耳に貼り付く曲





「・・・・啓太?」
「なに?和希。」
 放課後、図書館で中嶋さんに頼まれた資料を和希と二人で探していた時の事だった。
「なんか今日一日その歌、歌ってないか?」
 和希のその一言で、俺は自分の顔がどんどん赤くなっていくのに気が付いて、慌ててしまう。
「え?そ、そうだったかな?」
「うん、低く過ぎて歌詞まで聞き取れないけど。どうしたんだ?」
「き、気のせいだよ。うん。」
 しまったあ。気を付けてたんだけど、ついつい嬉しくて。
「なんなんだ?白状しろよ。どうせ中嶋さん関係なんだろ?」
「う、うん。」
 黙ってるのもいいんだけどさ。
自分ひとりの胸に秘密♪って閉じ込めて、一人喜びを噛み締めるってのも勿論良いんだけど、誰かに話して惚気たいって気持ちが強かったから、つい素直に頷いてしまう。
「今朝さ、中嶋さんが歌ってた曲なんだ。」
「はあ?中嶋さんが歌〜?」
 あんまりにも大声で和希が言うから、図書館中の視線が一気に集まってしまう。
「和希、声が大きいってば。」
「ご、ごめん。啓太?それ聞き違いじゃないのか?中嶋さんが歌なんか歌うか?嘘だろ?」
「歌ってたんだってば。本当に、お陰で俺、今日一日中その声が耳から離れなくって。」
 エンドレスに同じフレーズが頭の中をグルグルと、中嶋さんの声で聞こえてくるんだ。お陰で顔なんかゆるみっぱなしだよ。へへへ。
「中嶋さんが、歌・・・・。」
 何故か一瞬ブルンと身体を震わせて、和希は俺をじっと見つめた。
「やっぱり気のせいだよそれ。啓太の夢だって。」
 和希が力を込めて言う。そして何故か図書館中の人たちがそれに同意を示したように小さく頷いた気がする。
「そんな事ないよ。歌ってたんだってば。」
 ネクタイを締めながら、低い声で。
俺、まだベッドの中でうとうとしてたんだけど、ちゃんと聞いたんだから。
「信じられない(って言うか信じたくない。)」
「まあ、中嶋さんは、俺が聞いてたって気が付いてないかもしれないけどさ。ふふふ。」
 卒業が近づいて、俺は本当に淋しくて仕方が無いけど、それ考える度に泣きそうになるけど、でも最近なんとなく、中嶋さんが俺に素顔を見せてくれ始めた気がして(気のせいかもしれないけど)中嶋さんに近づいた気がして、嬉しいんだよ。
「まあ、いいけどさ。上手だった?歌。」
「え?うん。だって中嶋さん元々の声が凄く素敵だろ?低音でよく響いて、それで艶があるっていうか、色っぽいっていうか、格好良いっていうか・・・素敵って・・。」
「わかったから、それ以上惚気はいいから(中嶋さんの歌ってだけで心臓苦しくなるって言うのに、惚気まで聞かせないでくれよお。)
兎に角上手なんだ。」
「うん。」
「で?何を歌ってたんだ?」
「えっとねえ、『      』」
 なんとなく自慢な感じにタイトルを言ってみる。
「は?え?えええっ。」
「なんでそんなに驚くんだよぉ。って?あれ?」
 今、また図書館に居る人たち全員が和希と同じ反応しなかった?
 気のせい?
「だって、だって中嶋さんだよ?あの、鬼畜で、帝王で、悪魔の。」
「鬼畜で帝王かもしれないけど、悪魔じゃないよ!!」
 なんでそんな誤解するかなあ?和希ってば性格悪いぞ。
「ほお?否定するのは悪魔のところだけか?」
「え?」
「な、中嶋さん!!あ、俺ちょっと用事思い出した。(っていつから居たんだよ、この人〜。)」
「え?和希!!」
 あれ?なんで居なくなるの?っていうか、他の人たちもいつの間に居なくなったんだ?司書の先生まで居ないし、図書館にいるの、いつの間にか俺と中嶋さんだけになっちゃったぞ?
「俺は鬼畜で帝王って認識なんだな?ほおお?」
「え?あ、そう・・・かな?へへへ。」
 どうしよう・・怒ってる。
「ふうん?」
「な?中嶋さん?一体何処へ?」
 手首をつかまれて、そうして書庫の方へ引っ張っていかれる。
「決まってるだろう?お仕置きだ。」
「え?ええ??」
 って書庫で?誰か来ちゃったらどうするんですか〜(>o<)って中嶋さんはどうもしないだろうけど、俺は困る!!
「な、中嶋さん!!」
「嫌なのか?」
「・・・う・・・嫌じゃありません。」
 大丈夫、あそこ鍵かかったはずだし。・・・・ああ、俺中嶋さんにすっかり毒されてるよ。
「じゃ、問題ないだろうが。」
「・・・はい。」
 グルグルグルグル。中嶋さんの歌が頭の中でエンドレスに流れる。
「嫌じゃないです。」
 俺も中嶋さんに十分毒されてるけど、中嶋さんだって俺に感化されてるよ。へへへ。だってあれ俺の好きな曲だもん。
 書庫でお仕置きされながら、俺の頭の中で、中嶋さんの歌が繰り返し流れてた。


 その日の夜、和希やあの時図書館にいた人たち全員が、悪夢を見て激しくうなされたって噂で聞いたんだけど、失礼な話だよね?
 中嶋さん歌上手なんだよ。本当なんだから。
                                           Fin

             
              
         ああ、落ちが無い・・・。
         中嶋さんが何を歌ったのかはご想像にお任せするとして(^_^;           
         『   』の中にはお好きな曲のタイトルをいれてくださいね。
         朝、中嶋さんの歌声で目が覚めたらちょっと恐いかな?と
         思って書いてみました。 






いずみんから一言

怖いですか? 中嶋氏の声で目覚めるの、って。
伊住はクルマのナビの音声が中嶋氏だったらいいなと思うくらいです。
すごくぶっきらぼうに「そこを右だ」とか言うんです。
でもって間違えると「馬鹿な子にはお仕置きが必要だな」なんて(笑)。
中嶋氏の歌声で起きられる啓太くんはなんて贅沢なんでしょう。
こういう話は逆立ちしても伊住には思いつけません……。
とてもみのりさまらしい作品だと思う。

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