寝ぼけた表情 〜20のお題〜



 お風呂から出て髪を乾かす。
 冷蔵庫から冷たいお茶を取り出して、グラスに注いでゴクゴク飲み干すと、素足に履いたスリッパの音を響かせながら朝ご飯の用意。
 ちょっとこげた卵焼きに苦笑いしながら準備を終えて、寝室へ向かう。
「英明さん?起きてますか?」
 最近英明さんは目覚ましをセットしなくなった。
 どうせ俺が起すから必要ないって言うんだよ。酷いよね?ずるいよね?
 本当は目覚ましなしでも朝起きられる人なのにさ。
 俺はともかく、英明さんが遅刻したら大変って思うから、毎朝緊張して起きてるのにさ。
 俺朝起きるの苦手なのになあ。
 なんてちょっと思うけど、英明さんを起すのって実は結構楽しいんだよね。

「英明さん?起きてくださいよ。お味噌汁冷めちゃいますよ?」
 ベッドの端に座ってそっと声を掛ける。
「・・・。」
「英明さん起きてください。俺先にご飯食べちゃいますよ。」
 耳元にそんな事を言ってみたりすると英明さんはやっと目をあけてくれる。
「おはようございます。」
 にっこり笑ってご挨拶。
 ああ、今日も格好いいなあ英明さん。
 寝起きのこの顔を見るのが嬉しくってさ、俺毎朝一生懸命起きてるんだよね。
「・・・・何時だ?」
「ええと。6時半かな?」
「ふん?」
 最近気がついたんだけど、英明さん寝起きはちょっと機嫌が悪いんだよね。いつも。
 眼が悪いせいもあるのかな?ちょっと睨むように俺を見るんだ。そうして前髪をかきあげながら起き上がって煙草に火をつける。
「ずいぶん早起きだな。」
 寝起きのかすれた声って凄く好きなんだよね。俺。
 少しぼおっとした感じの顔で、煙草を吸ってる姿を見てるとなんだか幸せなんだよねえ。
 へへへ。
 あれ?今早起きって言った?
「早起き?」
「休みだっていうのに、お前にしてはずいぶん早起きだなって言ったんだ。」
「え?休み?」
「今日は祝日だろう?それともお前は授業があるのか?」
「祝日?あれ・・・あ。」
 しまった。今日お休みだ。
「すみません。勘違いしてました。」
 わ〜ん。大失敗!!
「だろうな。」
 笑いながら英明さんは煙草の煙をふうっと俺に吹きかける。
「けほ。煙いです〜。」
「煩い。ほら、こい。」
 煙草をもみ消しにやりと笑う。
「え?こいって・・・英明さん?」
 腕をぐいって引っ張って?え?ちょっと待ってよ。
「あの、朝ご飯。」
「誰が悪いんだ?」
 間違えて起しちゃったのは俺だけど。でもなんで朝からスイッチ入っちゃったの?
「俺です。」
 理由が分からないまま渋々頷くと、俺はそのまま朝ご飯のかわりにされてしまった。

「英明さん酷いです。」
 昼過ぎ、太陽の位置がかなり高〜くなった頃、朝ご飯の予定だった物たちを二人で食べながら文句を言ったのに。
「悪いのはお前だ。」
 と当然の顔して言われたら俺はなんにも言えなくて、英明さんはやっぱりずるいと思いながらお味噌汁を飲み干した。





いずみんから一言


朝ごはんになってしまった啓太くん。
可愛いなあ。若いなあ。ふたりとも。
こういう日常の風景を書かせると、みのりさまはとても上手い。
何気ない毎日の生活にも、きちんと眼を向けておられたからだろう。
それにしても中嶋氏の朝食がごはんとお味噌汁だってのには
正直、ちょいと驚いた。
きっとみのりさまの大好きな納豆もテーブルに載ってるんだろうな。

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