昼 休 み 「あれ?中嶋さんがいる。」 クラスメイトと昼ごはんを食べた後、啓太と和希は、窓辺で日向ぼっこしつつ、くだらない話をしていた。 「ほら、あそこ、中嶋さんがいる!!」 グラウンドに出て行く三年生の中に中嶋の姿を見つけ、啓太は窓から身体を乗り出すようにして、騒ぎ始めた。 「中嶋さんが、ジャージ着てるよ!!ねえ、和希!!見てよぉ。」 「ああ、次の時間、三年生は、体育祭の練習だからな。」 大興奮の啓太に、溜息をつきつつ和希が答える。 「そうなの?いいなあ。」 「なにが、どういいんだ?」 「だって、中嶋さんの走る姿見られるんだぞ?スッゴク、羨ましいよぉ。」 そんな事を喜ぶのは、学園中探しても、啓太ぐらいのものだろう・・。 その台詞を、和希や周りの人間は、大声で言いたいのを必死に堪え、笑顔で相槌をうった。 「うん。中嶋さんの走る姿は、ある意味貴重だな。」 なにせ、中嶋は殆んどの卒業単位を取得してるのだ。体育祭や文化祭の行事の準備や、本番は、全生徒必修科目になっているから、中嶋も不承不承参加しているだけで、本来なら時間の無駄、おまけに人に指図されるのが、たとえ授業だろうと本意ではない(大嫌い)な中島は、走りたくも無いのに、授業と称して走らせられてしまう・・なんて体育は大嫌いらしく、今や殆んど授業にでていないのだ。だから、ジャージ姿の中嶋は一応、貴重品であるとは言えるのだ。 「中嶋さん、本番は何にでるんだろう。楽しみだなあ。」 目をうるうると潤ませ、グラウンドに小さく見える中嶋の姿を見つめながら、啓太がうっとりと言う姿に、不快感一杯になりながら、和希は冷たく答えた。 「でないんじゃないか?」 「え?」 「王様は、体育祭とかのイベント大好きだから、全種目でるつもりかもしれないけど、その分、中嶋さんに、体育祭の進行とかの仕事は任されてしまうだろうから、当日は超忙しいだろうし。第一あの人イベント関係嫌いだし。」 「そんなあ。」 「そんあって言ってもなあ。そういう仕事がある場合、種目参加しなくても、単位はもらえる決まりだし。」 「だってだって。体育祭だよ?」 「そうだな。」 「中嶋さん、あんなに格好いいのに? ほらほら、学園のダサいジャージだって、スッゴクよく似合ってるじゃないかあ。」 「悪かったね。」 啓太の言葉に、和希がむっとする。 「え?」 「選んだセンスが悪い?」 選んだのは、和希だったのか?・・さすがに鈍い啓太でも気が付いた。 「なんで?遠藤が怒るんだ?」 「変だろ?それ、伊藤は素直にダサイって言っただけじゃないか。」 「そうだぞ?遠藤なんか変じゃないか?大体あのジャージダサイよ?」 ここぞとばかりに、啓太の味方につくクラスメイトに、啓太が慌てる。 今ので、和希が学園の関係者だってばれたのだろうか? 「・・・いや、あの・・ダサくないよ。うん。だって中嶋さんが着るとスッゴク素敵だし。いいなあ、足が長いから、何着ても似合うよね。」 全くフォローになってないのに、周りが大人しくなるのは、会話の中心が、あの帝王中嶋英明に関する事だからだ。 なにせ、腐っても帝王。ここで何か、反論して、『中嶋さんの悪口』を言っていたなんて、帝王の耳に入りでもしたら、生きて卒業できなくなってしまう。 「そうだな。うん。格好いいよな、副会長は。」 「うんうん。何でも出来るし、凄い人だな。」 「だよねえ。背も高いし。手も綺麗だし。はあ。」 昨日の夜のエッチな事でも思い出したのか、啓太は目元を赤く染め、王様と立ち話している中嶋に熱い視線を送る。 「格好いいなあ。中嶋さん。」 「はいはい。」 和希は、さっきの『ジャージがダサい』発言にすっかり機嫌を損ねたのか、どうでもいいような返事しかかえさない。それどころか、窓に背をむけて、レース編みなんて始めてしまった。 「和希?聞いてる?」 「聞いてますよ。中嶋帝王が格好いいって話しだろ?」 「うん。そうだけど。」 「そうだな。格好いいよな、見た目(だけ)は最高だね。うんうん。さすが帝王だね。」 「和希本気で言ってないだろ?」 「言ってるって、中嶋大先生は凄いです。中身はともかく」 「それ褒めてる?」 「褒めてる褒めてる。最高の褒め言葉。中嶋帝王万歳!」 付き合っている啓太はともかくとして、一般生徒の一年生である和希が、いくら、昼休みの団欒の噂話とはいえ、あの帝王の話を適当に相槌打っている姿に、教室中の生徒が感動していた。 遠藤ってあんまり目立たないし、レース編みとかしてて変な奴だけど、ちょっと凄いよなあ。さすが、学園のアイドル啓太が親友と呼ぶだけのことはあるよ。うん、遠藤ってなんか凄い。 「もう!!絶対褒めてないぞ!!それ、なんだよ。」 プンと啓太が頬を膨らませ怒ると、さすがに和希も負けるらしい。 「褒めてるってば。あの人くらい背が高くて、バランスよく筋肉ついてれば、何着ても似合うだろ?おまけに顔はめちゃくちゃ格好良いんだしさ。」 慌てて啓太を見つめ、フォローに入る。 「そうだね。うん。いいな。背が高くて。俺もあとせめて五センチ欲しい。」 和希の態度の急変に、機嫌を直し、啓太は再び中嶋に熱い視線を送り出す。 「啓太はその位でいいって。」 「良くないよ。あ〜あ、朝起きたら突然中嶋さんくらい背が高くなったりしないかなあ?ねえ、成長期って突然伸びるって事あるんだろ?」 「伸びるねえ。成長痛とか結構くるし。」 啓太の機嫌が直ったので、安心して、レース編みをしつつ、和希が答える。 「成長痛?ってなに?」 「突然背が伸びるのに、骨の成長が追いつかなくて、ひじとかひざとかの間接が炎症起こすんだよ。痛いんだあれ。」 「へえ、和希は経験者なの?」 「そうだね、半年で、14〜5センチ伸びた時期があってさ、その時は痛くて体育は休んでたな。とてもじゃないけど、痛くて走れないから。」 「へえ、いいなあ。」 「寝てるとさ、身体中の骨がミシミシいって結構気持ち悪かったよ?」 「ふうん?いいなあ。ね、背って何時まで伸びるの?」 「大体18.9歳くらいまでじゃないのか?」 「ふうん?じゃあ。和希は何歳まで伸びた?」 「俺はね・・・。」 返事をしそうになって、慌てて顔を上げる。 「遠藤?」 クラスメイトの不思議そうな顔。 「どうした?」 「嫌だなあ。俺はまだまだ成長期だってば、これからだって伸びる可能性あるだろ?まだ16だってのに。」 「え?・・・・ああ。そうだね。」 あぶなかった・・・。これで「俺はそうだな。大学入学くらいか?」なんて言った日には、皆に「じゃあ、お前は今いくつなんだ」って突込みが入るところだった。 「・・・遠藤ってたまに言動がおかしいよな。」 「うん。」 クラスメイトの言葉など、当の二人は耳に入っていないらしい。 「和希。俺毎日牛乳一リットル飲もうかなあ。」 「おなか壊すからやめろって。」 「王様とかも大きいよなあ。よく昼寝してるせいかな?寝る子は育つって言うもんね、あ、でも七条さんとかあんまり寝ない感じするよね。身体にいいもの食べてるイメージもないし。じゃあ、なにがいいんだろう?」 学生会、会計部両方に向かって、結構な暴言を吐きながら、啓太は相変わらず窓の外を見ている。 「はあ。」 啓太の言動には気をつけよう。じゃないと、とんでもないところでボロがでて、遠藤和希は鈴菱和希だってばれてしまいそうだ。 和希は溜息つつきつつ、しっかり肝に命じて、編み物を続けた。 fin 和希と啓太君ふたりそろうと、なんだかボケボケな感じ・・。 中嶋さんのジャージ姿って・・・。 王様は似合いそうですよね? |
いずみんから一言 |
作品リストへはウインドウを閉じてお戻りください。 |