無題　和啓拍手用　３

無題　３　～拍手用ノートより～

　隣でぐうぐう眠る和希の顔を見ていた。
　好きだなあ。困っちゃう位好きだなぁなんて思いながら見ていた。

　好きって気持ちは照れ臭いよね。
　凄くすご－く好きだなんてさ。
　大好きなんてさ。
　照れ臭くってたまらない。
「えろくてさぁ。おやじだし。いつも傍にいてくれないし‥ていうか、ほっとかれてるって言っても良いくらいだよね？」
　なのになんでこんなに好きなんだろう。

　好きで好きでたまらない。
　恥ずかしくてたまらなくなるくらいに好きなんだよね。

　他の人を好きになれば良かった。そう思うことだってあるのにさ。
　世の中にはもっともっと楽で幸せな恋愛してる人がいっぱいいるのにさ。
　なんで俺が好きなのは和希なんだろう？って思う。
　なんで和希じゃなきゃ駄目なんだろう？って思う。

　和希は遠い。
　本当は俺に一番近くて一番遠い人。

　住む世界が違うし。
　年も離れすぎてるし。
　進む先もきっと違う。

　和希が遠藤和希でいる間だけ、俺は安心していられる。
　和希は俺のって安心して笑ってられる。

　本当は不安だけど。
　本当は恐いけど。

　違う人を好きになれば良かった。
　付き合い始めて思った。
　本当はすぐに後悔した。
　鈴菱和希としての和希を知れば知る程その思いは強くなった。
　なんでこんな人好きになっちゃったんだろ？
　俺まだ高校生なのに。
　なんでこんな面倒な相手好きになっちゃったんだろ。
　はじめて付き合う人なのに。
　難易度高すぎ。俺には無理な相手なんだよ。

　後悔して挫けて諦めた。
　そして、諦めて立ち直って開き直った。
　だって好きなんだ。
　どうしてもどうしても好きなんだ。

　俺はバカだし取り柄も無いけど。
　唯一自慢できるのは運がいいって事だけだけど。
　それでも和希を好きって気持ちだけは負けない。
　だから、だから後悔するのはやめた。
　諦めることも止めた。

　遠いと思うなら少しでも近づく為の努力をすればいい。
　和希はいつだって俺の事見ててくれる。

　挫けて負けそうになってもまた頑張ればいい。
　俺が諦めたりしなければ大丈夫なんだ。

　強くなろう。
　和希を守れるくらいに強くなろう。

　そしたらきっと平気。
　大丈夫きっと。俺が挫けなきゃ大丈夫。
　和希は俺のことを見ていてくれるから。

　そう思ったら楽になって強くなれた。
　好きって気持ちに自信が持てるようになったんだ。

　遠い存在かもしれないけど、それでも和希は俺に一番近い人間だよ。

　信じるって難しいけどね。口で言うほど簡単じゃ無いけどね。
　でも大丈夫。

「ったくさ。こんなに好きだっていうのに和希は疑うんだもんなあ。」
　眠る和希はちょっと可愛い。
　起きてるときは結構面倒な人だけどね。
　つんと頬をつつきながらため息。
　普段は大人なくせにすぐ拗ねる。
『啓太は俺の事、本当はそんなに好きじゃないよね？』
　なんて言いながら暗い顔してしょんぼりするんだ。
　おまけに頑固。
　思ったことは絶対通す。
　正しいって信じたら突き進む。
　あんまり頑固すぎて途方にくれる時もある。
　真面目だし。
　手を抜くなんて言葉知らない気がするもん。
　でもそんなところが実は好きなんだよなあ。
　頑固なとこもおやじなとこも好きなんだよなあ。

　だから離れられない。だから諦められない。

「和希。好きだよ。だから俺離れないからね？覚悟‥してよね。」
　眠る和希に宣言して俺は目を閉じる。
　どこまでもついていくから。諦めたりしないから。

　好きって気持ちがあるかぎり俺は強くいられるから。