得意な料理 英明さんは、和食が好きだ。 朝御飯は、厚焼き玉子にほうれん草のおひたし、蕪ときゅうりの浅漬けに、わかめと豆腐のお味噌汁と、白いご飯。 「後は、肉じゃがを皿に・・・。」 昨日の夜に作っておいた肉じゃがをお皿に盛って、準備完了。 「へへへ。OK。」 料理の腕も上がったなあ俺。 「英明さん、美味しいって言ってくれるかな。」 新婚、新婚。幸せな生活だ。 「へへへ。」 「お前、朝から不気味だぞ?」 「え?英明さんおはようございます。・・・不気味は酷いです。」 「事実だろう?」 「も〜。あ、朝御飯の用意できてますよ。」 「ん。」 不機嫌そうに英明さんが椅子に座るから、ご飯をよそって手渡す。 「はい、どうぞ英明さん。」 「ん。なんだ肉じゃがか。」 「はい。」 ふふふと笑って椅子に座る。 「本当に朝から不気味な奴だな。」 「え?あ・・・つい思い出しちゃったんですよ。」 「なにを?」 「始めてここで作ったのも肉じゃがだったなあって。」 「・・・・そうだったかな?」 「そうなんです。」 忘れちゃったのか・・俺には大切な思い出なんだけどなあ。 一人ぼっちで淋しかった春休み、英明さんが迎えに来てくれた。 凄く凄く大切な思い出。 「お母さんの弁当は上手かった記憶はあるがな。」 「え?・・・。」 一瞬だけニヤリと笑って、素知らぬ降りでご飯を食べ始めてる。 覚えてた?もしかして・・・。 「英明さん?」 「ん?」 「美味しいですか?」 「不味くはないな。」 「もお。・・ふふ。沢山食べて下さいね。」 幸せだなあ俺。へへへ・・・・・。 ++++++++++ 「食べて・・・・。ん。」 なんだろう?あれ?暖かい。 「ん。」 耳たぶに触れる・・・こ・・これって。 「ん・・・ひ・・・な、中嶋さん!!」 な、なんで?あれ?朝御飯・・・あれ? 「ベッド?」 どうして?あれ?今のひょっとして夢? 「なんだ?」 「な、中嶋さん。あの。」 なんで抱き締められて、おまけに耳たぶ・・・うわあ!! 「お前自分で食べてって言って、誘っておいてそれは無いだろう?」 「え?」 食べて?うわあん、それ寝言だってば。 「寝言です!!誘ってませんから。」 それに寝言じゃなくても、無理だってば、体中痛いんだから。 「寝言で、食べてか?夢の中まで淫乱だな。」 「違います!!中嶋さんと朝御飯を食べてる夢だったんです。」 しかも、一緒に暮らしてて、しかも、ひ、英明さんなんて名前を呼んじゃってて・・・・。 「ふうん?」 「俺がご飯作って、中嶋さんが美味しいって言ってくれるんです。」 不味くない・・はきっと中嶋さんの褒め言葉だよね。へへ。 「美味しいねえ?」 「メニューだって覚えてます。厚焼き卵にほうれん草のお浸しに、わかめと豆腐のお味噌汁。白いご飯、漬物に、肉じゃが。」 「肉じゃが?いくら夢だって、図々しいんじゃないか?」 「え?」 「作れるわけないだろう?」 「今は作れませんけど、将来はわからないじゃないですか!」 そりゃ不器用だけど・・・。 「お前が作れるようになるのと、犬が木登りできるようになるのと、どっちが早いかな?」 唇の端だけ上げて、中嶋さんがククッと笑う。 「犬が木登りできるわけ無いじゃないですか。酷いです。」 「そうか?」 「絶対肉じゃが作れるようになります!!今は無理でも。上手に作れるようになって。得意な料理は肉じゃがですって中嶋さんに認めてもらえるようになります。」 「ほお?」 「絶対食べてもらいますから。」 「俺の胃袋にも限界ってものはあるぞ?」 「嫌なんですか?」 「さあな、とりあえずそんな先の話より、今はこっちだな。」 ニヤリと中嶋さんが笑う。 「え?こっちって?」 「目の前の食事だ。」 食事?え?なんでお尻に・・ええ? 「な、中嶋さん!!食事って俺ですか?」 「不満か?」 「ふ、ふ、不満は、ええと、無いですけど。」 無いけど、身体が痛いんだってばあ。それに折角のお休みが。 「なら、問題はないな。」 問題はあるんだってば、洗濯だって溜まってるし、宿題だってしないといけないし。 「お前の一番の得意料理はこれだろう?」 それって、それって言わなきゃお仕置き? 「え?ううう・・・・中嶋さん。」 「なんだ。」 「俺を食べてください。」 あ〜もう、まな板の上の鯉ってこんな心境を言うのかな?あうう。 「ククク。フルコースだな。」 「え・・・。」 フルコース・・・。 青くなった俺を見ながら、中嶋さんはクククと笑った。 料理をするのが上手なのは、俺なのか中嶋さんなのか、良く分からないまま、俺は美味しく食べられてしまった。一日中。 絶対肉じゃがを作れるようになってやる。 その日俺は心に誓った。 中嶋さんの得意料理、啓太君を美味しく食べること(?) どうも啓太君は正夢を見たらしいです。 |
いずみんから一言 |
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