チョコと後悔..(誤解おまけ)





 昨日啓太を泣かせてしまった。
 俺の前では我慢してたけど、部屋に帰ってからずっと泣いてたんだろう。朝教室で逢った啓太の瞳が真っ赤に充血していて、俺は罪悪感で死にたくなった。

「頭冷やしてくる。」
 昨日、今にも泣きだしそうな顔で啓太は部屋を出ていった。
 失言。
 啓太を傷つける、そう思いながら口にしてしまった。
「謝らなきゃ。」
 ずっとそう思っていたのに、肝心の啓太は2時間目の体育の時間からどこかに姿を消してしまったまま、放課後になっても姿を現わすことは無かった。
 どうしたんだろう?寮の部屋で泣いてるのだろうか‥。そう思いながら、探しに行かなかったのは、どうやって謝ったらいいのか分からなかったからだった。
「言えるはず無いよな‥嫉妬したんだ‥なんて。」
 とにかく学生会の仕事を片付けようと教室を出て歩きながら、ため息をつく。
 言い訳も謝罪の言葉も何も浮かんで来そうに無かった。
「中嶋さんが悪いんだ。あの人のせいだ。」
 悪いのは俺。その自覚はあるのに認めたくなかった。
「意味なんか聞かなきゃ良かったんだ。」
 後悔先に立たず‥なんて、昔の人は良く言ったものだと尊敬してしまう。
 今の俺にぴったりの言葉だ。
「どうしたらいいんだろう。」
 ため息をつき、歩きながら、俺は昨日のことを思い出していた。

××××

 昨日の放課後、学生会のスケジュールを組むために二人で話していてふと気になったのだ。
 啓太の手帳ハートマーク。2月の14日は分かるとして、19日の大きなハートはなんなんだ?その日何かあったっけ?あ、あの人とデートなのかもしれない。なんて思いながら、つい啓太の手帳を凝視してしまったんだ。
「何?和希。あ、どこか漢字間違えてた?」
「え?あ、違う違う。ね、そのハートマーク何?」
 よく見たら3月にも同じ日にハートが付いている。
「え?これ?へへへ、内緒。」
 内緒と笑った顔があんまりにも幸せそうで、俺は少し悔しくなった。
 絶対あの人絡みの事なんだ。そうに決まってる。
「なんだよ、お兄ちゃんにも言えない事か?淋しいなあ。俺って信用ない?」
 なんて拗ねた振りして顔を覗き込んだら、啓太は慌てて否定した。
「そんな筈ないだろ!和希にはいつも中嶋さんとの事、沢山相談にのってもらって、凄く感謝してるんだぞ。」
 感謝して欲しいなんて思っていない、俺の欲しいのはそんな感情じゃない。
 だけどその思いは顔には出さず、親友の笑顔で言葉を続ける。
「じゃ、教えろよ。いいだろ?」
「笑わない?」
 恥ずかしそうに上目使いに俺を見る。そんな仕草が抱き締めたくなるほど可愛い。
「笑わないよ。俺が啓太を笑ったりする筈ないだろ?」
「うん‥でもなぁ。」
「いいから、何?」
「あのさ、毎月19日は中嶋さんデーなんだ。」
「は?」
 笑ったりはしないけど、意味が分からなかった。
「なに?」
「だから、中嶋さんデー。ほら、11月19日が中嶋さんの誕生日だろ?だから、他の月は中嶋さん記念日なんだ。?」
「お祝いするの?」
「え?そう言うんじゃないんだけど、ただ、中嶋さんあと○ヵ月で誕生日だな−って俺が嬉しい日?カレンダーに印付いてるだけで嬉しいんだよ。へへ。」
「ふうん?で、こっちのは?」
 脱力しながら、14日のハートを指差す。啓太が(世界は二人の為)状態になるのはよくあることだけど、でも目の前でそうなるとやっぱり凹む。
 なんであんなのがいいんだよって泣きたくなる。
「あ、勿論バレンタイン!あのねチョコ食べてくれたんだよー。一個だけだったけど‥嬉しかったなあ。」
 チョコレートあげたんだ‥知らなかった。
 そういえば、あの日の啓太、慌てて仕事片付けて、大急ぎで帰って行ったっけ‥。
「ふうん、俺にはなかったね。」
 貰えるかも‥って、ちょっと期待してたのに。
「え?和希に?」
「うん。」
「なんで?」
 なんでって‥。
「バレンタインのチョコは恋人にあげるんだよ?」
「義理チョコってのもあるだろ?」
 俺の事は考えもしなかったんだ‥。
「う−ん?そっか‥じゃあ、来年あげるよ。ごめんね。気が付かなかった。」
 気が付かなかった、ごめん‥か。
「で?なんで一個だけ?」
 聞いてから思い出す。そうか、あの人甘いもの食べないんだっけ。
「中嶋さん甘いの嫌いだからね。だけど一つなら食べてやるって言われたんだ。
 俺、ビターチョコの中にブランデーが入ってるの買ったんだよ。甘くないならいいかな?って思ってさ。
 でも最初は「そんなものいらない」って言われてさ、俺、一生懸命お願いして、やっと一個食べて貰ったんだ。へへ。」
「ふうん?」
 一生懸命お願いして‥か。
「でも、チョコの中にブランデーは少ししか入って無かったのに、俺それに酔っちゃってさ−。大変だったんだよ。」
 ん?ちょっと待てよ。なんで中嶋さんが食べたチョコで啓太が酔うんだよ。
「チョコの残りは啓太が食べたんだ。」
「え?中嶋さんの部屋の冷蔵庫に入ってるよ。だって俺じゃ食べられないよぉ。お酒入りのなんて。」
 じゃあ、なんで酔うんだよ。
 俺の疑問は顔に出ていたのだと思う。
 啓太は真っ赤になって俯いた。
「それは、聞かれても言えないよぉ。絶対に言えません。」
 その答えで察しがついた。つまり、啓太もそのチョコをあの人と食べたと云う事なのだ。二人で、ひとつのチョコを溶かし合いながら食べた。耳まで赤くなり俯いたままの啓太の姿が、そう返事をしていた。
「わかった聞かないよ。さ、スケジュールも決まったことだし、仕事しようか。」
「うん。ありがと、和希。」
 ありがとうと言われてもね、そんな言葉をききたくて俺は物分りの良い友人を演じてるわけじゃない。
「仕事仕事、忙しいからね。」
 にっこりと笑って、俺は書類を片付け始めた。イライラして仕方が無かった。それなのに、笑ったまま書類の整理を始めたのだった。

×××××

 仕事を引き継いだばかりの、新米学生会二人。
 仕事で書類の扱いは慣れているし、俺の場合、理事長という仕事柄見慣れた書類も多いし仕事が忙しいのにも慣れている・・というのに、それでも学生会の仕事はあきれるくらいに多かった。
 これを今まで、あの二人だけで(まあ、今年度は啓太も居たけど)片付けていたのかと思うと、あの二人の仕事の速さと正確さを再認識せずには居られなかった。
 さぼり癖がある王様と、性格に問題がありすぎる副会長。あれはあれで最高の組み合わせだったのだと思うけど、だからといって、あの人に素直に感謝の意を表すなんて事は出来そうも無かった。
 俺の大切な学園を、多忙を極めながらも守ってくれた二人だけど、それでも素直にそれに感謝することが出来ない。
 啓太の話を聞いて、啓太の幸せな顔を見たばかりの今、なおさらそうだった。
 心が狭い、俺は本当に、嫌な男なのかも知れない。
 自己嫌悪に陥りながら、それでも機械的に書類を片付けていた時だった。
「・・・。」
 啓太が、ぼんやりと中嶋さんの机を見ているのに気がついた。
 啓太の最近の癖だった。気がつくと中嶋さんの机を見ている。
 もう、持ち主を啓太に引き継いで、あの人の物なんか何も残っていないというのに、啓太はそれでもあれを中嶋さんの机と呼んで、そして未だになにも荷物を置かずに、仕事の合間にぼんやりと眺めてはため息をつき、俺が気づかない振りをして仕事している横で、こっそりと机の表面を撫で、考えに耽っているのだった。
 とても大切なものを見るような、愛しいものでも見るような瞳で、啓太はあれを見ている。いつも、いつも。
 それが俺は嫌で嫌でたまらなかった。
「啓太?」
「なに?和希。」
 声を掛けたとたん、普通の顔に戻る。俺の友達の顔。
 俺のことを、啓太はあんな目で見ない。俺に見せるのは、弱虫の泣き虫の癖に、強がりを言う高校生の顔だけだ。
「啓太あの机使えば?」
 意地悪だと思いながら、俺は何気ない風を装って、啓太に言った。
「うん、そうだね。」
 頷きながら俺は、下を向いてしまった。
 啓太は、ソファーに座って仕事を片付けている。今まで使っていた、小さな机は王様が片付けてしまったし、王様が使っていた机は俺が使っているからだ。
 中嶋さんの机を使うのは、啓太に与えられた権利だった。
 王様もあの人も、それを認め。啓太にそういい残して、この部屋を出て行ったのだ。なのに、啓太はそれを使わない。いいや、使えないのだ。
 中嶋さんの卒業を何より恐れているからだった。
 この学園から、あの人の姿が消える。
 それは俺にとっての、喜びでチャンスだったけど、啓太にとっては悲しい以外のなにものでもなくて、だから、中嶋さんが居た場所を変えたくないのだと、俺は勝手に解釈していた。
 そして、それはきっと外れては居ないと確信していた。
「ま、いいけどね。それより啓太。中嶋さんに卒業した後の事何か言われたことある?」
 俺は何を言うつもりなんだ?焦りながらそれでも口を閉じることが、出来なかった。
 イライラしていた。
 あんなにお互い思っているくせに、あの人はそしらぬ振りをして啓太をからかい、啓太は不安ばかりを口にする。そして俺は、啓太の不安な言葉を聞くたびに、可能性を信じたくなるんだ。啓太が俺を好きになるかもしれない、という可能性を。
 チョコさえ啓太はくれないのに、俺の為には、啓太はあんな笑顔を見せたりしないというのに、それでもそれでも諦められない。
 もしかしたら・・の思いがどうしても、消えない。
「え?な、何かって‥?」
 言っちゃいけない。啓太を傷つけることは、俺の本意じゃない。なのに、止まらなかった。
 俺が傷ついて苦しいから、二人を見ているのが苦しくてたまらないから、だからちょっとだけ啓太を苦しめたかった。
 少しだけ、啓太を悲しませてみたかった。
 あの人のことで、啓太も苦しんでみればいい。
 つらい恋などしたことのない、啓太。
 笑って、俺のことを無意識に傷つける啓太。
 だから、だから、悲しんで傷つけばいい。どうせあの人が啓太を癒すんだから。
 俺の知らないところで、二人は幸せに過ごしているのだから・・・。
 悪魔のささやきに俺は負けたのだ。
 そして、啓太に意地悪な言葉をなげかけたのだ。
 「ん?啓太が卒業したら一緒に暮らそうとか。あの人の部屋の鍵をもらうとか。そういう事。」
 いかにも心配している、友人の顔をして、俺は毒の言葉を啓太に向かって吐き出したのだった。

「はっきりした事言われた事無いけど‥」
 案の定、啓太は俺の言葉に顔色を変えた。
 書類を片付ける振りをして俯きながら、必死に言葉を探して、やっとそれだけ答えるので精一杯だった。
「やっぱり‥あのさ、俺お節介だとは思ったんだけど、この前あの人に聞いたんだ。」
 正当化、自分は啓太のためを思って言っているのだ、その意味を込めて啓太を見つめる。
 嘘ではなかった。確かに俺はあの時、啓太の事を思ってそう聞いたのだ。
 啓太を幸せにすると、あの時一言そう言ってくれたら俺は諦めることが出来たのだ。
 だから、この言葉は嘘じゃない。絶対に嘘じゃない。
 そう言い訳しながら、言葉を捜していた。
「え?」
 不安そうに啓太は俺を見つめる。さっき中嶋さんデーなんて事を幸せそうに語っていたあの笑顔はどこにもなかった。
「卒業したら啓太とのことどうするつもりですか?って」
 その顔をみて、俺は自分の罪に気がついた。
「か、和希何聞いてんだよ!余計なことするなよ!」
 泣きそうな顔、今にも泣き出しそうな顔。
 俺は口にしてはいけないことを言ってしまったのだと、はっきりと気がついた。
「だって気になったから。」
「だって啓太最近元気ないからさ、ここ来てあの人の机見てはため息ばっかりついてるし。」
 だけど、引き返せない。もう言葉にしてしまったのだ。引き返すことは出来ない。
「ううっ。それは‥。」
「和希‥。」
「やっぱり余計な事したかな俺、ごめん。」
「そんな事ないよ、俺の事心配してくれたんだろ?俺こそ‥あの‥ごめんなさい。」
 素直な啓太は、疑うことを知らない子供は、大人の嘘にだまされて、そうしてしょんぼりと頭を下げるのだ。
 大切な親友を心配する、年上の友の顔に騙されて、そうしてもっと傷つくのだ。
「あの、和希それで?」
「あ‥うん。あのさ。」
 どうしてらいいのだろう?どうやって言葉を続けるべきなのだろう?
 これ以上の話をしたら、きっと啓太は誤解する。
 言葉の裏なんて読むことを知らない子だ。言葉通りの意味にとって、そうして本当に傷ついてしまう。
「うん。」
「‥ごめん。やっぱり言えないや。」
「え?」
「あの人天の邪鬼だしね、うん、きっと本気じゃないと思うし‥。」
「和希話し掛けて止められたら気になるよ。」
「うん‥でも‥。」
 これ以上言ったら、啓太は本当に泣き出してしまうだろう。
 そして余計なことを教えた俺を恨むかもしれない。
 啓太に嫌われたくない。
 やっぱり、これ以上啓太を傷つけられない。
「驚かないよ。なに聞いても。」
「本当に?」
「うん。」
「じゃあ、言うけど‥。
 俺さ、あの人に聞いたんだ、今までの相手みたいに、厭きたら捨てるつもりですかって‥啓太を幸せにするって約束して下さいって、そしたら、あの人‥。」
 どうしたらいい?俺はどうしたら・・・。
 なんで嘘がつけない?なんでわざわざこんな話をしてしまうのだろう。
「和希?」
「そしたらあの人、「啓太が泣こうが傷つこうが俺の勝手だろう?幸せにするなんて約束出来ないな」って言うんだよ。」
 啓太の顔は、一瞬でこわばって、そして色を失った。
 俺は啓太を本当に傷つけたのだと、そう思った。
 そうして啓太は、大きな瞳に涙をいっぱい溜めたまま部屋を出て行った。
 俺は追いかけることが出来なかった。
 ほんの少しだけ啓太を苦しめたらそれで満足のはずだったのに、苦しめて傷つけた、その事が苦しくてたまらなかった。

××××××

「ああ、どうしよう。」
 ため息をつきながら、のろのろと廊下を歩いて学生会室の前まで来ると、さらにため息をついてドアの鍵を開けた。
「・・・たく莫迦なやつだ。」
 聞きなれた声の、背筋が寒くなるくらいの優しい声色に、俺はドアを開けたまま立ち尽くした。
「中嶋さん・・。」
 なんで?そう言おうとして、眠る啓太の姿に気がついた。
「何しにきた?」
「ここはもう俺の仕事場です。あなたにそんな風に聞かれる筋合いじゃありません。」
 さっきとは比べ物にならないくらいの低い声に俺は警戒しながら、それでも強気を装った。
「ふん。分かった。確かに俺はもうこの部屋の住人じゃない。」
 身構えた俺に、あっさりとそう言い放ち、啓太を抱いて立ち上がった。
「なんではだし・・?」
 体育の授業から居ないはずだ、着替えて外に出ようとした啓太をたぶん、この人がこの部屋に連れてきたんだ。
「・・ああ、忘れていた。お前、啓太の靴回収しておけ。」
「は?」
「窓の外に落ちているはずだ。」
「なんで?」
「俺が捨てた。」
「・・・・。」
 一体何があったんだ・・・?あれ?啓太の手首・・なんであんなに赤く・・・。ちょっとまてよ?
「あなた啓太に何したんですか?」
「なにって?そんなの俺の勝手だろう。」
「勝手って、啓太にそんな傷をつけて、それはあなたの仕業でしょう?」
 今まで、啓太が傷を作っているところは見た事がなかったから、安心していたんだ。この人は、サディスティックな性格だけど、でも啓太の体に傷を作ったりはしていない・・・啓太は一応は大切に扱われているのだ・・と信じていた。
「これか?こいつが予想外に暴れただけだ。」
「暴れただけって・・。」
「うるさい。意図的にこいつを傷つけたお前にそんな事を言う資格があるのか?」
「え・・・。」
 知ってる?啓太が話したのか?
「啓太はお前を信頼している。莫迦だからな。
 だが、俺はすぐに気がついたぞ?お前の企みなんてすぐに分かる。啓太の傷ついた顔はどうだった?楽しかったか?」
「・・・・。」
「啓太の倍も生きてるいい大人のすることとは思えんな。
 子供の俺にはとても真似できん。滑稽過ぎて真似出来ないな。」
「・・・・・。」
 唇を噛み、耐えるしかなかった。確かに俺は言われて当然のことをしたのだ。
 自分の苦しさを啓太にぶつけた。
 啓太のせいにして、啓太に八つ当たりしたのだ。
「・・・一度だけチャンスをやるよ。」
「え?」
 チャンス?予想もしていない言葉に俺は呆然と中嶋の顔を見つめた。
「チャンスってどういうことですか?」
「言葉通りの意味だ。こいつの頭に詰まってるのが、脳みそなのか、スポンジなのか俺も確認してみたいからな。」
「え?」
 スポンジ・・・?
「チャンスをものに出来ればお前の勝ちだ。まあ、勝負は分かりきっているがな・・・。」
「チャンスって・・・一体何なんですか?」
「俺が卒業したらわかる。」
「え?」
「こいつが俺の言ったことをちゃんと理解していれば俺が勝つだろうがな・・・こいつは莫迦だからな・・。」
「中嶋・・さん?」
 言っていることの意味がまったく分からなかった。
「くくく。いいか?鈴菱、それがお前のラストチャンスだ。覚えていろ。それを逃したらきっぱり諦めろよ?いいな?」
 どういうことなのだろう。
「あの・・・。」
「ああ、それから。」
「まだなにか?」
「啓太に恥をかかせたくないなら、掃除をしておけ。」
「え?」
「それで今回のことは許してやる。俺は優しい男だろう?」
 にやりと笑い。そうして部屋を出て行った。
「掃除って・・・・一体・・・。」
 部屋をぐるりと見渡して、絶句した。
「啓太に恥をって・・・あんたは恥や外聞はないんですか!中嶋英明!!」
 この俺に、鈴菱和希になんて事させるんだ・・!!
「くそぉ!!」
 確かにこのままにしておいたら、きっと啓太はショックを受ける。
 このままにしておいたらきっと、明日この部屋に来て、俺の顔見て泣き出してしまうだろう。
 だからって、だからってだからって・・・・!!!
「なんで他人の情事の後片付けを俺がしなきゃならないんだ。」
 しかも好きな相手の・・・ライバルとの情事の・・・後なんて・・。
「・・・・くそお。」
 情けなさすぎて、ため息も涙も出なかった。
 怒りに震えながら、それでも啓太の立場を考えて、綺麗に拭き清めた学生会室で、俺は中嶋の言った「チャンス」という意味を考えていた。

 「ラストチャンス」その言葉の意味に気がついたのは、あの人が学園から去った日だった。

                     Fin
※※※※※※※※※※

すみません、私ってば和希になんてことをさせちゃうのでしょう・・。和希ファンの皆様本当にごめんなさい。
でも、中嶋さんの怒りがそれで収まるならマシな方なんじゃないかと思うわけで・・。
もちろん中嶋さんは和希が部屋に来るだろうと予想して待っていたわけです。
ええ、うちの中嶋さんはそういう人なんです。
チョコはキスしながら食べてます。実は中嶋さんが、啓太くんの口にチョコを放り込み、『そんなに食べさせたいなら、それを食べさせてみろ。』とからかったのです。

(2006/03/07(火)〜03/10(金)の日記に掲載)







いずみんから一言

こうしてご遺作の編集作業をしていると、未完になっているものがいくつも
あるのに気がついた。
書き手として、それはどんなに心残りだったろうかと思う。
そういう意味で、この「誤解」はリクエストにちゃんと応えられただけでなく
おまけまでupできている。
この翌日くらいから和啓の長期連載に入っているので、まさにぎりぎりの
タイミングで完結したと言えるかもしれない。
なにしろ前編をupしたあと、パソコンのクラッシュもあって、後編が出るまでに
数ヶ月ものブランクがあったのだから。
ひとつでも多くエンドマークをつけられたことに、「よかったね」と言ってあげたい。

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