タイトルなし(和啓)





木陰でぼんやりと本を読んでいたら、啓太が歩いてくるのが視界の端に見えた。
「・・・。」
 トノサマを抱っこして、楽しそうになにやら話しかけながらゆっくりと歩いてくる。
「啓太。」
 細い体。白い頬。気がつくとその姿に見とれていた。
「はあ。」
 心拍数が上がる。
 今すぐ抱きしめて、その柔らかい髪に触れながらキスしたい。
 抱きしめて、甘い声を聞きたくてたまらなくなる。
「どうして。」
 どうしてこんなに好きなんだろう。
 大きな瞳も、柔らかな髪も、細い指先も・・・どんな高価な宝石より、なにより俺を魅了して離さない。
「啓太・・・。愛してる。」
 初めて君を抱きしめたあの日。
 幼い君を抱きしめ再会を誓ったあの日、気がついた。
 俺は啓太と出逢うために生まれたんだって。
 だから、だから運命を信じて送った。入学許可証を、啓太との約束を果たすために。
「なあ、啓太。信じていいよな?俺たちは愛し合うために出逢ったんだって。」
 啓太が転校して来て二週間が過ぎた。
 今、俺たちは友達として凄くうまくいっている。
 啓太は俺をとても頼ってくれてるし、信用してくれている。
 だけどそれじゃ足りない。全然足りない。
「あ、和希〜!」
 遠くから啓太が手を振る。
「啓太!」
 にっこりと笑う。俺に向ける天使の笑顔。
 あれは、俺のものだ。誰にも渡さない。俺だけの笑顔だ。
「聞いてよ和希。トノサマってばさあ。」
「なんだよ?トノサマと喧嘩か?」
 立ち上がり笑いながら、近づく。友達の笑顔で。
 啓太、俺たちが愛し合うのは運命なんだ。な?そうだよな?
 今は一番の友達。だけど、だけど・・・いつかきっと。

 啓太がMVP戦のパートナーに俺を選び、そして過去を思い出すのは、もう少し先のお話。






いずみんから一言

和希〜。ファイト〜(笑)。
これは和啓に部類されていたけれども、最後の1行さえなければ
どのカプでも使えるお話である。
そして人の悪い伊住は、これを中啓や篠啓に使いたくなってしまうのだ。
この裏で篠啓が進行しているところを想像して欲しい。
あのクソ真面目な篠宮が真剣に思っていると知ったら、と。
中嶋相手なら取り戻そうと考えるだろうが、篠宮ではそうもいくまい。
そこで現れる和希の心の葛藤が面白いと思ってしまう。
みのりさまは伊住と違って(苦笑)とてもまっすぐだったので、これも
和啓に仕上げておられる。
そういう意味では、とてもみのりさまらしいと言える作品かもしれない。

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