秋の味 〜拍手用ノートより〜 美味しい匂いがしてるのに手が出せない。 「どうした?」 「‥‥お腹すいて死にそうです。」 いい匂い。 お腹がグーグー鳴ってるよ。 「ならさっさと食べたらいいだろう?」 呆れた様に言われて俺はちょっと苦笑い。 「そうですよね。いただきます。」 ぱちんと両手を合わせて味噌汁を一口。 「変な奴だな。」 言いながら中嶋さんは器用に箸を動かしていく。 美味しそうな匂い。 じゅ−っと香ばしく焼けて、レモンと大根おろしが添えられて、とってもとっても美味しそう。 いいなぁやっぱり美味しそう。すっごくすっごく美味しそう。 「美味しいなぁ。唐揚げ。」 中嶋さんのお皿を見つめながら、俺は鶏の唐揚げをぱくり。 鶏の唐揚げは好物だよ?美味しいもん。だ−いすき。だけどさだけど‥。 「啓太はいつも美味そうに食うな。」 王様が笑う。 「ふん。」 さささと骨を取りのぞいて中嶋さんが食べ始める。 凄く上手に食べていく。 「美味しいですか?」 「旬のものだからな、こんなものだろう。」 「美味いよな秋刀魚。俺は刺身とかつみれ汁とかも好きだな。日本酒に合うんだ。」 つみれ汁って食べたことないな。あぁでもそっちなら気にせず食べられるのに。 ため息出そうだよ。まったくぅ。 「どうした啓太?箸止まってるぞ?」 「え?あ、へへへ。」 慌ててご飯を食べ始める。 「‥‥。」 「それにしても秋はいいよな。美味いもんだらけでさ。秋刀魚に鮭に栗にまつたけ。米だって美味いしな。」 王様は豪快に食べていく。 ぱくぱくもぐもぐ。秋刀魚もどんどん食べていく。 「そうですね。栗ご飯とか美味しいですよね。」 それより秋刀魚。いいなぁ。食べたいなぁ。 匂いがそそるんだよ。 美味しい匂い。 食べたいなあ。 「‥‥‥。」 「え?」 中嶋さんのお皿を見ていたら、突然ご飯の上に秋刀魚がやってきた。ちゃんと綺麗に骨がとられてる。 「中嶋さん?」 なんで?くれるの? 「こっちを貰う。いいな?」 そう言うと中嶋さんはさっさと唐揚げの皿を取り上げて自分のトレイに乗せて食べはじめちゃった。 「おいおい。ヒデ。」 呆れたように王様が中嶋さんを見つめる。 「‥‥いただきます。」 ぱくりと食べる。 もぐもぐ噛んでごくんと飲み込む。 美味しいよぉ。 秋刀魚ってなんて美味しいんだろ。 幸せだぁ。 「なんだ?啓太。食べたかったのか?そんな幸せそうな顔して。」 「え?」 「ふん。」 うわぁ。ばれてる。 「なら最初からこっちにすれば良かったのに。」 「そうなんですけど、終わってたんです。」 中嶋さんで最後だったんだよね。Aランチ。 王様中嶋さん俺の順に列に並んだから中嶋さんでAランチは最後だった。だから俺はBランチの鶏の唐揚げにしたんだ。 魚のおかずは人気ないから用意されてる数がもともと少ないんだ。 「そんなに好きなら俺が譲ったのに。遠慮するなよ啓太。」 「好きってわけじゃ‥ちょっと秋刀魚もいいな−って思っただけで‥。」 慌てて否定。 実際は残ってたって頼めないんだもん。 家族だけならともかく、中嶋さんの前でこんな骨の多い魚食べられないよ。 「‥‥。」 中嶋さんのお皿は頭と骨しか残ってない。 俺だったら骨にまだまだ色々残っててすっごく悲惨な状態になってる筈。 「俺、お肉の方が好きなんです。」 魚だって好きだけど、肉の方が食べやすいんだもん。 小さい頃から何度も何度も母さんになおされたけど、どうしても綺麗に食べられないんだ。 食べおわった後はぐちゃぐちゃでみっともなくて他人になんてとても見せられる状態じゃない。 中嶋さんの前でなんか恥ずかしくて絶対絶対食べられないよ。 寮のご飯に出る魚って骨が綺麗にとられて加工されてるのが殆どだから安心してたのに、さすがに秋刀魚の塩焼きは‥ううう。 「‥‥ま、食えて良かったな。」 王様がまた笑う。 「え?あ、はい。美味しかったです。中嶋さんありがとうございました。」 それにしても俺そんなに見てたかなぁ? 食い意地はってるって呆れられてたりして‥。 なんだか恥ずかしいなあ。 ×××××× 「英明さん?何笑ってるんですか?」 「ん?いや‥お前が寮で魚を避けてたのを思い出しただけだ。」 「え?なんで急に‥あ、秋刀魚?」 今日のメニューは秋刀魚の塩焼きに里芋の含め煮に揚げだし豆腐。 最近やっと魚の食べ方にも自信がついてきたから安心して食べられるな−と浮かれて秋刀魚を焼いたんだけど、その話をされると思ってなかった。 テーブルの上のお皿を見たとたん笑うんだもん。酷いよ。 「英明さんのお陰で魚を食べるの上手になりました。」 最初の頃は食べる度に怒られたもんなあ。 「今でも上手いとは言えないだろう?」 「え−?駄目ですか?」 上手くなったと思うけどな。 「さあな。」 くくくと笑いながら英明さんはご飯を食べ始める。 「意地悪。へへへ、秋はやっぱり秋刀魚ですよね。」 大根おろしと一緒にぱくり。 「英明さん?美味しいですか?」 顔を覗き込む。 実は初めて作ったんだよねこの煮物。 「不味いと思うものを出したのか?」 「違いますけど。」 美味しいなんて言ってくれる人じゃないけど。たまには言って欲しいって思っちゃうんだよね。 色々欲張りになってきたのかな?俺。 「ならいちいち聞くな。不味ければそう言う。」 言いながら英明さんはどんどんご飯を食べていく。 「‥‥はぁい。」 ぱくりと秋刀魚を食べて、もぐもぐと里芋も食べて。 なんてこと無い食事だけど楽しい気がする。 好きな人と一緒にご飯が食べられるって幸せだよね。 「へへへ。」 「食べながら笑うな。」 「はい。」 なんてことない平凡な幸せ。 なんてことない毎日の幸せ。 ご飯と一緒に俺は毎日幸せを食べている。 大好きな人と一緒に。 ごちそうさまでした。 ※※※※※※※※※※ この話も(拍手用ノート)に書かれていたものです。 姉は魚が大好きでした。 猫より綺麗に食べる。と母が良く笑っていたものです。それにしても姉の書くものは何か食べてる話が多いですね。 |
いずみんから一言 |
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