鉄棒 〜拍手用ノートより〜 待ち合わせしてた公園に3分遅刻でかけこんだら和希が小さな男の子と鉄棒してたんだ。 鉄棒の近くにはその子供のお母さんらしい女の人が心配そうに立っていて、和希は制服の上着を脱いで、くるりと逆上がりをしてみせていた。 「なにしてるんだろ?」 不思議に思いながら近くのベンチに腰を下ろした。 和希が何度か繰り返し逆上がりをしてみせた後今度は男の子が鉄棒につかまった。 「あ、おしい。」 男の子の両足は地面を勢い良く蹴りあげたものの鉄棒には届かずに落下してしまった。 「‥そうか、教えてあげてるんだ。」 何度も何度も同じ動作を繰り返す男の子の脇で和希が何か話してる。 身振り手振りを繰り返しながら男の子を励ましている姿を見てそう思いついた。。 「ずっと見てて我慢できなくなっちゃったんだろうなあ。和希らしいなあ、まったく。」 たぶんちょっと早めに公園についてベンチに座って気が付いたんだ、あの子が一生懸命鉄棒してるところ。 何度も何度も失敗してる姿を見ていたらつい傍に行っちゃったんだ。見てるだけなんて嫌だったんだ。 「和希らしいよ。ふふ。大人の顔になってる。和希ってば素になってるよ。」 必死になって教えてる和希の顔は、制服を着てても学生に見えない。 同じ人なのに不思議だと思うけど、遠藤和希と鈴菱和希の顔はどこかが違う。 はっきり違いが言えないけど何かが違うんだ。 「今は教育者の顔してるもんな−。和希って不思議。」 鈴菱和希として理事の仕事してる時と同じ、真面目で誠実で学園の生徒を大切にしてる和希の顔。 「‥‥ふふふ。なんかいいよなあ。」 ああいうところが凄く好きだなぁって思う。 「あ。」 何度も何度も繰り返して男の子の体はくるりとまわった。 「やった!成功!!」 思わず立ち上がって拍手したら和希が俺に気が付いた。 「啓太!」 和希が笑って手を振った。 「あ、いつもの顔だ。ふふふ、変なの。」 男の子に手を振って俺に近寄ってくる顔は遠藤和希の顔に戻ってた。 どっちの顔も和希なんだよね。 うん、両方好きだな俺。 なんて思いながら俺は和希に手を振った。 |
いずみんから一言 |
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