小さな秘密(心理テスト和希編)



「え〜と、え〜と。」
 さっきから、啓太は机に向かい唸っている。
 今日出た数学の宿題が解らないらしい。
「啓太?解らない所あるなら無理せずに・・・。」
「出来るってば。今日習ったところなんだから!」
 半分も言わない内に、啓太が声をあげる。
「解ったよ。じゃあ、頑張って。」
「うん。」
 啓太は最近、必死に勉強していると思う。だから、少し成績が上がってきた。周りからみたら大したことのない、成績だと言われそうなレベルだけど、でも頑張った結果だと思うし。偉いなあって思う。
「ふう・・・。」
「和希は?宿題どうしたんだよ?」
 不意に振り返り、啓太が小首を傾げ聞いてくる。
「授業中に片付けた。」
 仕事で、自由時間が限られているし、いつ何時、秘書から「緊急事態です〜」というメールが入るか分からないから、なるべく修業時間中に、宿題は片付けるようにしている。そうしないと、啓太と遊ぶ時間も取れないし。
「ふうん?」
 言い方がまずかったか?それに気が付いたのは、啓太が、不満そうにうなずいて、くるりと身体を反転させてしまった後だった。
「・・・・ほら、俺仕事が入る予定になってたから・・・さ。」
 慌てて立ち上がり、啓太の顔を覗き込んで言い訳する。
 俺が、片手間に片付けた宿題を、自分は手こずってる・・・・そう思ってしまったのかもしれない。
 啓太にとって、学園の授業は、どの授業でも、かなり難しいのだ。
 ましてや、苦手な数学に至っては、宿題の度に大騒ぎしているんだ。
そう考えて拗ねてしまっても、仕方のないことだ。
「いいよ、別に言い訳してくれなくて。俺、数学苦手だから、内職で片付けるなんて絶対できないし。」
 やっぱり拗ねてるし。
「でも、成績上がってきたじゃないか。数学の先生褒めてたぞ。」
「・・・・おせじだよ。」
「なんで、俺に、お前のお世辞言うんだよ。」
「・・・・・あ、そうか。」
 まったく。可愛いなあ。ああ、キスしたい。
「よし、じゃああと三問がんばろう。」
 だけど、折角のやる気を邪魔したらダメだよな。我慢我慢。
「和希?暇なら談話室で・・・。」
「いい、ここでパソコンいじってるから。」
 いい子に我慢してるから、せめて部屋から追い出さないでくれよ。
「そう?」
「うん。」
「退屈じゃない?残り三問だけど、時間掛かると思うよ。」
「いい。大丈夫。」
「じゃ、頑張って終わらせるから。」
「うん。」
 啓太が再び宿題に取り掛かると、ノートパソコンをベッドに持ち込み、寝転がって操作する。
「・・・・・・。」
 株価をチェックしながら、溜息が出そうになる。
 啓太っていつもそうなんだよな。俺がいなくても平気なのか?
 仕事でいつも忙しくって、ろくに啓太とはゆっくり過ごす時間がとれないだから、金曜日の夜に、こうして仕事も、付き合いで出なきゃいけないパーティーもなにもない週末の夜は、出来るなら二人っきりで過ごしたい。
 なのに、なのに、啓太はそんな俺の切ない思いを知らずに、すぐに王様とオセロだの、会計部の悪魔の使いと甘い物を食べるだの約束をしてしまうんだ。今日だって、俺が言わなきゃ今頃談話室で皆とテレビを見ながらのんびり過ごしてたに違いないんだから。
「・・・・はあ。」
 啓太に気が疲れないように、こっそりと溜息をつく。
 傍にいたい、一緒に居たい。出来るなら、どこででも甘々べたべたにくっついていたい。啓太は俺のだって主張してそうして・・・・。
「・・。」
 だけど、啓太は、いまいち俺の恋人だって自覚すらなくて、俺が毎日毎日嫉妬してるのにさえ気が付かないで、そうして癖のある学園の有名人たちに囲まれて、中心で笑ってるんだ。
 啓太は俺に嫉妬しないのか?不安になったりしないのか?
 黒い想いが、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
 不安だよ、啓太。俺は、凄く・・・不安だよ。
 仕事でこんな気持ちになったことなんかないのに、いつだって自信過剰な位だ。ビジネスの世界じゃ、若造扱いされてても、でも、重鎮達が、文句を付けたくても付けようのない仕事をしてるって、自信もある。
 だけど、だけど、啓太に関してはそれが無いんだ。可笑しくなるくらいに余裕も自信もありゃしない。
 いつだって不安で、そして・・・・。
「かーずき、終わったぞ。」
 どすん。突然背中に体重がかかる。
「うわっ。」
 考えに没頭してたから、何の気配も感じてなくて、だから、つい大声を上げてしまった。
「あれ?ごめん驚いた?」
「驚いた・・・。というより重いよ。」
「へへへ。」
 にっこりと笑う。大好きな笑顔。
 独り占めしたい。いつだってこの笑顔を。・・・・だけど。
「和希なにしてたの?」
「いや、うん。ネット。」
「仕事?」
 背中に乗ったまま、ディスプレイを覗き込もうとするから、両手でパソコンを持って見せてあげる。
「いや、適当に遊んでただけ。」
 さっきは少し情報収集してたけど、その後は適当に検索してたんだ。
「ふうん、あれ?なんだろ、ここ。」
「ん?」
「ほらほら、こころの秘密わかります・・・だって。」
 ごろんとべっどに並んで横になり、啓太は興味深げにそれを見始めた。
「あ、心理テストだ。」
「へえ。」
「やろうよ。ほらほら。」
「・・・うん。」
『恋人と二人でテスト』をクリックすると、テーブルの上に、グラスが一つ乗っているページにつながった。
「なにこれ?水はどれくらい入っていますか?だって。四択だ。」

答え(1)表面張力ギリギリまで。(2)結構沢山(3)半分くらい(4)少し

「俺一番っと。」
「俺は四番。次の問題は?」
「大地震が来ました。テーブルの上のグラスはどうなったでしょう?」

 答えは(1)落ちて割れる(2)倒れてひびが入る(3)倒れて水がこぼれてしまうが、コップはそのまま。(4)変化なし

「うーん、四番。」
「え?大地震だろ?一番。」
 検索結果。・・・・・・嘘だろ。
「二人の愛情が分かります。へえ・・・・・水の量は、相手にどれくらい愛されてるかを示しています。水が多いほど、相手に愛されてるという自信があるという事です。四番を選んだ貴方、相手の気持ち疑ってませんか?」
 余計な事を!!
「ふうん?」
「・・・・つ、次・・・・ええと・・・・。」
「地震の結果。嫉妬の度合いです。一番を選んだ貴方、独占欲の塊です少しの遊びも許せない貴方。小さな嫉妬は可愛いですが、束縛しすぎは嫌われますよ?・・・・ふうん?和希独占欲強いんだ。」
「え・・・・ええと。け、啓太のほうは?ええと、四番を選んだ貴方。嫉妬なんて言葉すら知らないようですね。許容範囲が広いのか、はたまた愛がないのか?どっちでしょうね(^_^;)・・・・・。」
 心が広い?愛が無い?どっちだよ。
「啓太?」
「なに?ねえ、和希一つ聞きたいんだけど。」
 パソコンの電源を落とし、サイドテーブルに置くと、啓太はジイッと大きな瞳をさらに大きくして、凝視する。
「な、なに?」
 啓太、もしかして・・・怒ってないか?
「和希、俺を信用してないの?」
「え?そんな事ないよ。」
 そうだよな、愛されてないって思ってるくせに、嫉妬だけ凄いんじゃ、そう思われても仕方ないよな。
「だって、これってそう言うことだろ?」
「それは・・・・ほら、こんなの当たってないだろ?」
「じゃあ、なんでそんなに動揺してるんだよ。」
「それは・・・。」
 どうしよう。あ、そうだ。
「でも、啓太こそ、嫉妬してくれないのか?」
「え?」
「嫉妬。」
「しないよ、するわけないよ。」
 するわけない?どうして!!
「だって和希浮気するはず無いもん。」
「え?」
「和希は俺のだから、浮気なんかしないもん。」
「啓太。」
 それ・・・俺を信用してるって事?
「・・・間違ってる?俺、和希は俺にベタ惚れだって、そう思ってるんだけど。違うの?本当は浮気とかしたい?」
 返事を出来ずに見つめていたら、啓太の瞳が潤んできていた。
「・・・・俺の勘違い?和希。」
「勘違いじゃないよ。俺、啓太にもうこれ以上無理って言うくらい惚れてるもん。浮気なんかしたいなんて思ったことないよ。」
「本当?嘘ついてない?」
「ついてないついてない。本当に、本気で好きだってば。」
 好きで好きで仕方が無い。変になりそうな位に好きなんだってば。
「俺もだよ、和希。俺だって、これ以上無理って言うくらい和希を好きだよ。ホントにホントに大好きだよ。」
「啓太。」
「だから、水が少しなんて選んじゃダメだよ。俺悲しくなるよ。」
「ごめん。」
 ぎゅっと抱き締め、でもまてよ・・・と考える。何かおかしくないか?
 あれ?そうだよ、嫉妬の方はいいのか?
「啓太?」
「嫉妬はいいのか?独占欲は?」
 束縛、嫌じゃないのかな?
「それはいいよ。」
「どうして?」
「だって、和希って、なんだかいつも余裕なんだもん。ちょっと自分が年上だと思ってさ。余裕ありすぎだよ。たまには嫉妬くらいして欲しいよ。」
 たまには?今、たまにはって言った?
 脳みそがぐらりと揺れたぞ。俺は、俺はいつもあんなに嫉妬しまくってるって言うのに!!気が付いてもいなかったのか・・・。
 なんだか、凄く疲れてきた。
「和希?」
「何だよ。」
「談話室行こうよ。王様が暇ならオセロやろうって・・・。」
「ダメ。」
「え?」
 望みどおり、分かりやすく嫉妬してやる、思いっきり。
「折角、俺が仕事が無くて、二人っきりなんだから、ここにいようよ。」
「・・・・?」
「それとも王様と遊ぶほうがいいのか?」
 俺よりも?その方がいい?
「・・・・和希?変。」
 予想に反した答えに、固まってしまう。
「へ?」
「幾ら、俺が嫉妬して欲しいって言ったからって、それは変だよ。相手は王様だよ?なんで王様相手に嫉妬するの?」
 ぐらり・・・・脳みそがまた激しく揺れた。
 王様・・・・。あんなに必死に啓太にアプローチしてるってのに、啓太全然気が付いてなかったのか・・・。
「いーの、するの。兎に角二人っきりがいいの!!」
「わかったよお。だからそんなに大声だすなってば。」
 分かってない。絶対本当はわかってない!
「啓太?俺は本当に、嫉妬深いし、独占欲強いんだからな。」
 抱き締めた腕にさらに力をこめて足まで絡めて、さらに叫ぶ。
「わかったから。和希大声出すなってば。」
「本当なんだからな!後になって気が付いて後悔しても遅いんだから。」
「後悔しないから、独占していいよ。和希。・・たく。ホントは大人の癖に、そういうとこ本当子供みたいだよなあ。へへ、大好き。」
 そう言うと啓太は、ぎゅって俺の背中に回した腕に力をこめて笑った。

++++++++++

「くう。・・・す〜。」
 裸で眠る啓太を抱き締めながら、考える。
 どうやったら、この天然でぼけぼけな恋人を独占できるんだろう。
「そうだ。」
 学校を卒業するまでに、男同士でも結婚できるように、法律を変えてしまおう。そうすれば、しつこく付きまとうあの人たちも流石に諦めるだろう。
鈴菱の力を使って根回しすれば、造作も無いことだ。うん。
 幸い、まだ後二年もあるし。法案をまとめて・・・そして・・・。
 前に、着せたウエディングドレス。あの時は、物凄く嫌がられたけど、いつか本当に、俺の隣で着て欲しい。
「・・・・・ん・・・・・。くうう。」
「啓太。独占していいってお前が言ったんだからな?忘れるなよ?」
 髪を優しく撫でながら、俺は、法律改正のプロジェクトを本気で考え始めていた。


いつの日か、きっと、俺の隣でウエディングドレス着てくれよ?な、啓太。



※※※※※※※※※※
「ちいさな秘密」別名和希の大暴走。な感じになっております。
心理テストの和希バージョンです。ネタの使いまわしとも言うのかも?
和希ファンの方。ごめんなさい。
どうも、和啓を書くと、変な方向に話が進むらしいです。私。



いずみんから一言

確かこれが初めて読んだみのりさまの作品だと思う。
啓太くんがあまりに強気で驚いたのだった。

鈴菱の力で法案を通せば結婚も可能になるだろう。
できることならそこまでのお話を読みたかったと、ないものねだり
をする自分がここにいる。
でも私が思う以上に、みのりさまは書きたかっただろうなと思うのだ。
ごめんなさい、みのりさま。
もう2度目の月命日がすぎたというのに、私はまだ涙を止めることが
できないでいます……。



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