ホラー映画鑑賞 「ううっ。」 隣の席で、啓太が小さく唸り声を上げている。 「うわっ。」 やっぱり苦手だと思ったんだよなあ。啓太ってばなんでこれが観たいなんて言ったんだろう? 「啓太?大丈夫?もう出ようか?」 囁くと、啓太は涙目になりながら、首を横に振る。 「へ、平気だよ。俺ホラー好きだもん。」 どこが平気なんだか。 「じゃ、いいの?」 でもそんな強がりを言ってる処が可愛くて、ついつい俺は意地悪を言ってしまう。 「い、いいよ。・・・う・・。」 主人公が恐る恐るカーテンを開くと、顔半分腐ったゾンビが窓ガラスに張り付いていた。 「うわっ。」 ビクン。身体を振るわせて、腕にしがみ付く、これだけ恐がってくれれば映画作った奴らもそりゃ嬉しいだろうって云う位の反応。 「出る?」 「だ、大丈夫だよ。」 本気で泣きそうになってるぞ?いいのかな? 「いいの?」 「いいの。最後まで見ないと恐いもん。ゾンビがどうなるか気になるじゃないか。」 なる程、そういう理屈か。 「じゃ、がんばって。」 にっこり笑って、肩を抱く。 「か、和希。」 「大丈夫。一番後ろだし。全然混んでないから。周りに誰も座ってないだろ?」 狙って後ろの席にしたんだけどね。 「う、うん。」 よっぽど恐いのか、啓太は素直に身体を寄せてきた。 「恐くないからね、ホラー好きなんだから。」 まだ強がり言ってるし。可愛いなあ全く。 「はいはい、分かってるって。」 ホラー映画万歳って感じ。loveloveデートって感じだ。 「本当だからな?」 「分かってます。啓太?」 「え?」 「後ろ・・・・。」 「ひっ。」 ぎゅっと服にしがみ付き、啓太が震えてる。か、可愛すぎる!! 「ふふ、嘘。」 あ〜もう、抱き締めちゃお。 「か〜ず〜き〜!!」 「ごめんごめん。ほらあんまり騒ぐと怒られるよ。」 「あ・・・。もお、後で何かおごってよ?」 半べそかきながら、啓太はそれでも強がってプンプン膨れている。 でも恐いせいか、ぎゅっと抱き締めてるのに、文句もでない。 「はいはい。ごめんね。なんでも奢ってあげるから。」 こんな可愛く甘えてくれるなら、幾らだって奢っちゃうよ。 楽しいなあ、ホラー映画って。 ++++++++++ 「和希?仕事終わった?」 「まだ、もう少し。」 「・・・・・・あの。」 「ん?」 映画を観て、食事をして、寮に戻ると、仕事があるからって部屋に戻った。 「退屈?ごめんな、まだ処理を始めたばかりだから・・。」 啓太の部屋の前で別れて、まだ10分と経ってはいない、だけど啓太はなんだか泣きそうな顔でドアを開けた。 「和希?」 「ん?」 切りの良いところまで作業して、啓太の方を向く。 「あとどれくらい掛かる?」 ドアを半分だけ開けて、啓太が甘えた声で聞いてきた。 「ん〜、三十分位かな?」 「そのあいだ、ここに居たら邪魔?」 「いいけど、啓太退屈だろ?」 「退屈じゃないから〜。居てもいい?ね?和希ぃ。」 珍しいなあ、啓太が傍に居たがるの。いつもは俺がベタベタくっつくほうなのに。 「どうした?」 「・・・・。」 「啓太?」 「だってえ。」 「ん?」 「ゾンビがあ。」 ゾンビ?え? 「啓太あれ映画だよ?作り物。」 「作り物だって何だって恐いんだってばあ。カーテンの隙間から見てるかも・・・とか・・・。」 ドアを閉めて、鍵まで掛けて、啓太は俺の首にしがみ付いてきた。 「啓太?」 可愛い!!なんて可愛いんだろう!! 「一人で部屋にいるの恐いんだよぉ。ここにいてもいい?」 甘えた声で、大きな瞳を潤ませながら、啓太がそんなの事云うと、はっきり云って理性がどっかに飛んでいきそうになる。 「ホラー好きなんだろ?」 それなのに、つい苛めてしまう。 「・・・・いいよ!!そんな意地悪言うなら、七条さんとこに行くから!!今日七条さんの部屋に泊めてもらうから!!」 「え?な、なんで七条さんなんだよ。」 「だって、オカルト得意だから、きっと退治してくれるもん!」 「退治って!!ゾンビは作り物だってば、それにあんな人の所に泊まったりしたら、映画より恐い目にあうぞ!」 「え?」 「・・・・あ・・・えと・・そ、そうだ。」 急ぎの仕事・・・ううん。いいや啓太が寝た後にしよう。 「なに?」 はっきり言って、啓太のこんな(怯えて)潤んだ瞳に見つめられて勝てる男なんて居ないって。うん。仕事は後だよ、後。 「さ、啓太。」 ノートパソコンの電源を落とすと、啓太をベッドに引き寄せる。 「え?」 「ちゅ。」 抱き寄せて、頬にチュッと音を立ててキスする。 「和希?」 「楽しい事してたら、怖い事なんて考えないだろ?」 「それは・・そうだけど。仕事は?」 「後で。」 仕事なんてやってる心境じゃないよ、もう。大興奮中だってば。 「いいの?」 大きな瞳がウルウルと潤んで見つめるから、にっこりと笑って頷いてあげる。 「いいの。可愛い啓太が怯えたままなの嫌だから。」 そうして自分の行動を正当化する。と素直な啓太は 「和希大好き!!」 といって抱きついてきた。 よっぽど恐かったんだなあ・・。 啓太ってば、いつだって仕事を優先しろって煩いのに。 「恐くなくなるように、いっぱいしような(^_-)-☆」 「う、うん。」 コクコクと啓太が頷く。可愛すぎるよ。全く。 「大丈夫。恐くないよ。」 優しく耳元に囁きながら、ホラー映画万歳!な気分だった。 甘えて欲しくなったら、だましてホラー映画観せようかな? なんて考えてたのは、内緒の話。 Fin 『喧嘩の理由』の和希がなんだか可哀想だったので、明るい話を 書いてみました。 和啓の20は、このお題が書きたくて選んだのです。 タイトルを考えるのが苦手なみのりにとって、タイトルが決まってると 云うのは、なんだか書きやすいかも・・・とちょっと思いました。 |
いずみんから一言 |
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