帰り道 「冬はやっぱり、肉まん、あんま〜ん♪」 変な歌を歌いながら、啓太はにこにこと白い紙袋の封を開いた。 「はい、和希。」 袋の中から、ほこほこの湯気の立つ肉まんをひとつ取り出して、俺に「はい」とくれた。 「・・・今食べるの?」 座って食べたほう良くないか?なんか抵抗あるんだけど・・なあ。 そういう意味をこめて聞くと、啓太はにっこり笑ってうなずいた。 「そう。こういうのは、歩きながら食べるのが美味しいんだよ。」 「・・・そうなんだ。」 歩きながら食べるのは行儀悪い・・と思う以前に、それが頭の中に無かったから、さっき啓太が購買で肉まんとあんまんをひとつづつ紙袋に入れてもらって、そのまま歩き出したのをみて戸惑った。 啓太どこ行くんだよ?ベンチはあそこだぞ?さっさと歩いていく啓太の後姿を慌てて追いかけながら『寮で食べるのかな?』と首を傾げていると、啓太は歌いながら袋の封を開いたから驚いたんだ。 「いっただきま〜す。」 ぱくりと啓太が食べ始めるから、俺も並んで歩きつつ、ぱくりと肉まんにかぶりつく。 「うん。甘くて美味しい。」 「啓太はあんまん?」 「そ。」 ほこほこと湯気を立てるそれを啓太はパクパクと食べていく。 「おいしいな。」 そういえば、購買のこれ、食べたのは始めてかもしれない。・・あれ?というより? 「そういえば、俺こういうの始めて食べるかも。」 「え?初めてって。」 「・・・だから、これ。」 中華料理店で器に入ったものしか食べたことなかった気がする。 「へえ。美味しいだろ?」 「うん。歩きながら食べるのも始めて。」 「へえ、こういうのってさ、部屋の中で食べるより、歩きながら食べるほうが断然美味しいって俺思うんだよね。あ〜、天気いいなあとか、寒いなあ・・って思いながら食べるのって楽しくない?」 「楽しいかも・・うん。楽しいね。」 どうしてだろう?味なんて本当適当って言うか、大雑把な安っぽい味なのに。凄く美味しく感じる。 啓太と一緒だと俺はいつも「美味しい」ってそう感じてる気がする。 「だろ?・・良かった。」 「え?啓太?」 突然啓太が手をにぎるから、俺はびっくりして立ち止まってしまう。 「へへへ。和希の手は温かいね。」 大きな瞳が見つめるから、俺はなんだか照れてしまう。 「・・・そう?」 「冷めないうちに食べちゃえよ。和希。」 「うん。」 手をつないで歩きながら、残りの肉まんをぱくついて、適当な話をしながら寮までの道をデートする。 色づいた銀杏の葉が、かさかさと風に舞っているのを眺めながらのんびりと歩いていく。 「寒いっていいね。な、帰ったらホットココア作って飲もうよ。」 つないだ手の温かさが良く分かるから寒いって良いね。その思いをこめて、啓太の細い指先をぎゅっと握ると、 「ふふふ。うん。」 うなずいて、啓太もぎゅって俺の手を握り返すから、そんな些細な行為が俺をとてつもなく幸せにしてしまう。 「なんか、幸せ。」 啓太が言うから。俺はもっと幸せになってしまう。 「俺の好きなこと、和希が好きって言ってくれるの凄く嬉しい。」 「え?」 「並んで歩きながら肉まん食べるのも、寒い道を手をつないで歩くのも、嬉しい。」 「・・・そうだな。」 些細な行為なのに、日常だっていうのに、それが嬉しい。小さな小さなことだけど。 「ふふふ。らぶらぶって事だよな?啓太。」 誰も居ないのをいいことに、ちゅっと啓太の頬にキスすると、啓太は一気に耳まで赤くなる。 「和希!!」 「へへへ。大好きだぞ。啓太。」 俺って、今世界一幸せかもしれないぞ啓太。なんて思いながら、俺はにっこりと笑ってみせる。 「そんなの。俺の方が好きだもん。も〜!!寮まで競争!!負けたほうが明日の昼ごはんおごること!」 照れた啓太はそう言って俺にかばんを押し付けて、走り出してしまった。 「おい、ずるいぞ啓太!!啓太ってば!!」 名前を叫んで追いかけながら、俺は小さな幸せに頬が緩んで仕方なかった。 Fin ほのぼの、ばかっぷるの日常って奴ですね? 木枯らしもなんのその。和啓には年中らぶらぶしていて欲しいものです。 |
いずみんから一言 |
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