啓太くんのお料理教室
〜13. 超簡単! あっという間 ぶり大根〜
講師・丹羽竜也







啓太「皆さんこんにちは。啓太くんのお料理教室の時間です。今日はなんと! 王様のお父さんに
   『 超かんたん! あっという間ブリ大根 』 を教えてもらえることになりました!」
竜也「いや、教えるなんてモンじゃねえけどよ。あの馬鹿息子が量も考えずにブリの刺し身を作った
    って聞いたからな」
啓太「っていうか、中嶋さんが来てくれると思ってたくさん作っちゃったんですけど、昨日はたまたま
    月に1度のステージの日で……。中嶋さん目当てで予約とってる人がいるっていうから、王様
    も無理にとは言えなかったんです」
竜也「へえ? 中嶋ってあの眼鏡かけたやつだろ?」
啓太「そうです」
竜也「そういやジャズピアノはプロ並って聞いたことがあったな。惜しいことをした。俺もかみさんと
    一緒に聞きに行けばよかった」
啓太「(うわーん。秘密クラブのSMショーだなんていえないよおっ〃)」
竜也「まっ、理由はどうあれ余ったモンは仕方がない。一晩たって食えなくなったブリの刺し身を、
    簡単お手軽に一品にしてやるからな」
啓太「そっ。そうですねっ!よろしくお願いします!」

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啓太「まずは材料からお願いします」
竜也「そうさな。ブリの刺し身と大根。このふたつだけは絶対に必要だ。なんたってブリ大根を作る
    んだからな(笑)」
啓太「あはは。そうですね」
竜也「で、このブリだが、大ハマチなんて言い方をしたりするようだが、あれはいけねえ。せっかく
    出世してブリって名前になったんだ。ちゃんとそう呼んでやって欲しいよな」
啓太「俺もそう思います(あはははは。王様と同じこと言ってるよ。やっぱ親子なんだなあ。笑)」 
竜也「だから普通のハマチでも作れねえことはない。ちっとばかりアブラのノリが悪いだけだ」
啓太「魚はハマチでも大丈夫……、と。はい」
竜也「あとな、大きな切り身でも小さく切り直せば作れるぜ。けどよ、大きな切り身なら、やっぱり大き
    く料理してやりたいだろ? だからこれは残りものの刺し身を使うのが一番なんだ」
啓太「はいっ。分かりましたっ」
竜也「(素直ないい子だよなあ。あのデクノボウにはもったいないぜ)あと必要なのは、まずは青味。
    みつ葉でもネギの青い部分でもいいし。ホウレン草やコマツ菜の葉の部分だってかまわない。
    だってメインの魚そのものが残りものな訳だろ? 青味だって冷蔵庫にあるものでいいんだよ」
啓太「そっか。そうですよね」
竜也「それから忘れちゃいけねえのが麺つゆだ」
啓太「麺つゆ? って、夏にそうめんとかざるそばとか食べるときの……?」
竜也「そう。それよ、それ。ありゃー便利でいいぞ? いちいち醤油がどうの砂糖がどうのって考えな
    くていい」
啓太「そっかあ。それで王様んとこのキッチンには年中、麺つゆがおいてあったんですね? なんで
    こんなものがあるんだろうって、前から不思議に思ってたんです」
竜也「ははは、坊主は本の通りにきっちり計って料理をするクチなんだろう。男の料理ってのはよ、
    テキトーに大ざっぱなのがいいのさ」
啓太「はぁい。がんばりまーす」

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竜也「料理なんだが、まず大根おろしを作る」
啓太「どのくらい作ればいいんですか?」
竜也「うーん。ブリの量にもよるからなあ。ひとり1カップ弱ってとこか? まあブリが多けりゃ、もちっと
    増やしてくれや。あんまり少ないとおかずになんねえ、ってことをアタマに入れときゃ、どのくら
    いおろせばいいかも分かってくるだろうよ」
啓太「あー。でもあんまりよく分からないんで(誤魔化し笑)、とりあえずたくさんおろしときます」
竜也「ああ、それがいい。今日はふたりでやろうぜ。その方が早くできる」
啓太「お願いしまーす。助かりまぁす」
竜也「(しかし、ただ黙々と大根をおろしてるってのも間がもてねえな……)よう」
啓太「はい?」
竜也「つまんねえこと聞くがよ」
啓太「はい」
竜也「おめぇ、うちのデクノボウのどこが良かったんだ?」
啓太「え……(赤)」
竜也「(うわっ。色っぺー(汗)。あの馬鹿息子、こんな顔を独占してるってか?)あ、いや……(焦)。
    答えにくかったら知らん顔してていいんだ。親の俺が言うのもなんだが、あいつはごつくて可愛
    気がないだろ? だからちょいと不思議に思っただけなんだからよ」
啓太「そうじゃなくて、その……」
竜也「なんだい?」
啓太「王様の方こそ、何で俺で良かったんだろう、って……(俯)」
竜也「(いかんっ! いかんぞ!! こんな顔を独占させたらいかん! もはや犯罪じゃねえかっっ!)」
啓太「いつもそう思ってるから……(赤赤赤)」
竜也「(そうとも。あいつより俺の方が相応しいぞ? 俺に乗り換えろや。……いっ、いかんっ。「乗り換え
    る」でイケナイ場面を想像しちまったぜ……。こいつの顔って麻薬並だな。あぶねぇ……)」
啓太「ねえ、王様のお父さん。俺のどこが良かったんだと思います? 王様はあんなに素敵で、それこ
    そよりどりみどりなのに(上目遣いにちらっと見上げる)」
竜也「(うがっ!! やっぱり駄目だ。あいつにはもったいなさすぎる。別件でっちあげてでもぜってー
    逮捕してやる!! 一生シャバには出さねえからなっ!)」
啓太「お父さん……?」
竜也「(はっと我に返る)いっ、いや。坊主のなにもかも、そのままが良かったんだと思うぜ? 俺だって
    今のかみさんと結婚してなかったら、絶対に坊主と一緒になってたさ(焦)」
啓太「えっ!? ホントですかぁっ?(花が一気に開くような笑顔)」
竜也「そうともさ。だから安心して一緒にいてやってくれ」
啓太「はいっ(満面の笑み)」
竜也「(はああ〜っ。心臓に悪いぜ……)」

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竜也「よーし。こんだけありゃあ十分だろ(ってか、さっさと終わらせて帰らねえと、それこそ身がもたね
    えや……)」
啓太「すごい。ちいさめとはいえ、ボウル一杯分くらいありますね」
竜也「けど、思ったほどにはならないぜ。水分も飛ぶしな」
啓太「へーえ。そうなんだ……」
竜也「あと、青みを適当に切る。切り方はモノに合わせてテキトーにやってくれ」
啓太「今日は三つ葉を使うから……」
竜也「軸の部分だけ3センチくらいに切って、葉は1枚ずつにちぎったらそれでいいんじゃないか?」
啓太「なるほど〜。そういうところが 『 男の料理 』 なんですねっ?」
竜也「ははっ。上出来だ。さっ。こっから先はノンストップ。一気に行くぜっ」
啓太「はいっ!」

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竜也「まずはフライパンを火にかける」
啓太「はいっ」
竜也「熱くなったらサラダオイル入れて……。おい、あんまり入れ過ぎるな。あくまで和食なんだぜ?」
啓太「あっ、そっか」
竜也「それでブリの刺し身を一気にぶちこむ。入れたところで、軽く塩コショウだ」
啓太「はい。……って、熱っ!」
竜也「ああ。油はねするから気をつけろよ。すぐに落ち着くけどな」
啓太「……はい(分かってるんなら先に言ってほしかったなあ)」
竜也「焦げ付かないように気をつけながら、全体によーく火を通す。菜箸よりは木杓子の方がいい
    だろうな」
啓太「はい。えっと……。あの」
竜也「何だ?」
啓太「身がぼろぼろにほぐれちゃうんですけど」
竜也「気にするな。どんどん炒めてくれ」
啓太「うーん。これくらいでいいのかな」
竜也「うん? ああ、いい、いい。んじゃそこに大根おろしをぶちこめ」
啓太「えっ? これ全部ですか?」
竜也「残したってしょうがねえだろ? 遠慮すんな」
啓太「はあーい(うわ!なんかフライパン一杯って感じだよ)」
竜也「煮えてきたら麺つゆで味をつける。多少は煮詰まるからな。最初から濃くするなよ。足すのは
    簡単だが取るのは至難の技だ」
啓太「あはは。そうですねっ(笑)。じゃあ、とぽぽぽぽ……と、これくらい?」
竜也「ああ。まずはそんなもんだろう。あとはテキトーにかき混ぜながら、テキトーに煮る。煮えたと思っ
    たら味をみて、足りなきゃ麺つゆを足す」
啓太「ちょっと味見を……。うーん。少し足した方がいいかな」
竜也「味が整ったと思ったら、青味を散らしてできあがりだ」
啓太「え? もう終わりなんだ」
竜也「簡単だろ?」
啓太「ホントに簡単だった「超かんたん! お手軽ブリ大根の完成でーす!!」


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啓太「えーっと。試食、試食。王様のお父さん、炊きたてのご飯とお茶を置いときますね」
竜也「すまねえな。こんなものまで用意してもらえてるなんて思いもしなかったぜ」
啓太「でもお惣菜を試食するなら、やっぱりご飯に合うかどうか確かめなくちゃいけないし」
竜也「そりゃそうだ(やっぱりいい子だなあ……)」
啓太「じゃあ、いっただっきまぁーす!(もぐもぐ)」
竜也「どうだ? さっぱりしてるだろ」
啓太「はいっ。俺、ホント言うと、ブリ大根って今イチ苦手だったんですよ。なんかあぶらっこい気が
    しちゃって」
竜也「まあ、ブリのアブラを大根が吸う訳だからな」
啓太「でもこれは全然そんなことないです。大根おろしで煮てあるからかな……?」
竜也「たぶんな」
啓太「ごはんのおかずにもちょうどいいし、これからはこっちのブリ大根を食べることにします」
竜也「そりゃ有難えが、これはあくまで残りものの料理だってことを忘れずにな」
啓太「あはは。そうでし……、あっ!」
竜也「なっ、なんだ? いきなりそんな大声だしたりしてよ」
啓太「昨日の残りのお刺し身、全部使っちゃいましたー(涙)」
竜也「へっ?」
啓太「せっかく教えて頂いたのに、王様に作ってあげる分がありませんー(涙涙)」
竜也」「わわわ、もう泣くなってば」
啓太「だってー。ひーん(涙涙涙)」
竜也「分かった。分かったよ。今夜の分の刺し身、俺が買ってやっから。今から買いに行こう。な?」





いずみんから一言。

今回はいつにも増して苦労をしました。
……ええ。文字数を増やすのに(苦笑)。
おかげで竜也パパにイケナイ妄想までさせてしまいました(爆)。
伊住の作る料理は 「 男の料理 」 とよく言われるのですが、これはその最たるもの
かもしれません。
とにかく時間がかかるのは大根をすりおろすところだけで、あとは5分ほど(笑)。
一般のご家庭ではあまりブリの刺身が残ったりしないかもしれませんが
とってもお手軽な1品なので、一度お試しくださいませ♪

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