いらなくなったビデオ達 〜20のお題より〜


               
『大丈夫ちゃんと撮ってますよ。』
 僕の笑い声。
『もお、笑っちゃ駄目ですよ。ちゃんと撮ってくださいね。』
 頬を膨らませた啓太の顔。
『大丈夫ですよ。ちゃんと撮りますから。』
 僕の声は幸せそうだ。とても。


「啓太。」
 夜中に目が覚めて、苦しくなって目が覚めて。
 啓太の映像を繰り返し流し続けた。
 笑った顔。拗ねて頬を膨らませながら僕を見つめる瞳。
 部屋の中で、会計室で、僕は啓太の姿を撮り続けた。
『臣さん?なに見てるんですか?』
 不思議そうに啓太が見つめる。
『あ、夕焼けが綺麗ですよ。外に行きませんか?』
 窓の外を指差しながら啓太が笑う。
 なんでもない日常の風景を僕は撮り続けた。
『今度は俺が臣さんを撮ります。ね、貸してください。』
『駄目ですよ。まだだ〜め。』
『え〜ずるいです。俺も撮りたい〜。』
 ビデオカメラを取り合いながら、くすくすと笑う。
 幸せな日々がもうすぐ終わるとは思いもせずに、僕達は笑いあっていた。

「啓太。」
 君が居なくなってから、僕は眠ることが出来なくなった。
 夜中に苦しくて目が覚める。そのたびに僕は啓太の姿を求めてしまう。
 触れることの出来ない映像。
 幸せそうに笑う姿。
 過去の記録に僕は縋る。
「こんなもの撮らなければ良かった。」
 もういらない。こんなもの。苦しいだけの過去なんてもういらない。
「明日になったら捨ててしまいましょうね。こんな、こんな・・。」
 捨てることなんて今すぐ出来る。
 映像を消去してしまうだけ。
 たったそれだけの操作で啓太は僕の前から消える。
 完全に消えて無くなる。
「いらない。もう・・・いらない。なのに。」
 なのに、消すことが出来ない。どうしても出来ない。
「啓太。」
 笑う啓太の声が聞こえる。
 僕の名を呼びながら笑う。啓太の声。
 君への気持ちも記憶もすべて消してしまいたい。
 過ぎたことだと笑うことすら僕には出来ない。
「あなたにはもうただの過去でしかないのですか?僕はただの過去でしか・・・。」
 笑う啓太を見つめながら、僕はただ涙を流し続けた。





いずみんから一言

忘れるということは神様が与えてくれた最高の恩恵。
そんな話を聞いたことがある。
でも私は忘れないから。
どんなに悲しくても苦しくても、貴女がいたことは絶対に忘れないから。
記憶が想い出に変るまで、どれだけ涙を流すことになっても。


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