子供の誘い方 ちょっとだけ背伸びして、首の後ろに両手を回して見つめ合う。 夕方の理事長室。 見つめ合ったまま唇を重ねる。 ついばむようなキスを繰り返すそれだけじゃ足りない。 ぎゅっと目を閉じて。 重なり合う唇から漏れる熱い吐息。 舌を絡めて、甘く吸われて、体温が上がる。 体が痺れて、指先が震えて、でもまだ足りなくて。 しがみ付いたまま、もっともっと求めてしまう。 「ん・・・・かず・・き。」 離れたくなくて、もっともっと触れあいたくて、俺は恋人の体に縋りつく。 「和希・・・やだ。離れちゃやだよぉ。」 甘えたような声が恥ずかしいのに、止めることが出来ない。 しがみ付いたまま、頬を摺り寄せて、耳にキスをしながら恋人の名前をただ繰り返す。 「啓太?」 「・・やだ。」 拗ねて甘えて我侭言ったら恋人はどんどん優しい顔になる。 「好きだよ啓太。」 「俺も・・和希・・大好き。」 「啓太?おまたせ、仕事終わったよ。帰ろう。」 「んん・・・あれ?」 今の夢?あれ?ここ理事長室だよね? 「なんか幸せそうな顔して寝てたぞ。」 和希が笑う。 寝てた?そうだ寝てたんだ。 和希の仕事が終わるのを、本読みながら待っていて・・それで寝ちゃってあんな夢を・・。 うわっ、俺って恥ずかしい奴。 「どんな夢見てたの?」 「なんでもないよ、ふつうの夢。」 慌てて否定。言えない。いくらなんでも。 俺って欲求不満?え〜。 「なら教えてよ。」 「なんでもないよ。・・なんでもないけど。」 夢はいいんだ、問題は・・。 「ねえ、和希?」 体を起して和希を見つめて、ちょっとため息。 どうしよう、問題は別な方かもしれない。 「な、なに?」 ドアの方をそっと見る。鍵って掛かってないよなあ。どうしよう。 石塚さん来たりしないよね?大丈夫だよね? 「俺ね。」 目の前にしゃがみこんでる和希を、じいっと見つめながら考える。 どうしたらいいんだろう。 「え?」 「まだ帰りたくないんだけど。帰らなきゃ駄目かなあ。」 そうなんだよ帰りたくない。だってさあ、そんな気分なんだ。 「は?」 だけど和希は訳が分からずぽかんと俺を見つめてる。 「あのさ、俺・・。」 分かってもらえる筈がないよな。だっていくらなんでも突然すぎる。 「和希?」 「ん?なあに。」 どうしようかなあ・・俺の方から誘うってしたことないから方法がわからない。 いつもは和希が一方的に盛り上がってさ、俺はそれにつられてって感じなんだよね。 「和希?あのさ。」 じぃっと和希の顔を見ながら考える。 誘うってどうしたらいいんだろ? なんて言っていいか分からなくって、仕方ないから和希の首に両腕をまわしてみる。 「け、啓太?」 あ、動揺してる。 新発見。和希でもこういう時って動揺するんだ。知らなかった。 「あのね。俺・・和希のスーツ姿好きかも。」 和希の耳たぶに唇を近づけて囁いてみる。だって夢の中の和希、格好良かったんだ。 ネクタイを片手で緩めてさ、笑ったりしてさ、制服姿の和希も好きだけどスーツ姿の和希は格好良いって思うんだよね。 「え、あ、あの・・。啓太だよな?」 慌てて俺を引き剥がし、和希が叫ぶ。 「なんだよ、それ!あ、和希顔が赤い。」 耳まで真っ赤だぞ。なんで? 「だ、だって啓太が変だから。」 「変って・・誘ってるのに変とかいうなよ。」 今すっごく頑張ってたのにさ、なんかショックなんだけど。 「え?誘う?なんで?」 なんでって、そんなの俺にもわからないよ。そんなのは夢の中の俺に言ってよ。 「いいよもう。や〜めた。もういい。 俺が一生懸命誘ってても気がついてももらえないんだよね?もういいよ〜だ。」 俺から・・なんて二度としないよ〜だ。 「わ〜ごめん。止めないで続けてよ。啓太。」 「やだよ。和希冷たいんだもん。嫌いだ〜ばか〜!」 ぷっとふくれて見つめると。今度は青い顔になる。 「ごめんってば。」 「悪いって思った?」 「うん。すっごく思った。」 こくこく頷く和希ってなんか可愛い。和希ってたまに凄く可愛いよなあ。 ああ、今日は色んな和希の表情が見られてなんか楽しい。 「じゃあ反省してるってとこ見せてよ。」 でもすぐに許してなんてあげないぞ。俺今怒ってるんだから。 「え?・・・どんな風に?」 どんな風に?どんな風・・・。 「勿論。優しい優しい恋人風に。」 怒ってるけどさ、そうしたら機嫌直してもいいよ。 なんて、和希はいつでも優しいけどね。 「じゃあ抱っこ?」 上着を脱いでソファーに座りながら、和希は笑って俺の手を引く。 「うん。」 俺はにこりと笑って膝の上。 「啓太が積極的なのなんて始めてだよね?嬉しいよ。」 「喜んで頂けて光栄です。」 見つめ合って、ちゅっとキスをする。 夢もいいけど、現実はもっともっと良い・・なんて喜んでいたら「ね、夢にも俺が登場してた?」なんてイキナリ言われて大焦り。 「え?なんで知ってるの?」 寝言・・言ってた?うわあっ。 「啓太顔が真っ赤だよ。」 「ううう、気のせいだよ。夢になんか出てきてないってば。」 「あれ?そうなの?ふふふ、まあいいか。」 余裕の顔に戻った和希は、俺の希望通り「優しい優しい恋人風」に甘やかしてくれた。 「あ、もう月が出てる。」 外に出たらすっかり夜になっていた。 「本当だ。」 空にはまぁるいお月様。 「誰もいないし、手をつないで帰ろうか。」 今日は最後まで甘くしてみようかな・・なんて。 「ばかっぷる」にも限度があると、お月様に笑われるかもしれない。 fin |
いずみんから一言 |
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