両手一杯の花束 〜20のお題〜



「え?なんで俺に?」
「卒業式だから。」
 驚く啓太に花束を押し付けて笑った。
 卒業式の朝。学生会室で二人きり。静かな静かな朝だった。
「和希だって卒業だろ?」
「そりゃそうだけど。俺からあげたかったんだよ。」
 不思議そうに花束を見つめる啓太に笑いながら答える。
 卒業式に花を贈ろうと思った。両手に抱えきれないくらいの沢山の花を君に。
 今までの思いをこめて渡そうと思ったんだ。
「啓太とこの学園で過ごしたこと忘れないよ。凄く楽しかった。」
「うん。俺も楽しかった。」
 花束を抱え笑う啓太を見つめ頷く。
「啓太。俺ね、啓太のことが大好きだったよ。」
 俺の片思い。ずっとずっと片思い。それも今日で終わりだ。終わりにすると決めた。
「俺も和希のこと好きだよ。へへへ綺麗な花だね俺花束プレゼントされたのなんて生まれてはじめてかも。」
 笑う啓太は最後まで気がつかない。好きという言葉の意味も、花束の意味にも気づかないまま終わる。
「俺は啓太の親友?」
 今だけは思いを隠さずに俺は尋ねる。
 俺はねずっと君を思っていたんだよ。恋人になりたいって思っていたんだよ。
 答えなんか分かってるけど、最後にはっきりと聞きたいんだ。
「うん。和希は俺の親友だよ。大事な大事な友達だよ。」
「そうか。嬉しいよ。」
 迷い無く頷く顔に切なくなりながら、それでもその位置で十分だと思った。
 親友でいいよな?最高じゃないか。
 強がりじゃなく今ならそう思える。
「啓太?抱きしめてもいい?」
「え?・・・・いいよ。」
「じゃあ、眼をつぶってよ。」
「変なの〜。いいよ。こう?」
 机の上に花束を置いて、啓太はくすくすと笑いながら目をつぶる。
「啓太。俺さ啓太と出会えて良かった。啓太とこの学園で過ごせて本当に良かった。」
 啓太の細い体を抱きしめながら、告白する。
 啓太と三年間この学園で過ごしてきたからこそ思えるんだ。
 大事な友達だと。そう笑って言える。
「啓太のことが好きだよ。大好き。だから忘れないで。俺はいつだって啓太の味方だってこと。これから先何があっても、俺達二人の暮らしがどんな風に変わっても、俺は啓太を応援し続ける。
だから忘れないでよ。俺がいること。俺がお前の親友だって言うこと。」
「ありがと。和希。」
 啓太の腕が俺の背中に回されたのを感じて、俺は目を閉じた。
「凄く心強いよ。和希ありがと。」
「・・・へへへ。」
 名残惜しい気持ちを隠し体を離して笑う。
「なんだか照れるな。こんなの柄じゃない。」
 言いながら机の上の花束を見つめる。別れの時が近づいている、そう思うと泣きたくなった。
「ほーんとなんか気障。らしくないぞ?和希。」
「こら。」
「へへへ。ごめん。でもさ嬉しかったよ。」
 無邪気な笑顔。この顔が好きだったのだとそう思う。
「和希とこの学園で過ごしたこと忘れないよ。楽しかった。」
「俺も楽しかった。・・・・さあ、行こうか卒業式が始まる。」
 ドアを開け、啓太の背中を押す。
「うん。卒業式だね。」 
 花束を抱え、啓太は歩き出す。

 パタリと学生会室のドアを閉めて俺は啓太を送り出した。

 これからの未来、隣を歩くのは俺じゃないけど。
 この学園で過ごした日々を俺は決して忘れない。
 大好きな君と過ごした日々を。決して忘れない。

「啓太。卒業おめでとう。」
 小さく背中にそう言ってから俺は啓太の後を追いかけた。





いずみんから一言

うん。和希もね。
見守りポジションにいる伊住は和希にもそう声をかけたくなった。
これで和希はきっと、一回りも二回りも大きな男になるだろう。

 これからの未来、隣を歩くのは俺じゃないけど。
 この学園で過ごした日々を俺は決して忘れない。
 大好きな君と過ごした日々を。決して忘れない。

この部分を自分に置き換え、みのりさまに贈りたいと思ったのは、
伊住だけではないと思う。
そう。大好きなあなたと過ごした日々を、私は決して忘れない。

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