不機嫌な猫達 「だから?啓太?そんなにはりきって、可愛くする必要はないってば。」 ドアを開けようとしたら、理事長の声がした。 可愛い?たしかに、啓太は何をしても可愛いけど、でも、何をそんな・・。 「何をにぎやかに・・・え?」 あまり驚いたりしない。いつもは、表情もそんなに変わらない、なのに、さすがに、今日は驚いた。 「その格好。どうしたんですか?」 「あ・・・七条さん、こんにちは。へへへ。どうですか?似合いますか?」 似合うところの騒ぎじゃない。 「ね、ね、リボンと、ボンボンとどっちが、いいと思いますか?」 赤みの強い、ショートカット。いつも元気にあちこち跳ねているその可愛い髪を、今日はなぜか、サイドの髪をすくい、二つに結っている。そして、手には、真っ赤な幅広のリボンと、毛糸で出来た。オレンジ色のボンボン。どうやらそれで髪を飾るらしい。 「どちらも可愛いとは思いますけど。どうするつもりなんです?」 一週間前まで、啓太は、なにやらすねていた。すねて、会計部に来なくなり、僕を慌てさせていた。 なんだか色々勝手に誤解して、悲しんでいたのだと知り、そうしてお互いの愛を確かめ合って、更にloveloveになったまではよかったのだけど、今日のこの行動は全く謎だ。 「しかし、伊藤君はとっても可愛いですけど、理事長気持ち悪ですよ。」 「ほっといてください。」 本人も本意ではないのだろう。 啓太と同じ服をきて、そうして肩にかかる、黒のストレートの鬘をかぶって盛大に膨れている。 「ククク。臣、お前一難去ってまた一難だな。」 「郁?どういうことです。」 「今回の体育祭、お前は必死にがんばらないと、大変な事になるらしいぞ。」 「え?」 体育祭なんて面倒なもの、参加するつもりなんかないんですが。 そう言おうとして、啓太を見つめたら、大きな瞳が、期待にみちていた。 「そうだよ。和希!!俺たちが、ムリにがんばらなくても、七條さんが個人優勝してくれれば、大丈夫なんだよ。七條さん。俺、期待してます。」 「は?」 話がまったくわからない。 「・・・啓太?まず、話をしないと、幾ら、七条さんでもがんばりようがないと思うよ。・・・・うん、啓太ボンボンも似合うよ。」 リボンとボンボン、二つを並べ真剣に吟味していた理事長は、そう言うと啓太の髪にボンボンをつけ始めた。 「じゃあ、和希はリボンだね。はい。」 「・・・・ありがとう。」 「結んであげるね。」 どうみても、少し背の高い、可愛い女の子がふたり、ソファーに座ってくっついてるようにしか見えない光景に、七条は軽い眩暈を感じていた。 「あの・・・そろそろ、その服装の意味を教えてもらえませんか?」 女性用のぴったりとしたピンク色ののTシャツは、丈が短くおへそが見えている。ミニの白いプリーツスカートをはいて、足元はご丁寧に、白いスニーカー用の靴下に、ピンクのスニーカーまで揃えている。しかも、化粧もしてないのに、素で似合っているという恐ろしい代物だ。 「あの、体育祭があるじゃないですか?さ来週。」 「ありますね。」 「個人優勝ってあるでしょ?最優秀個人賞」 「ありますね。」 「それの賞品が僕たちなんです。」 「は?」 「体育祭の企画会議で、賞品は、アンケートで決めることになって、結果待ちしていただろう?お前が、昨日留守にしている間に、集計結果がでたんだよ。啓太と理事長セットで、賞品として、一日デートできる権利をプレゼントなんだそうだ。」 「なんですって?」 「私を責めても無駄だぞ?だいたいアンケートで決めるといったのは、中嶋と丹羽だからな?」 「だからって、理事長。そんなの通したんですか?」 「学園祭と体育祭に関しては、学園の品性と、予算の範囲を超えない限り、学生会と、会計部に一任してる・・・予算の掛からない、賞品なんて、事をお前たちが言い出したから、こんな事になったんだろうが?」 「和希怒っちゃだめだってば。」 「怒るよ!!学年優勝し、かつその同じ学年で個人優勝がでた場合なんて、注釈をなんとかとりつけたから、一年でなんとかしようなんて、皆がいいだして、皆優しいなあって思ってたら、こんな格好するはめになるし。」 「・・・理事長の趣味じゃないんですか?」 「七条さん?」 「いいえ、冗談ですけど、一年の優勝と、その格好とどういう関係があるんですか?応援して指揮を高めようとか?」 「違います。ほら、応援合戦ってあるでしょ?俺たちがチアリーダーになって、そこの応援合戦ポイントをかせげば、大分有利になるんじゃないかって、あれ、配点高いから。」 「なるほど、それで、可愛く着飾ってるってわけですね。」 「そうなんです。恥ずかしいけど、まあ、下にスパッツはいてるし、短パンだと思えばいいかなって。」 その解釈はおかしい。絶対に。 「くくく。」 「西園寺さん笑わないでください。」 「いや、臣と、成瀬が大変だと思ってさ。よかったな、臣。成瀬と同じ学年で、二人が競って点数を獲得すれば、学年優勝はするだろうし、個人優勝もどちらかがすれば問題なかろう?」 「それは、そうですけど。」 「よかった〜。」 「でもねえ、三年には、陸上の個人記録持ってる人間も多いし。」 「でも、がんばってくれますよね。七条さん。」 「勿論。可愛い恋人を一日でも他人に貸すなんて嫌ですから。」 「七条さん。」 「あとは、理事長が、成瀬に泣きついて、奮起してもらうしかないな。」 「・・そんなんムリですよ。あいつは俺なんかどうでもいいんだし。それよりも、七条さんに、中嶋さん対策してもらったほうが、懸命だと思うけどな。」 「中嶋さん対策?なんで?」 きょとんと大きな瞳を見開いて小首を傾げる啓太に、理事長が溜息をつく。 「啓太、中嶋さんだぞ?あの人、ああ見えて運動神経めちゃくちゃいいんだぞ?どうするんだよ、三年が一番有利だってのに、あの人が個人優勝しちゃった日には、俺たち何されるか分かったもんじゃないぞ?」 「え?」 「そうですね、あの鬼畜眼鏡には気をつけないと。」 「鬼畜って、七条さん。」 困ったような顔をして、啓太は、僕を見る。 まったく、この人は、自分が昔何をされたか忘れたんでしょうかね。 「でも、中嶋が体育祭に出たなんて話し聞いたことがないがな?」 「・・・そうか?」 「うわ!!」 何時の間に入ってきたんだ? 「なんだ、啓太。可愛いじゃないか。ん?俺に遊んで欲しいのか?」 「え・・・あの・・・。」 「鈴菱も、年のわりには、似合うな。ククク。」 「中嶋さん体育祭でるんですか?」 「そうだな?出て、お前らを一日好きに出来る権利を得るのも悪くないな。」 「一日デートです!!なんで、好きに出来るに切り替わってんですか?」 「そうだったか?」 「そうです。冗談じゃない。理事長はともかく、可愛い伊藤君は僕のなんですから。絶対あなたの好きにはさせませんから。」 「七条さん。」 「大丈夫ですよ。伊藤君。僕が必ず、この人でなしの鬼畜から、まもってあげますからね。」 「・・・?・・はい。」 にっこりとうれしそうに、抱きついてくるから、優しく髪を撫でる。 「守ってクダサイね。七条さん。・・でも鬼畜は、酷いですよ。そういう言い方はダメです。」 「え?」 「は?」 「へ?」 「くく。」 「中嶋さん、恐いけど、そんなに酷い人じゃないですもん。七条さん、俺のことで、ムキになってくれるのは嬉しいですけど、そんな風に、けんかしないでクダサイね。俺のせいで二人が仲たがいするのは嫌ですから。」 仲たがいどころか、仲良しだった事がないのが、なぜわからないんだろう。 「ククク。相変わらず面白いな。ますます、楽しみになってきた。じゃあ、じゃましたな。」 楽しそうに、嫌な笑いを残し、中嶋が、部屋を出て行った。 「何しにきたんだ、あの人。」 脱力して役立たずの理事長が、吐く。 「臣。知識くらいはきちんと与えておけ。」 郁が、苦虫をつぶしたように、ドアを睨みながらいう。 「・・・啓太?でもさあ、もしも中嶋さんが優勝したら・・。」 「大丈夫だよお。もしも万が一、中嶋さんが個人優勝とったって、きっとそんな酷い事はしないと思うし。それに、そんな事心配しなくても、きっと七条さんが、俺を助けてくれるって信じてるし。」 絶対啓太は、中嶋さんを誤解してる。 あの人が、いい人な訳がないじゃないか。酷いことしないはずがない。 「・・・。」 「ね、七条さん。絶対個人優勝してくれますよね?」 「約束しますよ。」 「はい、信じてます。」 「ハニーたち!!」 「・・うわ!!」 「成瀬さん。」 「きいたよ、君たちが賞品になるなんて、なんて事なんだ。」 うるさい、大型犬が来た。 「おや、ハニーたち今日は、随分可愛い格好だね、それは僕のため?」 「なんでそうなるんですか?莫迦みたい。」 おやおや、理事長、本気なんですね。照れて可愛いじゃありませんか。 「和希。きついよ。」 「ふふふ。遠藤は、本当にテレやさんだね。」 「・・・はあ、莫迦らしい。」 「そこで、副会長にあったよ?なんだか酷くご機嫌のようだったけど。」 そりゃ、啓太が、無意識に中嶋を庇ったせいだ。まったく。 「なにかいいことでもあったんだろうな。ところで成瀬なんの用だ?」 「ハニーたちが、ここに居るかなって思ってさ。ねえ、僕に君たちを守らせてね。体育祭絶対勝ってみせるからね。」 おや?理事長に向かっていってますね。 「ふん。ムリなんだからそんな口約束やめたほうが、いいですよ。なにせ、相手はあの、中嶋先生ですからね。それに、関係ないでしょ?あなたには。」 「あるよ。関係あるよ。僕の大切なハニーたちが、だれか他の人間に、好き勝手にされるなんて、たまらないよ。」 好き勝手・・どいつもこいつも、同じように勝手に賞品をすり替えてるし。 「り・・遠藤君はどうでもいいですけど、伊藤君は僕のですから、君が奮起してくれなくても、僕が守ります。ね、伊藤君。」 「はい。」 「・・・・でも賞品は二人セットなんだろ?」 「遠藤君はいりません。」 啓太をぎゅっと抱き締め、成瀬をにらみつける。 「じゃ、僕が、遠藤をもらうね。」 ドサクサにまぎれて、成瀬がソファーにふんぞり返っていた理事長に抱きついたから、意地っ張りの理事長は、思い切り嫌な顔をして、そして、成瀬の足を踏みつけた。 「いった〜」 「いらない、もらう。なんて俺は物じゃない!失礼な。」 ミニスカートだってのに、成瀬を足で追い払い、ソファーの端による。 本気で怒ってる。ふうん?プライドだけは高いな本当に。 「ハニー?」 「なにが、ハニーだ。馬鹿らしい。あなたが好きなのは、啓太でしょ?そうやってあっちもこっちもくっついて、やっぱり軽薄すぎる。」 やっぱり?以前なにかあったんでしょうか? 本気で、守りたいって言ってるのがなんで解らないのでしょうね?素直に喜べばいいと思うのですが。可愛くないですね。年よりは。 「成瀬さんのいう事なんか、なんにも信用できない!!いつも軽くて、それにあなたが好きなのは、啓太でしょ?俺のことなんかほっとけよ!!」 恋は盲目。まさにそう。 年齢不詳の理事長でさえ、こんな状態なら、感情を出す事をおぼえたばかりの僕が、ああなっても不思議はないのかもしれないですね。 「和希?・・・泣かないで。」 腕からするりとすり抜け、啓太は、幼馴染を慰めている。 「・・泣いてないよ。啓太。ごめん心配かけて。」 くすんと鼻をならし、啓太を見つめる。 ううん・・・どうみても、美人な女の子ふたりですよ。やっぱり。 「ううん。和希は俺の大切な親友だからね。和希が泣いたら淋しくなるよ。ね、泣かないでよ。大丈夫だよ。和希のことは、成瀬さんが守ってくれるから。」 いつもと立場が違う。啓太は、和希の前にしゃがみこみ、和希の頭をなでている。優しいな啓太は、全く優しくするのは僕だけでいいのに。 「ありがと、啓太。」 「よし!!じゃ、俺たちもがんばろうね。」 「がんばる?」 「何を?」 「うーん、歌の練習とか。」 「歌?」 どうして歌の練習が必要になるんですか? 「応援合戦で、歌って踊るんだ。何がいいか、決まってないけど。あややがいいかなあ?どう思います?七条さん。」 どうって言われても、あややなんて子の歌知らない。 日本の芸能界興味ないんですよね。 「歌って見ないとわからないんじゃないか?会計部の二人は知らない曲だと思うよ。・・・遠藤知ってる?歌えるの?」 成瀬がやんわりと聞いてくる。理事長が泣いたのには少なからずショックだったらしい。 「しってますよ。ふん。しょっちゅう啓太の部屋で聞いてますから。」 「え?僕は聞いたことないけど?伊藤君?どうしてです?」 なんで? 「え?だって、七条さんといて、音楽聴いたり、テレビ見たりしてないから?」 いや、そうなんだけど・・・あ、そうか。聞く暇がないか。 「歌ってよ。ハニー。」 「じゃあ、まず・・・んー。」 「はい、啓太ボンボン。」 足元に合った、ビニール紐をを裂いてつくったらしい、ピンク色のボンボンが放り投げられる。 「よし、いきます。ええと・・・・・♪イエィーイ!めっちゃホリデーウキウキな夏、き〜ぼう!!イエィーイずばっと!!サーマータイム。ノリノリで恋いしたい!!」 ボンボンを振り回し、たぶん、アヤヤの曲の振り付けを踊る。 「って、啓太、もう秋だよ。」 「え?だめ?じゃあ、これは?まようわ♪セクシーなのキュートなの?どっちがタイプよ?迷うわ、こんな風になっちゃうのは、あなたが好きだからよ。・・・・・・・本当に?もうしない?お出かけいたしましょう(^○^)迷うわ♪セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?(^_-)-☆」 お尻振り振り踊りだす。可愛すぎて目のやり場に困る。 「啓太?そんな、第三者をあおってどうするんだ?」 郁が、呆れたように、却下する。 そうだ、可愛すぎる!! 「じゃあ、じゃあ、あーもう和希も立ってよ。」 「なに?」 「ん?なにがいいかなあ?」 「ふうん?すっごい古いのは?」 機嫌の悪そうな、理事長が、ボンボンを持ち、ちらりと成瀬をみる。 何か考えてますね? 「なに?」 「ハニー?」 「おにゃんこクラブ。」 「え?」 「おにゃんこ?」 成瀬もしらない?古い曲? 「啓太も知らない?」 それは、理事長の学生時代のリアルタイムの曲って事? 「しってるよ、セーラー服を脱がさないでだろ?」 凄いタイトル。なんでしょう? 「そ。」 なんかたくらんでる?まあ、いいや。 「いいよ、俺それ中学校の時、やったから、振り付け覚えてるし。」 「なんで?」 普通の中学校でやるような曲なのですか? 「せーの、ニャンニャンニャニャニャニャンニャン♪セーラー服を脱がさないで、嫌よだめよ駄目よがまんなさって〜♪セーラー服を、脱がさないで、ニャンニャンニャニャニャニャンニャン・・いやよ駄目よ、こんなところじゃ〜♪」 なんて、歌詞だ。 「週刊誌みたいな、エッチをしたいけど、そこから先に進めない、恥ずかしすぎるから〜♪もったいないから、もったいないから〜あ・げ・な・い(^_-)-☆」 「すごい歌詞だな。」 「・・・ハニー<(`^´)>」 「そういえば、二番の最後って・・・食べて(^_-)-☆なんだよね。あれって何を食べるの?ずっと不思議だったんだけど。」 啓太・・本当に歌詞の意味理解してるんでしょうか。まったくこんなの許せるはずがないでしょう? 「・・・・絶対却下!!」 思わず叫んでいた。 「え?七条さん?」 「だめですよ!!そんな下品な歌!!なんなんですか?」 「え?」 「・・啓太これにしよう。服も、こんなのじゃなくて、ピンクのセーラー服にしてさ。猫耳つけて、尻尾付けて、絶対点数入るよ、ダントツ一位だよ。」 「本当?そしたら、勝てる?」 「伊藤君だめです!!」 こんなの、いたずらに挑発するだけじゃないですか? 「可愛くないですか?え?」 ボンボンをもち、上目遣いに見つめる。ああ、こんなんだけでくらくらする。 「・・可愛いから、駄目なんです!!」 「だって、可愛くしないと、点数入らないって。」 「そんな事しなくても、絶対勝って見せますから。」 「そうだよ!!僕も勝つから、絶対に。」 「七条さんはともかく、成瀬さんはムリでしょう?別に成瀬さんとは、何も関係のないことなんですから、ほっといてください。」 理事長、あなたがあおっておいて何を言うんですか。 「ほっとけないってば。」 「大丈夫です。別に、最悪中嶋さんが、優勝しても、啓太のことは、ちゃんと守りますから、そのときは、俺一人でがまんしてくれるように交渉します。」 「ほお?交渉ねえ、どんな難題を押し付けてくる事か。」 面白がって、郁が、あおっている。 「和希?」 「いいんです。どんな難題だって、可愛い啓太を中嶋さんの毒牙にかけるくらいなら、平気です。それに中嶋さんなら別に後々面倒もなさそうだし。ね、だから啓太は安心してていいからね。一番最悪な事になっても、ちゃんと啓太の事は守るからね。」 そういうところは、しっかりと啓太の保護者なんだなあ、この人。 「いいのか?遠藤、調子に乗った中嶋は、何をするか分からないぞ?」 「別に、たった一日のことですから。」 「・・・和希だめだよ。中嶋さん、本当に恐いよ?容赦ないよ」 「くす。さっきは優しいって言ってたくせに。」 「優しいとは言ってないよ。酷い人じゃないって言っただけで。頼んだって泣きついたって、やめてくれないもん。駄目だよ和希。」 今、さらりと恐ろしい事を言いましたね?啓太。 「・・・くす。こーら、啓太。それは墓穴って言うんだぞ?」 「え?」 「伊藤くん?」 「え・・・あ・・。あの、えっと、あれは七条さんとお付き合いする大分前の話しで・・・あの・・・それに・・・えっと・・・。」 「僕が知ってる話の事ですか?」 「はい。」 「ふうん?」 あの時のことか・・・まったく。 「ハニー?なにかされた事あるの?」 「・・・ええと・・・。あるような、ないような・・。」 あるでしょう?レイプ寸前っていうんですよ!!まったく。 「そんなの許せない!!絶対勝つから!!」 「ムリしないでいいですよ。」 「ムリじゃない!!よし、競技種目のエントリーを増やしてくるから!!じゃあ、僕はこれで!!」 「あ、成瀬さん。」 いきおい良くドアをしめ、走って言った。 「ああ〜、篠宮さんに見つかったら怒られるってば。」 「そういう問題じゃないだろ?啓太。」 呆れて郁がつぶやく。 「・・・莫迦みたいだな、あんなにムキになって。」 「・・・素直じゃないな、理事長も。成瀬に怪我させるのが、心配ならそういえば、いいだろう?さっきのじゃムキになるに決まってるだろ?」 「え?怪我?」 「そうだろ?違うのか?」 「違いますよ。」 「どうだろうなあ?守って欲しくて、わざわざあんな変な歌を歌って挑発しておきながら、怪我が心配で、競技にでて欲しくないなんて屈折してるぞ?」 「・・・ああ、体育祭は、結構ハードですからね。」 ふん?テニスプレイヤーには、少しの捻挫も命取りだから・・・そうか。 「可愛い愛情表現ですね。理事長。」 「・・・・・うるさい。」 「もう!!和希そんないじけてないで、告白しなよ。ね。」 「別に好きじゃないから。」 「・・・和希ってば。」 「ああいう猪突猛進タイプは好みじゃない。・・・・別にいいかな。中嶋でも。」 「和希何言い出すんだよ。」 「・・いや、別に、中嶋のことだから、長く引き止めておける自信はないけど、でも少しの間でも啓太から、興味をそらせるならそれもいいかなあって。」 「あのなあ、俺に興味なんて、もともとないよ。あの人。」 「本当にそう思ってる?」 「うん。だって、中嶋さん好きな人ちゃんといるもん。」 「は?」 「だれそれ。」 一体だれを?あれだけ、啓太が気に入ってるそぶりをしてて、それになんで啓太がそれを知ってる? 「・・・七条さん。」 「は?」 「それはないな。」 「ないない、絶対ない。」 「え?でも、七条さんの事いつも気にしてるし。ちょっかい出してくるし。」 それで自分は警戒心がゼロだったって事ですか? 「臣。苦労するな。」 「言わないでください。」 眩暈がする。 「?」 「それに・・・前に、言われた事があるんだよ。うん、七条さんが気に入ってるから、どんな奴か興味があったって。」 「・・・・。」 「それって、七条さんの事が気になってるってことでしょう?」 「違いますよ。」 「でも。」 「とにかく、そんなのは勘違いだから、啓太はうかつに中嶋に近寄るんじゃない。いいな?それから、理事長。」 「なんですか?」 「成瀬のことを色々心配しすぎて、自分の気持ちを隠すのは良くないと思うぞ?まあ、年をきにしても仕方がないんだ。年のことは忘れろ。」 「そんなんじゃ。」 「じゃあ、なにか?鈴菱って立場が邪魔してるのか?まあ、一種のスキャンダルだという事は、たしかだからな、お前のために、影にするのは嫌か?」 一瞬、理事長が、黙り込む。 「そんなんじゃ、ありませんよ。・・・啓太行こう。」 「え?ちょっと和希?」 二人分の荷物を左手に抱え、そうして右手で啓太の腕をひっぱる。 「いたいってば、和希。」 「・・・。」 「え?和希このまま行くつもり?えええ???」 女装したままだって言うのを忘れたのか、理事長は有無を言わさず、啓太をひっぱって出て行った。 「いいのか?臣。」 「まあ、この校舎にはもう人はそう残ってないですし、いく先はサーバー棟でしょうからね。いいですよ。」 「ふうん、やさしいことで。」 「今止めても、伊藤君が同情してますから、いう事きかないでしょうしね。」 溜息。本当に、僕の恋人は、皆に優しい。 「ああ、そうだな、啓太は鈍いが、だけどその優しさで、傷ついてる人間だけ は無意識にさっするんだろうな。だから中嶋にも優しくしてしまうんだろう。」 「・・・・それ、あの鬼畜眼鏡が傷ついてるっていうんですか?」 「ちがう。でも、あいつが啓太に言い寄る姿は、きっとどこか必死なんだろうと思うぞ?あいつは不器用そうだからな、自分が本気で啓太に惹かれてる事も解っていないにちがいない。よかったな、臣。」 「なんですか?」 「お前は、自分自身の気持ちにすぐに気が付いた。だから、行動が早かった。」 「・・・・それ・・・どういう意味でしょう?」 「別に。」 「・・・伊藤君は、僕をちゃんと好いてくれてます。それは紛れもない事実です。同情やそういう事じゃない。・・・ちゃんと・・・。」 言っているそばから、自信がなくなっていく。 「そういう自信があるなら、余裕をもって付き合っていけばいい。」 「あたりまえです。」 「・・・体育祭負けられないな?臣。もしも本当に、中嶋が個人優勝を勝ち取ったとしたら、あいつなら、二人セットで、一日中自室でデートだろうからな。」 「・・・・。」 「がんばるんだな。臣。」 「がんばりますよ。」 がんばりますよ・・・。 その言葉を、賞品の告知をみた学園中の生徒が思っていることなど、さすがに、このときはまだ知る由もなかった。 Fin 時期がぜんぜんあってませんが、体育祭です。 女装とか嫌いな方いらっしゃいましたら、申し訳ありません。 啓太君が、歌ってた曲は、あややと藤本美貴とおにゃんこクラブの 曲なのですが・・。 |
いずみんから一言 |
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