啓太くんのお料理教室 |
〜1. 夏野菜の煮込み〜 |
講師・中嶋英明 |
啓太 「みなさんこんにちは。啓太くんのお料理教室の時間です。今日は中嶋さんお得意の『夏野 菜の煮込み』別名『ラタトゥイユもどき』を教えてもらいます。では中嶋さん、よろしくお願い します」 中嶋 「これはとても簡単だからな。不器用なおまえでも失敗しないだろう」 啓太 「やだなあ、中嶋さん。そんなに不器用なことはないと思いますけど?」 中嶋 「ほう……? じゃああの「ほぐし身状態」になってしまった白身魚のムニエルとか……」 啓太 「……ぎくっ……」 中嶋 「どうみてもスクランブルエッグにしか見えないオムレ……」 啓太 「あーっ !! あーっ !! も、もう時間が押してますからっ !! 早速料理に入りましょう !! ねっ !?」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太 「はい。ということで材料を準備しました。トマト、なすび、ツナ缶。香りづけのにんにくとセロ リの葉。好みでレモン。以上です」 中嶋 「好みでズッキーニやピーマンを加えてもいいだろう。ブロッコリーなどもいいと思うが、緑の 野菜は色が変るからな。別にゆでたり炒めておいたりしたものを、出来上がってから足し た方がいい。生のトマトがなければ缶詰でも大丈夫だ。ああ、ツナ缶は必ずオイル漬けを 用意しろよ。ブイヨンを加えないので、水煮とかスープ漬けとかだとコクが出ないからな。 手元にツナ缶がなければ鶏肉でも代用はできる」 啓太 「ツナ缶はオイル漬けを買う……、と。はい。トマトやなすびはどのくらいですか?」 中嶋 「自分が食べたいだけ、だな」 啓太 「うーん。ちょっと難しいです……」 中嶋 「面倒なヤツだな、おまえは……。なすは1人分で中2本程度だろう。好きなら増やせばい いし、嫌いなら減らせばいい。他にどんな料理があるかによっても違ってくるだろう」 啓太 「そういえばそうですね」 中嶋 「わかったならいい。次にトマトはなす中2本あたり大1個といったところだが、これもなすや トマトの大きさによって変るからな。俺がどうとかは言えん。だいいち俺が思う大とおまえ が思う大は同じか?」 啓太 「う゛……」 中嶋 「今日はここにある7本全部使っておけ。あとで丹羽の野郎が来ると言っていた」 啓太 「わかりました。じゃあトマトは4つですね。……で、これをどうするんですか」 中嶋 「なすはヘタをとって回し切りだ」 啓太 「へっ!! 回し蹴り!?」 中嶋 「誰が蹴りを入れると言った。回し切りだ。なすを切るときの基本だろうが」 啓太 「……すみません」 中嶋 「謝ってる暇があったらさっさと切れ」 啓太 「だから『回し切り』がわかんないんですぅ (涙)」 中嶋 「…… (唖然) ……。………………いい、貸せ」 啓太 「……はい……」 中嶋 「ヘタをまず落とすだろう。それから先の方から、こう……」 啓太 「あっ、なるほど〜。約90度回転させながら切り落としていくんですね」 中嶋 「90度じゃないが……。まあいい、とにかくおまえも切れ」 啓太 「はいっ」 中嶋 「切ったものから水を張ったボウルに入れていくんだ。あく抜きをする」 啓太 「切ったら水に入れる……。はいっ」 中嶋 「切り終わったら、あくを抜いている間にトマトの準備だ。頂点に十文字の切り目を入れ、ヘ タを円錐形に抜く」 啓太 「中嶋さんみたいに上手に円錐になりません……」 中嶋 「(無視)。抜いた部分にフォークを刺し、熱湯にくぐらせる。取り出したら今度は氷水の中だ」 啓太 「うわあ。つるんと皮がむけてきますね」 中嶋 「面倒ならこの工程は省いてもいい。そのまま放りこんだところで、どうせ煮込んでいるうち にはがれて浮き上がって来るんだ。かき混ぜるついでに浮いた皮も取ればいい」 啓太 「でもそれって、皮が小さくなってる分、何度も取らなきゃいけないから、かえって面倒なんじ ゃありませんか?」 中嶋 「別に湯を沸かしたり、氷水を用意するのが面倒だと思うか、浮いてきたのをいちいち取る のが面倒と思うか……。まあ、個人の考え方だな」 啓太 「そうですね。……はい、全部むきおわりました」 中嶋 「じゃあザクザクに切ってボウルか何かに取っておいてくれ」 啓太 「はい。ザクザクってこのくらいですか?」 中嶋 「どうせ形がなくなるまで煮込むんだ。適当でいい。トマトが準備できたら好みでにんにくを みじん切り。セロリは葉の部分から下へ5〜10センチのところで切る。鶏肉を使う場合は 一口大に切って塩コショウだ」 ・ ・ ・ ・ ・ 中嶋 「よし。下準備は全部できたな。では厚手の鍋にオリーブオイルを入れ、にんにくを入れる 場合は火にかける前に入れておく。油が熱せられたら、鶏肉を使う場合はここでまず両面 に焦げ目がつくくらいに焼き、少し火加減を落として中まで火が通ったら皿にのけておく」 啓太 「今日はツナ缶だから……」 中嶋 「その工程はナシで水から上げたなすを全部放りこむ」 啓太 「それにしても大きなお鍋ですね。食堂のオバサンが使っていそうだ」 中嶋 「寸胴鍋は煮込み料理の基本だからな」 啓太 「あっ。でもこれだと油はねも手元までこないし、底も広いし作業がしやすいです」 中嶋 「煮込みの基本という理由がよく分かっただろう」 啓太 「はい(でもなんでこんなお鍋が中嶋さんのマンションにあるのかはわからない……)」 中嶋 「しっかり底から混ぜろよ。でないと下の方ばっかり油を吸うからな」 啓太 「はいっ」 中嶋 「なすによく火が通ったらトマトを一気にぶちこむ」 啓太 「入れました」 中嶋 「今はまだ水気が少ないがな、そのうち驚くくらいに水分が出てくるぞ。それまでときどき木 杓子で底からかき混ぜる」 啓太 「はい。……あ、本当だ。すごい !! 水を入れたみたいになってきました」 中嶋 「そうしたらセロリの葉を入れ、ツナ缶を油ごと入れる。軽くかき混ぜたら弱火にして、あと は水分が飛ぶまで煮込むだけだ」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太 「中嶋さん、そろそろ水気がなくなってきました」 中嶋 「どれどれ……。よし、セロリの葉を上げて、塩とコショウで味をつけろ」 啓太 「……こんなものでいいのかな」 中嶋 「おまえがいいと思う程度でいいぞ。仕上げにレモンを半分、汁を絞って加えたら終わりだ」 啓太 「んぎゅっ……と」 中嶋 「これはフランスパンに良くあうんだが……。今日は丹羽に美味いフランスパンを買ってくる ように言っておいた。もう来るころだろう」 啓太 「レモンの酸味がきいて、すごくさっぱりした感じに仕上がりました。でもちょっと色が悪い気 もするんですけど……」 中嶋 「生のトマトを使ったらこんなものだ。気になるならトマト1個を缶詰の水煮1缶に替えてくれ」 啓太 「なるほど〜」 中嶋 「残ったらゆでたスパゲティにかけてもいいし、朝食にするなら油を塗ったグラタン皿に入れ て上から玉子を1個割り入れる。好みで粉チーズをかけてオーブントースターで焼くと、忙 しい朝にも手軽な一品になる」 啓太 「いろんな楽しみ方ができるんですね」 中嶋 「そうだな。だが今日は丹羽が来るから……」 啓太 「あーあ。残りそうにないですね(笑)。皆さんはどうぞいろんな楽しみ方をして下さいね。以上 啓太くんのお料理教室でした」 |
いずみんから一言。 |
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