裏切り 幸せにすると誓った。 永遠を共に生きようと誓い合った。 白い服を着て、神様の前に出ることは出来なくても、俺たちは一生を共に生きるのだと、そう誓い合った。 だけど。 「辞める時も健やかなる時も、汝は鈴菱和希を愛し続けることを誓いますか?」 「はい。」 隣に立ち頷くのは、白いヴェールをつけた女。 そして、俺は偽りの笑顔で、神の前に偽りの誓いを立てる。 幸せにする気などない。 愛する気などない。 神様、俺は嘘をつきます。 生涯掛けて嘘をつき通します。 これ以上啓太を苦しめたくないから。 これ以上啓太を悲しませたくないから。 隣に居なければ、狂ってしまう。 啓太が誰かの腕に抱かれて眠るのを想像するだけで、胸の中に黒いものが澱のように溜まっていく。 啓太。俺はお前だけを愛し続ける。 啓太。俺は、一生お前だけを求め続ける。 傍に居るだけが愛じゃないと気が付いた。 苦しめない事が愛だと、俺は悟ったんだ。 だから俺はお前を手放す事に決めた。 笑って、お前を幸せにしてくれる相手に託すよ。 啓太。 傷つけるばかりで、苦しませるばかりで俺は悪い恋人だったね。 だけど、本当に愛していた。 心から、君だけを愛していた。 君を傷つけ続けてごめん。 君を悲しませ続けてごめん。 だけど、愛してる。 たとえ傍にいられなくても。 君の笑顔をこれから先見ることが出来なくても。 俺は君を愛し続ける。 偽りの笑顔を浮かべ、偽りの生活を続ける。 君が傍に居ない一生なんてきっとモノクロの世界と同じだ。 君が傍に居ない一生なんてなんの意味も無い。 俺は生きている意味がない・・・。 神様俺は、嘘をつきます。 神様俺は、偽りの誓いをします。 本当に愛するものから離れて、俺は今日この身を悪魔へと捧げます。 幸せになどならなくて良い。凍えた心を抱いて俺は生きるから。 だから、啓太を幸せにしてください。 俺のたったひとつだけの宝物を幸せにしてください。 神様。 救いなどなくて良い。希望などなくて良い。 俺は生きていく。独りで生きていくのだ・・・。 +++++++++++++ 「和希?和希ってば。」 「・・・え?」 「大丈夫?和希うなされてたよ?」 「啓太。」 夢、ああ、あれは夢だったんだ。 「怖い夢を見たの?」 「いいや。」 夢なんかじゃない。あれは・・あれはもう一つの未来だったものだ。 「啓太抱き締めてくれ。」 「はいはい。全く和希は年取っても変わらないね。」 「啓太は変わったな。大人になった。」 優しく抱き締めて、俺の髪を撫ぜる啓太。 大人になっても俺の傍に在り続ける。俺の恋人として。 「ふふ。俺は、和希の有能な秘書で恋人だからね。」 ふわりと笑う。 「さあ、寝よう和希。まだ早いよ。」 「うん。」 抱き締めあって毛布に包まる。 「もう怖い夢は見ないから大丈夫だよ。和希。」 「ああ。ありがとう。」 俺の傍にいてくれて。変わらずに居てくれて。 「大げさだなあ。」 「大げさなもんか。大好きだよ啓太。」 「ふふ、俺もだぁいすき。さ、寝よ。」 そういうと啓太はすぐに寝息を立て始める。 「ありがとう。傍にいてくれて。」 夢でよかったと思う。本当にそう思う。 孤独な夢だった。 恐ろしいくらいの孤独感。 だけどあれは夢じゃない。もう一つの現実だった。 啓太を失えば、世界は簡単なほど闇へと変化する。 啓太を失って、俺はもう一秒たりとも生きてはいけない。 そんな孤独には耐えられない。 選択を間違えなくて良かった。 啓太の手を離さなくて良かった。 細い啓太の身体を抱き締め。俺は安堵の溜息を付く。 偽りの誓いなど俺は立てたりしない。 啓太。 傍にいてくれ。ずっと。 安心して眠りに付く。愛しい人を抱き締めて。 孤独な俺を心の隅に葬り去って、俺は深い眠りに付いた。 Fin 本当は、もう一転して、啓太といた世界のほうが夢だった・・・ という落ちを考えていたのですが、それはあんまりかなあ・・・と 夢落ちで落ち着いてしまいました。 05.09.09 |
いずみんから一言 みのりさまの最後の1年には不思議なことがいろいろある。 あまりに早くお傍へ召そうとした神様が、ちょっと気にしたのかなあと思ってみる。 この作品もそのひとつ。 この作品に限って、書いた日付が削除されずに残っているのだ。 ちょうどこの1年後。 別れを告げることになるなど、ご自身がいちばん思いもしなかったことなのに違いない。 |
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