きっとまだやれると言い聞かせて歩く 〜お題 1〜



『大丈夫。平気さ。』
 そうつぶやいて、俺は歩き出す。
『大丈夫、平気さ。』
 それがあんたの口癖だったから、いつのまにか、俺もそれが口癖になっていた。
 もうあんたは隣に居ないのに。
 もうあんたは傍にいないのに。
 口癖だけが、あんたの存在を、まだこんなにも俺の中で主張する。
『大丈夫ってさあ。結構無責任な言葉じゃないのか?』
 あんたはいつも余裕で、大人で、俺は反抗するだけの子供でしかなかったから、
『あんたの大丈夫なんてあてになんねーよ。』
 そんな可愛くない言葉をあんたに返すしか、出来なかったんだ。
 どんな言葉も、あんたは受け止めてくれるって信じてたから、あんたが隣に居るのが当たり前だと、信じていたから。
 だから、強気な言葉を言えたんだ。
「ばかやろう・・・。」
 永遠に傍にいられないなら、約束なんかするなよ。
「・・・・莫迦・・・。」
 二人で居る事が当たり前だった。二人で居れば、どんな事も強気で出来た。
 自信なんかなにもなくて、いつも周りを窺っていた俺が、一人でも笑えるようになったのは、あんたが俺を認めてくれたからだ。
 それを確信した時、好きなんだって思った。
『大丈夫、平気さ。お前ならやれる。』
 俺が不安そうにするたびに、隣であんたがそう言って笑ったから、だから俺は・・・。
「大丈夫、平気さ。大丈夫、俺はきっとまだ・・。」
 歯を食いしばり、俺は歩き出す。
 隣にあんたはいないけど、それでも俺は・・。
 おれは、ひとりでちゃんと歩いていける。
「大丈夫、平気さ。俺はまだまだ・・・ひとりでも。」
 いつかあんたに逢うために。
 俺は一人でも歩いていく。
『大丈夫、平気さ。』
 これがあんたの口癖だった。
『大丈夫、平気さ。』
 そして俺の口癖になった。
 
 愛していたから、まだ愛してるから。
 だから、俺の口癖になった。








「大丈夫。平気さ」
このたった一言の台詞の向こうに、闘病中のみのりさまの姿が
透けて見えている。きっと、そんなふうに自分に言い聞かせながら
頑張っておられたのだろう。
もっともっと甘えてくれたらよかったのに。
いくらでも抱きしめてあげたのに。
今でも本当にそう思う。


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