気にしないで |
「気にしないで」の啓太くんを描いてみました。 まあ、こんな感じで頬を染めて中嶋さんの手を 見つめていたと思っていただければ・・・。 |
画 ・ みのり
「中嶋さんできました。」 今日も王様の居ない学生会室で中嶋さんのお手伝い。 正確にはもうお手伝いじゃないんだけどね、もう中嶋さんは学生会の人間じゃない。先週全て仕事を引き継いで、俺が学生会長になったんだ。 中嶋さんは、残った仕事を片付けに来た。俺はその仕事のお手伝い。これが最後のお手伝いかもしれない。 頼まれた手紙の清書を終えて、中嶋さんの前に立つ。 「ん。」 「・・・。」 中嶋さんは、色んな事に厳しい。誤字脱字は当たり前だけど、本当に些細な事まで気が付く人なんだ。だから、チェックをお願いする時はいつもドキドキしてしまう。 「どう・・ですか?」 無言・・・何か間違ってたりしたかなあ?ちゃんと確認したんだけど、それとも字が汚い?うううう・・・俺あんまり大人っぽい字とか書けないし・・・。丁寧に書いたつもりなんだけど・・・。 昨日、あんまり眠れなかったしな・・。 「・・・。」 一枚一枚チェックされる手紙を見ながら、俺は中嶋さんの手に見とれていた。 中嶋さんの手って凄く綺麗だと思う。 指が長くて、つめの形が整っていて、凄く綺麗に動く。 今まで、他人の手なんて気にしたこと無かったんだけど、中嶋さんの手は特別なんだ。 細いんだけど、華奢なわけじゃない。大きい手だと思う。 綺麗な手だと思う。 中嶋さんみたいに綺麗だ・・・って中嶋さんの手なんだけど、なんていうか中嶋さんらしい手なんだ。 傷一つない、少し冷たい手。 それが中嶋さんの手なんだ。俺の大好きな中嶋さんの手。 この手に触れられると俺は、なんとも云えない幸せな気持ちになってしまう。 煙草を吸うせいなのかな?少しだけ指先が冷たいんだ。だけどその冷たさが余計にゾクゾクさせるって俺はもう知っている。 頬に触れる指先が、首筋を撫ぜる動きが、俺をうっとりとさせる。 背中を滑る冷たい指先がやがてたどりつくのは、俺のもっとも熱い場所だから、だからいつも始めはドキリとしてしまう。 ゾクゾクするんだ、なんとも云えない奇妙な感覚。 あの指が触れる。俺の身体に・・・。 あの綺麗な手が、俺に触れる。 触れるという行為は、俺の身体を簡単に熱くする。 冷たい指先は、俺の身体に中嶋さんの存在を強く伝えてくる。 俺が中嶋さんのものだと教えてくれる。 触れていく指先。 あの温度を俺は目をつぶるだけで容易に思い出せてしまう。 俺の身体を確かめるように滑っていく冷たい手。 授業中だろうと、皆と騒いでいる時だろうと、その感覚は突然俺の前に現れて支配する。 あの手が欲しくなる。あの温度が恋しくてたまらなくなる。 恋しくてたまらない。 冷たい指先は、中嶋さんの瞳のようだといつも思う。 俺を見つめる瞳は、いつもどこか意地悪で冷たい。 それが俺は悲しかった。 冷たい視線を感じるたびに俺はビクリと身体を縮めてしまう。 本当は嫌われてるのかもしれない。 俺は頭も良くないし、とりえといえば運が良いって事だけだ。中嶋さんが今まで付き合っていた人たちと比べられたら勝てるわけなんかない・・・。 だから俺は中嶋さんの視線が怖かったんだ。ずっと。 だけど、それだけじゃない事に気が付いたんだ。 冷たかった指先が、俺の熱で温かく変わるように、俺の傍に居る時の瞳は、温かくなるって事。 皆と居る時と、俺の前とでは違うって事。 その事に気が付いてから、俺は少しだけ中嶋さんの視線が怖くなくなった。見つめられるのは恥ずかしいけど、それでもそれが嬉しくなった。 触れられるという事。 見つめられるという事。 違うように見える二つの行為は、同じように俺を熱く熱くする。 その瞳に見つめられ、その手に触れて貰える・・・それが嬉しい。 中嶋さんは気が付いているのだろうか、どれ程俺が中嶋さんを好きなのか。どれ程その手や瞳に焦がれているか・・・。 気が付いているのだろか。 夜中突然苦しくなるんだ。 中嶋さんに逢いたくてたまらなくなる。 一人で居る夜は長い。 長くて暗い。 苦しくて苦しくてたまらなくなる。 声を聞きたい。その瞳で見つめて欲しい。その手で触れて欲しい。 まるで中毒患者。 「・・・た?」 一人の夜がつらい。 もしも傍に居たいと言ったら、中嶋さんは傍に居させてくれるのだろうか・・・。もしも、もしも・・・。 「啓太!」 「え?」 「何をボンヤリしている。」 「あ、え?すみません!!」 俺、何ぼんやりしてたんだろう。 「すみません・・・。昨日あまり眠れなくて・・。」 素直に謝ってしまう。 「眠れなかった?」 「はい。なんか・・眼を瞑っても・・頭が冴えてしまって。」 考えていた、一人の夜。 同じ屋根の下に眠る中嶋さんの事。 もうすぐやってくる卒業の事。 考えていた。 その手はいつまで俺のものなのだろう。 俺は望んでいいんだろうか、この手をずっと俺のものにしたいと。 そばにいたい。ずっとそばにいたい。 望んでもいいのだろうか。永遠が欲しいと。 あなたの気持ちさえ俺にははっきりと分からないのに。 望んでもいいんだろうか。 その手で触れて欲しい。俺を見つめながら、触れて欲しい。 触れられてる間だけ、俺は永遠を信じられるから。 見つめられている間だけ、その気持ちを信じていられるから。 だから、触れて欲しい、俺に。 見つめて欲しい。その瞳で。 「・・・触れ・・。」 「え?」 「え?あ・・・・いえ、なんでもありません!!」 俺今、なんて言った? 「啓太?」 「な、なんでもありません!!手紙大丈夫でしたよね?お、俺じゃあもう帰ります!!」 恥ずかしい。俺、今なんていった? 「啓太?なんて言った?今?」 逃げだそうと鞄をつかみ、ドアの前まで走る。 「啓太?なぜ眠れなかった?」 なのに、ドアの前で腕を掴まれ引き寄せられてしまう。 「な、なんでもありません。気にしないで下さい。」 俯いて慌てて言う。 知られたくない。俺が何を考えていたのかなんて。 「気にならないわけがないだろう?」 耳元に囁く、俺の好きな声。 「でも!気にしないで下さい。何でもないですから!」 「なんでもない?なら言えるだろう?」 頬に触れる指先。少し冷たい。俺の好きな手が触れる。 「俺は隠し事が大嫌いだ。知っている筈だな?」 冷たい瞳が見つめる。 隠し事が嫌い・・・。 知ってる。そんな事知ってる。 「だって言ったら怒るから。俺を軽蔑するから。」 嫌われたくない。 「なら、なおさら気になるな。」 「そんな。」 嫌われたくない・・・。 「・・・・逢いたくて。」 「?」 「中嶋さんに逢いたくてたまらなくて。だから、だから。」 「お前の莫迦なのは今に始まった事じゃないが、くだらないな。」 ほぉら、怒った。 ぱっと手を離され、俺はヘナヘナと床に座り込んでしまう。 「ごめんなさい。」 「・・・部屋にくればいいだけの事だろう?」 「え?」 今なんて言った? 「ほら、来い。」 鍵をしめ、奥へ歩いていく。 「中嶋さん?」 「来い。」 「あの・・・はい。」 うなずいて後を付いていく。 「まったく。」 椅子に深く座り中嶋さんは俺の手を引く。 「あ・・。」 唇をふさがれ、俺の思考は止まる。 手が触れる。頬に、首筋に触れる。 「ん・・・・。」 舌を絡められ甘く吸われると、俺は簡単にうっとりとしてしまって、脱力してしまう。 「・・・中嶋さん・・。」 「夜中にやって来ようが、毎晩来ようが俺は驚かないぞ。お前は淫乱だからな。」 喉を鳴らし、クククと笑う。 「ち、ちが・・・。」 誤解だ・・欲しいわけじゃない。そう言いたいのに声にならない。 「ほお?違うのか?」 「・・・・違います。」 俯いて答える。 「触って欲しい・・・違うのか?」 「それは・・。」 「触って欲しいと欲しいは同じ意味だろう?」 「・・・・違います。」 それは違う。最終的にそうなるかもしれないけど。でも違う。 「違います。全然違う・・・違う・・。」 ぽろぽろと涙がこぼれる。 泣くのはずるい行為だと思う。なのにとまらない。 「好きです中嶋さん。」 「・・・・。」 困ったように眉根を寄せ、俺を見つめる。 「俺、俺・・・・。」 どうしたら分かってもらえるんだろう。俺の気持ちをどうしたら。 「中嶋さんが好きです。いつも傍にいたい・・・。」 触って欲しい。その指で。その冷たい手で。 見つめて欲しい。その瞳で・・・。 本当は、一回で良いから好きだと言って欲しい。 そしたら俺は安心できる。永遠を信じられる。 「居たいならいればいい。それだけの事だ。」 ぺろりと涙を舐め取って、面倒くさそうに中嶋さんが言う。 「・・・・。」 「莫迦の癖に難しく考えるな。」 「ひどいです。」 分かってもらえたとは思えない。きっと分かってない。 「莫迦だから・・・莫迦だというんだ。」 その日から卒業まで、俺は中嶋さんのベッドで眠った。 一ヶ月。卒業までの短い時間。 そして、中嶋さんが卒業した。何の約束もないまま。 俺の前から居なくなった。 Fin 卒業一ヶ月前の、微妙な心理の啓太君です。 お題・・・になってない気も・・・。まあ台詞で言ってるから それで良しとしましょう(^_^;) 次は中嶋さんサイドを書きたいな・・と。 週末にはUPできたら嬉しいなあ・・・。 |
いずみんから一言 |
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