あの日のその後〜 「あとは・・そうそうお茶。」 ある日の日曜日、用事があるって中嶋さんが、さっさと出掛けてしまったので、俺は一人で買い物に来ていた。 足りなくなった日用品を買って、あとお菓子とか色々買って、そうして思い立って食器売り場で、一大決心して、中嶋さん用の湯呑み茶碗を買ったんだ。 「ふふふ、折角急須も買ったんだし、ちゃんとお茶も買って。」 ウキウキ気分で、デパートの地下にある売り場をめざす。 俺は、ご飯の時って玄米茶が好きなんだけど、中嶋さんってどうなのかなあ?コーヒーとかも結構こだわりあるみたいだし、やっぱりなにか好みあるのかな? なんて考えてたら、すっごくラブラブなカップルみたいで、俺はなんだか一人で照れてしまった。 「ふふふ。中嶋さんまたお握り食べてくれるかな?」 始めて中嶋さんが、俺の作ったお握りを食べてくれたのは、一ヶ月ほど前だった。 自分で言うのも情けないって言うか、恥ずかしいっていうか、全然形になってない、お握りを、すっごい嫌そうな顔しながら、それでも全部食べてくれた中嶋さんは、その後、二回も俺が作ったお握りを食べてくれたんだ。 『ほお?今度は形だけは一応おにぎりだな。』 なんて嫌味言いまくりだったけど、でもそれでもちゃんと食べてくれたのは、なんとなく中嶋さんの優しさかな・・なんて俺は良い様に解釈しちゃってるんだ。へへ。 「んーと、これにしようかな。抹茶入り緑茶。なんか美味しそう。」 とりあえず、100グラムお茶を買って、俺は気分良く学園に帰ったんだけど・・・でも、部屋に帰ってから、ちょっと考え込んでしまったんだ。 「中嶋さん。俺がこんなの買ってきたの迷惑だとか言わないかな?」 物にはとってもこだわりがある人だと思う。 部屋なんか何時も凄く綺麗に片付いてて、無駄なもの何も無いし、私服も何時もスッゴクスッゴクスッゴク格好いい。 学生会室で使ってるカップも、シンプルだけど、なんか中嶋さんらしいっていうか、似合ってるって云うか・・俺の選んだのとは、ちょっとイメージ違ってるかも。 「どうしよう、全然好みじゃなかったら。」 俺のセンスは、子供っぽいって思うかも、それにそれに、恋人面して余計な事をするなって怒っちゃうかも、そんでもって、こんな物使えるか!!って目の前で割られちゃうかも・・。 「う・・・どうしよう。」 ベッドの上に座り込み、綺麗に包んでもらった急須と湯飲みの箱を抱えて、俺は本気で考え込んでしまった。 恋人っていったって、中嶋さんが本気かどうかなんか分からないんだ、中嶋さんは凄く人気があるんだから。他にいくらだって好みの相手を選べちゃう。俺みたいに、運しか自慢できる物が無いのとは違うんだもん。 中嶋さんは、あんなに格好良くて、とっても素敵で、頭が良くて・・ 仕事もバリバリこなすし、面倒見もいいし、ちょっと意地悪だけど、怒るとお仕置きって俺のこと苛めるけど、でもでも本質的には優しい人だし・・・それに、怒ったりお仕置きしたりするのは、俺が悪かったりしてるんだから・・・中嶋さんは悪くないし・・。 「怒るかなあ・・・中嶋さん。」 「お前、何かしたのか?」 「なにもしてませんけど。」 返事をしてから、あれ?っと気が付いた。 今、俺誰の言葉に返事したんだろう? 「なら、何を心配してるんだ?ん?」 この声・・・。 「うわああああ!!な、中嶋さん。いつの間に部屋に。」 って?俺鍵閉めてなかったっけ?開けてた?あれ? 「あ、あの、鍵は?」 「開いてたぞ。無用心な奴だな。」 「あれ?開いてました?」 そうだっけ? 「で?何を心配してたんだ?」 「え・・・・。あの・・・。」 「ん?なんだ。怒らないから言ってみろ。ふっ。」 にやりと笑って、中嶋さんは、ベッドの上に肩膝をついて、煙草の煙を吹きかけた。 「けほっ。煙いです!!」 前言撤回。やっぱり中嶋さんは意地悪だあ! 「お前がちゃんといい子にしゃべらないからだろう?隠し事をするのは、悪い子だって最初にきちんと教えた筈だろう? それとももう忘れたのか?」 スウッと中嶋さんの目が細くなる。 う、うわっ。これってこれって・・すっごく危険な状態。 「わ、忘れてません!あの、あの・・・怒らないって約束してくれますか?あの・・・。」 「そんな約束は出来ないな。」 ううう。約束してくれないけど、内緒も駄目なの? 「なんなんだ?」 「・・・・あの・・これを・・。」 ずっと抱っこしてた箱を差し出す。怒られても仕方ないよ。 「なんだ?」 「あの・・。」 「開けてみろ。」 「これです。」 包みを開いて、ベッドの上に中身を取り出して見せる。 「なんだ?」 「急須と湯呑み茶碗です。」 「・・・?啓太?」 「はい。」 「どうしてこれで、俺が怒るのか、説明は無いのか?」 「あの・・・マグカップで日本茶って云うのも、あれかなって、だから・・・あの・・・俺。」 「日本茶?」 「はい・・・あの・・・お握り食べる時。」 「お握り?」 ピクン・・と眉尻が上がる。 うわああん。顔が恐い。怒ってる!! 「お前。・・・はあ。」 うわ、溜息までつかれちゃった。やっぱり余計な事したって思ってるんだ。怒ってるんだ俺のこと。 「はい。」 「まだ、あれを作るつもりだったのか?」 「・・・え?」 「俺にまだ、あれを食わせるつもりか?」 じっと、怒ったような目で、中嶋さんが見つめる。 「あの・・本当は迷惑でした?」 そっか、俺・・無理矢理食べてもらってたんだ。 本当は、中嶋さんあんなの食べたくなかったんだ。 そうだよね、形だって全然良くないし、味だって・・。 「ごめ・・ごめんなさい。俺・・・迷惑・・・迷惑だなんて思って・・・ごめんなさい。」 中嶋さん本当は呆れてたんだ。なのに食べてくれてたんだ。 しょんぼり俯いたら、涙がポロポロ出てきてしまった。 「・・・ぐす。余計な事しちゃいましたよね。ぐすん。俺、あの、もう余計な事・・中嶋さんに迷惑・・・かけたりしませんから。」 怒らせちゃった。莫迦だな俺、なに一人で舞い上がってたんだろう。 中嶋さんにずっと嫌な思いさせてたなんて。 「ふん、まあお前にしては上出来な物を選んだな。」 「え?」 驚いて顔を上げると、中嶋さんの手の中に、湯呑み茶碗があった。 「ま、折角買ってきたんだし、無駄にするのも勿体無い話だな。」 「なかじま・・さん?」 それって、じゃあ。俺・・・。 「また、食べてくれるんですか?」 怒ってないの?余計な事したって怒ってない・・の? 「気が向いたらな。」 「気が向いたらで十分です!!あの、あの。」 「なんだ。」 「中嶋さん大好きです。」 思わず中嶋さんに飛びついて、抱きついてしまう。 やっぱり中嶋さんは、優しいんだ。 俺が莫迦なことばっかりしても、受け止めてくれるんだ。 「おい!!」 「はい。」 「驚かせて、割らせるつもりか?ふうん?割るか?」 「駄目です!!割っちゃ嫌です!!」 慌てて取り返して、箱にしまうと、机の上に避難させる。 「あれ、学生会室に置いてもいいですか?」 「駄目だと言いたくても、そうやって泣き落としするんだろう?」 泣き落とし・・?しちゃったことになるのかな? 「ごめんなさい。中嶋さん。」 「ま、我儘をした分のお仕置きは覚悟するんだな。」 我儘?え?なに? 「食べて欲しいって言うのは、お前の我儘だろう?」 にやりと笑う。 食べて欲しい。うん、だって嬉しいから。 始めて食べてくれた時、凄く凄く嬉しかったから。 「はい、俺の我儘です。」 中嶋さんが俺の我儘聞いてくれるなら、何回お仕置きされても良いやって、本当に本当にそう思ったから。 だから、コクンと頷いて、俺は素直にお仕置きを受けた。 でも、中嶋さんには内緒だけど、お仕置きを覚悟するって云うよりは、俺にはなんだか、ご褒美貰っちゃった様な気分だったんだけどなあ・・? それって俺の勘違いなの・・かな? それだけが、実は今も謎だったりする。 fin お握りのその後、別名啓太君の勘違い・・でした。 お仕置きされるのも自分が悪いせい・・と思ってる辺りは、中嶋さんの 教育の成果なのでしょうか???ちょっと疑問が残っていたりしてますが。 上高地様の戯れの言葉を、しっかり「リクエスト〜♪」と良い方に解釈して また、投稿してしまったのでした。(返品しないで頂けると嬉しいです・・。) |
いずみんから一言 |
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