友達から恋人に変わっていった瞬間 〜お題 14〜



 気が付いたら、放課後が何より好きになっていた。
 授業が終わって、掃除が終わって、そしたらあの場所に行ける。
 そう考えるだけで楽しくて、嬉しくて仕方なかった。
「そんじゃ、終わり。今週もお疲れでした。」
 やる気のない担任が、のんきに挨拶して教室を出て行くから、
 鞄に教科書を詰め込んで
 俺は廊下に飛び出した。
「祐?はやっ。もう帰んのかよ?」
「ん?ああ部活だよ。」
「え?まだやってんの?」
「うん。」
「へええ。楽しい?」
「楽しい。すっげえ楽しい。」
 にかっと笑って見せると呆れた声で「がんばれよ〜。」と手を振られた。
「ば〜か、楽しいんだよ。わかんねえだろうけど、楽しいんだよ。」
 鞄を振り回しながら、渡り廊下を歩く。
 冬の暮れるのが早い。授業が終わったばかりだっていうのに、なんとなく空が赤くなり始めてるから俺は焦って走り出した。
「こんちは!」
 ガラリと戸を開けて中に入る。
「あれ?」
 期待して入ったのに、誰も居ないから俺は、拍子抜けしてしまう。
「あれ?いないのぉ?」
 言いながら、準備室のドアを開ける。
「何だ・・・いたじゃ・・・。あ。」
 絵の具だらけの汚い白衣を着て、ソファーに座ってる・・のかと思ったら、グウグウ寝てるのだと気が付いた。
「寝てるし。」
 無防備に口を開けて、ローテーブルに靴履いたままの足をだらしなく乗せて寝てる。
「ダメダメだな、やっぱりこの男。」
 やる気ないし、髪はぼさぼさだし、ダサダサだ。
「・・・・。」 
 なのになんで俺見つめてんだろう。こんなの。
「せんせ。」
 小さく声に出してみる。ちょっと肩に触れてみる。
「本気で寝てる。」
 西日の差す窓辺。眼鏡が微妙にずれている。
「・・・・」
 なんだろ、この気持ち。・・・変だよ。俺。
「せんせ・・。」
 心臓がドキドキする。胸の奥がどうしようもなくモヤモヤとしてしまう。
「・・・ん・・・・。」
 なのに俺の気持ちなんか全然分かってないこの親父は、腹の立つ事に、むにゃむにゃと午睡を貪っているんだ。
「・・・せん・・・。」
 腹が立つ。イライラする。この気持ちが理解できない。
 ドキドキする。胸の奥の方がもやもやとして落ち着かない。
「起こそう。うん。」
 こいつが寝てるからイライラするんだ。そうだよ。そう。
 肩に手をかけ、揺さぶる。
「せんせ。」
「・・・ん。」
 ぼんやりと眼を開くから、顔を覗き込む。
「祐・・・?」
 ぼんやりと寝ぼけた顔で、先生が笑うから、俺はドキリとしてしまう。
 え?ドキリ?なんで?
 自分に驚いて、動揺してるうちに先生はまた眼を閉じてしまった。
「・・お、おい先生。寝るなってば。」
 今のドキッてなんだ?なんだよ、俺。
 焦りながら、また先生の肩をゆする。
「ん・・・起きる。起きるから・・。」
 あ、睫長いんだ結構。こんなに近くで顔見たこと無かったから気が付かなかった。
 って?俺まただよ。なんだよ、このドキッて!!
「いい加減におき・・・・。」
 無防備だよな。なんか俺が言うのも変だけど・・・可愛いかも。
「・・・・・・・・・え?」
 お、俺今なにした?先生の唇・・・嘘だろ?
「ん?」
 やばい。眼覚ましちゃったよ。
「祐?」
「え・・・えっと・・・う、うばっちゃった〜。」
 冗談にするしかない。
「は?」
「ファ、ファ、ファーストキスだったりして。」
 って俺なにどもってるんだよ。
「祐?何だ?今の。」
 なんだって聞かないで欲しい。俺にだってわかんないんだから。
「CMのまね。」
「・・・お前、CMのまねってね?そんなんでキスするか?普通。」
 しない。するわけない。ごまかせっこない。
 どうしよう、絶対変だって!!
「俺、帰る。」
 慌てて逃げようとしたのに、手首を掴まれて引き寄せられた。
「え?」
 ちょっとまて。
 じたばた暴れながら、俺は先生の腕の中に居た。
「ったく。」
 溜息ついて?で?なんだよ、この態勢。
「今のは、本気じゃないんだな?」
 先生の瞳が、俺の動きを止める。
「え?本気って?」
「キスだよ。」
 恥ずかしい事言うなよ!莫迦。
「ほ、本気だったら・・もしも、そうだったらどうすんだよ。」
 俺今泣きそうな顔してるかも・・そう思いながら、強がって言ってみる。
 え?本気?俺、本気だったのか?
「さあな。」
「さあなって・・。」
 本気、本気だった?俺。
「ちゃんと答えたら、俺も答えてやるよ。」
 ふわりと笑う。俺の好きな顔で。
 少し困ったように、額に皺作って笑うんだ。いつも。
「だって。」
「ん?」
「だって、先生が笑うから。」
 気が付いた、俺。本気だった。
 寝ぼけた顔してふわりと笑った。いつもと同じ顔して、笑ったんだ。
「どうしよう。俺、先生の事好きみたいだ。」
 始めて気が付いた。俺。そうなんだ、きっと。
「ふうん?」
「ふうん・・?って先生。」
「奇遇だな。」
「え?」
「俺も好きだよ。」
「え?」
 今なんて言った?
「生徒なのになあ。俺、ホントにダメダメ教師だな。」
 にやりと笑う。そしてポンポンと俺の頭をたたく。
「祐はでも,俺が駄目教師だろうとかまわないんだろ?」
 余裕の顔して笑う。俺の好きな顔して・・・・笑う。
「かまうよ。」 
 悔しい。なんか悔しくて、否定の言葉を吐く。
「かまうよ。駄目教師なんか。良い訳ないだろ?」
「でも、俺は駄目教師だぞ?」
「う・・・。」
 って、俺なんでこいつの膝に乗ってんだ?うわああ。
「離せよ!」
「ん?」
「なんで先生の・・・うあああ。」
 慌てて立ち上がろうとして、そしてまた腕を引っ張られて、戻されてしまう。
「いいから、居ろ。」
「え?」
「いいから、俺が許すから。」
「許すって!いいよ、許さなくて。」
 それに、許す前に言う事あるだろ?
「なあ、センセ?」
「ん?」
「本気だよ。俺。」
 答えが欲しい。本気だったらどうする?
「そうか。」
「そうかって。」
「・・・。」
「センセ?」
「俺はさあ?教師だろ?」
「うん。」
「それで、男で。大人で。」
「うん。」
 答えわかっちゃったよ。さっき俺も「オレモスキダ」って言ったくせに。
「俺はな、祐の一番の理解者でいるつもりだったずっと。歳の離れた友達。だけど・・」
 わかった。それでもいい。俺を否定しないなら。
 俺の家族達みたいに、俺を否定しないなら。それでもいいよ。
「わか・・・た。」
 ぽろりと涙がこぼれてしまった。
「祐?」
「それでもいいよ。俺のこと無かった事にしないなら。それでもいいよ。」
 友達でも良い。理解者でもいい。
 俺のこと、見てくれるなら。それでもいい。
 大好きな人に、否定される。
 好きになって欲しい人たちに無視される。
 いるのに、傍にいるのに俺を見てもらえない。
 そんな苦しくて哀しい事を先生にまでされたくなかった。
「先生を好きって、さっき気が付いたばかりだし。だから、平気。友達でも、なんでもいいよ、だから俺、俺のこと・・・。」
 だから無視したりしないで。無かった事にしないで・・。
「莫迦だな。話は最後まで聞けよ。」
「え?」
「俺も好きだって言ったろ?祐。話は最後まで聞け。」
「先生。」
「前に言ったろ?日本語は最後まで聞かないと、YesかNoか分からないって。」
「うん。」
「だからお前にもいつも言ってるだろ?ちゃんと最後まで話せって。言葉を飲み込んで、言いたい事を我慢するのは、お前の悪い癖だぞ?」
「・・・。」
「好きだよ。祐。俺はね、教師の癖に、大人の癖に、お前のことが好きなんだ。」
「せんせ・・。」
 笑う。俺の好きな顔して。そして優しく髪を撫ぜてくれる。
「祐。俺とどうしたい?」
「・・・・。」
「好きだよ。」
「俺も・・。」
 髪を撫ぜる。優しく背中を撫ぜる。
 知らなかった。人って暖かいんだ。
「好きだよ。祐。」
 優しい言葉が耳に届く。
 俺は嬉しくて、ポロリとまた涙をこぼす。
 優しい言葉が、繰り返される。
 俺の先生は、俺の一番の理解者で、友達。
 だけど、それだけじゃもう嫌だ。
「俺先生と恋人になりたい。」
 ぎゅっと眼を瞑ってそう言った。
  答えの代わりに、優しいキスがふってきた。
                                           Fin

         
         教師と生徒ですよ。皆さん!!
         やっぱり続き物になってきてしまいました。
         祐と先生の付き合い始めです。








更新履歴を斜め読みしたところ、オリジナルのお題は
1、4ときてそれからこの14が up されたようだ。
パソコンが壊れたりした関係から、更新履歴は、期間としては
あまりないのだが、その行の長さに改めて驚かされた。
週に2度は当たり前のペース。
どうにかすると毎日でも何かが up されているのだ。
そんなに急いでいたなんて
やっぱり「1年後には書けなくなってしまっている」と、
予感があったとしか思えない。


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