走る男の話 泣いてる顔しか思い出せない。 その事に気が付いて呆然とした。 付き合った時間は三年半。 それなのに、思い出せるのは泣いてる顔だけ。 ずっと一緒に居たのに。 楽しい事だって沢山あったのに。 だけど思い出せるのは なぜだろう、泣いている顔だけなんだ。 なぜだろう、そう思って気が付いた。 最後に見た顔だって事。 泣き顔が最後に見た顔だったって事。 それに気が付いて、そして・・・。 気が付いたら走っていた。 走り出していた。 家までの道のり。 いつも、避けて避けて通り過ぎていた。 あいつの家まで。 走っていた。 全力で、走っていた。 「はあ。」 荒く息を吐きながら、インターフォンを押す。 居るはずがないと思いながら、押してドアの前に座り込む。 酸欠で眩暈がした。 クラクラと眩暈がして倒れそうだった。 「はい?」 聞きなれた声がしてドアが開いた。 「?うわっ。」 「よ。」 乱れた息のまま、右手を上げる。 「どうして?」 「わかんね。」 「なんでいるんだよ。」 声が震えてるのに気が付いて、立ち上がると雅人が泣いていた。 「なんで泣くんだよ。」 「だって。」 そうだ、こいつすぐ泣くんだった。今更だけど思い出しておかしくなった。 「なんで笑うんだよ。」 「お前変わんねえなって思ってさ。」 くしゃりと髪を撫ぜながら笑うと、雅人が腕の中に飛び込んできた。 「うるせ、莫迦。」 「莫迦っていいながら、これかい。」 「莫迦には莫迦で十分なんだよ!」 「ああ、分かった分かった。」 やばいなあ、可愛いよ。 「分かったから部屋入れてくれる?」 まだ俺のこと好きだよな? 「やだ。」 「どうして?」 「お前俺のこと嫌いって言った。」 「言ったかな?」 「言ったよ!!」 「じゃ、撤回する。」 嫌いになんてなれるかよ、こんな可愛い奴。 そんな気持ちで、ぎゅうっと抱き締める。 「なんだよそれ!!」 腕の中でもごもごと動くから笑いが止まらない。 「ごめん、俺莫迦だからさ。」 「え?」 「莫迦だから今頃気が付いたんだ。俺お前の笑い顔が好きなんだって。」 なのに泣き顔しか思い出せない。 哀しそうに、辛そうに泣くお前の顔しか思い出せないんだ。 それが辛かった。凄く辛かった。 「勇輔?」 「なあ、俺莫迦だから、今頃気が付いたんだよ。お前がいないと駄目だって。」 「え?」 「すっげえ好きなんだって、今頃気が付いたんだよ。」 「嘘つきだ。」 「嘘じゃねえから。なあ、だから部屋入れてくれよ。」 嘘じゃない。本当だ。 「あんなに酷い事言ったくせに。」 「ああ。」 確かに言った。酷い事。 「俺、凄い辛かった。哀しかったんだぞ。」 「ああ。」 「なのにそれかよ。それで・・・。」 「ごめん。謝るから。」 「・・・。」 「俺のこと、もう嫌いになったか?もう俺はいらない?」 背中を撫ぜながら聞くと、小さく首を横に振った。 「じゃ、部屋に入れてよ。」 「やだ。」 「なんで?」 「部屋汚い。」 その一言で、力が抜けた。 「・・・・お前、莫迦なとこ変わってないな。」 大爆笑しながら無理矢理中に入る。 「莫迦莫迦言うなよ!莫迦!」 靴を脱ぎながら、後ろ手にドアを閉めて鍵をかける。 「莫迦でもいいよ。お前が言う分には問題ねえし、許す。」 「なんだよ、許すって。」 「だから笑ってくれよ。」 「え?」 「なあ、お前の泣き顔ばっかチラつくんだよ。すっげえ辛かった。」 「え?」 「何度だって謝るし、莫迦って言ったって怒らねえからさ、だから笑ってくれよ。」 「だからって急に笑えねえって。」 「じゃあ、許すって言え。」 「はあ?」 「俺のこと許すって言えよ。」 まだ好きだって言えよ。 「・・・・仕方ねえな。許してやるよ。」 泣きそうな顔で、頷くから、それがあんまり可愛くて、可愛すぎて俺はまた笑った。 「笑うな!」 「悪い。なんか可愛くて。あ、これ褒めてるから。一応。」 「可愛いなんて褒め言葉じゃないから。」 「褒めてるって。」 笑いながら抱き締める。ぎゅって抱き締める。 「苦しいって。」 「好きだよ。」 ごめんな。泣かせて。 「信じらんねえよ。もお。」 「信じろ。」 ごめんな。俺莫迦で。 「許すっていったんだから、信じろ。」 「・・・・。」 「もう泣かさないから。信じてくれよ。頼む。」 「一回だけだぞ?もう次ないからな?」 「ああ。」 頷いたら、細い腕が伸びてきた。 背中に回された細い腕の感触に俺のほうが泣きたくなった。 「ごめんな。」 「うるせ。莫迦」 「くくく。強がってるし。」 「うるせ〜。莫迦。」 「ま、いいか。好きだよ。」 「・・・・・。」 「大好きだから。もう泣くなよ。」 笑って、そして口付けた。 涙のしょっぱい味がした。 その後、やっぱり笑って怒らせて、そして泣かせてしまった。 莫迦はずっと莫迦のままだ。 反省せずにそう思った。 Fin ++++++++++ 久々のオリジナルです。 ちょっとみのりの好きパターンを書いてみました。 短い話を書く練習・・? って一回キャラを作るとすぐに続きを書きたくなってしまうので、 続くかもしれませんが・・。 05.826 |
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いずみんから一言 ふーん。みのりさまってこんなのが好きパターンだったんだ。 コメントを読んでそんなことを思った。 でもみのりさまがこれを楽しんで書いたのだけは伝わってくる。 そしてその楽しい雰囲気はこちらにも伝染ってくる。 申し訳ないと思いつつもストーリイはよく分からないのに、何故か 温かい気持ちになってへらへら笑っている自分がここにいる。 |
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