唾を飲み込みながらそれでも内心の動揺を隠してにやりと笑ってみせた。 ここで怯えて逃げる訳には行かなかった。 「言葉通りの意味や、ケイタはあんたらに遠慮しとる。 あんたらのお荷物になっとる事を苦痛に思うてるんや。 あんた達かてそれは分かってるんやないか? 俺はケイタに何か危害を加えたいなんて思うて近づいてるんやない。 あいつが心配やから、そやから守ることにした、それだけや。マロンと同じや、意味なんかない。」 「‥それを信じろと?」 「そうや。」 頷いて息を吐く。 緊張。指先にまで力が入っていた。 「‥お前の言葉を信じろと?ケイタに害を及ぼさない人間だと、何の根拠もなく信じろと言うのか?」 ピリピリと空気が振動する。 この辺りだけ温度が急激に低下した気がして俊介は無意識に震えた。 目の前ののどかな景色、走っていく電車、歓声をあげ走る学生達が作り物めいて見えた。 「根拠が無くても、信じろと言うしか無い。 疑う気持ちも分かるけど、それでも俺はケイタの友達や、俺はそう思ってる。ケイタもきっとそう思ってくれてる筈や。 根拠言うならそれや、俺は友達を裏切ったりなんかせえへん。」 「‥‥ふん。」 「‥」 中嶋の刺すような視線に耐えながら、俊介は次の言葉を捜した。 ここで負けるわけにはいかないのだ。 背中を伝う冷たい汗は心の動揺を表している。それでも尻尾を巻いて逃げる訳にはいかなかった。 「ケイタは、俺に黙っててくれ言うたんや。 怖くてへたり込みそうになっとったくせに、それでもあんたらに内緒にしてくれって、俺がそんなの逆に心配かけるだけやっていくら説得しても、それでも頷かなかったんはあんたらにこれ以上迷惑を掛けたくないって、そう思うたからや。 今、あいつはあいつなりに頑張ろうとしとるんや、そやから俺はそんなケイタの気持ちを認めてやりたい。 俺はケイタが好きなんや、そやからあいつを守りたい。 あいつが泣いて怯える顔見るのが嫌なんや、あんた達がケイタを思う気持ちと変わりはないんや。」 一気に早口でまくし立て、そして歯を食いしばり中嶋を睨む。 「・・・・口先で言うだけならいくらでも言える。」 「思いつきで言うてる訳ちゃう!!」 中嶋の冷ややかな声に俊介は恐怖を忘れ声を上げた。 「信じてもらえんでもええ。俺はそれでもあいつを守る!!」 中嶋を睨みつけ、声を上げる。 「・・・・。」 「信じてもらおうなんて思ってない。俺は俺の意志であいつの傍に居ると決めたんやから。あんたたちの許可なんて望んでないんやから。 話したのはケイタの気持ちを大切にしたかったからや、強くなりたいと必死に足掻いてるあいつの気持ちをな・・。」 計算。そんなものは俊介の頭の中には無かった。 「それで?お前の目的は?」 「そやから・・。」 「ケイタを守りたい。それは本当かもしれない。だが、それだけじゃないだろう?お前の本当の目的はなんなんだ。」 「目的・・・。」 「俺にはなあ、偶然は信じない。」 「・・・ケイタを送った時の話ですか?」 「違う。」 「え?」 「お前が俺たちの前に現れたことだ。」 「・・・・そ、それは偶然に・・・ほら俺新聞の勧誘やってますから。」 「ふうん?普段とは違うエリア・・お前の担当エリアとは少し遠いだろう?お前のボスはそこまで計算しなかったのか?」 眼鏡の奥ですうっと細くなる中嶋の瞳に睨まれ、俊介は内心の焦りを必死に抑えながら言葉を探した。 「調べたんですか?」 「当然だろう。こいつの職業は何のためにあると思う?」 「・・・探偵?・・・優秀なんですね?」 中嶋の隣でニヤニヤと腕を組んで笑っている丹羽の顔を見つめ、俊介はため息をついた。 「・・・・知ってて問い詰めたんですか?性格悪いなあ。」 すべてばれていると知り、がっくりと肩を落としながら、俊介は中嶋の顔を恨めしそうに睨んだ。 「どこまで知ってるんです?」 「お前が親父の部下だって事。」 「全部やないですか!」 言いながら、がくりとベンチに座り深く息をついた。 「なんだよ。」 「そんなん責める前に言うてくれたら良いや無いですか。ほんま疲れたわ。」 中嶋の視線に負けないように、必死になって虚勢を張っていたのだ。疲れるなと言うほうが無理だ。 「そんなもの。お前に疚しいところがあるからそうなるんだ。」 (2006/5/25(木)の日記に掲載) |
いずみんから一言 |
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