君のため〜 GWが終わって久々の学校での昼休み、和希が仕事でいないので、俺は一人で、中庭でお昼を食べていた。 「いい天気だなあ。ふふ、中嶋さんお昼食べたかな。」 GW中ずっと、中嶋さんのマンションで過ごした。 「ふふふ。中嶋さん。」 春休み、中嶋さんにマンションの鍵を貰って以来、休みのたびに遊びに行っていたけど、やっぱり何日も一緒にいられるのは嬉しかったりするんだよなあ。 「昨日は、誕生日も祝ってもらえたし、俺って世界一の幸せ者かもぉ。」 食べ終わったパンの袋を牛乳のパックと共に、ビニール袋にまとめながら、ついつい笑ってしまう。 「ふふふ、中嶋さんてなんだかんだ言っても優しいんだよなあ。」 幸せ。その一言に尽きてしまう。 「ふふふ・・・あれ?トノサマ?」 「ぶにゃ?(やあ、啓太。久しぶり。)」 植木の陰から現れたのは、トノサマだった。 「トノサマ久しぶり。元気だった?」 「ぶみゃあ(俺はいつだって元気さ。お前こそ元気そうだな。)」 相変わらず、絶妙なタイミングで、トノサマは返事を返してくれる。 「ふふ、トノサマと会話してるみたいだなあ。」 俺にはトノサマが何はなしてるかなんて勿論解らないけど、トノサマ自身は俺の話を理解してるらしく、ちゃんと返事をしてくれるんだ。 「ぶみ(いい加減お前も俺の言葉覚えろよ。)」 「・・・?トノサマお腹すいてるの?あ、そうだマドレーヌあるよ。食べる?」 デザートに食べようと、寮から持って来たマドレーヌの包装を解いて、トノサマの鼻先に近づけてみる。 「ぶみ(旨そうな臭いだな。)」 「美味しいよ。朋子がね、あ、朋子って俺の妹なんだけど、俺の誕生日のお祝いにって作って、送ってくれたんだ。昨日誕生日だったからさ。」 「ぶみい?ぶみゃ、ぶみゃ(誕生日?お前の誕生日だったのか?俺知らなかったぞ。なんで早く言わないんだよ。・・・旨そうだな、貰うぞ。)」 「ふふふ、美味しい?トノサマ。」 ハグハグと食べ始めるトノサマをしゃがみこんで見つめる。トノサマは美味しそうにマドレーヌを食べている。猫に甘いものっていいのかな?って思うけど、トノサマはから揚げとかも食べたりするから、たぶん大丈夫なんだろうなあ。 「あ、そうだ。ねえ、トノサマ見て見て!!」 思い立って、左そでを捲り上げてみる。 「ぶみゃ?(なんだ?)」 「これね、中嶋さんがくれたんだ。腕時計。中嶋さんがずっと使ってた奴だぞ?すごいだろう?ふふふ。まるで中嶋さんがいつも傍にいるみたいだろ?」 昨日、寮まで送ってくれたとき、手首にはめていたこれをはずしてくれたんだ。 「ふふふ。『もう遅刻は許さないからな?』とかって言われちゃった。俺、もう絶対遅刻なんかしないよ。だって中嶋さんがこれくれたんだもん。」 昨日、俺の我儘に一日中付き合ってくれて、寮までちゃんと送ってくれて、その最後にこれをプレゼントしてくれた。 誕生日おめでとう。なんて言葉は一回もなかったけど、俺にはそれでも十分すぎるくらいのプレゼントだったんだ。 「中嶋さんが俺の誕生日を知っててくれたってだけですごいと思わない?トノサマ。だって中嶋さん自分の誕生日だってどうでもいいって人なんだよ?」 「・・・(啓太?そんなんで嬉しいのか?恋人なら優しくて当然だろう?)」 「幸せ、俺。中嶋さんて優しいよね。」 「ぶううみ?(だから、あいつのどの辺りが、優しいっていうんだよ。)」 「・・・俺がプレゼントした、ドッグタグいつもしてくれてるし、クリスマスにプレゼントしたライターも使ってくれてるし。昨日はね、俺、我儘いってみたんだ、「連休も終わりだし、中嶋さんとデートがしたいです!!」って、そしたらね、鎌倉にドライブに連れてってくれて、レストランで食事してね、あとね、すごぉくおしゃれなカフェでケーキもご馳走してくれたんだよ。楽しかったなあ。」 もう、嬉しくて思い出すだけで顔が弛んでしまう。 「ぶみゃ(ふうん、よかったな。眼鏡の野郎が優しくて。・・そっか誕生日か)」 「トノサマ?」 トノサマが何か真剣に考え込んでいる様子なので、俺はじっとトノサマを見つめてしまう。 「ぶみゃあ?ぶみゃ・・。(俺は何かを買うなんて無理だしなあ。でも可愛い啓太に何かプレゼントしてやりたいよな・・・あそうだ。)」 「トノサマどうかしたの?」 「ぶみゃ、ぶみゃ!!(お前にプレゼントやるから、俺についてこいよ。)」 トノサマが俺のズボンの裾を咥えてひっぱって歩き出すから、俺は訳もわからず立ち上がりトノサマの後を付いていく。 「トノサマ何処に行くの?」 ふわふわの尻尾をゆらしながら、トノサマが歩いていく。 「あれ?植物園?」 これって海野先生の研究用の・・? 「トノサマ?俺が入って大丈夫なの?」 「ぶみゃ。(あいつには、後で言っておくから、大丈夫だ。)」 「・・いいのかなあ。」 恐る恐る、歩く。警備用のサイレンなったりしないのかなあ? 「ぶみゃ(ここだ。)」 「あ、綺麗。」 大きな花壇。色とりどりの薔薇が咲いている。 「ぶみゃ、ぶみゃ(まってろよ。啓太。)」 「トノサマ?」 花壇の中に、トノサマはゆっくりとした足取りで入っていくと、ピンク色の綺麗な大輪の薔薇を一輪咥えて戻ってきた。 「ぶみゃ(ほら)」 「・・・・え?俺に?」 トノサマがじいっと俺を見つめるから、俺はしゃがみこみトノサマを見つめる。 「ぶみゃぶみゃあ。(そうだお前にだ。啓太誕生日おめでとう。)」 両手で薔薇の花を受け取ると、そっと香りをかいで見る。 「綺麗・・あれ?・・甘い香りがする。」 とても、花の香りとは思えない。甘い甘い香り。 「くんくん。メープルシロップみたいな香りだよ?」 「ぶみゃ。(これは研究用の薔薇で、薔薇なのに花とは違う甘い香りがするっていう特殊な薔薇なんだ。お前、甘いもの好きだろう?)」 「ふふふ、なんだか楽しいね。嬉しいよ。トノサマありがとう。」 「ぶみゃあ。(ふん、可愛い啓太の誕生日だからな、特別だ。内緒にしろよ?本当はトップシークレットの研究材料なんだから。)」 「凄く嬉しいよ。トノサマにまで誕生日お祝いしてもらっちゃった。」 にっこりと笑うと、トノサマはつまらなそうに、低く鳴いて歩いて行っちゃった。 「いい香り、トノサマありがと。」 薔薇の花を生けてこようと、ゆっくりと寮に戻りながら、ちょっと考える。 「他の人(猫)に、薔薇の花貰ったって言ったら。中嶋さんなんていうかなあ。」 お仕置きだって言うかな?ふふ。 「なんだか、嬉しいから内緒にしておこっと。」 秘密だよね、トノサマ。二人だけの秘密。 「なんだか嬉しい。」 幸せ気分で、俺はゆっくりと歩いた。 甘い香り、幸せの香り。 「ハッピーバースディー♪啓太君。」 一人歌って照れる。十七歳の誕生日。凄く幸せに始まった感じだよ? 「中嶋さんもトノサマもありがとう!!」 きっと、俺くらい幸せな誕生日を過ごした人なんて、そういないよね?なんだか、じっとしていられなくなって、幸せ気分一杯で、俺は寮までの道を走りだした。 FIn 「あなたが私にくれたもの〜♪」と歌いながら書きました(古いですね。) GWの人混みの中、中嶋さんがドライブに行くか?というツッコミは無しにして、 何故、場所が鎌倉なのか?というと、みのりが行きたかったからです。 美術館みたいし〜、温泉も行きたいし。ああ、お休みが欲しいです。 啓太君誕生日おめでとう!ということで、これも「あまあまハニー」様に投稿したもの。 本当に本当に、上高地様にお世話になりっぱなしの、みのりです。 今度からは、ちゃんと保存してから投稿しますので・・。(まだ迷惑かけたいらしい・・) ところで、へんな香りをつけられた薔薇の花、栽培理由はなんなんでしょう? 海野先生なら、意味無く、おいしそうだから・・と作ってそうな気もしますが。 |
いずみんから一言 |
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