鐘の音





「はい♪」
 電話に出た啓太の周りはやけに賑やかだった。
「啓太?」
 今どこにいるんだろう?もうすぐ12時、年が明ける時間。
「和希?どうしたんだ?」
「ん。今何してるのかなって思ってさ。」
「暇なの?和希。仕事終わったんだ良かったね。」
 年明けて最初に話す相手が俺だったらいいな、近くに居られないけど、新しい年を啓太と一緒に迎えたい、そう思って電話を掛けたんだ。啓太もそんな事思っててくれたら良いなあって、なのに啓太はそんな俺の気持ちなんて気がつきもしないで、のんきにつめたい言葉を吐くから、俺は悲しくなってしまったんだ。
「うん、終わったよ。啓太は何してるの?ずいぶん賑やかなところに居るみたいだけど。」
 一体どこにいるんだよ。楽しそうな賑やかな声が聞こえてくるんだけど?
「いまね、これから除夜の鐘をつくんだ。もうすぐ始まるんだよ。俺ね三番目」
「鐘?それ普通の人がつけるのか?」
 予想外の答えに俺は驚きの声を上げる。
 除夜の鐘ってそういうものだっけ?
「うん、うちの近所のお寺はねみんなでつくんだよ。あ、始まった」
 啓太のつぶやきとともに凄い音が響き出す。
「和希このまま待っててね」
「啓太?」
 ガサガサと雑音がして、その後大きな音が響いた。
「うわっ」
 なんだ?今の音。鼓膜が破れれるかと思った。そしてまたガサガサと音がする。
「お待たせ」
「啓太?」
「鐘ついてきた。」
「え?もう?」
「うん。聞こえた?携帯、ポケットに入れてたんだけど。」
 いまの音は鐘の音か。そうか、そりゃ凄い音な筈だよ。
「うん、なんか凄いのが。」
「結構響くよね。へへへ。びっくりした?」
「うん」
「和希の煩悩飛んだかなあ?」
「え?」
「除夜の鐘って煩悩の数なんだろ?でも、和希って煩悩だらけだもんなぁ。108回じゃ足りないかも」
「啓太ー。」
 酷すぎる。あんまりだろそれ?
「ふふふ嘘だよ」
「ったく酷いなあ。」
「だってさあ、和希って・・・。」
「ん?」
「ううん、なんでもない。ああ、寒い。」
 鐘の場所から少し離れたのか、電話越しの鐘の音が少しだけ小さくなって、啓太の声が近くなった。
「一人なのか?」
「ううん。家族みんないるよ。母さん達は、お札を頼みに行ってるんだ。俺だけ先に鐘の方に来たんだ。」
 家族揃って御参りかあ・・・。なんだか啓太の家って感じだな。
「楽しい冬休みって感じだな。」
「うん、楽しいよ。明日は地元の友達とも逢うし、久しぶりに母さんのご飯だし。」
 楽しそうな啓太の声。俺なんか居なくても全然平気って感じの楽しそうな声。
「久しぶりなんだから、楽しんで・・・うん。友達ともゆっくり話してさ。」
 なんだか凄くつまらない気分なのに、俺はそんな強がりを言ってしまう。
 啓太?俺に逢いたくない?俺は、俺は凄く逢いたいよ。
「ふふふ。」
「ん?」
「なんか変な感じだな。地元で和希の声聞くのって。」
「そう?」
 逢いたいよ、啓太。なんで傍に居ないんだろう。
 なのに、なんで啓太はこんなに楽しそうなんだろう。
「へへへ。でもたまに離れてるのもいいか。」
 俺の思いを見事に無視して、啓太はこんな酷いことを言うんだから、がっかりしてしまう。
「なんで?」
 いつだって一緒に居たいんだけどな俺は。そう思ってるのって俺だけなのか?
「だって、電話くれるの嬉しいから。」
 え?
「俺愛されてるな〜ってね。へへへ。」
「なんだよそれ。」
 愛してるに決まってるじゃないか。
「離れてると思うってこと。」
 よく分からない。啓太が何を言いたいのか、何を考えてるのかたまに分からなくなる。
「俺は、いつだって傍に居たい。啓太を腕に抱いて、啓太の傍で眠りたい。」
 叶うなら、誰にも啓太を見せずに閉じ込めて、俺だけのものにしていたい。
 友達も家族も・・・啓太から引き離して、そうして俺だけのものに・・・。
「やっぱり和希の煩悩は108じゃたりないかもなあ。」
 なのに、なのに啓太はそんな風に俺の言葉を茶化してしまうんだ。俺の気持ちをはぐらかして笑ってるんだ。いつも。
「啓太?俺は真剣なんだよ。」
「俺だって真剣。ね、和希・・・年が明けたよ。」
「え?」
「十二時過ぎた。」
「ああ。」
「あけましておめでとう。和希。」
「あけましておめでとう。」
 なんだかちっともめでたくない気分なんだけど。
「ね、和希?」
「ん?」
「・・・・へへ。」
「なんだよ。」
「今年初めて話した相手は和希だね。」
 そりゃそうしたくて電話したんだってば。
「・・・あのさ、電話。」
「ん?」
「除夜の鐘ついたら、電話しようって思ってたんだ。和希に。」
「え?」
「和希とさ、一番最初に話をするの俺だといいなって思ったんだよ。」
「・・・え?」
「俺、4日には帰るから。あ・・・・父さん達来たから電話切るね。じゃあね!!」
 慌てたように電話が切れて、そして俺の顔はだらしないほど緩んでいた。
「なんだ、俺たちって、以心伝心って奴?」
 携帯を見つめながら、意味なく照れて頭をかいた。
「へへへ。」
 そうしてなんだか幸せな気分のまま、俺はベッドにもぐりこんだ。

 除夜の鐘は、108回。それは人の煩悩の数だというけれど、俺の煩悩って本当にそれ以上あるのかもしれない。
 そんな事を思いながら寝たら、かなりエッチな夢を見てしまった。
 だけど、それは啓太には内緒。だって、ぜったい怒るからね。
                                  Fin

      あと、数時間で年が明けますね・・・。ああ、バタバタした一年でした。
      皆様良いお年を・・。来年もどうぞよろしくお願いします。







いずみんから一言

みのりさまの年越しの話には、この「鐘をつく」パターンが多いと思う。
ご実家の方ではそうなんだろうかと思ってみたり。
(我が家の方ではそんな楽しいお寺は1軒もないので・笑)
年甲斐もない和希がちょっと楽しい。

みのりさまにはけっして「いい年」とは言えない年だったと思うけど。
でも充実した年ではあったよね?
私にとっては、ネットのこちら側にしかいられなかった自分の無力さを
思い知る1年となった。

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