啓太くんのお料理教室 |
〜4. 収穫祭のドーナツ〜 |
講師・成瀬由紀彦 |
啓太「皆様こんにちは。啓太くんのお料理教室の時間です。今日の先生は……」 成瀬「ハニ〜っ !! 君とふたりでキッチンに立てるなんて、夢を見てるみたいだよ」 啓太「……成瀬さんです。今日は成瀬さんからおやつの作り方を習います」 成瀬「『おやつ』じゃないだろう? 啓太。スウィーツだって何度も言ったよ?」 啓太「そんなの真顔で言えるのは成瀬さんだけですっ」 成瀬「ふふっ。可愛いね、啓太は(ちゅっ)」 啓太「なっ、成瀬さん。そっ、そういうのは後にして、ですね」 成瀬「うん。後だったらいいんだね」 啓太「え !? えっ……と……」 成瀬「さあ !! 早く終わらせて僕たちだけのスウィーツを楽しもうね」 啓太「(……墓穴でした……)」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太「えーっと、今日教えてもらうのは『収穫祭のドーナツ』です。……って、なんだかすごい名前で すね」 成瀬「それは妹がつけた名前なんだよ。秋になるとよく一緒に作ったからね」 啓太「へーえ」 成瀬「ハニーは? 朋子ちゃんと台所に立ったことはない?」 啓太「うーん。母の日にカレー作ったりとか……、くらいかな?」 成瀬「じゃあ今度、一緒に作るといいよ」 啓太「はいっ。がんばって覚えて帰ります !!」 成瀬「それで? 材料は揃えられた?」 啓太「はい。ホットケーキ・ミックスでしたね。ちゃんと裏にドーナツの作り方が書いてあるのを選ん できました」 成瀬「上出来だよ、ハニー」 啓太「あと、さつまいも又はりんごを適量ってことだったので、とりあえず1個ずつ食堂のオバサン にもらってきたんですけど」 成瀬「うーん。ふたり分だとちょっと多いかな」 啓太「あ……。そうなんですか」 成瀬「うん。でも大丈夫。端から切っていけば無駄にはならないよ。それに、少し多めに作って食堂 のおばさんたちにも食べてもらえばいいしね」 啓太「ああ。よかったあ」 成瀬「本当はね、ハニーの食べるスウィーツは全部、僕が作ってあげたいんだよ。でも会えないとき があるだろう? 僕が遠征のときとか、ハニーが実家に帰ってるときとか」 啓太「そう言えば合宿もあるし、ふたりでいられる時間って、案外、少ないですよね」 成瀬「だろう? そんなときにこれを作って、僕を思い出して欲しいんだ」 啓太「成瀬さん……」 成瀬「じゃあ始めようか」 啓太「はいっ」 ・ ・ ・ ・ ・ 啓太「えっと……。まずはりんごとさつまいもでしたっけ」 成瀬「うん、そう。今日は両方使うけど、実際に家で作るときはりんごかさつまいも、どっちか好きな 方を選ぶんだ」 啓太「混ぜるんじゃないんですか」 成瀬「混ぜない、混ぜない。火の通り方が違うから」 啓太「あ、そっか」 成瀬「こんなのって、わざわざ材料を買ってきて作るようなものじゃないだろう? ホットケーキ・ミッ クスなんて買い置きしてあったりするし」 啓太「そういえば、うちでもときどき妹が焼いてるかな」 成瀬「だからりんごでもさつまいもでも、作ろうと思ったときに家にある方を使えばいいんだ」 啓太「そっか。そうですよね」 成瀬「じゃあ僕はさつまいもを切るから、ハニーはりんごを切ってくれるかい?」 啓太「はい」 成瀬「塩水を入れたボウルを用意して、切ったはしから入れていくんだよ」 啓太「そっか。そのままだと黒くなっちゃいますね」 成瀬「そうそう。よくわかってるね、ハニーは。……あと、さつまいもは普通の水でいいから、やっぱ り水の中に入れていくんだ」 啓太「……はい。じゃあこれ。ボウルふたつ用意しました」 成瀬「有難う、ハニー(ちゅっ)」 啓太「うわっ、な、成瀬さんっ。そういうことはあとで、って……」 成瀬「ふふっ。ハニーはかわいいね。こんなのただのお礼のキスじゃないか(またまた、ちゅっ)」 啓太「なななな成瀬さん。り、りんご。りんごの切り方……」 成瀬「わかったよ。りんごの切り方、だね。くすっ」 啓太「(こんな調子で今日中にできるのかなあ……)よろしくお願いします……」 成瀬「えーっと。りんごは今ひとつ丸々あるわけだから、そうだね……。ふたつ割りくらいにしてみよ うか」 啓太「はい」 成瀬「できたら皮をむいて、まずは端から5ミリくらいに切っていく。くし型でなくていいよ。たまねぎを 切るみたいにね」 啓太「ごっ、5ミリ、ですか……?」 成瀬「りんごだから少しくらい大きくなってもかまわないけど、でも1センチっていうのはナシだよ。あ と、火の通り具合が変っちゃうから、できるだけ大きさは揃えるようにがんばって」 啓太「はいっ」 成瀬「最終的には5ミリ角のさいころ型にするんだ。これはさつまいもも同じだよ。でもさつまいもの方 はりんごより火が通りにくいから、5ミリよりは大きくならないように気をつけなくちゃいけない」 啓太「5ミリ角……。うーん。これってちょっとビミョーかなあ」 成瀬「ハニー(笑)。そんな1個ずつつまみあげて考えなくていいよ。でも切れた分から塩水に入れて いくのを忘れないように」 啓太「あ……。忘れてました……」 成瀬「次の作業中があるとつい忘れちゃうよね。でもさ、僕いつも思うんだけど、塩水に入れたらりん ごの色が変わらないって気がついた人。すごいよね」 啓太「……ああ。ホントだ。今までそんなこと考えもしなかったけど、誰か最初に始めた人がいるわ けですよね」 成瀬「だろう? その人がいなかったら、もしかして僕はハニーのお弁当に、うさぎに切ったりんごを 入れられなかったかもしれないんだよ。そう思うと感謝してもしきれないくらいだ」 啓太「あはははは……(それはちょっと大げさな気が……)」 ・ ・ ・ ・ ・ 成瀬「さてと。僕は切れたけどハニーは?」 啓太「はい。……俺も……、切れました」 成瀬「オッケー。じゃあ今度はドーナツの生地だ。切れた分はそのままボウルに漬けっぱなしにして ていいよ」 啓太「はいっ」 成瀬「生地の作り方はとても簡単だ。袋の裏を見て、書いてあるとおりに作ればいい。メーカーによっ て分量とか混ぜるものなんかが違うから、そこだけ気をつけて。今日は……。そうだね。全部 作っちゃおうか」 啓太「はい。……えっと、水……だけでいいのかな」 成瀬「どれどれ……。ああそうだね。ここのは水だけだ。計量はスウィーツの基本だからちゃんと計る んだよ」 啓太「はいっ。……じゃあいちばん大きなボウルに粉を入れて……、それから水、と。あ、なんかでも ちょっと混ぜにくいかな……」 成瀬「うん。ホットケーキよりは水分が少ないから、混ぜにくいのはしかたないよ。でも練らないように 気をつけて。さくっと、さくっと」 啓太「さく……っ、と」 成瀬「ああ、ハニーは上手だね。その調子だよ」 啓太「はいっ」 成瀬「そうだね……、そろそろいいかな」 啓太「ふう……。なんか腕が疲れちゃった、かな……」 成瀬「お菓子作りっていうのは、優雅に見えるけど、実は体力がいるんだよ」 啓太「実感しました……」 成瀬「ふふっ。お疲れさま。疲れたハニーもすごくいいよ。(チュッ)」 啓太「……成瀬さんの腕、なんだか安心できます……」 成瀬「(うーん。恥ずかしがらないってことはよほど……) かわいそうに。慣れない作業で疲れたんだ ね。でももうすぐだから。がんばろうね」 啓太「……はい」 成瀬「そうしたら今の生地を半分に分けようか。量は適当でいいよ」 啓太「うーん、っと……。分けました」 成瀬「うん、そんなものだね。じゃあさっき切ったりんごとさつまいもだ。僕はさつまいもをやるから、 啓太はりんごをたのむよ」 啓太「はいっ」 成瀬「ボウルの中身をざるにあけて、水気を切ったらキッチンペーパーでさらに表面をふく」 啓太「こんな感じでいいですか?」 成瀬「あんまり丁寧でなくてもいいけどね。でも生地が水っぽくならない程度には気をつけて」 啓太「はいっ」 成瀬「ふけたら生地の中に入れていくんだ。ケーキなんかに混ぜるときはこのままだと沈んじゃうん だけど、今日は形を作りながら油の中に落とすし、時間もかからないから大丈夫なんだ」 啓太「へええ〜」 成瀬「それに、こうやってふきながら入れていくと、入れすぎちゃわなくていいだろう?」 啓太「そうですね」 成瀬「じゃあちょっと混ぜてみようか……。うん。もうちょっとだけ入れて」 啓太「はい。……これくらいですか?」 成瀬「少なすぎると美味しくないし、多すぎると口の中で邪魔になるから、そこのあたりはお好みで 判断してもらうしかないね」 啓太「そうですね」 成瀬「終わったら揚げ油の準備をする。油の温度は袋の裏に書いてあるからそれを見て。熱くなりす ぎないように気をつけなきゃいけないよ。危ないし、すぐ真っ黒になっちゃうからね」 啓太「はい。気をつけます」 成瀬「ちょっと油の具合をみて……。待ってる間にティースプーンとカレーのスプーン用意してくれる かい? 薄くサラダオイルを塗っておくといいかな」 啓太「はい。どうぞ」 成瀬「うん、これでね、生地をすくうんだけど……。両手にこう、1本ずつ持つだろう? ティースプーン の方で山盛り一杯すくって、カレーのスプーンで簡単に形を整えながら油の中に落とす。逆に しちゃ駄目だよ。スプーンが大きいから油に入れたら生地が広がっちゃって、とんでもないこと になるんだ」 啓太「うわっ。気をつけなきゃ……。えっと、右利きの人は右手にカレーの方がいいですね」 成瀬「そうだね。それで手早く落としていくんだけど、1度に5つくらいまでにした方がいい」 啓太「どうしてですか? たくさん入れるとたくさんできそうなのに?」 成瀬「それはやってれば分かるよ。まずは5つでやってごらん」 啓太「はーい。…………4、5っと」 成瀬「ほらほら。早くしないと、先に入れたのが下だけ膨らんできちゃうよ」 啓太「わっ。たいへんだ !! ひっくり返してもひっくり返しても、膨らんだ方にまたひっくり返っちゃう!」 成瀬「ねっ !? 5つくらいが限度だろう? 慣れると大丈夫だけどね」 啓太「よーーーく分かりました……(汗)」 成瀬「さて。あとはよく転がしながら揚げていけばいい。いちばん最後に入れたのを覚えておいて、 それを引き上げて竹串を刺してみる。何もついてこなければ出来上がりだ」 啓太「……これで大丈夫ですね」 成瀬「うん。いいよ。お好みでシュガーをかけてもいいけど、やっぱりこれはりんごやさつまいもの素 朴な甘さを楽しんで欲しいな」 啓太「そうですね。……はい。全部できました」 成瀬「お疲れさま。はい。ひとつ味見してごらん。……あーん」 啓太「あーん (もぐもぐ)」 成瀬「どう? 啓太が作った初めてのスウィーツは」 啓太「お、おいひいれふ (はぐはぐ)。さつまいもは (はぐはぐ) ほっこりひてるひ (はぐはぐ)、りんごは アップルパイみたいだし (もぐもぐ)」 成瀬「じゃあ自信もって、まずは食堂のおばさんに持っていこうよ。それからふたりでお茶会だ」 啓太「はいっ。俺、今度、成瀬さんの試合のときに、これ作って差し入れにいきますっ !!」 成瀬「本当かい? じゃあ僕は、ハニーに恥じない試合をするよ (ちゅっ)」 啓太「わっ、な、成瀬さん……」 成瀬「……あとだったらいいんだったよね……?」 啓太「……はい」 成瀬「じゃあ、啓太くんのお料理教室は、これでお・し・ま・い……」 |
いずみんから一言 |
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