ごはんができた





 ぐつぐつぐつぐつ煮込んで煮込んで、美味しくなれ、美味しくなれと混ぜながら、ソファーに眠る和希を見てた。
『何か手伝おうか?』
 なんて言いながらカウンター越しにキッチンの中を覗き込む和希の姿は、小さな子供みたいでちょっと可愛い。
 大人のくせに、和希って時々すご−く可愛いときがあるんだよね、言ったこと無いけど、秘密だけどそう思うんだ‥こんなこと思うの俺だけかもしれないけど、そう思う。
「あとは、ルーを入れて、弱火にして‥っとその前にホットケーキの準備しなきゃ。」
 鍋の火を弱めてから、ボールにホットケーキミックスと卵と牛乳を用意して、カシャカシャと混ぜ合わせる。
 とろ〜りとした液体を、熱したフライパンの上にお玉で流し込み「綺麗に焼けてよ?」と言いながら弱火にする。

 ケーキを買おうかどうしようか悩んで、手作りすることに決めたんだ。
 だってどうせなら、全部手作りでお祝いしたいなあ‥って思ったから、一生懸命考えた。
 スポンジケーキなんか焼けないし、売ってるケーキの台にクリームを飾っただけじゃつまらないから、一生懸命考えて、ホットケーキで作ることにした。
 実は俺の母さんが考えた、その名もスペシャルホットケーキ。
 いつも笑って誤魔化されちゃうんだけど、このホットケーキには嬉しい思い出があるらしくて、作るたびに
「これを食べると幸せになるのよ。」と母さんは言ってたんだ。
「冷ましてる間にサラダを作ってカレーも仕上げて‥。あ、ラッシーも作らなきゃね。ゆで卵も。」
 やることいっぱい大忙し。
 せっせとホットケーキを焼いて、冷ます。
 レタスを洗ってトマトは櫛形に切る。アスパラを茹でて、玉葱をすりおろしてドレッシングを作る。
 ゆで卵は半熟に、ラッシーは、ひえひえ状態の今が飲み頃って感じ。
「あとは、飾り付け。」
 冷めたホットケーキに生クリームをたっぷり塗って、スライスした苺を挟んで重ねていく。一番上に生クリームを絞って、苺を3つ飾りに乗せたら、ほ−ら出来た。
「次はカレーを盛り付けよ!」
 ご飯をハート型で抜いてお皿の真ん中に、カレーをその周りにぐるっと掛けたらトッピング。
 半分に切った半熟卵、小さなハートで型抜きして茹でた人参に、同じくハート型のチーズを乗せる。
「なんかすご−くメルヘンっていうか、なんていうかだけど、本当にこんなんでいいのかなあ?」
 学生の振りしてるけど、和希は大人なんだよね。
 こんな子供っぽいメニューでお祝いされて本当に嬉しいのかなあ?
 ちょっと不安になりながら、テーブルをセッティングした。
 可愛いテーブルクロスを掛けて、真ん中にケーキを置いて、カレーのお皿を並べて、サラダにスプーンとフォークも用意して、ラッシーを注いだグラスを置いたら用意はOK。
「さて、起こさなきゃ。」
 すやすやすやすや、気持ち良さそうに寝てる和希を起こすのはちょっと気が引ける。
 たぶん昨日も遅くまで仕事してたんだろうな。
 和希はどんなに疲れてても手を抜いたりする人じゃないし、疲れてるんだろうなあ。起こさないほうがいいのかな?
「でも和希すっごく楽しみにしてたし、起こした方がいいよね?」
 くうくう寝てる和希に、ごめんねと謝りながら、頬をつつく。
「か−ずき。」
 優しく優しくささやいてみる。
 起きてよ和希。一緒にカレー食べようよ。
 自分で言うのも図々しい気がするけど、今日のはすっごく美味しく出来たんだぞ?
 ケーキもね作ったんだよ。スペシャルホットケーキは、うちの母さんの得意術なんだぞ?
 これを食べると幸せになるんだから‥本当なんだから。
「和希ぃ。」
「ん‥‥啓太‥?」
 うっすらと目蓋を開いて、和希が俺の顔見て笑う。
「‥‥!!!」
 あ−心臓に悪いっ!
 この笑顔反則だよお。親父の癖にぃ!大人の癖に!なんで和希の顔ってこんな綺麗なんだよ。
「んん‥。」
 焦る俺の気持ちも知らないで、むにゃむにゃと口の中で何か言いながら、和希はクッションを抱えてまた眠りの中に戻ろうとする。
「わ−!和希寝ちゃだめだってば。」
 慌てて肩を揺すると和希は「起きるからキスして」なんてフザケタ事をいいだした。
「も−和希!」
 本当に寝てるの?ちょっと怪しく思いながら、頬にチュッとキスをして、ゆさゆさと和希の肩を揺らした。
「和希、起きてよ和希ってば。」
 寝呆けてると一人でカレー食べちゃうぞ?
 誕生日おめでとうなんて言わないぞ?いいの?和希。
「和希、起きてよ和希ってば。」
 大好きだから早く起きてよ、一緒にカレー食べようよ。
 ご馳走だよ。俺の作ったカレーだけど、これはご馳走。だって心込めたもん。美味しくなーれ、美味しくなーれって作ったんだよ。
 知ってる?好きな人と食べるご飯はいつだってご馳走なんだよ。だからご馳走、ただのカレーだけど、これはご馳走なんだよ。

 誕生日にはケーキを食べてご馳走食べてお祝いするんだ。
 おめでとって言ってね。
 早く俺に言わせてよ。
 和希、誕生日おめでとう。ずっと傍にいてくれてありがとうって、早く言わせて?
 ね、和希いいかげん起きてよお。
 も−!キスしちゃおうかな?キスしたら目を覚ますかも、童話のお姫さまみたいにさ‥どう?
「和希、起きてよ和希ってば。」
 ゆさゆさと和希の肩を揺らしながら、俺の頬はこれ以上無いくらいにゆるんでいた。

           Fin

※※※※※※※※※※
はい、バカップル和啓のハピバ話、啓太編でした。
相変わらずタイトル決めるの苦手です。とほほ
スペシャルホットケーキの話はそのうち詳しく中啓の方でやりたいと思います。(啓太くんの家族設定は、中啓と和啓は共通なのです。)

みのぷりんも無事一周年を迎えました。
いつも来てくださる皆様、本当にありがとうございます。
(2006/06/10(土)の日記に掲載)



いずみんから一言

未来日記の機能でupされた1周年記念作品。
まさかサイト開設1周年を病院で迎えるなんて思わなかった
だろうな、と思うと心が痛む。
確かこの直前に高熱を出していて、この日はまだ下がって
いなかったはずだ。
スペシャルホットケーキの話、読みたかったなあ……。

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