啓太くんのお料理教室
〜12. リサイクル天津飯〜
講師・鈴菱和希









啓太「ごちそうさまぁ」
和希「……啓太」
啓太「何?」
和希「野菜ぜんっぜん食ってないじゃないか」
啓太「あ゛……(焦)」
和希「昨日から気になってたんだよ。野菜が全然減ってないから」
啓太「ごめーん。俺どうもおせち料理の中の煮しめ類が好きじゃなくてさ」
和希「ふーん(不満そう)?」
啓太「和希が買ってきてくれたおせち料理は美味しいんだよ。美味しいんだけどさあ、どうもこう、ごぼう
    とかたけのことかレンコンとか苦手で」
和希「それで肉類とかカマボコとかばっかり食べてたわけだな」
啓太「うん……。あ、でも黒豆ときんとんも食べた」
和希「そんなの野菜を食べたうちに入らないだろ……(タメイキ)」
啓太「もう……。和希ってば心配性だなあ。そんなにしてるとハゲるよ(笑ってごまかそうとする)」
和希「……啓太(気にしてることをつつかれて、じわっとお怒りモード)」
啓太「……ごめん……(地雷を踏みかけたことに気づいて、奥の手「平謝り」に出る)。和希がお皿に取っ
    てくれたら、残さずにちゃんと食べるよ。ほら。昨日だってちゃんと食べただろ?」
和希「啓太……(苦笑)。わかったよ。夜はこいつをアレンジして、食べやすいようにしてやるよ」
啓太「ホントに?」
和希「ああ。そのかわり、啓太も手伝うんだぞ」
啓太「了解!」

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和希「じゃあまずはお重の中に何が残ってるか、から」
啓太「うーんっと。大根、人参、たけのこ、ごぼう、レンコン、椎茸」
和希「見事なまでに根菜類が残ったな」
啓太「小芋とこんにゃくがなくなったのはいっそ奇跡かもね」
和希「酒の肴に結構つまんだからな」
啓太「そう言えば俺も田作りをつまんだかな。おやつ感覚でつまめるのがいいや」
和希「じゃあ来年から少し多めに入れてもらおうか」
啓太「買ってきたんじゃなかったの?」
和希「鈴菱で使ってる料亭が届けに来るんだ。お歳暮とお年賀の代わりかな」
啓太「……んじゃ値段は……」
和希「知らない。値段なんてついてないんじゃないか」
啓太「……なんか鈴菱で使ってる交際費の金額が分った気がした」
和希「はっはっは。それにゼロをひとつかふたつ足しておいてくれよな」
啓太「……了解」
和希「分ってもらったところで料理に戻ろう」
啓太「何が作れるの?」
和希「炊き込みごはんでもいいけど……。中華の天津飯にしようかな」
啓太「賛成!」

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和希「基本はおせちのリサイクルだけど、エビとねぎだけは別に用意しなきゃな。あと玉子も」
啓太「ここのマンションって見事なくらいに食材がないもんな」
和希「エビとねぎは明日、うどんすきでもしようと思って買ってたやつなんだ。そんなに使うわけじゃない
    から、足りなくなるってことはないだろ」
啓太「そうだね」
和希「ああそうだ。もしカニが残ってたらそれを使ってもいいぞ。っていうか天津飯の上にのってるフヨウ
    ハイの基本はカニだし」
啓太「そう? 俺、エビの入ったのしか食べたことないや」
和希「そういう店って多いし、家でするときはたいていエビになるよな」
啓太「うん。母さんが作ってくれるのはいつもエビだった」
和希「でもフヨウハイのハイは 『 蟹 』 って書くんだよ。エビを使うんだったらフヨウシャーレンになるんじゃ
    ないかなあ? あれ? エビの種類で違うんだったかな……?」
啓太「和希ぃ。中国語の講義はもういい(笑)から、料理に入ろうよ。俺、おなかすいてきちゃった」
和希「悪い悪い。じゃあ野菜を刻むの手伝って。たけのこを少し刻んでおいたから、これに太さを合わせ
    て椎茸を切るんだ。イメージとしては3ミリ幅って感じかな」
啓太「はーい」
和希「それができたら今度はねぎな。スープに入れる分だけ細くして。あとは適当。5ミリ程度でざくざく
    切っていいよ。これもそんなにたくさんいらない」
啓太「はい。切れた」
和希「スープ用はこっちにのけて。ついでに大根も切ってよ。これはかけるんじゃなくて飲むスープ用」
啓太「これも細く切るの?」
和希「いや。細くなくていいよ。そのまま薄く切ればいい」
啓太「スープ用はこれだけ?」
和希「ああ。椎茸がたくさん残ってたら入れてもいいけど」
啓太「今日は入れるほどはないかな」
和希「家で作ってないからな。重箱に入りきらなかった分、ってのがないから」
啓太「なるほど〜」

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啓太「はい。というわけで、全部刻めました。スープ用にねぎと大根。あとお好みで玉子1個です」
和希「フヨウハイの方はマッチ棒くらいの厚みに刻んだたけのこと椎茸。あとはねぎとエビ。これは適当
    な大きさで。エビは切れたら軽く炒めておくといいよ。それと玉子がひとり2個くらい。上からかける
    スープには彩りよく人参をね。もし花型に抜いてあるならそのままでいいぞ。飲むスープ用のねぎ 
    を少々失敬してきてもいいけど、フヨウハイの方に入ってるからなあ。冷凍のグリーンピースなんか
    があれば、そっちの方がいいかも。鍋用のエノキダケなんかも入れるといいけど、もちろんなくても
    大丈夫」
啓太「一応、人参が入ってるからね」
和希「そういうこと。レンコンとごぼうはみじん切り。これはご飯に入れるから、あんまり大きくならないよう
    に。ご飯にはねぎも入れるよ。お好みでニンニクなんかもいける」
啓太「うーんっと。これで準備は終わり?」
和希「スープ系は今回、お雑煮用にたくさん作っておいてあるだしを使うから、わざわざ作らなくてもオッ
    ケー。あとは……。そうだなあ。片栗粉を水で溶いておくくらいかな」

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和希「まずは飲むスープから作っていこうか」
啓太「はーい」
和希「これはもう簡単。だしをお鍋に入れて、醤油と塩コショウで味を調えるだろ? ごま油で香りを足し
    たら、大根を入れる。大根はもう煮えてるわけだから、温まったら出来上がり。玉子を入れたい人
    は、水溶きの片栗粉を少し入れて、割りほぐした玉子が綺麗な糸のようになるように入れるだけ」
啓太「あ。ホントに簡単かも」
和希「次は上からかけるスープな。これもだしをお鍋に入れて、さっきより少し濃い目の味をつける。場合
    によったらほん○しを足す方がいいかもしれないな。味がついたら人参を入れて、水溶き片栗粉で
    とろみをつける」
啓太「……できた」
和希「オッケー。冷めないようにな。うちは4つ使える電磁調理器だから、とろ火で両方とも置いておける
    けど、ない場合は料理してるガス台の近くに置いておくと冷めにくい」
啓太「なるほどなるほど」
和希「感心してないで(笑)。ボウルふたつに玉子を割りほぐしてくれよ」
啓太「オッケー」
和希「味付けは塩コショウだけど、具に味がついてるからあんまり濃くならないようにな」
啓太「そっか。椎茸とかけっこう味が濃いもんな」
和希「そういうこと。味がついたら具材をふたつに分けて入れておく」
啓太「えっと。椎茸とたけのことねぎと軽く炒めたエビ」
和希「はい、よくできました(笑)。少し小さめのフライパンがあればいいんだけどな。まあ大きいフライパン
    でも全然かまわない」
啓太「ここって食材はないけどこういうのだけはあるんだよな(笑)」
和希「ホームパーティやるたびに、ちょっとずつ増えていった、って感じかな。とにかくそれを火にかけて、
    熱くなったらごま油を入れる。あっ、そうだ。フライパンを煽って玉子をひっくり返す自信がなかった
    ら、フライ返しを用意しておくこと」
啓太「……しておきます(笑)」
和希「さあ、もういいぞ。玉子いれて。あとは一気だ!」
啓太「えーっ?」
和希「と言いたいところだけど、初心者の啓太に強火は無理だろ? 中火でゆっくり作ればいいよ」
啓太「よかったあ」
和希「でも油断してるヒマはないぞ。最初のうちは菜ばしで混ぜる混ぜる混ぜる。玉子が分厚い感じに
    なってきたら、火が通り過ぎないうちにフライ返しに持ち替えて」
啓太「よい……しょ、っと」
和希「まあまあいい感じにひっくり返せたんじゃないか? 焦げ目も美味しそうないい具合についてる」
啓太「そお?」
和希「その調子でもうひとつな」
啓太「はーい」

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和希「あとはご飯だな。同じくフライパンを熱くするんだけど、ニンニク入れたいときは冷たいうちにごま油
    入れてニンニクも入れておくんだ。熱くなってからじゃ香りが出ないからな」
啓太「今日は入れないんだよな」
和希「啓太にキスしたとき、ニンニク臭いって思われたら嫌だから」
啓太「え……(赤)」
和希「ほら。手を止めない(笑)」
啓太「はぁ〜い」
和希「フライパンから薄く煙が上がりはじめたらごま油を入れて、細かく切ったレンコンとごぼうを入れる。
    これも火は通ってるから、つづけてご飯も入れる」
啓太「……(真剣にやってるからか、さっきの「キス」を気にしてるのか、返事がない)……」
和希「普通の白いご飯でもいいんだけどさ。おせちはいろいろ残ってるし、ご飯も朝炊いたのがまだある
    しね。……って、おい啓太。そろそろねぎを入れないと」
啓太「あ、そっか」
和希「塩とコショウで味をつけたら、鍋はだから醤油を少し入れて香りもつける。普通の炒飯ほど濃い味
    でなくていい」
啓太「……うん。こんなもんでいいや」
和希「できたんだったら、少し深い、シチュー皿みたいなのにご飯をいれる」
啓太「はい。入れたよ。あとはフヨウハイを乗っけて……」
和希「熱々のスープを注ぐ。……はいオッケー。啓太、これテーブルに持ってってよ。俺は飲む方のスー
    プを入れていくから」
啓太「おせちリサイクル天津飯の完成でーすっ」

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和希「どう?」
啓太「思ったよりごぼうとレンコンが気にならないや。もっと違和感あるかと思ってたんだけど」
和希「小さく切ったからだろ? ご飯に混ぜるときはそのくらいの大きさってのが基本だからな」
啓太「人参と椎茸とたけのことごぼうとれんこん……。おせちをそのまま使ってるのに、こっちだと何も
    考えずに食べられるよ。嫌だとか嫌いだとか思わなくていいな」
和希「大根のスープも意外といけるだろ?」
啓太「うん。ごま油がきいてるからかな。コショウの香りもいいし。大根の煮しめだなんて思わないよ(笑)」
和希「じゃあリサイクル料理としては成功かな?」
啓太「うん。大成功だよ。明日は何にリサイクルしてくれる?」







いずみんから一言。

伊住の母親という人は冷蔵庫を過信するくせに、何故か冬場はリビング以外の場所に
食材その他を置きたがります。玄関先の廊下など、まるでみかん置き場です(怒)。
1月2日の夜に食った後、伊住はお重箱の残りを冷蔵庫に入れたのですが、お重に
入りきれなかった分を頼んでおいた母親は、冷蔵庫に入れずに和室に戻してしまいました。
おかげで大根も人参も傷んでしまいました。レンコンやごぼうは大丈夫かと思うのですが
一緒においていたので危ないといけないから、これも処分する羽目に。
作った時間を考えると涙が出そうです(激怒)。
ただでさえ断熱材入れまくりの家なのに、今年は暖かいですからねえ。とほ……。
という訳で、今夜作るはずだったリサイクル天津飯を一気書きしました。
文章が「?」なところもあるかと思いますが、そういう事情ですので悪しからず(苦笑)。
小芋とこんにゃく、人参が残った方は、豆腐を足してけんちん汁を作って下さい。
中にうどんかそばを入れるとめちゃうまです。
うちの明日はこのけんちんうどんに、冷蔵庫に入れてセーフだったごぼうや人参を
入れて炊き込みご飯を作り、けんちん定食にして出してやろうと思っています。

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