無題 1 〜拍手用ノートより〜



 ごりごりと音がする。
 ごりごりごりごり音がして音と一緒にいい薫りがしてくる。
 前は好みの豆をお店で挽いてもらって、家でコポコポコーヒーをいれていた。
 コーヒーミルを英明さんが買ってきたのはいつだったっけ?
 いつのまにかコーヒーミルがキッチンにあった。
 電動の奴じゃなく木製の箱の上に金属性の受け皿とハンドルがついていて、くるくると手で回すタイプの物。
 あれを回してる英明さんの姿って実は大好きなんだ。
 見てるとなぜかドキドキしてしまう。
 なんてことのない動作。短い時間なのに、凄く凄くドキドキする。
 だからほら、今もこんなにドキドキしてる。
 英明さんてずるいよね?
 なにやってても格好良いんだもん。
 だから俺、なにやってても見とれてしまう。
 何年も一緒にいるのに見とれてしまう。
 見とれてそして幸せだなぁって嬉しくなってしまう。
「なんだ?」
 コーヒーをカップに注ぎながら英明さんが俺を見つめる。
「英明さんがいれてくれるコーヒーはいつも凄くいい薫りがしますよね。」
 俺がいれたのよりもずっとずっと美味しい気がする。
「ふん。考えていたのはそれだけか?」
 ニヤリと笑う意地悪な口元。
「え?ええと‥‥。」
「ふんまあいい。ほら。」
 俺の分のカップを手渡し自分のを持ってソファーに向かって歩いていく。
「英明さん?」
 慌ててついていきながら、くんと薫りを嗅いでみる。
 やっぱり凄くいい薫り。
 隣に座ってこくりと一口。
 やっぱり俺がいれるより美味しい気がする。
「なんで追求しないんですか?」
 追求されると恐いけど、なにもされないのもちょっと恐い。
「おまえの考えている事なんか聞かなくてもわかる。」
「う‥。」
 そうかも。
「じゃあ何考えたか当ててください。」
「さあな。」
 にやりとまた笑う。
 意地悪な笑顔。
 この笑顔も好きだなあ。
 俺って結局英明さんのどんな顔も好きなんだよね。
 何年たっても好きなんだよね。

 幸せだなって思ったら、なんだか照れてへへへと笑って俺はコーヒーをこくりと飲んだ。

 いつもと変わらない日曜の午後だった。

※※※※※※※※※※
姉の遺品を整理していたらノートが何冊も出てきてしまいました。
姉から預かったものだけを載せて終わるつもりだったのですがこれも載せるべきなのかな?と今悩んでいます。
今回載せたのは(拍手お礼用)と書かれたノートの物です。
拍手の方に載せるべきかと思いましたが姉が編集したデータが残っていたので拍手の方は昔のものを復活させました。

色々と立て込んでいいるもので、今すぐに全部載せるということが出来ませんがこれから少しずつ進めていきたいと思っています。





いずみんから一言

そうか。このふたり、何年も一緒にいるんだ。
そんなことを思いながら読ませていただいた。
みのりさまの中啓はちゃんと入籍をしているけれど、ついでに言えば
ちゃんと結婚式まで挙げたみたいだけど。
それでもやっぱり、こうしてふたりでいてくれているとほっとする。 
間をうめる話を読みたかったなと思いながら。

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