啓太くんのお料理教室
〜5. ギョーザ鍋〜
講師・篠宮紘司







啓太「明けましておめでとうございます。伊藤啓太です。今年も『 啓太くんのお料理教室 』をよろしくお願
    いします。今年最初の先生は、もちろんこの方。篠宮さんです! 篠宮さん、よろしくお願いします」
篠宮「明けましておめでとう。伊藤にもいい年になればいいな」
啓太「そうですね。有難うございます♪ それで、今日は何を教えてもらえるんですか?」
篠宮「今日はギョーザ鍋をしようかと思う」
啓太「ギョーザのお鍋なんですか?」
篠宮「そうだ。今夜は丹羽や中嶋が来て新年会をするんだが、今までは俺ひとりで準備していたから、簡
    単な鍋しかできなかったんだ。今年は伊藤が手伝ってくれるから少し手のかかったものができる」
啓太「うひゃ〜。プレッシャーですね。でも新年早々、足を引っ張らないようがんばります !! 」
篠宮「ああ。こちらこそ頼むぞ」

                         ・   ・   ・   ・   ・

篠宮「まずはだしをとりながら準備するものの説明をしていこうか。湯がわく間、待っていることもない」
啓太「はいっ。メモの準備もばっちりですっ」
篠宮「じゃあそこのいちばん大きい鍋一杯に水を入れてくれ」
啓太「えっ!? こんなおっきいの一杯に作るんですか?」
篠宮「ああそうだ。だしが美味くなるからな。これくらい、すぐになくなるぞ」
啓太「へええ〜」
篠宮「それと、これは上品な鍋じゃないんだ。だから昆布だしなんかじゃなく、だしじゃことかいりこだしで
    十分だ。ただし苦味が出ないようにだけ気をつけてくれ」
啓太「だしじゃこ、または、いりこだし……と」
篠宮「なければ別に昆布でもかつをでもかまわない。ほ○だしでももちろん大丈夫だ」
啓太「要するにじゃこがなければご家庭にあるおだしで、ってことですね」
篠宮「そういうことだ。だしがとれたら醤油と塩でうどんスープくらいの味をつけておく。俺は関西系の薄
    口醤油でしか作ったことがないから、濃口醤油で作るとどうなるかはわからない」
啓太「パックに入ってるうどんすきのだしを買ってきちゃ駄目ですか?」
篠宮「もちろんかまわない。何でも大丈夫なのが鍋料理のいいところだからな。その場合、少し多めに買
    っておく方がいいだろう」
啓太「はいっ」
篠宮「ギョーザのほかに用意するのは中華ソバ。これも結構食べるから多めに用意する。あとモヤシは
    あった方がいいな。それからワカメ、長ねぎ(白ねぎ)、人参、椎茸、白菜またはキャベツ、エノキ茸、
    しめじ、春菊またはにら等だな」
啓太「ようするに『 鍋野菜 』といっていうやつですね」
篠宮「そうだ。俺は大根を入れるのが好きだな。だしを吸ってうまくなる。もちろん今日も入れるぞ」
啓太「へえ? そうなんだ」
篠宮「入れるものの説明も済んだし、具材の用意をしよう。まずはギョーザの準備だ」
啓太「うわぁ。俺、ギョーザって作ったことないです」
篠宮「そうか。ちょうどいい機会だな。鍋に入れてしまうから形が悪くても分からないんだ。一緒に包んで
    覚えてくれ」
啓太「はーい」
篠宮「普通、ギョーザといえば豚肉を使うがこの鍋では絶対にエビがいい。叩いてすり身状にしてしまう
    から、安い冷凍のむきエビで十分だ。中に入れるものはごま油・塩・コショウ・しょうが、ニラまたは
    ネギの青い部分と好みでニンニクだ。あとギョーザの皮は手に入るようなら大判のものがいいな」
啓太「おっきいんですか?」
篠宮「そうだ。焼きギョーザと違って鍋の具だからな。中身よりは外側のつるんとした食感を楽しみたい
    わけだ」
啓太「ははあ〜。なるほど〜」
篠宮「じゃあ俺はエビを叩いてすり身状にするから、伊藤は……、うーん。そうだな。しょうがをおろしても
    らおうか。だしにも入れるから少し多めにな」
啓太「はいっ」
篠宮「手に気をつけろよ」
啓太「はいっ」
篠宮「しょうががおろせたら、にらを5ミリくらいに切ってくれ。俺はニンニクをみじん切りにする」
啓太「はいっ」
篠宮「残ったにらは鍋に入れてしまうから、適当な長さに切っておいてくれないか」
啓太「このくらいでいいですか?」
篠宮「ああ。そんなものだな。全部の準備ができたら、ボウルにエビを入れて塩コショウするだろう? 
    そこに香り付けのごま油をひとたらしと、おろしたしょうがやニンニクを入れて、にらもたっぷり入れ
    る。見た目で多すぎるくらい入れて丁度くらいだぞ。あとしょうがやコショウは好みで増やしてくれ」
啓太「俺はどっちもきいてる方が好きかな」
篠宮「よし。じゃあ少し多めにしよう。これらをよく練り合わせれば中身は出来上がりだ」
啓太「意外と簡単ですね」
篠宮「その意気で包みまで完成させるぞ」
啓太「がんばりまーすっ!!」
篠宮「皮は大判だが中身は少なめに。皮を二つ折りしたときの真ん中より少し上、右利きなら左寄り、
    左利きなら右寄りに置く」
啓太「置きました」
篠宮「次に下の方の皮だけ水を薄くつける。上の方の皮にギャザーを寄せながら畳んでいって、上下を
    ぴったり合わせたらできあがりだ」
啓太「うひゃ〜。なんか形になってないです……」
篠宮「最初は誰でもそんなものだ。全部包み終わる頃には慣れてくる。それにさっきも言っただろう。
    これは鍋の具だからな。いくら綺麗に包んでも、煮込んでいるうちに崩れてきたりするから気にしな
    くていい」
啓太「はぁい」

                         ・   ・   ・   ・   ・

啓太「ふう……。ようやく全部包めたぁ」
篠宮「今夜は少し多めに作ったからな。大変だったか?」
啓太「いえっ。大丈夫ですっ」
篠宮「だが手のかかるのはここまでだ。あとはもう普通の鍋料理と同じ。野菜を切っていくだけでいい」
啓太「あっ、そうなんですね。えへへ……。ちょっと安心しました」
篠宮「そうか? じゃあ野菜は俺が切っていくから、伊藤はワカメを戻してモヤシを洗ってくれ。あと中華
    ソバも水でほぐしておいてもらおうか」
啓太「はいっ」
篠宮「ギョーザの皿には何も一緒に置くなよ。水が出るとギョーザがくっついて破れる」
啓太「はいっ。もうこのお皿はのけておきますね。野菜の水が飛びそうだし」
篠宮「そうだな。そうしてくれ」
啓太「切れた野菜はこっちの大皿にのせていけばいいですか」
篠宮「ああ。頼む。この野菜だが、他の鍋みたいに白菜やニンジンを下ゆでする必要はない。綺麗に巻
    き簾で巻いたって、あっという間に崩れてしまうからな。ニンジンだって薄めに切っておいたらその
    うち煮える」
啓太「お店で食べる料理じゃないですもんね」
篠宮「そう言うことだ。あとは薬味なんだが、長ねぎ(白ねぎ)の白い部分も緑の部分も全部、できるだけ
    細く刻んだものをたっぷり用意する。それとレモンとスリごまだな。ラー油や七味、もみじおろし等は
    お好みで。カレーパウダーなんかもおもしろいぞ」
啓太「カレーパウダーですか?」
篠宮「神戸にある有名な店の肉鍋は、カレーパウダーを振りながら食べるんだ。なんなら今日、やってみ
    ればいい」
啓太「そうします。……で、これで全部ですか?」
篠宮「用意するものは全部だが、鍋にだしを追加するたびに香りづけのごま油とコショウを足さなきゃい
    けないんだ。それは伊藤にまかせていいか?」
啓太「うわあ。責任重大ですね」
篠宮「ようし。じゃあ部屋に持っていってはじめるか。そろそろ丹羽や中嶋がやってくるぞ」
啓太「はいっ!!」

                         ・   ・   ・   ・   ・

篠宮「まず鍋にだしを入れるだろう? おろしたしょうがをだしの中に入れる。煮立ってきたらギョーザを
    入れて、火のとおりにくい野菜なんかから入れていく」
啓太「中華ソバは入れないんですか?」
篠宮「あれは食べ始めてからだ。具が少し減った頃に入れる」
啓太「ソバはあと……、と。はい」
篠宮「鍋の中がひととおり埋まったら、さっき頼んだごま油とコショウをひとふりして、ふたをする」
啓太「あとは待つだけですね。……あれ? 誰か来たかな」
丹羽「いよっ。おめっとうさん」
中嶋「おめでとう。……何がめでたいのかは分らんがな」
篠宮「おめでとう」
啓太「おめでとうございます。王様、中嶋さん」
丹羽「おおっ? 今年は啓太も一緒かあ。おそろいのエプロンとはしゃれてるじゃねえか」
篠宮「鍋の準備を手伝ってもらったんだ。おかげで今年はギョーザ鍋ができた」
丹羽「へーえ? そりゃ楽しみだが、まずはとにかく乾杯と行こうぜ」
篠宮「心配するな。今年もちゃんと用意してあるぞ」

                         ・   ・   ・   ・   ・

啓太「お神酒で乾杯なんて思ってませんでしたぁ」
篠宮「これはうちの神社に奉納するためだけに作ってもらっている酒なんだ」
啓太「そうなんですか。美味しいです」
丹羽「そろそろ鍋の方もいいんじゃないのか?」
篠宮「そうだな。……ほら、伊藤。熱いから気をつけてな」
啓太「あ。有難うございます」
中嶋「ふうん。啓太には取り分けてやるんだな」
篠宮「いっ、いや……。遠慮して食べられなかったらいかんだろうと思って……」
丹羽「いーじゃねーかよ。俺らはセルフサービスでよ。にしても、こりゃ美味いわ。ギョーザと一緒に食う
    モヤシのシャキシャキ感がたまんねぇ」
中嶋「ああ。身体が中から温もるな。だしとギョーザにしょうがが入っている所為か?」
啓太「この……(はふ)、ギョーザが(はふはふ)……、つるんとしてて……(はふ)」
篠宮「伊藤。食べるか喋るかどっちかにしないと、口の中をやけどするぞ」
啓太「……食べるのとコショウとごま油を足すのとに専念します。こんなに美味しいのに冷ましちゃったら
    もったいないです」
篠宮「そうか。手伝ってもらったかいがあったな」
啓太「あとおソバも食べなきゃいけないし、カレーパウダーも試してみなきゃいけないし……。忙しくなっ
    ちゃったから、ここで啓太くんのお料理教室は終わります。……あっ、篠宮さん、今度はダイコンの
    ところ入れて下さい……」





いずみんから一言。

明けましておめでとうございます。
当カフェで新年といえばやはり鍋でしょう(笑)。
ということでギョーザ鍋の登場です。
お箸でいちいち取るというより、おたまでがばっとすくい上げる方が似合う、ワイルドな(笑)お鍋です。
ノリとしてはうどんすきのうどんが中華ソバに替わり、だしにしょうがとごま油とコショウが入って、
さらに具にえびギョーザが加わる、といったところでしょうか。
この場合、高級品のごま油は香りまで精製されてしまっているので不可です。
ギョーザを包むのが少々手間かもしれませんが、是非ともお試しください。
それでは本年も「啓太くんのお料理教室」をよろしくお願い申し上げます。
にしても篠宮氏。啓太くんには簡単な作業しかさせてませんね(笑)。

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