心の扉〜心理テスト七条編〜 「あの、七条さん。一つ質問があるんですけど。いいですか?」 郁の居ない、午後の会計部室、伊藤君がティーカップを可愛く持ちながら、問いかけてきた。 「はい、なんでしょう?伊藤君。」 「答えてくれますか?」 大きな瞳を、キラキラさせて、そんな可愛く問いかけられて、断る事など出来る筈もないでしょうに、伊藤君は本当に罪な人ですね。 「ええ、勿論。」 抱き締めたい衝動を抑えながら、にっこりと微笑んでうなずいてみれば、伊藤君は嬉しそうに微笑を返してくれる。 邪魔者の居ない、二人だけの時間、なんて素敵なんでしょう。 「あのね、目の前に、水の入ったグラスがあります。さて、水はどの位入っているでしょうか?心理テストです。七条さん。」 「・・・くす。」 心理テスト・・ですか?可愛い質問ですね。 「え?どうして笑うんですか?」 「ふふ、伊藤君は僕の何を知りたいんですか?」 「え?・・あ、ダメですよ。そんな事聞いても、心理テストなんですからね、俺が、何を聞きたいか教えちゃったら、テストにならないですよ?」 プンと膨れて、そう言うから、ついまた笑ってしまう。 「そうですね、では、答えますね。ほんのちょっと・・です。」 「え・・・。」 「伊藤君?」 「・・・ほんのちょっと・・・ですか?」 「ええ、少しだけしか入ってません。」 「・・・じゃあ、じゃあ、大地震が起きました。そのグラスはどうなりましたか?一番、落ちてコップが割れる。二番落ちてグラスにひびが入る、三番倒れて水がこぼれる。四番そのまま。」 なんだか、声に元気が無くなってしまいましたね、どうしましょうか?・・・・でも・・。 「そうですね、倒れて水はこぼれてしまうのではないでしょうか?」 「!」 「伊藤君?」 「・・・・・七条さん・・・俺、俺・・・そんなに信用ないですか?」 「・・・え?」 「俺、俺・・・・本当に七条さんの事大好きです、本当です。」 「伊藤君? ちょっと待ってください。突然何を言い出すんですか? 僕は、伊藤君を疑ったりしていませんよ?」 「・・・・でも、でも・・・。」 俯いて、そうして、どんどん声が小さくなるから、慌てて抱き締めててしまう。 「伊藤君顔を上げてください。」 「・・・。」 「僕は何か、貴方の気に触る事を言ってしまいましたか?」 可愛いくて、とっても素直な伊藤君。 「いいえ、すみません。俺が変な事聞いただけなのに。」 「ね、心理テストの意味を教えてください。」 「はい、あの・・・目の前のコップは、恋人に対する自信を表しているんです。水が多ければ多いほど、相手に思われてるって自信があるっていうことで・・・。」 つまり、水が少ないという事は、相手の気持ちを疑っているっていう事・・。 「それで?大地震の方は?」 「それは、嫉妬したときの気持ち・・。」 「?」 「一番の割れるが、ちょっとの余所見も我慢できない独占欲が強い人、二番のヒビが入るが、表面では浮気OKと言いながら、されたら裏で仕返しをするタイプ。三番の水がこぼれる・・は、浮気されても相手を責めるより、自分をどんどん責めて落込むタイプ。四番は浮気されても平気なタイプです。」 「・・・そうですか・・・。」 「心理テストって当たりませんね。七条さん。」 「いいえ、当たってます。ああ、隠しておきたかったのに・・。」 「え?」 「いつもいつも、不安なんです、僕は。」 「え?」 「伊藤君は、可愛くてとってもいい子で、皆から愛されてるでしょ? だから、とても不安です。もしかしたら、僕に愛想をつかして他の人の所に行ってしまうんじゃないかって・・。」 「そんな、俺そんな事しません。絶対に。」 「本当に?」 「はい、信じてください。」 真剣なまなざしで、伊藤君は答えてくれる。 「じゃあ、僕だけが特別だという証をくれませんか?」 「証?」 「ええ、二人だけの時だけでいいです、名前で呼んでください。」 「え?」 「そして、僕も呼んでもいいですか?」 「な、名前をですか?」 「はい。」 「・・・はい、いいですよ。」 「啓太。」 「・・・・・・。」 一瞬で、耳まで赤く染まり、そして大きな瞳が潤んでくる。 「どうしたんですか?」 「・・あの、ええと・・・。」 「ね、呼んでください。」 「お、臣さん・・・・。」 「・・・もう一回。」 「臣・・・さん。」 「ふふ、はい。」 「はぁぁ。」 「どうしたんですか?」 「なんだか、凄く緊張して・・・・でも、嬉しいです。」 「え?」 「ふふ、特別・・な感じがします。」 「特別ですから。」 「・・・・はい。ね、臣さん。だから水が少しなんてもう言わないでクダサイね。」 「・・・・啓太がいつも傍で名前を呼んでくれるなら・・。」 「そばにいます。ずっと。」 ######## 「そういえば、啓太の答えをまだ聞いていませんでしたね。」 その夜、啓太の部屋のベッドでふと思い出して問いかけてみる。 「え?」 「答えです。心理テスト。」 「ええと・・水は半分よりも多くて・・大地震の方は・・一番です。」 「・・・・ふふ、嫉妬してくれるんですね。」 ちょっと意外な気がしたけれど、もしそれが本心なら、こんなに嬉しい事はないですね。 「嫌ですか?俺、独占欲強いみたいです。」 「いいえ、嬉しいです。」 「・・・良かった。」 ふにゃりと顔をほころばせ、腕が背中にまわされる。 「臣さん。お水増えました?」 「ふふ、はい。」 「良かった。」 甘い声、そして・・・少しだけ眠気を含んだ声。 「もう寝ましょうか?」 「はい。・・。」 「おやすみなさい。啓太。」 「おやすみなさい。臣さん。」 すぐに啓太は、すやすやと寝息を立て始めるから、そっと抱き締めて、癖の強い髪を優しく撫でる。 「ふふ。」 心理テスト、答えを知っていて、あんな事を言ったって、貴方は気が付いてもいないでしょうね。 「啓太。愛してます。ずっと傍に居て下さいね。」 あたなが傍にいてくれれば、きっとグラスの水はいつまでも溢れる位に入っているでしょうから、だから、どうか。 ずっと、ずっと・・・・。 心理テスト七条さんバージョンです。 啓太君の答えが、中島さんのときよりも強気なのは、やっぱり微妙な性格の違いからでしょうか?(あんまり書き分けできてませんが。) 七条さんを好きになる啓太君なら、こんな答えを出すのでは? なんて思って書いてみました。 そして、七条さんは、しっかりどんなチャンスも見逃さず利用するのでした。 |
いずみんから一言 |
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