七夕飾り





「け〜いた。」
 ノックしても返事が無いから、ドアを勝手に開けてしまう。
「ん?ああ、和希お帰り。」
「ただ・・いま。」
 机の上に広げられているのは、色とりどりの色紙。
「どうしたんだ?」
「え?ああ、これ?七夕だろ?明日。」
「え?そうだっけ?」
 七夕・・そうか、明日は七月七日か。
「ほらほら見てよ。放課後買い物に出かけたらさ、こんなのが売ってたんだ。」
「笹?」
「そ、笹と折り紙と短冊。」
 50センチちょっと位の笹の枝を右手に持って、啓太は得意そうに笑う。
「ふうん。七夕の短冊ねえ。」
「小さい頃って、毎年やってたから、なんだか懐かしくってさあ。」
「へえ。」
 やったこと、ないな。
「和希も書くだろ?願い事。」
「え?俺?」
「うん。」
 にっこり笑い、啓太は短冊を一枚手渡してくれる。
「う〜ん、何かこう。」
 書きたいことは一つだけど、啓太嫌がらないかな?
「飾りつけOK!さてと、短冊短冊。」
「何書いたんだ?」
「え?へへへ。決まってるだろ?成績UPとぉ。背が伸びますようにとぉ。
 家族が健康で居られますようにとね、」
「・・・・。」
 どうせ、啓太は俺との事なんか書いちゃくれないんだよな。
「あとは。」
「まだあるのか?こんな小さな笹にそんなに飾るのか?」
「最後の一枚。」
「なに?」
 ちょっと期待して、見つめてしまう。
「へへへ。見たい?」
 見えないように、わざと両手で隠しながら、啓太が笑う。
「見たい。」
「和希があんまりおやじになりませんように。」
「え・・・啓太それ本気で書いたのか???」
「う・そ。」
「啓太〜(T_T)」
 冗談でも酷すぎる。年の差、気にしてるのに。
「本当はこれです。じゃ〜ん。」
「・・・和希と毎日逢えますように?」
「そ、一番の願い事。」
「ごめん、淋しい?」
 仕事で結構居ないもんな、俺。
「ううん。淋しくないけどさ。」
 一瞬しょんぼりした俺に、啓太は笑って首を振る。
「え?淋しくないの?」
 な、なんで?
「うん。でもさ、七夕って、織姫と彦星が一年に一回しか逢えないだろ?」
「うん。」
「俺、和希とそんな風になるのは嫌だなあって思ったんだ。」
「啓太。」
「だから、願い事はこれ。」
 にっこり笑って、そう言うと、啓太は短冊を笹に飾りだす。
「じゃ、俺も書くよ。」
「うん。」
 願い事、そんなのたった一つだ。
「はい。書いたよ。」
「ええと?ずっと啓太と一緒に居られますように?」
「うん。」
「くす。願い事にしなくても、ずっと一緒だよ。」
 当たり前のように、啓太は笑う。
「・・・。」
「ほら、飾ったよ。和希。」
 短冊を全て吊るし終わると、啓太は窓辺に笹を飾った。
「キスしよう、啓太。」
「へ?」
「七夕飾りの前で、願い事しながら、キスすると叶うんだよ。」
「嘘ばっかり。」
 嘘だけど。
「でも、本当だったらいいなあ、ね、和希。」
「そうだね。」
 啓太の髪を撫ぜながら、抱き締めてキスした。
 願い事、ずっと一緒に居られますように。
 たった一つだけ、叶えて欲しい。
「願い事した?」
「和希は?」
「したよ。」
「俺まだ最後のお願いだけしてない。」
「え?」
「これ。」
 最後の短冊を指差す。
「・・・。」
「嘘。へへ、でももう一回お願いしたい。」
「啓太?」
「大好きだよ。和希。」
「俺も、大好き。」



 願い事、叶いますように。



 それから俺達は、何度も何度もキスした。

 ずっと一緒に居られますように、心にそう願いながら。



キリ番1000番の申告がなかったので、七夕にあわせて書いてみました。
7月一杯フリーにしますので、良かったらお持ち帰りくださいませ。
もしも、サイトにUPして頂ける際には、どこか隅っこにみのりの名前を書いていただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。






いずみんから一言
オープンしてまだ1ヶ月も経たない頃の作品。
自分の書くものがweb向きでない伊住と違い、みのりさまは当初から精力的(?)に
他サイトさまへの投稿やお持ち帰りフリー小説をupしておられた。
「すごいなあ」と感心していたのを、まるでついこの間のことように覚えている。
あと1年で書けなくなる。
それが分かっていて急がれたのでしょうか……。


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